1999年 5月
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@王子と二人の婚約者 魔法の国ザンス11
 Heaven Cent
P・アンソニイハヤカワ文庫歴史薀蓄
516頁796円★★★★

 いつのまにかシリーズも11巻。初期の頃むさぼるように読んだ面白さは最早感じないが、安定して楽しめるシリーズであることは変わりない。あまり意識していなかったが、前巻から新シリーズが開幕している。

 主人公は第一巻の「カメレオンの呪文」のビンクから数えて、早第3世代のドルフ王子。ひょうたんの中の悪夢の世界からやってきた骸骨男のマロイと共に、前巻から行方不明となっている情報の魔法使いハンフリーの一家捜索のため、謎の言葉“ヘブン・セントへのスケルトン・キー”の探求の旅へ。

 この“前巻から行方不明となっている”という巻をまたがったネタがあるのが、新シリーズの特徴らしい。
 そして本巻でもハンフリーたちの発見には至らない。冒険の成行きで、題名の通り2人の婚約者を作ってしまったドルフのこの先はいったい…?
 という命題がさらに加わって次巻へ持越しだ。

(2013/11/18改訂)

A死のある風景 (1965)
鮎川哲也ハルキ文庫推理
439頁940円★★


“日本における社会派ミステリの勃興で、本格推理は長らく時代遅れとされてきたが
本格の灯を消さずに今日の新本格のムーブメントに繋がったのは横溝正史鮎川哲也のおかげである。”

 ここのところ新本格といわれる作品を読んでいるが、解説でこんなコメントをちょいちょい見かけた。
 ところがわたしは横溝正史はそれなりに読んでいるものの、鮎川哲也はさっぱりだった。作品もついぞ見かけたことがなかったのだが、あの怪しいハルキ文庫で復刊されているのを見つけたので、早速手にとってみたという次第。

 冒頭、結婚を間近に控え幸せ一杯であるはずの女性の突然の失踪と、阿蘇山火口での死。そして場面は一転、金沢の海岸での別の女性の殺人事件へと移り、石川県警の捜査が描かれる。果して無関係に見える2つの死がどう結びつくのか。

 本書はスーパー刑事や探偵が、あらゆる事件現場に現れてビビッと解決するわけではなく、東京や石川の各刑事の捜査が丹念に描かれる。とにかく地味で堅実な印象だ。
 事件の謎にも派手なトリックはなくわたしのきらいな時刻表によるアリバイトリックである。2人の女性の死にもたいしたリンクがあるわけでもなく、拍子抜けだった。
 冒頭の謎の失踪に対しても、その婚約者と妹が(失踪した彼女に)失踪するような素振は全くなかったと証言しており、だからこそ“謎の失踪”になるのだが、本書のような真相が裏に隠れているのならば、周りはなんらかの素振に気づいてしかるべきでは?

 ひとつだけ感心したのは、書かれた年代の割に読んでいて古臭いものを感じなかったことだ。これは大したことではなかろうか。(と、今となっては、携帯電話のないところは時代を感じるかも…)

(2013/11/18改訂)

B超戦士コブラ 宇宙戦記@
T・ザーンハヤカワ文庫SF
512頁680円★★

 宇宙に広がった人類はトロフト星人と戦争状態に陥った。人類側は占領された星系に対し、人工的に骨格・筋肉を強化、レーザー等の武装を内蔵、それらを同じく埋め込まれたナノ・コンピューターで制御するサイボーグ兵士コブラ部隊を投入し、巻き返しを図る。
 前線から遥かに離れた辺境の星系で育ったジョニーは、コブラ部隊に志願し、戦争の現実を見ながら成長する…。

 と来れば、これはハインライン「宇宙の戦士」を思い出さずにはいられない。主人公の名前まで、同じジョニーだ。
 「宇宙の戦士」はハインラインの鷹派思想が最も如実に顕れた作品で、必ずしも一般受けはよくないようだが、1st.ガンダム世代のわたしは、当然のように当時はパワード・スーツに憧れたので、ハインライン作品の中では、「夏への扉」「スターマン・ジョーンズ」に継ぐお気に入りの作品である。

 そういった訳で、そのような話を期待して読んだのだが、さすがベトナム戦争後の作品だけに安直な戦争物ではなかった。戦争は全頁の1/3以下であっさりと終り、その後は帰還兵の受難の話や新しい辺境の惑星への開拓、そこでの自治問題といった風に、ジョニーの30年ほどの半生が断片的に語られるという展開。異能者(戦後も武装を除いたサイボーグ措置はそのまま残るので、コブラ部隊員は一種のスーパーマンだ)であるがゆえに一般人からは警戒される。またはその能力で権力を求めようとする奴もいたりして、ヴァン・ヴォークトの古典「スラン」をちょっと思い出させる。

 ところで、やはりお国柄なのかアメリカ人は開拓の話が大好きだ。SFでは開拓によって迫害される原住民を設定しなくてもよいので都合がいい。
 ジョニーの弟のジェームは、なかなかいい味を出していたのだが、野田昌弘訳は今一つしっくりこない。ジョニーに感情移入もできないし、全体的に盛り上りのない話であった。

