著者の未読作品のうちであえて面白くなさそうなものを取上げてみた。面白そうなやつを読むのはもったいない気がするからだ。【注1】
著者の作品は、創作が多ければ多いほどしょーもなくなるというわたしの法則に則って、本書を選んだ。
幕末、旗本の次男坊として暇を持余していた柘植信吾は、町道場の師範代を片手間の生業としながらぶらぶらしていたが、ある日道場主の身辺に得体の知れない山伏を見てから、あれよあれよといううちに熊野山中に存在するという謎の安羅井国と、そこに隠された財宝をめぐって幕府、紀州藩の間の暗闘に巻込まれていく。
部分的に新選組の山崎蒸なんかが出てきたりするが、基本的に歴史上の人物や事件は絡ませない純時代小説である。時代設定を幕末に置いたのも、最後に江戸に戻った信吾が、自分の知らない間に<ネタバレ反転>鳥羽・伏見の戦いを経て徳川の世が終っていることを知って、浦島太郎のような気分になるという点を加えたいがためだけの設定のようだ。
なんとも不思議な感触で、いわゆるお宝獲得・秘境探検活劇の設定にもかかわらず、またきちんと誘拐・救出・ちゃんばら等々、冒険小説を形作るガジェットは揃っているというのに、自己韜晦しまくる主人公を始めとし、脇を固める女性陣や悪役等の人物造詣が妙に活劇を活劇にしていないという、なんとも腰の座りの悪さを感じる本である。その点、以前ずんどこの評価をつけた「妖怪」に通じる部分がやはりあるのだが、なんというか、書き方次第ではこういった冒険小説も有りなのかという点にえらく驚いてしまった。ちょっと感心を込めて評点を高くしてみた。
【注1】それから早15年。「菜の花の沖」や「胡蝶の夢」など未だに読んでいない作品も…。
(2014/6/3改訂) |