戦国時代に下克上で成り上がった梟雄と言えば、斉藤道三に北条早雲、次に松永弾正といったところか。本書は、下克上の戦国時代の幕をあげた人物とも言える北条早雲の一代記である。
斉藤道三、松永弾正などは、それこそ権謀術数で主君を殺し、裏切り、成り上がっていった訳で、当然伊勢新九郎(後の早雲)もそうだと思っていたのだが、意外や意外、結構義に厚くて野心のない好人物として描かれている。
もちろん人物像は作者の匙加減でなんとでもなるものだが、駿府守護の今川家の正室の血縁者として、歴史の表舞台に出てきたのはすでに壮年期にかかってからで、そこから今川の若殿の擁立に尽力し、さらに伊豆や関東の切り取りに動き出したのは、既に50歳の坂を大きく越えてからというのは事実らしい。死ぬまで今川に弓引くことはなかったということも驚きだ。もし若い頃から野心を裡に秘めての雌伏なのであれば、それこそ家康の“鳴くまで待とうホトトギス”どころではない。
なんにせよ本書の魅力は、この伊勢新九郎の造形によるところが大きい。
駿府に現れるまでの前半生を描いた上巻は、著者の創作部分が非常に多い筈で、わたしの好みで言えば、創作が多くなればなるほどつまらなくなるのだが、この上巻は室町時代後期の京都とその郊外の雰囲気を味わうことができたので意外に楽しめた。
一方、いわゆる北条早雲として後年知られることになる活動は下巻に集約されている。これだけじっくり描かれていても、新九郎が“箱根の坂を越える”ことを決めるに至った心境の変化を今ひとつ理解はできなかったが、なんというか、人の運命というものはどこでどう変わるかわかるものやないとしみじみ思う。
(2013/12/23改訂) |