1999年 7月
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@龍は眠る
宮部みゆき新潮文庫
528頁705円★★★★★

 台風の最中自転車の少年を拾った雑誌記者の高坂は、さらに行方不明になった子供の事件に出くわし、その事件の通報者として一晩足留をくらった。そして次の日、自転車の少年稲村慎治は高坂との別れ際、自分が超能力者であるとぽつりと漏らす。高坂は日常の仕事へと戻るが、その彼に謎の脅迫が続き、さらには「慎治の言ったこと、あれは全部作り話なんです。」と語る織田直也が現れ…。

 いわゆるジャンル・ミックスで、高坂が巻き込まれる事件を触媒として、2人の超能力者の苦悩と成長が描かれる。
 テレパスの苦悩と言えば、まずは七瀬三部作の火田七瀬を思い出すが、副作用として猛烈な頭痛に襲われたり、能力者が健康面がやばい方向へ落ちいってしまうなどというのは、スティーブン・キング「ファイア・スターター」はチャーリーの父親、アンディーに近い設定だ。著者はかなりS・キングを好いているようなので、そのオマージュといったところか。

 なんにせよ宮部作品の常で、本書も細かな心情や日常描写を積重ねていき、ストーリー展開もゆっくり。派手なアクションなどはないのだが、一気に読まされた後に、ほぉと息をついてしまうという不思議な味の作品だ。描写の積み重ねがえらく上手い。ただし冒頭に語られているように、希望は常に残しながらも底流に悲劇をはらんだストーリーは、決して明るいとは言えないのだが…。

 なぜか織田直也には「ウルトラマンガイア」の藤宮を想起させられた。

(2012/10/4改訂)

Aトンデモノストラダムス本の世界
山本弘宝島社文庫トンデモ蘊蓄
460頁667円★★★★★

 巷ではあいかわらず終末論がたけなわで、本屋では数多くのノストラダムス本が平積みされている。
 それらの本を見るたびに、こんな胡散臭いものを買うやつがいるのかと眉をひそめてしまうが、ならばきちんと反論できるかというと、これが意外に難しい。そんなことあるわけないやないか、馬鹿馬鹿しい!と生理的につき離すだけでは納得させられないだろう。そこで本書だ。

 だいたい、日本ではやたらにノストラダムスの知名度が高いが、彼がどの時代のどこに生きていたのかを知っている人はどれだけいるだろうか。ラテン系の名前からして、漠然と古代ギリシャ・ローマの聖書編纂時代くらいだと思っている人が多いのではないか。
 まずは、ノストラダムスが筆名で、本名はミシェル・ド・ノートルダムという16世紀のフランス人だということを知っておこう。

 本書は「トンデモ本の世界」の作者が、書店に溢れかえったノストラダムス本とその作者たちを笑い飛ばした本だ。

 それにしても、日本の“解説者”のほとんどがフランス語も読めず、訳本をもとにこじつけているだけだというのには恐れ入った。英語訳やひどいものは日本語訳された文を基にしてアナグラムで意味づけしているらしい。きれいにアナグラムになっていればまだ面白いが、やたらに単語が余ったり、自分に都合のいいようにアルファベットを変えたりしているのも多い。恐るべきいい加減さだ。 これらの“解説者”たちは、他の解説者を批判するときにはなかなか合理的なのだが、その批判が大体において自分の説にも適用されるというのには笑う。

 しかし8月になった途端、予言は外れた! とワイドショーでやっていたが、本書の作者もコメントしているように、公正に言えば、16世紀のフランスで使用されていたユリウス歴での1999年7月は現行グレゴリウス歴の8月13だか14日までは含まれるのだから、ワイドショーもしっかりすべきだ。まあ当然ながらそれも外れたが・・・。

(2012/10/4改訂)

Bキャッチワールド
C・ボイスハヤカワ文庫SF
366頁★★★★

 ネット上のいろんな書評ページで、“なんだかわからないけれどすごい!”と力説されていたので妙に気になり、同じくインターネットの“本譲ります”コーナーに応募してめでたく手に入れた本だ。感謝である。

 さて感想と言えば、うーん、“なんだかわからないけれどすごい!”まさにそのとおりの感想だ。
 SF内ジャンルとしては、アルフレッド・べスター「虎よ虎よ」を紹介するのによく使われるワイドスクリーン・バロックということになるだろう。長編3本4本分のネタを1本の作品にぶちまけたような、ハッタリの利いた作品に使われる用語のことだが、本書は彼の本を超えて爆発している。

 あえてストーリー展開は書かない、と言うか実は書けないのだが、異星人の攻撃を辛くも撃退した人類が、40年後にくるであろう次の侵略に先駆けて、異星人の根拠地と考えられるアルタイルに報復艦隊を送り込むというプロットは、異星人が宇宙空間を突進む巨大な生命体という設定とあいまって、OVAの「トップをねらえ!」を思わせるし、旗艦の乗員が一種の<ネタバレ反転>高次生命体のような意識集合体に変貌していくのは「エヴァンゲリオン」である。“リリス”という言葉まででてくる始末だ。 間違いなく、GAINAXの誰だかは、確実に本書の影響を受けているのだろう。

