1999年 2月
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@ロシアについて (北方の原型)
司馬遼太郎文春文庫歴史薀蓄
259頁437円★★★★

 著者が学生時分からモンゴルに深い愛着を持っていたのは有名な話だ。ところでモンゴル騎馬民族や、日本の幕末から日露戦争を語るためには、ロシアの理解が必須である。本書は「菜の花の沖」「坂の上の雲」を書くにあたってロシアのことを考え続けてきた著者が、彼の国への思いをエッセイ風に綴ったものだ。

 私たちの世代には、ロシアといえば共産主義の超大国ソ連としての印象が大きい訳だが、その革命前の帝国ロシアから考えても、その歴史は意外と浅い。ロマノフ王朝が興ったのは、チンギス・ハーンに始ったモンゴル帝国が内部分裂により自己崩壊していく時期であり、その後も長い間、西から見れば東ヨーロッパのさらに奥にある田舎国家だった。当然その時代にもシベリアに原住民はいたのだが、彼らに国家という概念はなく、当然ロシアの支配下にあったわけではなかった。ロシアが国土の膨張を本能のようにしながら増殖していくのは、最期のハーン国が倒れることにより、ウラル山脈を越えることができるようになってからだ。そのことによって、ロシアは広大なシベリアを落し物を拾うように、ただで手に入れてしまった。そしてロシアが18世紀以降、事ある毎に日本や中国に南下しようとしたのは、広大なシベリアを経営するための食料補給基地としたい考えがあっただという。なるほど。

 また一概にロシア人といっても、幕末に千島列島のほうからちょっかいをかけていたコザックの頭領たちと、本国の上流階級(例えば、結果的に日本に対する開国要求レースにおいて、ペリーに敗れたプチャーチンなどだ)では物腰に非常に違いがあったらしい。
 一般的に日本人はペリーに対して好意的なのだが、著者はペリーがかなり嫌いのようだ。確かに、アジア人に言うこときかせるのは恫喝が一番だと考えていたペリーより、対等な国として長崎で外交しようとしたプチャーチンのほうが好人物だろう。

Aギリシャ神話を知っていますか
阿刀田高新潮文庫古代蘊蓄
234頁400円★★★

 「旧約聖書を知っていますか」が面白かったので続けて購入。
 しかしながら「旧約〜」と比べて、中身が今一つ頭に入ってこない。本作は10年ほど前に書かれたようだから、著者の慣れによるものだろうか、神話自体に関係のない、あるいはギリシャ神話の薀蓄にはいるための枕として、著者の体験談等がかなり多いのだが、これがまたつまらないのでマイナスだ。
 ギリシャ神話は周辺地域の雑多な伝説を取込んで膨れ上がっており、時系列や物語の整合性にはあまり考慮がされていないので、聖書と比較しても、全体を通しての解説は難しいのだろう。

 しかし1つ疑問がすっきり氷解して嬉しいことがあった。ギリシャ神話中のメジャーな怪物、ゴルゴンメデューサの違いを知っているだろうか。髪の毛が蛇の群でできていて、その姿を見たものを石に変えるというアレだ。なんでも、前者は種族名であり、後者は固有名(3姉妹の末妹)ということだ。今までごっちゃになってわからなかったのだが、これは昔見た「変身忍者嵐」の西洋怪人シリーズで、ゴルゴンとメデューサが姉妹怪人として出ていたからだろう。

B異次元の陥穽  キャプテン・ケネディ1
 Galaxy of The Lost
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G・カーンハヤカワ文庫SF
215頁★★★

 ここより先、値段を表示していない古典SF(主にスペオペ)が連続するのだが、これらはネット上の“本譲ります”コーナーで希望して、譲り受けたものだ。まことにありがたいことである。

 本書は“キャプテン・ケネディシリーズ”として5冊が邦訳されたもので、このうち2冊か3冊は随分昔に読んだことがある。とても懐かしく感じた次第。
 記憶では、キャプテン・フューチャーの亜流だという印象がとにかく強かった。主人公でリーダーのケネディを中心として、天才科学者のルーデン、高重力惑星出身の怪力サラトフ、カメレオン人間のケミルというメンバー構成は、そのまんま恥ずかしくなるくらいにキャプテン・フューチャーの“生きている脳”サイモン教授、アンドロイドのグラッグ、合成人間のオットーに当てはまる。ほぼマルパクリと言われても仕方ないだろう。
 ところが今回読み直してみると、印象がかなり異なってしまった。

