1999年 8月
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@七つの棺
折原一創元推理文庫推理
418頁680円★★

 密室殺人をテーマとしたユーモアミステリー短編連作。

 しかし特に記憶に残るものはなかった。電車の暇な時間をつぶすのには適しているか。しかし上着のポケットに入れるには、ちょっと厚すぎる。
 本書の紹介に、この連作の舞台である白岡町がクイーン作品のライツヴィルのようになるのが待遠しいとあったが、それは無理というものだ。

(2012/10/13改訂)

A司馬遼太郎の日本史探訪
司馬遼太郎対談角川文庫歴史薀蓄
318頁590円★★★★

 著者が亡くなって久しいが、本書は随分前にNHKが製作した対談番組をもとに編集したという新刊で、まことに商売臭さがぷんぷんと匂う一冊だ。
 その割には高い評価をつけているのだから世話はないが、読んでからかなり時間がたってしって、実はほとんど記憶が残っていない。文章として整理されていない分、より記憶からこぼれやすいのかもしれない。

 対談のテーマに挙っているのは、源義経織田信長緒方洪庵大村益次郎等々の、著者の作品群に関係のある人物がほとんどを占める。

 やはり思い入れが大きい分、大村益次郎(村田蔵六)の話などは、「花神」とリンクして非常に面白かった(と思う)。

 ただし「花神」に描かれている蔵六とシーボルトの娘いねとの半ば恋愛感情を含んだ交流が、どの程度史実に即しているのかという興味に関しては言及なし。ここは残念だった。

(2012/10/13改訂)

B魔術はささやく
宮部みゆき新潮文庫サスペンス
400頁590円★★★★

 ビルからの飛降り、電車への飛込み、タクシーとの衝突。一見何のつながりもない3件の女性の自殺。新聞の片隅に報じられすぐに忘れられる事件。過失を問題視され捕まったタクシー運転手の甥の守は、おじがまったくの無実であることを証明しようと、衝突で死んだ女性の部屋へ忍び込む。守は昔、近所の老人の暇つぶしの相手として、錠前破りのテクニックを手ほどきされていた。そして彼は事件視されていなかった3つの自殺の影で、巧妙にほくそえむ存在に気付くことになる…。

 「龍は眠る」の後に読んだだけに、本書のジャンルが推理なのかSFなのかさえ判らなかった。結局今回はまあまあ現実的解釈も可能なオチにもっていったということで、その分印象が弱いかなという気もするが、やはりサスペンスフルで面白い作品だ。

 しかしこのネタで他の作者が書いても陳腐な作品にしかならないと思うが、宮部みゆきの力量恐るべしである。

(2012/10/13改訂)

C秘剣水鏡
戸部新十郎徳間文庫時代
370頁571円★★★★

 著者の得意分野、剣豪ものの短編集。各表題は漢字二文字の奥義の名前で、それぞれの技、流派の話になっている。著者の別シリーズ「日本剣豪譚」よりは多少物語性の高い方向にふっている感じだ。

 例えば表題にも使用されている「水鏡」は、塚原卜伝とタメをはった深草甚四郎の伝説だ。“水をはった盥に離れた場所の敵を映し、それを斬って倒す”という、まあトンデモ技のことである。

 もちろん戸部節というべき風雅なタッチで、息をきらせながら血みどろに切結ぶといった描写からはほど遠いのだが、それでも“ぴちぴちと肉がはじけ”といった夢枕獏のような描写があって少し驚いた。

(2012/10/13改訂)

DSF天文学入門 上下
福江純裳華房科学蘊蓄
161頁/189頁1442円/1545円★★★★

 わかりやすい科学紹介本と言えば、なんといってもアシモフの科学エッセイだが、いかんせん邦訳のタイムスパンがあるし、すでに7年前に鬼籍に入られているので、最新の科学ネタからは少々遅れ気味の部分も感じる。そこで本書である。

 最新の宇宙観に則って降着円盤ガス・トロイドギンヌンガ・ガップダークマター等々を非常に砕いた文章で解説してくれている。著者はもちろん学者だが、各章の枕にSF小説やまんがを紹介していて非常に入っていきやすい。ただし反対に、大阪弁のおっさんとギャルの会話のやりとりで進行するといったあまりにくだけた部分もあり、やりすぎの分★×1つ減点だ。

 これらの本を読むといつも思うのだが、マクロな宇宙論とミクロの素粒子論が互いに切っても切れない関係となっているのが、科学の奥の深さを感じさせる。次はハワイのすばるの観測データによって、新たにどんな宇宙論の拡大があるのか、乞うご期待だ。

(2012/10/13改訂)

E日本人を考える
司馬遼太郎対談文春文庫民族薀蓄
340頁580円★★★

 10人程度の学識者と司馬遼太郎が日本人をテーマに対談している。
 基本的に司馬史観として各作品に顕われる日本民族に対する考察を他人と確認しているわけだが、本書で新たに発見した内容はなかった。他の識者達も新たなうろこが落ちるほどの感銘を与えてはくれなかったし。

 いや偉そうに言うほど内容を覚えていないのだが…。

(2012/10/13改訂)

