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 @雲なす証言D・L・セイヤーズ創元推理文庫
探偵★★★
381頁640円
 ピーター卿の兄であるデンヴァー公爵ジェラルドが殺人罪で告訴された。口論の末、妹の婚約者を銃で撃ったというのだ。ところが準王族ともいうべき公爵が死罪に問われるという一大事だというにもかかわらず、メアリもジェラルドもその証言には全く信用がおけない。ピーター卿はこの危機を救うことができるのか。
 このシリーズは飽くまで探偵冒険小説であって、ピーター卿の雰囲気を楽しみながら気楽に読み飛ばすのが正しいのじゃが、本書に関しては正直ちょっと物足りなかったかのお。当然メアリもデンヴァー公もそれぞれ事情があって本当のことを言わない訳じゃが、その理由にしたところで特筆すべきものはないわ。最近のアクロバティックな二転三転あたりまえの作品を読み慣れてしまっと
る部分を割り引いて考えても、ありゃっ、これだけか?と感じてしもうたわい。まああいかわらず、いや、このとんでもない状況を考えればこちらのほうが特筆ものじゃが、どこか飄々と余裕のあるピーター卿が頼もしい。ええ意味での貴族っぽさが魅力なんじゃな。
 とは言え、兄と一族の名誉を守るために、今回ピーター卿は大陸を股にかけたりでアグレッシブに活動する。その分、事件解決後にピーターと警察の友人パーカー警部、同じく友人のフレディ卿の3人が、ウェスト・ミンスターの前ででろでろに酔っ払っているというエピローグが気持ちええのお。
 Aマンガ量子論入門 だれでもわかる現代物理J・P・マッケボイ
O・サラーティ
講談社
科学薀蓄★★★
181頁800円
 “マンガ”とはあるが、挿絵の多い薀蓄本であるな。この“マンガ”であるところの挿絵に登場する、量子論の発展に関わった高名な物理学者たちの似顔絵がなんとも強烈じゃ。まさに妖怪、魔物、せいぜい頑張ってもマッド・サイエンティストにしか見えん。このちっこい表紙画像ではあまりわからんがの。
 結局これらのマンガ的な挿絵が内容のわかり易さに結びついていないのが残念じゃ。少なくともわしは、“だれでもわかる”中には入ってなかったようじゃ。
 しかし本書に載った1927年のブリュッセルでの一同写真は貴重じゃぞ。
 マリー・キュリー、マックス・プランク、ニールス・ボーアにアルベルト・アインシュタイン、他にもエルヴィン・シュレディンガー、ルイ・ド=ブロイ、ウォルフガング・パウリ、ウェルナー・ハイゼンベルク、ポール・ディラック、マックス・ボルンといった、キュリー夫人は別格としても、量子論の構築に重要を成したノーベル賞受賞の物理学者がこれだけ集まっとるんじゃ。今の世の基礎を形作った人たちと言っても過言でないからのお。もちろん晩年の人物もおれば、新進気鋭のもおる。歴史の一コマとして興味深いのお。
 この写真だけでも本書は“買い”じゃな。
 Bニコライ遭難吉村昭新潮文庫
歴史★★★
369頁590円
 吉村昭の初読じゃ。
 ちょい難そうなので今までご遠慮申し上げておったんじゃが、読んでみると想像以上に難かったわい。まあなんちゅうか、当時の新聞を読んでいるかのような文体じゃな。もちろん登場人物の心情も描写されてはおるが、前後の言動の記録からすぐに類推できるようなところまでにぐっと抑えておる。これは物語ではないし、小説とも言えんのじゃないか。記録文学とカテゴリー分けされたりすることが良くわかったわい。
 そやから、読んでおもろいかと言われると答えは否なんじゃが、非常に興味深くはあるぞい。ニコライ遭難いわゆる“大津事件”
は1991年に起こった。つまりは日清戦争直前であり、当時すでにロシアは最大の仮想敵国じゃった。であるからして、当時の日本政府はロマノフ朝最後の皇帝ニコライ(事件当時は皇太子)の訪日に際して、日本が立派な文明国であることを印象づけ、友好関係を高めるために、まさに大歓迎せんと神経過敏に対応を図っておった。