 まず本シリーズが書かれた背景だが、キャプテン・フューチャーよりずっと後にドイツの大量生産スペオペ、ペリー・ローダンシリーズの対抗馬としてアメリカで誕生したらしい。執筆年代が新しい分、ケネディはカーティス・ニュートン=キャプテン・フューチャーのように、太陽系の守護神として超絶した存在ではなく、テラ文明圏(多くの地球外生命体を含む)の治安を守るFATE機関の一員として描かれる。そして物語には政治的な背景があらわれるちらほらと顔を出す。
 舞台設定としてはスター・トレックシリーズにかなり近いといえるだろう。本シリーズの挿絵は「激烈バカ」みたいでお話にならんので、映像を頭に浮かべながら読むには、スター・トレックのイメージを借りることをお勧めする。

 さて幕開けの1巻だが・・・。

 テラ勢力圏と他勢力圏との境界に近い宙域で4隻の宇宙船が行方不明となり、ケネディたちに真相究明の指令が下る。危険宙域を通る客船に自ら乗り込んだケネディとサラトフは、読みどおりにまんまと怪現象に遭遇するが、そのまま別次元へと移動してしまうことに・・・。彼らを含む生残り一行は、不時着した惑星でサバイバルを続けながら、この怪現象の謎を解き、元の次元へと帰ることを試みる・・・。

 筋立て自体はB級スペオペとしてまあまあなのだが、ケネディの性格がどうにも気にくわない。こいつ、相手を刺激するような攻撃的な台詞をやたら吐く困った奴である。“俺はおまえ等と出来が違うのだから、だまって俺の言うとおりにしろ。”という感じだ。自分を認めて傘下に入ろうという奴は、よしよしと面倒をみてやるが、素直に言うこと聞かない奴はとことんやり込めてやるという、いわゆる“JUSTICE OF AMERICAN POWER”全開である。
 アメリカ人は“パワー”っちゅう言葉が好きじゃからのお。大体名前がケネディっていうところもなんとも・・・。
 なんというか、キャプテン・フューチャーの後継者というよりは、タカ派のアメコミ・ヒーローといったところだ。

C航時軍団
 The Legion of Time (1938)
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J・ウィリアムスンハヤカワ文庫SF
219頁★★★

 かなり読み飛ばしてしまったので、著者のイメージをきちんと理解できたのかはやや疑問だが、現在の行動が不確定の未来を形作るという、当時――戦前じゃが――最新の量子論不確定性理論に基づいた未来感、多元宇宙を導入した時間テーマのSFだ。

 一寸先の未来というのは、不確定性の揺らぎの幅を持って重なっているのだが、先になればなるほど、さらに予測不能で多種多様な世界になっていく。フラクタルな効果だ。
 現在の選択が未来を形作っていくのだから、現在もまた過去の選択によって形作られた一世界である、という風に考えられる訳で、となると、“if”の世界が現在と同一時間上に、並列・無数に存在すると考えたくなるのだが、本書では実在の確定した世界は一つだけという設定になっている。つまり、ある時点において修正不能な決定的な選択をしてしまえば、それに基づく未来は絞られ、選択されなかった世界は最初から存在しなかったことになるというのが、本書の特徴的なルールだ。
 そして不確定の未来についても、現在に対する無数の未来世界が同確率で存在可能性を秘めているという訳ではない。蓋然性の高い未来の可能性として2つの世界、ジョンバールとギロンチに収斂するというのである。この2つの世界が、互いに自らの存在を賭けて現在に干渉してくるという設定だ。

 どの時間線においても、そこに住む人にとってはそこが現実の現在なのであるから、一体どこまでが決定された時間線なのか、深く考えればなかなか気持ち悪くなってしまうのだが、まあ深くは考えまい。とりあえず「バック・トゥー・ザ・フューチャー」に近い設定と考えよう。

 という訳で前置が長くなったが、可能性のある2つの未来世界ジョンバールのレゾネーとギロンチの実力者ソライニャという美女2人が、それぞれの世界の実在をかけ、その鍵を握る主人公デニス・ランニングにはたらきかけるという、展開はえらくB級な筋立てだ。まぁそれがいいという見方もできるが。
 しかし、1つの世界の消滅の鍵を握っていることを十分に理解している筈のランニングが、レゾネーとソライニャの色気の間でふらふらしてしまうのは、あまりにお寒いぞ。

 なんだかんだ言って、本書で最も価値があるのは表紙と挿絵が武部本一郎画伯だということだ。

Dサーガンの奴隷船  キャプテン・ケネディ2
 Slave Ship from Sergan
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G・カーンハヤカワ文庫SF
236頁★★★

