2000年10月
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@いちご同盟 純愛―中学編 (1990)
三田誠広集英社文庫青春
247頁390円★★★★

 中学3年の北沢良一は自分の進路を決定する時期にきていたが、ピアノで音楽学校に行きたくはあるものの音楽家の母には認めてもらえず、なんとなく生きる意味を見失いかけていた。そんな中、良一は中学野球のエースで校内のヒーローである徹也とその幼馴染で病院暮らしの直美に出会った。自分の野球をやっている姿をビデオに録画させるために、徹也が半ば強引に良一に手伝わせたのがきっかけだったが、直美が良一のピアノを気に入ったこともあり、微妙で繊細な三角関係へと発展してゆく。しかしそんな中、直美の病状は着実に悪化していくのだった。

 恥ずかしながら、一時期岡本綾推しだったわたしは、こんなものまで読んでしまった…。
 いや、意外と良かった。
 映画と比べてということだが、まぁ映画では徹也役の子の演技がかなりつらかったから…。
 他にもわざとテンポやタイミングをずらした演奏を個性的な演奏だと勘違いしていた良一が、直美の死をきっかけとして一皮向けて、母親にもみとめられる演奏をするという重要な流れについて、映画ではもちろん実際のピアノ演奏で表現されるのだが、わたしのへなちょこな耳では演奏の良し悪しがよくわからない所為で、今一つカチッとこなかったこともある。
 という訳で、まあ映画の補完もこめてだが、この小説は結構気にいった。

 と言っても、続けて“純愛―高校編”を読む気はない…。
 しかしこの話、映画では山口県の岩国が舞台だったが、原作では東京なのね。

(2015/1/24改訂)

A大魔王の逆襲 ランドオーヴァー4 (1986)
T・ブルックスハヤカワ文庫ファンタジー
441頁660円★★

 大魔王ゴースの罠で迷宮の箱に閉じ込められたランドオーヴァーの三傑とも言うべき、ランドオーヴァー王ベン、ドラゴンのストラボ、魔女のナイトシェイドの3人の脱出行と、ベンの妻ウィロウの出産をパラレルに語ったストーリー。

 3巻を読んでから10年は経っているものだから、人間関係や世界観はすっかり霧の彼方。個人的に“ファンタジー強化計画”ということで半ば無理に購入した本だから、1巻から読み直す気力はなかった…。
 ザンスシリーズほど楽しめなかったから途中で止まっていた訳だが【注1】、やはり本作も今一つの感じ。ランドオーヴァーという世界は、口絵の地図もあいまって妙にちっぽけな世界という印象で、せいぜい見積もって紀伊半島サイズだろうか。妖精の森に四方を囲まれた箱庭社会で、ベンは王様としてなんだかんだと政務を執っているようだが、一般大衆の生活などは見えてこない。庶民の姿が見えないのはザンスも同じだが、アチラは賑やかな所為かあまり気にならないような…。

 どうせちっちゃな閉鎖世界を構築するのなら、その中でのエコシステムについてもきっちり説明してほしい。もちろん魔法もありでよいが、魔法も含めてエネルギー保存則は成り立ってもらわないとどうも尻の座りが悪い。ここら辺わたしにギリギリ理系思考があるからだろうが、なんでもありあり歯止めなしはつらい。
 予定調和は歓迎だが、ご都合主義では読む気力がなくなってしまう。微妙ですな。
【注1】今ではザンスシリーズもやめてしまった…。
(2015/1/24改訂)

B三匹の猿 私立探偵飛鳥井の事件簿 (1995)
笠井潔講談社文庫推理
342頁638円★★★

 ある日探偵事務所にそぐわない、女子高生由美が依頼人としてやってくる。自分の父親を探して欲しいという依頼だ。アメリカ帰りで先代から巽探偵事務所を任された飛鳥井は、この捜査を引き受けるものの、他の仕事に追われて保留している間に由美が失踪してしまう。責任を感じた飛鳥井は、彼女の母親からの再依頼で彼女の捜索を始めるが、事件は由美の母親千鶴の大学時代の複雑な交友関係に源を発するらしい。当時新進作家の問題作として話題になった「三匹の猿」という小説は何を意味するのか。そして由美の失踪と前後して、清里では連続少女殺害事件が・・・。

 巽探偵事務所は先代のコネで外資系企業の調査下請けが回されてきたりと、経営はなんとかできているようだ。
 理論家肌の著者が、矢吹駆シリーズ以外にもハードボイルドまで書いていたとは、ということでとりあえず読んでみた。