(2013/11/18改訂)

C白い僧院の殺人
 The Legion of Time (1938)
C・ディクスン創元推理文庫推理
349頁640円★★★★

 雪化粧の朝、“白い僧院”と呼ばれる屋敷の離れで、ハリウッド女優マーシャ・テートの死体が発見される。しかし足跡は発見者が早朝に残した一組のみ。検死結果からわかる昨夜の死亡推定時刻には雪はすでにやんでおり、殺害者の足跡が残らないはずがない。諸々の状況から、足跡を消したり、ロープ等を使用した偽装も不可能である。もちろん空からのアプローチにも実現性がない。果して真相は…。

 雪の密室という、現在でも推理パズルなどによく紹介される密室形態を作り出した、著者の古典的名作である。
 推理小説史に残る名作の中で、最後に残った長編のような気がするので、もったいなくてなかなか読めなかった。
 実はカーの作風はあまり好きとは言えず、代表作としてよく挙げられる「帽子収集狂事件」「皇帝の鍵煙草入れ」などもほとんど印象に残っていない。しかし本書はなかなか面白かった。「三つの棺」の次にランクインというところか。
 雪の密室というビジュアルは、幻想的な雰囲気が醸し出されて心地いい。

(2013/11/29改訂)

D雪密室 (1989)
法月綸太郎講談社文庫推理
269頁466円★★★

 中扉に“白い僧院はどのように改装されたか”とコピーがある。言うまでもなく「白い僧院の殺人」へのオマージュ。そしてシリーズ・キャラクターの初登場編でもある。

 道具立てはカーだが、作者名であり探偵である法月綸太郎と父親の法月警視の設定は、これは完全にエラリー・クイーン。おなじみの読者への挑戦もついているという凝りようだ。ここまでストレートに古典のオマージュをやられると、意外と好感を持ってしまう。やはりパズルとしての推理小説もいいものだ。
 結局トリックには今一つ納得できなかったが、暇な時間を埋めるのには、これくらいの厚みの推理パズルが最適であろう。

(2013/11/29改訂)

再読はこちら。

E中国傑物伝
陳舜臣ハヤカワ文庫歴史薀蓄
371頁680円★★★★★

 秦の始皇帝の父親とも言われている呂不韋漢帝国建国の功臣張良三国志の主役曹操王安石耶律楚材といった面々を各編30頁程度でまとめている。曹操等の一部を除けば、最高権力者を補佐する立場の人物を傑物として取上げている。著者の好みが窺えるところだ。また通して読めば、紀元前数百年から二十世紀初頭までの中国通史となっているので、中国史に興味のある向きには、とても魅力的な1冊だ。

 高校の授業では一瞬で流されてしまう五胡十六国五代十国の時代にも、多くの王朝の下で多くの傑物たちが必死に生きていたことが実感できるだろう。

(2013/11/19改訂)

F図解雑学 量子論
佐藤勝彦(監修)ナツメ社科学蘊蓄
220頁1200円★★★★

 見開き二頁の左に説明、右に図解という構成。この手の本の中では、今まで見た中で最も解りやすい気がする。このテーマをこれ以上やさしく解説するのは無理ではないだろうか。とりあえずはちょっと解った気になる。
 あくまで気になるだけだが…。

 こういった本にはめずらしく、科学者たちの試行錯誤の流れが書かれているのが嬉しい。
 とりあえず「シュレディンガーの猫は元気か」ではよく解らなかった、猫のパラドックスに関してはわかった。(その後この手の解説本はやたらに増えましたな)

(2013/11/29改訂)

G法月綸太郎の冒険
法月綸太郎講談社文庫推理
422頁660円★★★

 短編集。“誰になんと言われようと第1短編集の題名はこれだ”と解説で著者が書いている。もちろん「エラリー・クイーンの冒険」にあやかってのこと。前半がアマチュア時代の作品の改稿作。後半が作家として世に出て以降に書かれた図書館シリーズの連作となっている。

 後半の図書館シリーズは「黒後家蜘蛛の会」クラスの小ネタを使ったユーモアタッチの短編連作だ。エラリー・クイーンにおけるニッキー的な女性司書をシリーズキャラクターとして登場させていることから、作者も楽しんで書いているのだろう。1編くらいならいいが、4編続くと若干食傷ぎみだ。ちょっと浮いている気もしないでもない。

 それよりは前半の、法月親子の親戚の一族に起る毒殺事件「黒衣の家」や、カニバリズムの蘊蓄を進めながら、恋人を食べた男の心理を探る「カニバリズム小論」のほうが、後味が悪くて著者らしさが良く出ている。

 冒頭の「死刑囚パズル」は、死刑執行直前の死刑囚が毒殺されるという魅力的な謎が提示される。うまくおとせるのかと心配したが、結末もなかなかではないか。

(2013/11/29改訂)