 冒頭、爬虫類種族の皇子エルガ・ズプレニツは不満たらたら。彼の種族は力こそ正義。彼は一族の末子で、荒果てた辺境の一惑星しか相続できずに爆発寸前だ。
 ――ハードSFファンはここだけでもう先に進む気がなくなるのでは。私もかなりやばかった。
 話は頻発する壮年者の誘拐事件と、時期を同じくして流通ルートに出回る貴重な宝石チョムバイトの間に関係があることを睨んだケネディが、自ら囮となって徒手空拳で潜入捜査を行うというストーリーだ。

 読了後の感想は、やはりこいつはカーティス・ニュートンのような知能の人ではなく、行動と腕力の輩だなということだ。ラストで7フィートだか8フィートの身長に牙とかぎ爪で武装したトカゲ宇宙人と素手で格闘し、あまつさえ頚動脈を食いちぎる大技に出られては、最早脱帽せざるをえない。ターザンでもライオンと戦うときはナイフ使うぞ。

 まだシリーズも二冊目だというのに、最初から最後までケネディ以外のメンバーが出てこないということも、本書の特色である。

E素粒子のモンスター  アシモフの科学エッセイ11asimov11.jpg
I・アシモフハヤカワ文庫科学薀蓄
321頁544円★★★★★

 久しぶりにアシモフの科学エッセイを読んだ。このごろはめっきり近くの本屋から消えてしまって、この前後の巻は読んでいないものが多い。本書は出張帰りの八重洲ブックセンターで見かけて買っておいたものだ。

 アシモフと言えば、誰でも知ってる50年代アメリカSF黄金期のBIG3の一人だが、その数多い著作物の割合から言えば、本業は科学解説者と言えるかも。本書はアシモフの天分――本人がそう言ってる――であるところの、科学における様々な分野についての歴史を追いながら解りやすく解説したものだ。一般の科学解説書であれば、その結果(法則等)についてなんだかんだと説明していることがほとんどだと思うが、アシモフは科学者たちの試行錯誤を順を追って語ってくれるので、とても解りやすいし面白い。解った気になりやすいというのが正しいかもいれないが・・・。

 内容は物理学、天文学、化学、生物学、工学、年代学の各章に分れているが、なかでも物理学では、特殊相対論一般相対論の違いがおぼろげながら初めてわかってきたようで、なかなかに興味深かった。特殊相対論が疑問の余地なく繰り返し証明されている(粒子加速器や原子力の利用はこれなしでの発展はなかった)のに対し、未だ他の作用力と異なり統一される気配のない“重力”を考慮に入れた一般相対論は、アインシュタイン存命中は証明されなかったらしい。興味深い話はつきない。

 今確実で最短にノーベル賞を獲得するには、物事を巨視的に扱う相対論と微視的に扱う量子論を統合することだと著者は語っている。つまりは“重力子”の発見だ。相対論にニュートン力学が含まれる――人間が身の回りの世界で通常扱うような遅い速度の領域では、相対論は近似的にニュートン力学と等しくなる――ように、将来的に相対論を含み、すべての場の理論が簡潔に統合されるような数式が発見されればすばらしいだろう。

F天翔ける十字軍
 The High Crusade (1960)
P・アンダーソンハヤカワ文庫SF
257頁★★★★

 突然地球に現れた異星の宇宙船。中からは光線銃で武装したアナクロな異星人軍団がわらわらと襲ってきた。ところが中世の英国、男爵ロジャー卿とその配下たちは十字軍への旅立ちを目前に控えて意気軒昂。油断していた異星人は卓越した科学力を威嚇に使うこともできず、ロジャー卿たちはまんまと宇宙船を乗っ取ることに成功する。分捕った宇宙船で一族もろともフランスへ向おうとしたロジャー卿だが、異星人のあがきにより宇宙船は緊急帰還モードに入り、別の太陽系にある彼らの前進基地へすっ飛ぶことに。中世時代の人間ではあるが、科学力に頼り切った異星人たちよりむしろ戦略眼の肥えたロジャー卿は、次に彼らがまた地球を襲えば勝目はないことを悟り、逆に異星人に奇襲をかけることを決断する・・・。

 設定からわかるように、ユーモアSFと呼ばれる範疇に属するのだが、おふざけな話ではない。ロジャー卿とその后との関係なんぞは悲劇的な様相を呈しているし、安直なハッピーエンドでもない。

 物語は、ロジャー卿のお付きの僧の一人称形式で書かれているのだが、プロローグとエピローグでは、その顛末を記した古書を、遥かな未来、正当?に科学を発達させた人類が、宇宙の彼方で発見したという演出もすばらしい。
 宇宙の彼方でそんなものを見つければ、そりゃあ驚くだろうな。