 ハードボイルドというジャンルに関しては、フィリップ・マーロウものは長編は読んだが、そうフィットすることなく比較的関心が薄い。なるほど探偵の1人称視点形式において謎解きを最後まで引っ張るとなると、探偵の感情表現をぎりぎりまで削ったハメットの手法は必然だろう。そこが中途半端だと、その探偵は妙に神憑りな超探偵であるかの印象を与える恐れがあるという。
 そこを考えた著者は、本書では一人称でありながら主語を一切省くという日本語ならではの対応策を実験してみた。

 と解説に書かれているが、わたしはそんな深遠な思惑にはまったく気づかず、飛鳥井のキャラクターが見えてこないなぁとのほほんと読んでいた。

(2015/1/24改訂)

Cフレームシフト
 Frameshift (1997)
R・J・ソウヤーハヤカワ文庫サスペンス/SF
527頁880円★★★

 遺伝生物学者のピエールは、恋人モリーとの帰り道に突然暴漢の襲撃を受ける。モリーの“能力”のおかげで辛くも危機を脱することができたが、なんと暴漢はネオナチだった。彼は遺伝子中のイントロンに、アミノ酸を指定するための暗号が含まれているのではないかと研究していたが、その研究がネオナチの襲撃の理由なのか。
 そしてまた、洋々たる前途を約束されたかのようなピエールにも大きな苦悩があった。彼には治療の見込みのないハンチントン病の発症を恐れなければならないという遺伝的な問題を抱えているのだった…。

 「スタープレックス」でヒットを飛ばした著者の遺伝子ものSF。と思って読むと、いなされた感じ。広義においてはそうとも言えるが、まあ最近ちょっと多すぎる遺伝子もののブロック・バスターだ。
 人はどこから来てどこへ行くのか。
 ネアンデルタールテレパシー。フレームシフトによる遺伝子の突然変異を引き起こす機構としての生物の設計図。これが本書のSFとしての骨子だが、ストーリーを引っ張るのは、「アルジャーノンに花束を」を思わせる主人公の悲劇の予感と、ネオナチに狙われる理由を探るというサスペンス。まさに内容てんこ盛の職人芸が炸裂した本だ。  しかしラストのビル屋上での大立ち回りは、あれは少々やり過ぎ。売れセン狙いのハリウッドの悪い影響を受けたのでは。

 本書で話題となるが、遺伝子診断と保険条件というのは難しい問題だ。
 多業種をカバーする巨大企業ならばあるいは可能かもしれないが、企業も当然自社の利益を守らなくてはならない。やはり法の整備といった国の強力な誘導が必要になるのでは。

(2015/1/24改訂)

D月の影 影の海 上下 (1992)
小野不由美講談社文庫ファンタジー
264頁/245頁533円/533円★★★

 平凡な優等生陽子は、ある日異様な姿をした“タイホ”と呼ばれる人物に、半ば拉致されるがごとく高校の職員室から連れ出される。そして彼の手下である妖魔の背に乗り、海を渡る洋子たち一行を謎の敵が襲い、海に投げ出された彼女は独り見知らぬ海岸に漂着する。
 <巧>国という昔の中国のような異世界で“海客”として処刑されるところを辛くも逃げ出した彼女は、入れかわり立ちかわり妖魔に襲われ、出会う人には裏切られ続ける。絶望感にさいなまされながらも故郷へ帰る一縷の望みのもとにタイホ、ケイキを探す彼女の運命は…。

 ネットで見るかぎりなかなかの人気シリーズのようだ。
 いかにもラノベな表紙がつらいなと思っていたら、めでたく講談社文庫から出版されたので、とにかく読んでみた。

 やはりジュブナイル(死語ですか?)の常で、民族、宗教、風土といった違いから生まれる異国的な情緒はあまり感じることはできない。こういったものは、風景描写や状況の説明からももちろんだが、登場人物の細かい台詞回しや立ち居振舞いから、雄弁に伝わってくるものだ。「アルスラーン戦記」を読んだときほど酷く感じなかったが、台詞のやり取りからキャラクターを想像すると、やっぱり日本人かアニメの顔が浮かんできてしまう。

 しかしその展開にはかなり驚かされた。
 特に上巻はこれでもかと言わんばかりに、裏切られ、襲撃され、劣悪な環境下で他人を信じられず這いつくばる。戦闘シーン自体はするっと流されとるが、「ベルセルク」に近いものすら感じた。ダーク・ファンタジーである。
 しかし陽子というキャラクターに今一つ好感情を持てなかったのが惜しい。まあ禺の見せる幻の所為でもあるが、自己韜晦がやたら繰り返されてちょっと辟易してしまった。こちらの世界の陽子の友人に碌な奴がいないというのも悲しい。禺が見せた幻影と思いたい。

