もう・・・・・二日になるだろうか。カナンが眠り始めてから・・・。時折呼吸が止まったり、手足が痙攣したり・・・・・・・・・死の一歩手前をさまよって・・・。さまよいつづけて・・・・・・・・。
「ウナス隊長・・・・・・。私の責任でございます。私が・・・・・・もっと早くカナン様の・・・・・異変に・・・・気付いておりましたら・・・・・・こんなことには・・。」
「ナフテラ様・・・・・。あなた様のせいではありません。きっとカナンは目覚めます。・・・・・・・・・・・・・・・・この子らを残して行く様なまねはいたしますまい。」
刻々と眠るカナンの傍らで・・・・ナフテラとウナスが短い会話をかわした。ナフテラはもうずっと眠っていない。メンフィスやキャロルがどんなに休息を取るようにうながしても、黙って首を振るばかりであった。そして、それはウナスも一緒。幼いジュリアンはというと・・・・・・・・母の重態を知らされてはおらず、無邪気に生まれてきた弟、妹の世話をしようと・・・はしゃいでいる。
古代エジプトでは・・・出産で命を落とすことなど・・・さほどめずらしいことではない。だから、女たちは言うのだ。
「出産は女子の戦です」と。
だが、どんなに出産が危険なものだとわかっていても、己の命を優先させるものなどいない。・・・・・・・・・・女たちは常に・・・・まだ見ぬ愛しい宝物を優先させるのだ。己の幸せよりも・・・・・・・・・・・・・・命よりも。
「カナン!早く目を開けろ!お前と俺の宝物たちが・・・・・・・・・お前を呼んでいるんだぞ!お前が起きないと・・・・名前も・・・つけられないじゃないか!」
必死の呼びかけもむなしく・・・・・・・今日も早々に日が暮れた。
そして真夜中・・・・・・・・・・・・・・・・・。突然カナンの容態が急変した。
「起きて!カナン!赤ちゃんはあなたを探してるのよ!いっちゃ駄目っ!」キャロルがむせび泣きながらカナンの手を掴む。
「カナン様!頑張ってくださいませ!私は・・・・もう一度あなた様と・・・・あの場所で・・・・お話ししとうございまする!」普段は声を荒げることすらできないヌウも必死でカナンに呼びかける。
「死んではならぬ!残されたものの悲しみはそなたが一番知っているであろう!目覚めよ!カナン!」メンフィスまでもが駆けつけ・・・・・・どんどん力をなくしてゆくカナンを励ます。
荒くなっていた呼吸は・・・・・・・・・だんだん・・・・・・・・小さくなっていく。
「死なないでくれっ!カナンっ!起きてくれ!頼む!ジュリアンがお前を毎日探してるぞ!お前が産んだ子達もお前を恋しがって泣いてるぞ!まだお前はいっちゃいけない。起きるんだ!カナン!」ウナスはありったけの声を振り絞りありったけの愛を言葉にこめてカナンに呼びかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ゎ・・・・・・・・・
カナンの唇がかすかに動いた。周りを取り囲んでいたウナスたちは我が目を疑った。そしてウナスは思わずカナンの手を強く握り締めていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もどって・・・きた・・・・・・・・わ。」
小さい声ではあったが、かすれる声ではあったが、カナンははっきりと言ったのだ。ようやく目覚めて!意識をはっきり取り戻して!
「カ・・・・・・・・・・ナン?大丈夫か?苦しくないか?」ウナスは涙を目にためつつ、愛しい妻を・・・・やっと自分の下へ帰って来た妻を気遣った。
「だ・・・・・・・いじょうぶ・・・・・・・。心配・・・・・・・・・かけてごめんね?」
歓喜の声が部屋中に響き・・・・・・・・やがてそれは宮殿中へと響き渡った。
暫くの後、キャロルやメンフィス達が退出した。そしてナフテラとヌウも、カナンの産んだ子供たちを連れて来ると・・・・・・・・・さがっていった。
長い戦いに打ち勝ったカナンは・・・・・・・・愛しい宝物たちを両の腕にしっかり抱きしめた。
「ねえ・・・・・・名前・・・・・・もう・・つけたの?」
「いいや。俺が勝手に決めたらお前怒るだろう?だから、まだだよ。」少し心配そうにウナスを見つめていたカナンは急に笑顔になるとこういった。
「私ね・・・・・・もう考えてあるの。女の子は・・・エオラ。男の子は・・シュウ。ねえどうかしら?」おそらく彼女の性格だからもうずっと前から考えていたのだろう。ウナスは口もとに微笑を浮かべた。
「どうしてその名前が気に入ったんだ?」
「エオラとシュウっていう名前はね、いろんな意味があるんだけど、どっちも【光】っていう意味をもっているの。私やあなたにとって、この子たちは希望の【光】でしょ?本当はどちらか片方で良かったんだけど・・・。」
一生懸命に説明をするカナンの腕の中で二人の赤子は、キャッキャッと笑っている。ようやく名前が決まりそうなので喜んでいるのだろうか。
「二人とも気に入ったみたいじゃないか。いいと思うぞ。俺も。その名前。」
「本当に?やったわ!」
「かあたま、はいってもいい?」ふと、幼い声が耳に入ってきた。カナンは一瞬で誰の声か分かった。ジュリアンの声だ!
「まあ、ジュリアン?おいで!」
ナフテラが連れて来てくれたのだ、と幼子は言った。カナンはナフテラの心配りに感謝すると、久々に息子を思いっきり抱きしめた。ジュリアンも小さな腕で負けじとカナンを抱きしめる。
「かあたま。あかたんのなまえ、きまったの?」二人の赤子の頬をつんつんと両手の人差し指で触りながらジュリアンはたずねた。彼はカナンが意識不明の間もずっと弟、妹の傍にいたが・・・・・・名前が決まっていなかったため何と呼んだらいいかわからなかったのだ。
「ええ。ジュリアンの妹がエオラ。弟がシュウよ。あなたもお兄ちゃんになったのよ?仲良くしてあげてね?」
「うんっ!はやくおおきくなりなたいね。えおら、しゅう。」
カナンとウナスはそんな子供たちを微笑ましく見つめながら、そっと口付けをかわした。
東の空が白み始める。部屋中に白い光が差し込んでくる。
白光は彼らにとって幸せの光。白光は彼女らにとって愛の光。
この先・・・・・幸せの光は消えることがあるかもしれない。だが彼らの中に互いを愛する気持ちがある限り・・・・・・・何度でも又輝きを取り戻すのだろう。そして、愛の光は未来永劫受け継がれてゆくのだろう。これからも白光は彼らを照らし続けるのだろう。
柔らかい・・・・・・・・・・美しい・・・・・・・・・・・光で
幸せと・・・・・・・・・・・・・愛を・・・・・・・・・振りまいてゆくのだろう・・・・・・・
永遠に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
FIN
お目汚しに・・・。
カナンってこんな感じの顔です。も、も少し可愛かったはずなんだけど(イメージは)。
長い間お付き合いくださった方々有難うございました。次の連載も間近ですので・・・これからも宜しくお願いしますね。

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