H新約聖書を知っていますか
阿刀田高二見文庫歴史蘊蓄
289頁476円★★★

 「旧約聖書」イスラエル建国の物語として読めるので説明もしやすいと思うが、「新約聖書」を部外者への説明するのはなかなか難しそうだ。しかし語り口はなめらかで、「ギリシャ神話をしっていますか」の時のようなへたな駄洒落も影をひそめイエスの言動を中心にして当時の状況がよくわかる。イエスや周りの使徒たちも実際にはこんな感じだったのかと想像できる。聖書の中の登場人物として、ヨセフヨハネマリアなどはいずれも複数登場するので、なにがなんやらわからなくなるものだが、とてもわかりやすく区別している。

 ただ4つの福音書「ヨハネ伝」「マタイ伝」「ルカ伝」「マルコ伝」のそれぞれの違いをもう少し深く、年代や伝承者の思想で比較してほしかった。
 この伝承者たちの少なくとも3人は、直接イエスを見知っておったわけではない。
 イエスの時代から離れれば離れるほど、でっかい“奇跡”が顕れているのではないかと思うが…。

(2013/11/29改訂)

I茶色い部屋の謎
清水義範光文社文庫ユーモア推理
343頁571円★★★

 題名からは推理小説と思うしかないが、ファンタジーっぽいものやSFっぽいものも含んでいる。“っぽい”というのは、著者の作品ではジャンルは小道具にすぎず、その語り口とひねりの効いたオチが持味だからだ。平凡な人の行動を軽妙に書かせたら日本一だ。

 とはいえ本書み関しては、ひょいひょいっと余技で書いた作品ばかりのようで、あまり印象に残る話はなかった。わずかに、終電で帰宅途上のサラリーマンが、トンネルの中で一瞬不思議な部屋を見てしまう「トンネル」が、もの悲しさとほんわか感が混じった妙な気分にさせてくれて良かった。藤子・F・不二雄のSF短編まんがにそのような雰囲気を感じるものがある。

 「バイライフ」では作中の自伝として、30歳になるかならんかの時期に、サラリーマンとの兼業でソノラマ文庫に少年向きの作品をぽろぽろと書いていたことが紹介されていた。
 実はわたしは、その時代の「エスパー少年抹殺/時空作戦」が結構好きだった…。

(2013/11/19改訂)

J新版 スペース・オペラの書き方
野田昌弘ハヤカワ文庫エッセイ/SF薀蓄
431頁660円★★

 案の出し方から原稿用紙の選び方まで、微に入り、細を穿ち、これでもかと言わんばかりノウハウを説明しているが、まぁ肩の凝らないエッセイとして読み飛ばすのが正しいだろう。

 うーん、しかし未だに心のどこかに作家に対する嫉妬心が残っているようで、あまり楽しくは読めなかった。“おまえはなにをしてるんだ?なにか始めないとなにも起こらないぞ!”と言われているような気がするからだろう。

 ついでながら、スペース・オペラはいいのだが、ところどころに例出されている著者のアイディアは全くつまらない。読速度がかなり減殺されてしまった。

(2013/11/19改訂)

K銀河忍法帖
山田風太郎角川文庫時代伝奇
462頁★★★

 大阪の陣直前、恋人を殺され恨みに燃える真田九ノ一の朱鷺、彼女を守る六紋銭の鉄が、家康の台所を牛耳る大久保長安に戦いを挑む。佐渡の金山を舞台に、西洋の妖しい武器を手にする長安の側妾衆5人と、伊賀忍者5人を敵に回して、六紋銭の鉄たちに勝機はあるのか…。

 今回は少々マイナーな舞台設定だが、初期の「甲賀忍法帖」のようなストレートな忍法合戦ではなく、多少ストーリーに重みが加わっている。善悪一筋縄でいかない大久保長安を敵役に配置したからかもしれない。
 長安は元武田の家臣で、鉱山採掘に当時最先端だったアマルガム法を導入して採掘量を飛躍的に増大、初期の徳川家の財政を一手に担った人物だ。本書ではそこからの連想で、西洋文明を積極的に取入れる開明的な人物として造形されている。なんと鉄の処女(有名な拷問具ですな) まで登場する。さすがは山田風太郎。

 題名の“銀河”とは、長安の天下が続けばさらにもたらされたであろう西洋文明の煌びやかさを表しているようだ。決して宇宙忍者が登場するわけではない(from「世界忍者戦ジライヤ」)。

 他にも佐渡の郭での実力者として、後に江戸で吉原を開くことになる庄司甚右衛門が登場し、六紋銭の鉄と交流を持つのが興味深い。庄司甚右衛門と言えば、隆慶一郎の傑作「吉原御免状」「かくれさと苦界行」ではキー・パーソン。なんと中国剣法の達人として<ネタバレ反転>柳生十兵衛を斬った男だからな。

 ついでに言えば、上記二冊の主人公松永誠一郎の剣の師匠、宮本武蔵に勝った伊賀忍者なんてのも登場するぞ。

(2013/11/19改訂)

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