 一体この先どーなるよと心配したが、下巻に入るといやにあっさりと予定調和の大団円にまっしぐらではある。わたしは大団円大歓迎だから構わないが。
 しかしバランスを考えると、<雁>国に入ってからも、もう少し苦労があるほうが良かったような。

(2015/1/24改訂)

E[新装版] 目でみる動きの解剖学
 Anatomi och rorelselara inom idrotten (1984)
R・ヴィルヘード大修館書店生物薀蓄
103頁2000円くらい?★★★

 “自分の膝を勉強しよう”シリーズ第2弾。
 膝だけではなく、肩やら肘やらの骨と筋肉の構造についてお勉強できる本だ。
 単に名称や図解だけでなく、昔なつかしいベクトルを使った力学計算が多数示されていて、漠然とした筋トレならともかく、特定筋肉の効率的なパワーアップという面では、姿勢や角度の微妙な差が成果に大きく影響するということがよく解った。

 昔はなんにも考えないで、部活を適当にやるだけで十分筋肉はついたものだが。
 雨の日に買ってきた本書を水溜りに落としてしまって、表紙を処分したおかげで値段が判らなくなった。悲しい。

(2015/1/24改訂)

F眠り姫 上下
 Until Death Do us Part (1998)
Penguin Readers (Easystates)
D・キイスハヤカワ文庫推理
388頁/399頁740円/740円★★

 クレイ家とウォード家の高校生の子供たちが、二人一緒に殺されていた。凶悪な犯罪に警察は色めきたつが、捜査上に浮かんできたのはクレイ家の父親ロジャー。若い頃から睡眠障害を持つ妻のキャロルの催眠治療中の証言が決め手になるという皮肉なものだった。ロジャーの精神鑑定を受け持った医師アイリーンは、その一方で、キャロルの主治医コーラーの品性に疑問を持つが、ロジャーの死刑執行へのカウントダウンは着々と近づいていく・・・。

 いや参った。わたしの職場に、どうもそれらしい人がいたことがあって、個人的に睡眠障害に興味があったので、その薀蓄の吸収が目的の半分以上だったのだが、睡眠障害は本書のほんの一要素に過ぎなかった。本書のテーマは死刑問題、そしてその制度のありかたについてだ。
 ジャンル分けをすると、まあ推理小説の範疇かなと思うが、トリック云々がどうというほどのこともないし…。

 刑の決まった死刑囚に対する弁護士の戦術に興味を持てればラッキーというところか。わたしの期待からは、まったくの大外れであった。

 なんと、原題は“死が二人を別つまで”じゃないか。  ということは、この責任は「ねむり姫」なんて邦題をつけた訳者の所為だ。いい加減にしてほしい。

 しかし冷静に考えても、本書がそう出来の良い物語とは思えず、著者の小説は、「アルジャーノンに花束を」「五番目のサリー」>本書と、着実にレベルが低くなってきているようだが…。

(2015/1/24改訂)

G風の海 迷宮の岸 (1993)
小野不由美講談社文庫ファンタジー
348頁629円★★★

 冬の庭に佇む少年は、庭の隅から差し招く不思議な手に誘われるかのごとく、十二国の中央部、黄海の五山に移動する。そこで彼を迎えた女仙たちの話では、彼は北東に浮かぶ戴国の王とともに国を統べる神獣麒麟であるという。よく解らないままにそこでの生活を受け入れる戴国の麒麟、すなわち泰麒だったが、麒麟としての覚醒、転変の兆しは全く顕われない。
 そうこうするうちに、麒麟誕生の噂を聞きつけ、われこそは戴国の王であるに相応しいという人々が蓬山に集まってくる。麒麟の最初の重要な仕事が、自分の仕える王を選ぶということなのだ。果たして泰麒にそれが出来るのか。そもそも麒麟としての覚醒は…。

 「月の影、影の海」よりも前の時代の物語だ。こっちの世界と十二国で時の流れ方が共通なのかどうかは解らないが、感覚的には10年程度遡るのだろうか。陽子が王となる慶国は未だ別の王が治めている。本書では舞台をがらっと変えて、麒麟の立場から見た十二国の成り立ちが語られる訳だ。こうして巻を追うごとに世界観が広がっていくのは、ファンタジーシリーズの醍醐味だ。

 しかし架空世界の構築は大したものだと思うが、冒険活劇としては今一つ。泰麒もまた内向的な性格だから、読んでワクワクするような箇所はない。強大な妖魔、饕餮(とうてつ)を折伏して使令に下すシーンは結構な盛り上がりがあるが。
 しかしその強大さは周りの人間の反応でしか示されないのは、少々残念だ。

(2015/1/24改訂)

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