本書には少々思い入れがある。
わたしがまだうぶだった昔、横溝正史の作品に興味はあるが、当時の角川文庫表紙絵は、下から懐中電灯の光を当てたような気持ち悪い人物が並んでいて、とても気持ちが悪く買う気がしなかった。その中では、本書の表紙に人物は描かれておらず、これなら買ってみようかと何度か手にとってみたことがあった。
結局買わなかったが。
「ポツンと浮かぶボートの中に、首を途中まで挽き切られた男女の死体」という折り返しの文章が、表紙の血染めのボートのむしろ閑散とした画に、なにがしかの情景を加えてしまっておぞましかったのだ。なんとも微笑ましい話ではないか。
時は流れ、横溝作品の短編の中で「貸しボート十三号」は結構評価が高いという話をどこかで耳にしたので、あらためて読んでみるかと探してみれば(その時には、著者の有名作品はすでに読んでいた)、一時期あんなにずらりと並んでいた角川文庫の横溝作品も、いつの頃からか数が減り、最近の新版には含まれていないのだ。しばらく探していたが、あきらめて古本を買ってしまった。
しかしなんだ。そんな経緯があって思い入れのある本だったが、イメージと中身はやっぱ別物であった。なにやら、くさい青春ものを読んだような読後感だ。ま、シチュエーションとしてはなかなか面白かったが。
他に2編が収められているが、「湖泥」はミニ「悪魔の手毬唄」という感じの話であった。舞台も同じく横溝作品では猟奇殺人のメッカである岡山だ。以前に別の中篇集で読んだ記憶がある。
もう一編はよくある愛憎のもつれ絡みのやつで、ほとんど印象に残っていない…。
(2014/4/29改訂) |