Gアメリカ素描amerika.jpg
司馬遼太郎新潮文庫紀行
394頁621円★★★★★

 「ロシアについて」に引続いて今度はアメリカ。ただし、「ロシアについて」がソビエト連邦以前のロシアを、主に資料の分析から論じているのに対し、本書は1ヵ月ほどのアメリカ旅行からの体験記である。「街道をゆく」の外伝といった位置づけになる。

 20世紀の日本にとって、最も大きな影響を受けたアメリカの一部を理解する上で、本書は非常に興味深い。あらためて著者の俯瞰的な観察力に恐れ入る。
 国際社会への脱皮が声高く謳われるようになって久しいが、なんでもかんでもアメリカの文明パワーに右に倣えとするには、日本とアメリカでは国家の成り立ちからあまりに異質すぎる。中国・韓国と比べてさえかなり異なった文化を持つ日本が、過去の失敗(アジアで唯一といっていい、自力で近代国家になることができた日本が、西洋に追いつくことにあせりすぎたために、時代に遅れた帝国主義へと突入。このことによって、今に至るもアジアの国々から嫌われている)に全く勉強することなく、単純にアメリカの物まねをするのだけはやめねばならない。勿論アメリカを理想としたほうが良い部分もあるとは思うが・・・。

 浜田省吾の歌にもあるように、♪見なよ街ゆく奴等を〜♪まるでWASPだぜ〜〜♪♪という世の中はつらい。と言いながら、アメ車に乗っている身ではあまり説得力はないのだが・・・。
 “己を知り相手を知れば百戦危うからず”とは孫子の兵法だが、日本人は政治家から一般大衆まで、とにかくこれが苦手のようで、その原因は日本人の水に流す部分にあるというのが、井沢元彦の主張だな。

 ある程度、民族や地域に限定されるがゆえの非合理さを含む――含むからこその――“文化”に対し、多民族国家であるために、すべての物事にルールや法がかっちりと白黒を決め、文化は自国民の中でろ過され、生残ったものが世界中に発信されるアメリカの合理的“文明”パワーは、良しにつけ、悪しきにつけ強力だ。だからこそ日本はしっかりと取捨選択できるだけの眼を養うべきである。それが本当の国際性というものだ。

H童話ってホントは残酷douwa.jpg
三浦祐之 監修二見文庫童話薀蓄
252頁495円★★★

 どうも最近この手の本もヒットしているようだ。数年前のシガーニー・ウィーバーの主演作、「スノーホワイト」あたりからの傾向か。

 私もグリム童話「子供たちが屠殺ごっこをした話」を読んだときには愕然としたものだが、本書にはこの話も含めて、グリムやアンデルセンペロー、そして日本の民話が、途中に編者の説明が挿入される形で数十編紹介されている。

 しかし残念ながら特に感銘を受けるような解説はなかった。例えば以前NHK教育の「知への旅」でやっていたように、白雪姫を助けた小人たちは、子供の頃から暗く狭い坑道で一日中働かされたため、発育不善となった鉱山労働者ではあるまいか、などという分析をやってくれると嬉しいのだが・・・。

Iメテラーゼの邪神  キャプテン・ケネディ3
 Monster of Metelaze
kenedy_3.jpg
G・カーンハヤカワ文庫SF
215頁★★★

 惑星メテラーゼはテラ圏内の中では発展途上国だが、自主の気運の高い星である。そのメテラーゼは元来評議会で組織されていたのだが、最近になって総統カジムによる独裁制がしかれようとしているとの情報が。さらに民衆の間では新興宗教が爆発的に広がっており・・・。

 宗教の会合に潜り込んだ情報員が毒殺されるプロローグは、なかなかサスペンスフルだ。お、これはシリーズ中の最大ヒットかと思ったが、残念ながら盛り上ることなく終ってしまった。2巻、3巻と、“スパイもの”の傾向があるようだが、その手のジャンルとしてみるとやはり物足りなさが大きい。はなっからお気楽に読んでいるのだが、この程度の評価しかできないのはつらい。

J歴史の嘘と真実
井沢元彦祥伝社ノンポシェットエッセイ
248頁533円★★★

 毎回挑戦的な論調で、感心させられながらも少々辟易してしまう井沢本だが、本書はその一連の井沢作品の原点になったようなエッセイ集だ。したがって内容は大体他の本で既に読んだものの簡略版で新味は少ない。後半になぜか名古屋に関するまさに雑談というエッセイが数編含まれるが、これはまた必要ないだろう。

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