F子供の本を読む
河合隼雄講談社+α文庫心理薀蓄
363頁840円★★★

 10冊ほどの児童小説や絵本を選び、児童心理の面から解説している。児童書の紹介本ではないので注意が必要だ。教育学部の副テキストなどにいいだろう。

 「長靴下のピッピ」「あしながおじさん」「飛ぶ教室」以外は全く知らない作品をとりあげているので、わたしの感覚との違いなどがよく解らないのが残念だ。著者の心理学者としての立場から、やたら深読みしているだけのような箇所も結構あったように思うのだが、反論できるだけの知識がないのが悲しい。心理分析というものに胡散臭さを感じているからかもしれないが…。

 ともあれ、一度読んでみたいと思える作品もニ、三あった。わたしにとっては児童書の紹介本としての役割をはたしてくれたようだ。

(2012/10/13改訂)

Gスカラムーシュ
 Scaramouche
R・サバチニ創元推理文庫時代/冒険
508頁806円★★★★

 貴族の養い児として育てられ弁護士となったアンドレ=ルイ・モローは、友人を殺したダジル侯爵に法の裁きを受けさせようとするが、貴族の特権に阻まれ失敗する。時はフランス革命前夜、第三階級の勢いが強くなっていく中、とあることから扇動者として官警に追われる身となったモローは、逃亡者・喜劇俳優・剣術士として身を処しながら激変の時代を渡歩く。そして運命はことある毎にダジル侯爵との因縁を用意する。モローとダジルとの結末は……。

 紹介では台詞回しの妙をえらく称えているが、個人的にはそれほどとは思わなかった。しかし古典としての本書の位置づけから考えると、読みにくさを感じなかったというだけでも大したことかもしれない。
 アンドレ=ルイはてんでばらばらな役どころをこなしていくのだが、何をやっても最高の能力を発揮するスーパーマンだ。そこら辺が古典の古典らしいところだろうか。少し鼻につく展開ではあるが、ラストの落ちは“よもやそうきたかあーっ!”と驚きを隠せなかった。最近のなんでもありのドラマからするとこういう展開も十分ありそうだが、古典活劇としてはなかなかにひねった結末ではないだろうか。
 “スカラムーシュ”とは喜劇での役回りの一種だが、時代の激変の渦中に入らず、やや離れたところから斜めに見ている主人公の行動を指している。

(2012/10/13改訂)

H世界短編傑作集1
江戸川乱歩編創元推理文庫推理
560頁340円★★★

 20世紀初期までの作品中から選ばれた探偵小説の短編集だ。いわゆるシャーロック・ホームズのライバルたちと呼ばれる一群である。このジャンルではなかなか有名な思考機械の「13号監房の問題」隅の老人の「ダブリン事件」を含んでいる。ただしわたしは長編好みだからか、あまり心に残る作品はなかった。

 短編は1作きりの大傑作よりも、登場人物や舞台に溶け込める佳作の連作のほうが面白い。やはりシャーロック・ホームズは偉大じゃ。いや、思考機械も隅の老人もシリーズがあるが…。

(2012/10/13改訂)

I柳生隠密帳
宮城賢秀廣済堂文庫時代
312頁552円★★★

 これは一風変った柳生ものだ。通常柳生もので看板役者を挙げれば、ダントツに十兵衛三厳、セットで但馬宗矩。草創期を描けば石舟斎宗厳尾州柳生まで手を伸ばせば兵庫助利厳連也厳包。脇を固めて左門友矩又十郎宗冬、たまに新次郎厳勝五郎右衛門宗章なども顔を出す。ところが本書の主人公は柳生俊睦知ってますか?

 宗冬から五代あとの江戸柳生家当主柳生俊則の息子である。このように書くということは俊睦自身は江戸柳生家当主とはなれなかったということだ。病弱を理由に退いていたらしいのだが、実は結構な歳まで生きた。ここにネタを感じ取って著者はちゃんばら小説に仕立て上げたというわけだ。

 奈良の柳生の里に行けば、柳生家の菩提寺である芳徳禅寺には、いわゆる柳生三代の立派な墓があるのだが、その周りにも一族の墓が多数存在しているのだが、実はその中で、本編の主人公柳生俊睦の墓が最も目立っているのだ。とっくりの形をしているのである。わたしも依然その墓を見たときには、この主がどんな人物だったのか想像をめぐらした記憶がある。

 江戸柳生家は宗冬の息子の代で石舟斎の血は絶え、以降養子藩主が相次ぐ。桑名松平信州真田蝦夷松前と続き、俊則・俊睦親子は松前家の血を引いているというわけだ。そして次の当主として乗込んでくるのは郡山柳沢家。ここに老中閥をバックに、柳沢家とそれに結託した奈良柳生藩内の老中たち、そしてそれらと俊睦率いる隠密集団との暗闘が描かれる。
 決して話が面白いわけではないのだが、この設定の目のつけどころだけでもわたしにとっては魅力的だ。俊睦の右腕ともいうべき斬り合い担当が村田新八(多分創作)というのも嬉しい。たしか但馬宗矩の時代の高弟に村田なにがしというのがいて、その後代はとくに柳生を名乗ることを許されて柳生の支藩を作っていたようだ。

(2012/10/14改訂)

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