(2012/10/4改訂)

Cロシアの正体
落合信彦小学館文庫民族蘊蓄
254頁495円★★★★

 我々日本人はソ連が崩壊したときに、社会主義の崩壊でついに世界中が民主主義の方向に行くのではないかと非常に喜び、これで北方領土も返ってくるのではという希望的観測を持っていた。ところが歴史上“民主主義”や“自由経済”に全く無縁であったロシアは、無能な政治家のもと、結局は闇経済ばかりが発達し、マフィアがどんどん膨れ上がってきているらしい。映画「エアフォース・ワン」のテロリストも“お前らが“自由”を持ちこんだおかげで!”と熱く叫んでいた。

 ともかくも、食えていたソ連時代を懐かしむ人間が多いのは間違いない。日本でも明治が始まった頃、かえって生活が苦しくなったと幕府時代を懐かしむ風潮があったらしいが、とにかく現在のロシアは自由化、民主化とは程遠い状態であると著者は述べている。そして日本は北方領土返還を求め、いまだに巨大な経済援助を与えているが、そんなものは全くの無駄だから、当面甘い考えは捨てて援助もいっそのこと停止すべきだと主張している。

 政治に疎い理想感からいけば、急激な自由化で生活苦に苦しんでいる一般民衆への援助を停止するに等しい行為は、とても人道的に反することのように思うが、問題は援助した巨大な金が腐った政治家やマフィアの懐を潤すだけで、なんら援助の実効とはなっていないという現実だ。なんでもロシア上層部でもまさかもう金はでんだろうと思いながら日本に援助を申入れたら、意外に出てきたと驚いたりしているらしい。
 なんといってもロシアの政治家は、日本で北方領土返還を匂わしたその直後、国内では返還はしないと明言するのだから。司馬遼太郎も著書の中で、“ロシア人は個々一人々々はおおらかで愛すべき人たちが多いが、国家になった場合、それがロシア帝国であろうがソビエト連邦だろうが、前言を平気で翻し信用できなくなる”と書いている。これは日清・日露戦争時代の膨張や太平洋戦争終了直前からポツダム宣言受諾の表明後も続けられた破廉恥な侵略からもわかることだ。

 悲しいことではあるが、政治は性善説だけではやっていけない。手綱を持たずに餌だけ与えてもなめられるだけである。少なくとも国と国の正規ルートの援助は百害あって一利なしだろう。

(2012/10/6改訂)

D隻眼無双剣
大隈敏廣済堂文庫時代
373頁571円★★★

 昭和30年代の剣豪ブームの頃に、週刊誌に書き飛ばされた作品を集めたものらしい。文章はややジュブナイル臭く、内容も少々浅めではある。
 ただし週刊誌に書き飛ばされた短編と言い切ってしまうには惜しい面白いアイディアが各処にあり、著者が現在まで精進して作家を続けていればかなりの傑作が生まれた可能性もあるのではないだろうか。

 9編のうち「柳生石舟斎」「変幻隠密城」「死霊の谷」「十兵衛の最期」が“柳生もの”で、いわゆる十兵衛隠密説に基づいた話だが、本来は美青年の十兵衛が日常は隻眼で容貌魁偉の変装をしており、潜入の際には素顔に戻ってまた女装もこなすという設定が新鮮だ。

 他にもややマイナーな心の一法松山主水宮本武蔵の上位に置いた「奇剣かまいたち」、暗い御子神典膳を造形した「無慚なり典膳」「一刀斎を斬った男」などなかなかである。

(2012/10/6改訂)

E月光ゲーム Yの悲劇'88
有栖川有栖創元推理文庫推理
340頁580円★★

 キャンプ先での突然の噴火で、山中に孤立となった学生の面々。この先助かるかわからないという焦燥感の中で次々に起る連続殺人。一体誰が、何のために…。

  警察の組織的な捜査をあてにできないという設定を作るために、外部と隔離された舞台を用意するのは、この手の推理小説では常套手段だが、火山の噴火とは恥かしげもなくよくやるというのが第一印象だった。極限状況だからこそ起きた事件という一面もあるので、まぁそこは譲るとして、10人以上の登場人物が全員大学生というのは、少々煩雑で登場人物個々を覚えきれない。キャンパスで起った事件ではないのだから、全員を大学生に設定する必要はないだろうに。
 というか、本書は著者の学生時代に書かれたものに手を入れ入れ形になったものらしい。どおりで随所に、というか全般に素人臭さを感じる。習作の域を出ていない印象だ。

 それにしても表紙の濃い顔のおっさんは誰?
 どう見ても大学生には見えないのだが…。

(2012/10/6改訂)

