例えば・・・           







「ね、どうしてウナスと結婚したの?」

「・・・・・・・・・。」

また始まった、キャロルの詮索。
王妃であるが、国政にはあまり関わっては居ない様子の彼女。
どちらかというと、国政よりも自由に過ごす時間の方が多いのでは?と思う。
メンフィスの配慮でそうなっているのだろうが・・・・。
しかし、この王妃は中々曲者で、その自由な時間をお忍びにあてていたりする為、何かあったときの責任はその秘密を知る者に科せられる。カナンはまだその秘密を知るものには加わっていない。唯一の救いとでも言うべきか。
まあ、張本人は気楽に考えているが・・・・・。




「ね、ね!今日こそ教えてっ。」

「・・・・・・・・。」

ふぅっと息を吐く。
結婚して、1週間。追求の嵐にはかなり困っている。
そりゃ、好きになったのにも、結婚したことにも。
理由はちゃんとあるけど。
口に出して言うのは恥かしいし、ましてやキャロルに口を滑らせれば王宮中に知られることと同じなわけで、どうも気が引けるのだ。・・・・からかわれるウナスを想像してみると。




「ねーってば!ねーっ!!」

「・・・・・・・・・用事を思い出したので失礼いたします。」

取り合えず、かわしてみる。

「嘘でしょ。今日はあなたにお客様入れてないもの。私が全部お断りしたわ!」

なっ!
そこまでしますか!?賓客を断るなんて国際問題になっても知りませんよ!?
とは言わない。言えない。キャロルならこのくらいして当然。予想していなかったわけでもないし。
ならば別の理由で。

「・・・・・・・剣の稽古しませんと・・・。最近、ほとんどしていませんし。」

「行けないわよ。ほら、あなたの武具ここにあるもの♪」

パンパンとキャロルが手を叩く。
侍女たちが、申し訳ありませんっっ!という顔でこちらを見ながら入室してくる。
長剣・短剣・槍・弓・・・・果ては手入れの道具まで全部、ずらりと目の前に並べられる。
うわっ!間違いない、これは自分の武具。
他の武具だと、手に馴染まないので万が一の時に非常に困る。

「・・・・・あんまりです。」

私じゃなかったら怒ってますよ、そういう皮肉を込めたのだが。

「教えてくれたら全部返すわよ〜。じゃなかったら返さないっ。」

・・・・通じなかったようで、脱力。
いっそ、話してしまおうかと思ったほど。
・・・不思議な話で、叔母と言っても2つしか年が違わない為か、彼女はやけに同じ年頃の自分に執着する。他愛のない「お話」をしようと一生懸命だ。
もっとも、そんなふうに努力をされても、こちらはそういった経験がないため応えてあげられない。
噂好きな侍女達に相手をしてもらうのが、彼女の気も済むから一番良いと思うのだけれど。

「じゃあ、一つ賭けをいたしましょう。私が勝ったら、武具を返してくださいませ!もし私が負けましたなら、潔くお話いたしましょう。」

「その賭け、のったわ!!」

やたらとハイテンションなキャロル。
内心穏やかではないカナン。
気になる賭けの勝負方法はというと・・・・。








「書物の仕分け・・・・?」

「うん。どうせ勝負しなくちゃいけないなら、迷惑かけないようにしなくちゃと思って。」

「料理とかじゃなくて?」

「料理やお裁縫や武術だったら、叔母様に不利だし、片付けや準備も大変でしょう?でも、書物の整理だったら逆に文書庫の人達のお手伝いにもなるわ。人手が足りないって、仰っていたから。それに、書記見習いの子供達の練習もさせてあげられそうだし。」

帰ってきたウナスを迎えながら、事の詳細を説明した。
もっとも、一番肝心な部分。「キャロルに何の話をするか」についてまでは話せなかったのだが。
話したところで、絶対に止めてくれ!と懇願されるにきまってる。だけどそうされても、もう遅いし。話さないほうが彼のためかもしれない。・・・ちょっと言い訳。