 それが事もあろうに、公人である警察官、ニコライ皇太子の警護の一人であった巡査、津田三蔵がサーベルで切りかかり傷を負わすという不祥事が発生してしまったんじゃ。もう日本は、上は天皇、下はお針子までが蜂の巣をつついたような大騒ぎなんやな。(このお針子というのは、畠山ゆうという女性で、この女は大津事件の新聞報道に動転し、ただの一般人であるにもかかわらずニコライに謝意を表すため京都にやって来、ニコライが神戸のロシア艦に戻ったことを知ると、のどを切って自殺したんじゃな。)
 一般からの見舞い電報が1万通を超えたらしいし、当時、西洋諸外国に方を並べたいという欲求が、国民の下々に至るまで浸透しておったんじゃということがわかるわい。
 犯人津田三蔵については今までほとんど知らなかったんじゃが、当時の状況を微細にわたって復元した本書を読んでも、彼の動機についてはやはりよくはわからん。テロを起こしてまうほどの思想的なものを持っていたということはないんじゃな。というより、大きな理由がなくても得てして人間というものはそれなりに計画性のある、でっかい事件を引き起こしてしまうことがあるんじゃのお。この辺りは先に挙げた畠山ゆうにも共通のものがあるわな。人間心理の神秘というとこじゃ。
 ちなみに津田の出身は地元、伊賀上野のようじゃ。
 C餓狼伝Z[\夢枕獏双葉文庫
格闘★★★★
354頁/330頁/353頁600円/571円/600円
 北辰館主宰の異種トーナメントも、冒頭の姫川VS長田戦でクライマックスを迎える。ここは誰が読んでも、著者の定番キャラクター姫川の勝利は動かんところじゃが、長田の一人称で話を進めるあたり、さすが上手い。
 まあとにかくこの勝負に決着がつき、これまで物語を掻き回してきた竹宮流の藤巻も退場、餓狼伝もいよいよ次の章へ入ったな。
 新キャラ、葵三兄弟の登場により、東洋プロレス、北辰館の周りは一層賑やかになってきたんじゃが、8巻ではこの葵三兄弟と葵流古武術の背景について、かなりの分量をとっておる。そしてその回想の中で鮮やかにカムバックを果たすのが外伝「青狼の拳」で丹波文七とやりあった梅川丈二じゃ。東洋プロレス社長、グレート巽の回想シーンで印象も凄烈な、マフィア、カスティ
リオーネ主催のアンダーグラウンド・バトルにおいて、三兄弟の父親、葵左門と闘うのが梅川なんじゃな。そして柔道をベースとしていた梅川が新たに身に纏っていたのがブラジリアン柔術じゃ。日本では“グレイシー柔術”のほうが通りがええの。「餓狼伝」が始まった時には世間に知られていなかったグレイシー柔術じゃが、今ではK−1にPRIDEと格闘技全盛で、誰もが知ってしまったのお。満を持しての登場じゃな。
 わしはてっきり葵流がグレイシー柔術を模して設定されたと思っとったんじゃが、長兄葵文吾を筆頭に、葵流もまた梅川を狙う。ともあれ彼の“凱旋”帰国により、今度は梅川が物語の台風の目となるんじゃ。
 さらには表の世界への進出を計るカスティリオーネとブラジリアン柔術のホセ・ラモス・ガルシーア。
 いよいよ目が離せない本シリーズじゃが、・・・この3冊の中で結局丹波は一回も闘っとらんのじゃないか。しかとは言えんが・・・。
 D四大文明の謎  人類史に残された37の奇妙な痕跡歴史の謎研究会・編青春文庫
先史/歴史薀蓄★★★
219頁505円
 紀元前1500以前に発祥した古代文明は何十とあったというのは、「マスター・キートン」の中で、キートンが娘の百合子の歴史の教師に述べた内容であるが、ともあれ知名度からいって、今現在でも“四大文明”と称されとる。その中でも特に、あまりよく知らんインダス文明について読みたくて手にとったのが本書じゃ。
 インダス文明といえばモヘンジョ・ダロ。下水システムを装備した最大最古の計画都市というイメージはあるが、なんと10分の1程度しか発掘調査されていないんじゃな。巨大な“沐浴場”など未だ謎だらけなんじゃな。沐浴場が“神の居住スペースなんだ!”とされていたのは「竜の柩」で、わしにとっては記憶が新しいところじゃ。
 黄河文明については、蜀の地にあった三星堆遺跡についてが特に興味深かったの。縦目仮面についてもうちょっと知りたいところじゃ。
 メソポタミアとエジプトの文明についても少ない頁で要領よく説明してあったぞ。謎本としてはかなりええんじゃないかい。
 E風の呪殺陣隆慶一郎光文社文庫
歴史伝奇★★★
246頁476円
 1冊本になった隆慶一郎作品では、最後まで取りこぼしていたやつじゃ。