F馬上少年過ぐ
司馬遼太郎新潮文庫歴史/時代
339頁★★★★

 表題にもなっている「馬上少年過ぐ」は、伊達政宗の半生を扱った短編。しかし少々短すぎて、駆足の感がある。
 わたしにとっての収穫は、幕末四賢公の一人に数えられ、村田蔵六(大村益次郎)の人生にも大きな影響を与えることになった伊達宗城(むねなり)の伊予宇和島藩が、政宗の長男にルーツがあると知ったことだ。

 あと面白かったのは、賤ヶ岳七本槍のうちのマイナーな一人、脇坂甚内安治にスポットを当てた「貂の皮」かな。
 賤ヶ岳七本槍と言えば加藤清正福島正則くらいしか出てこないものだが、その中では脇坂家のみが、明治まで家を残すことができたのだ。

 坂本竜馬で有名な海援隊が竜馬不在時に引き起こした、「慶応長崎事件」もなかなかに興味深い話である。暗いけど。

(2012/10/6改訂)

G日本の正体
落合信彦小学館文庫民族蘊蓄
254頁495円★★★

 「ロシアの正体」の作者が、今度は日本の問題について、政治から文化までをあれこれあげつらっている。

   日本の政治についてを勉強する気にはなかなかならないが、日本の政治家はただの利権ブローカーであることや、大量の二世議員について、やめろとは言わないがせめて親の選挙区以外から立候補するのが最低限のモラルである等の主張はなるほどと思う。

 明治維新にしろ日中/太平洋戦争後の復興にしろ、庶民にとっては基本的に与えられたものであるがゆえに、日本人は未だに本当の民主主義を理解してはいないという意見もあるが、先の利権ブローカー云々についても、政治家だけでなく一般人の意識から改革していかなければならないので、なかなかこの課題は大きい。

 文化・風習に関しては、例えば結婚披露宴が結婚産業の音頭に惑わされただけの空しい出費であることは著者の弁を待つまでもないが、マンガの氾濫をえらく憂いでいることに関しては賛成できない。なるほどくだらないマンガは山のようにあるが、一方で十分日本の文化として世界に誇れるものもたくさんあるのだから。(←このあたり、現在では著者はどう思うのだろうか)
 この辺りは小説の中にも素晴らしいもの、くだらないものがあるのと一緒だ。

 ただしマンガしか読めないというのは論外だ。
 最近新刊本のフィクション部門で、上位をゲームの解説本や携帯電話の着信音の本などが占めるのは、非常に悲しいことだ。

(2012/10/6改訂)

H星を継ぐもの
J・P・ホーガンSFSF
299頁540円★★★★

 ガニメアン三部作の開幕にして、ホーガンの出世作。ミステリファンにも薦められるSF史に残る作品だ。

 近未来、人類は月面上にも多くの基地を建設するまでになっている。そこで宇宙服を着た死体が発見されたが、驚くべきことに死亡推定時期は5万年前という結果を示す。明らかに人類であるその死体の謎を解くため、多くの科学者のチームが科学的検証を重ね、着実に死体の身元を固めていく。そしてさらに木星の衛星ガニメデからは、今度は人類のものではない巨大な宇宙船が発見され…。

 ひたすら死体の身元と人類史との関連付けをアカデミックに追求していく。最後に大きなオチがあってまさしくミステリ。実現の可能性としてはコンマの後ろに0がいくつも並ぶだろうから、状況証拠だけであっさりと周りが納得するのもどうかと思うが、小説としてはとても面白い。

 主人公の原子物理学者ハントは、各研究部門の成果を総合的に突合わせて詰りどころを打開していく。この役どころは「宇宙船ビーグル号の冒険」の総合物理学者グローブナーを思い出させる。
 多くの人が指摘しているように、ホーガン作品では楽天的な科学讃歌が謳われ、本書でもほとんど説明もなく民族・宗教の統合された(らしい)世界が紹介されるのだが、これは笑ってすますとしよう。

(2012/10/6改訂)

I逆襲の<野獣館>
R・レイモン扶桑社ミステリー文庫アクションホラー
464頁724円★★★

 「殺戮の野獣館」の続編。 前作の1年後?に再び起こる<ビーストハウス>での惨劇。 主人公サイドは一新している。
 昔の恋人を懐かしんで<ビーストハウス>の地へやってきた女性司書2人が、現地で知合った海兵隊あがりのヤンキー2人とともに新たな事件に巻込まれるという展開。 前作の救いのない流れを半ば意識しながら読んだがらか、意外と死人も少なく、するする読み終えてしまった。まあ“グロ”の部分は許容範囲内なのだが、本書のもう一方の売りである“エロ”が読んでいて鬱陶しい。かなり斜め読みになってしまった。
 なんでもあとがきによれば、さらに続編があるらしいぞ。

(2012/10/6改訂)

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