「ふうん。王宮中、すごい噂だったぜ。【カナン様が王妃様と勝負をなさる!】ってさ。」

「ごめんね。びっくりしたでしょう?」

いきなり賭けの話を押し進めてしまったことには、罪悪感があった。
好きに過ごせと言われている自分とは違い、彼には王宮内での地位も立場というものもあるのだ。
妻である自分が、彼の主君である王妃に対等な勝負を持ちかけたともなれば、色々と迷惑をかけてしまうに違いない。それを思うと気分がシュン・・・と萎えてしまう。

「まあ、少しはびっくりしたけど気にするなよ。キャロル様は無邪気な方なんだからさ。カナンが言いださなかったとしても、ご自分から持ち出したに決まってる。」

ポンポンと、頭を撫でてくれた。
ウナスのこういうところ。何か失敗しても、過去を引きずっていても、それを必ず受け止めてくれる、器の大きな優しいところ。
彼の前だと、自分らしくいられる。それは、まるで陽だまりの中にいるようで・・・。
大きな温もりに包まれている安心感が持てた。
でも、その気持ちを言葉にするのは難しい。
ずうっと誰にも心を開けなかった私には、これが初恋だから・・・。
彼が居ない世界なんてありえないと思ってしまうこと、それを自分はどんな言葉で伝えたら良いのか分からないから。自分が必要とされる喜びを、知るのは初めてのことだったから。だから、それが上手に話せるようになるまではこの気持ちは、胸にしまっておきたいの。

眩いほどの輝きを放つ宝石は、誰だって鍵をかけた箱に大事に閉まっておきたい。
きっと、それと同じなんだと思うから・・・・・・・・・・・・・・。








「まもなく、キャロル様VSカナン様の書物整理競争行います!!両者共、準備は宜しいですか?」

迎えた翌日。テティの声が辺りに響き、両者はこくんと、頷いてスタートを待つ。
こっそり見渡してみると、周囲には入りきれないほどたくさんのギャラリー。
皆、昨日から各所で噂話をしては、今日のこの勝負を楽しみにしていたのだ。
もう、皆ったら!人事だからって!
苦笑と共に漏れる嘆息。そうしたら、端のほうにウナスを見つけた。
パチッと、互いの視線が交わる。ウナスは、はにかんで、小さく手を振ってくれた。
唇が動いている。早すぎて、読めない。もう一度、集中して唇の動きを読んでみる。
ゆっくり、一文字ずつ・・・・。

・・・・が・ん・ば・れ・よ!

「!!」

「では、制限時間は20分です。用意・・・・・・始めっっっ!!」

開始宣言の声。
積み上げられた、タブレットやパピルスを棚に分類していく。
傍で、見習い書記の子供が、キャロルと自分の分類したタブレットやパピルスの数を記入していく。

ウナス、私頑張るよ。負けないよ。
でもあなたは、私が賭けに負けても、きっと笑ってくれるわよね。
どうしよう。そう思ったら、負けても良いかしら何て思っちゃう。
でも、勝った後に、賭けの内容をこっそり教えてあげて、あなたを驚かしても良いかもしれない。
あなたの驚いた顔も見てみたいな。そして、その後に着く安堵の溜息も聞きたい。
ねえ、あなたの傍で聞くそれは、どんなに心地良いのかしら?

「あと10分!」

キャロルも、本気だ。絶対負けないわ!って気合が動きから感じられる。
途中経過。スピードも、正確さも、分類した数も、五分五分。
ラストスパート、どれだけ集中できるか。どれだけ冷静で居られるか。
きっとそれが勝敗を握る鍵となるだろう。

「あと1分!」

迫る時間。逸る心。あと少し、あと少し・・・・・。

「やめっ!では、結果を発表します!・・・・・・勝者は・・・・・・・・・・・・・・」







ね、ウナス。・・・・・・・・大好きよ!!












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