 比叡山で修行中の昇雲、同じく修行中だが、世俗の邪念が抜けず進歩のない好雲、そして2人が修行している寺に生活物資を運び入れる僧兵の一族、谷ノ坊の知一郎。1571年の比叡山焼き討ちでこの3人の運命が大きく変わる様を描いておる。
 隆慶一郎作品は戦国時代から江戸時代を舞台とするが、士農工商から離れた諸芸事に関わる人間を中世の自由人として“善”、その自由に干渉する人物を“悪”と断定する。そしてキャラクター毎に白黒を極端なほどはっきりと色分けしとるのが特徴じゃ。「吉原御免状」、「影武者徳川家康」、「花と火の帝」、「捨童子・松平忠輝」等いずれも緻密な資料の積み上げと山田風太郎ばり
の娯楽活劇を高度に融合させた魅力的な本じゃが、時に善悪の色分けと著者のフィルターを通った断言的解釈の臭みが気になったりもしたんじゃ。そこが本書では特に、頁数が少なく娯楽性が低くなった分あらわになってしもうとるの。
 信長が比叡山焼き討ちを命じたのは事実じゃから、彼を“悪”とするのはまあ設定として許せるのじゃが、その一方で、信長と長年に渉って敵対した本願寺勢を善とするのはかなりつらい。少なくとも一般信者に“死ねば極楽、生きれば地獄”などと洗脳し、死地に向かわせしめた本願寺上層部を信用することはできん。
 一時期富樫氏を追い出し、共和国の感があった加賀一向一揆は有名じゃが、そこでも“百姓の持ちたる国”との教科書的な評価とは別に、統治の実態はきれいなものではなかったと聞くわい。実際敵対さえしなければ、信長統治下の一般庶民のほうが暮らしは楽だったのではないじゃろうかのお。
 話がずれたが、本書に戻るとラスト4行に示される好雲の人生の流転の妙が、運命の不思議を感じさせて良じゃ。ここがなければ★×2じゃったかも。
 Fキッド・ピストルズの慢心山口雅也講談社文庫
推理★★★
280頁552円
 この著者の本も1冊は読んでみなあかんと思っとったところに、講談社文庫からひょろっと出たのでまあ手にとってみたんじゃが、どうもシリーズ中途のやつらしいの。この表紙と、キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナというコンビ名に惹かれたんじゃが、なんてことはない軽いユーモア・ミステリじゃな。“探偵と刑事の地位が逆転したパラレル・ワールドのイギリスを舞台に――”という売り文句じゃが、少なくとも本書を読む限りでは、その設定が特に活きているとは思えんかったわい。
 ★×3をつけてるところをみると、つまらんかった訳でもなさそうじゃが、パンクがどーの、ボンデージがどーのといった言葉を覚えているくらいで、肝心のミステリとしての“謎”はさっぱり覚えとらん。
 まあ謎がどうしたというより雰囲気とキャラクターで読ませるというのは、考えてみりゃピーター卿のシリーズと一緒じゃな。舞台もイギリスやし。
 わしの好みは完全に向こうじゃが、しかしわしの★★★は幅広くてあてにならんな。★×6評価に換えよかな。
 Gランゴリアーズ Four Past Midnight TS・キング文春文庫
ホラー★★★
716頁933円
 それぞれが十分に1冊の長編になり得る物語を2編集めておる。本来「図書館警察」と1冊もので、キングが執筆依頼とは関係なく書き溜めてあったものを集めた作品集らしい。
 表題作「ランゴリアーズ」は、異世界に迷い込んだジェット機の乗客たちの脱出行を描いておる。
 こう書くとやたらによくあるタイプの話のようじゃが、中身はまったくの別物、どうやったらこんなシチュエーションを想像できるのか感心してまうわい。このお馬鹿な話を気に入るかどうかは意見の分かれるところじゃろうが、このネタを400頁オーバーの話にしてしまうところが、彼の恐るべきところじゃのお。ホラーというよりはダーク・ファンタジーじゃな。
 後半の「秘密の窓、秘密の庭」は、ぐっと身近な世界を舞台に、日常の中に入り込み、徐々に大きくなる非日常の恐怖を描いておる。オチは斬新とも言えないが効果的ではあるわい。しかしキング作品には、本人が感じる不安に肉付けしたものが多いが、やはり本作の主人公も作家じゃ。ちょいとくどく感じてしまったわい。
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