1999年11月
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@伊勢神宮の謎 (1992)
高野澄祥伝社ノン・ポシェット歴史薀蓄
297頁552円★★★

 ここ最近はご無沙汰だが、やはり初詣となればよく行くのが伊勢神宮。一応三重県民として、格の高い神宮であることに誇りは持っているものの、いざ、なぜ内宮と外宮に分れているのとかさっぱり来歴がわからない。そこでお勉強と思って読んでみた。

 内容は伊勢神宮にまつわる歴史が半分、伊勢の国(鳥羽とか白子の港とか)のネタが半分といったところだ。最初のほうに出てくる森有礼暗殺と神道の絡みは、「翔ぶが如く」で覚えた人物と伊勢神宮の絡みが面白い。【注1】
 しかし後半にいくに従って尻すぼみで、全体としては今ひとつの感想。

 とりあえず、歴史的に内宮外宮の仲がなにかと悪い(今でもそうなのかは?)こと。天照大神を奉っているのは内宮で、外宮の神様は豊受大神であることくらいは覚えた。

【注1】齢四十数歳で暗殺された森有礼は、日本語をやめて英語に切り替えようとも唱えていた。さすがにそれは若気の至りだったとは、ケント・ギルバートの言。
(2015/8/7改訂)

A前田太平記 上中下
  雪の章/月の章/花の章 (1995)
戸部新十郎光文社
時代小説文庫
歴史
371頁/379頁/368頁590円/590円/590円★★★★

 加賀百万石と言えば前田利家織田信長の小姓あがりにして羽柴秀吉の同僚。
 豊臣から徳川に権力が移るにつれ、豊臣系大名の多くが没落したが、徳川の最大の政敵だった前田家は徳川の世も家を残すことができた。そこには、利家から始まり、利長利常(利光)と三代の並々ならぬ政治的苦慮があった。

 本書は戦国時代後期から大阪の陣までの前田家の物語だが、ただし主人公はこれらの殿様たちではない。
 前田家に仕え中条流名人越後富田越後守重政である。
 彼の目を通して他の有名無名の人物との交流を絡ませつつ、徳川と前田の水面下の暗闘(と言うより、いかに徳川の挑発を前田がいなすか)が描かれる。

 本書で敵役となる柳生宗矩と比較して、富田重政(通称六左衛門)は一般的にはかなりマイナー。しかし兵法家として、柳生宗矩を除くと唯一の万石取りの剣豪で、石高で較べれば宗矩よりも上だ。前田家臣団の中で、単純に剣術使いとしてではない役割を担っていたのだろう。
 また中条流と言えば、重政の義理の叔父にあたる富田勢源が有名だ。
 その門下からは、一刀流の伊東一刀斎や厳流の佐々木小次郎が出ている。

 まあ著者の場合、どの本でも感想は同じようになってしまうのだが、殺伐とした時代背景において、主人公を始めとして、飄々とした持味の人生の達人といった人物が多く配される。ほのぼの感と無常感の間のバランスが絶妙だ。たまに読むとなにかほっとする。

 しかしこれだけの文量を読むと、ちょっとおなかいっぱいでもある。

(2015/8/8改訂)

B戦雲の夢 (1961)
司馬遼太郎講談社文庫歴史
401頁648円★★★★

 戦国時代の四国の覇者と言えば長宗我部元親。しかし時代は、長宗我部家に近畿・東海・中国を切り取った織田政権を奪い取った秀吉の臣下となる道を強いた。
 そして1599年。秀吉の死から関ヶ原合戦に向かう、最も政治的駆け引きが必要だった時期に元親は世を去る。
 そして当主の座は、二十代前半の四男盛親へ。
 本書は人並み以上の知力・体力に恵まれながら、大名としての欲が足りず、また政治力のある部下に恵まれなかったことから時勢に乗れなかった、悲劇の武将の生き様を描いている。

 実は長宗我部盛親の史実というのはあまり残っていないらしい。関ヶ原から大阪の陣までの15年の間には、京で寺子屋の師匠もしていたらしいという程度で、他の細かい足跡などは残っていないようだ。
 それだけに、実在の部将を扱いながらも、著者の創作の比重が高いので、お得意の(というか司馬遼作品では定型的な)自己韜晦型の冷めたキャラクター造形になっている。
 しかしまあ、史実の入り方は「風の武士」「梟の城」よりも高いので、わたしの好みにも合った。

 大阪の陣開戦前夜に、闇に紛れて京を単身抜出しながら、大阪に到着するまでに旧臣や最後の一旗のチャンスに群がる浪人たちが集い、装束も用意されて威風堂々の一群として入城するシーンは、非常に格好の良い情景だ。個人的にはもっと華やかに演出してもよかった。

 しかしなんというか、関ヶ原後に井伊家藤堂家に召抱えられた旧臣たちとの邂逅シーンは、異民族/異宗教/異イデオロギー間の救いようのない殺戮戦とは異なり、ある種合戦の凛々しさというものを感じる。

 こういった機微をヒロイック・ファンタジーのような完全物語でも出してほしい。

(2015/8/8改訂)

C仏陀の鏡への道
 The Trail to Buddba's Mirror (1992)
D・ウィンズロウ創元推理文庫ファンタジー
550頁880円★★★★★

 世捨て人のようにアイルランドの片田舎で独り住んでいたニール・ケアリーは、“親父”のグレアムに半ば強引に現実の世界へと引き戻される。仕事を捨てて中国人の美女と姿を晦ませた、ある企業のお抱え化学者を探して連れ戻す。社会復帰には手頃の仕事のはずだった。
 あっさりその化学者を見つけ出し、機転を利かせて彼らの内輪のパーティーに潜り込み、風呂場でのぼせ上ったケアリーを銃弾が襲うまでは…。

 「ストリート・キッズ」に続く第二弾。
 仕事の対象者に深く感情移入してしまうのがニールの悪い癖。今回もひとめで惹かれてしまった中国娘の李籃を追って、カリフォルニアから香港、中国へと舞台はめまぐるしく移る。
 時代設定が70年代ということもあり、今は公園と化してしまった九龍要塞が舞台となったり、また大躍進政策の失敗、そして文化革命の後遺症が大きく残る中国の影が常につきまとう。と言うか、そこが本作のキモ。今回の主役はニールではなく、李籃とその一家の生立ちである。

 前作から作者の筆力には感心していたが、今回近代中国に対する造詣が深いのにさらに驚いた。
 もし毛沢東が中国の偉人だと思っているおバカさんは、本書を読んでエンターテインメントを楽しみながらかなりの勉強もできる。二倍お得だ。

(2015/8/9改訂)

Dお師匠様は魔物! マジカル・ランド@
 Another Fine Myth (1978)
R・アスプリンハヤカワ文庫ファンタジー
343頁640円★★★

Eザ・怪獣魂 (1999)
双葉社怪獣薀蓄
195頁933円★★★

F韓のくに紀行 街道をゆく2 (1971〜1972)
司馬遼太郎アサヒ文芸文庫歴史薀蓄/紀行
268頁500円★★★★★

G笑わない数学者 Mathematical Goodbye (1996)
森博嗣講談社文庫推理
479頁695円★★★★

H人外魔境 (1939〜1941)
小栗虫太郎角川ホラー文庫冒険
558頁777円★★★

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