2001年 1月
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@陸奥のみち、肥薩のみちほか 街道をゆく3
司馬遼太郎学研紀行/歴史薀蓄
281頁520円★★★

 岩手北部から青森にかけての道と、熊本から鹿児島へ抜ける道。南北に大きく離れながら、どちらもややマイナーな地域を取り上げている。
 岩手北部から青森というと、南部藩津軽藩の確執の話が想起されるが、他にも思想家の安藤昌益や、遊歴家の高山彦九郎なども紹介されている。

 著者は俯瞰的な物の見方の徹底した人なので、思想家の述べる思想というものが、一つの真実を語るために無数の嘘を構築するという点で、さほど安藤昌益を評価しているわけではないが、農本的共産主義という思想を産み出した陸奥の風土に興味を抱いているようだ。

 石川英輔は、金属などと違って農作物である米の囲い込みには限りがあって、江戸期の人口と米の取れ高から計算すると、当時の庶民たちも十分米を食べられたはずであり、当時の農民の生活として世間に流布されている、米を作りながら自分達は米を食えず、生きるか死ぬかの暮らしをしていたとするのは間違いではないかと述べている。なるほどと感心したが、こと八戸などの地方では武士階級が政治を怠り、商人達に農民の搾取を任せたうえ、自分達は彼らの上前をピンはねするという安直な手段をとったため、実際に食うや食わずの農民達が存在したらしい。
 今でこそたゆまぬ品種改良の努力によって、東北地方もまた米の一大産地だが、もともと稲は南方産なので、寒冷地での安定した栽培は難しい。人間を大量に養うことのできる稲作の魅力に執りつかれた日本の支配層が稲作を経済の基本におき、その土地々々の環境を考えずに日本一円に農本主義を敷いたがために、そのつけを支払わされたのが八戸地方であると分析している。飢饉のときに、ついには死者の肉を食べて飢えを凌いでいたという事例を、高山彦九郎が今日に残している。
 表題以外の一編「河内みち」では、大ヶ塚という南河内の一村に関する17世紀中盤の庄屋の見聞記が、当時のまだまだ荒っぽい村の日常が生き生きと伝わってきて興味深い。

(2012/10/3改訂)

A暮らしの中の謎を解く―― 「化学」の不思議読本
藤丸卓哉ワニ文庫化学薀蓄
222頁476円★★★

 副題にあるように、日常の生活に密着した部分での化学について、様々な豆知識をQ&Aの形で教えてくれる。“そんなんあたりまえやん”から“ははぁなるほどなぁ”まで100項目。毎回書いているように、この手の本は読んだ尻から内容を忘れてしまうのではあるが、まあちょっとした時間つぶしにはなる。
 石鹸がなぜ泡立つのか?と聞かれて答えられるかな。

(2012/10/3改訂)

Bかんたん図解 自作パソコン入門 改訂版
佐々木康之技術評論社PC薀蓄
197頁1580円

 わたしのPCは自作(当時)だが、友人のお古をベースに組んでもらったものだから、実はよく解っていない。
 しかし自作PCを使っている以上それではいかんだろということで、必要最小限の用語等を覚えるべく読んでみた。豊富なカラー写真でなかなかわかりやすい。

 ただし本当に現在の流れに追いつこうと思ったら、月刊誌等で情報のフォローをしなければ、すぐに古い知識になってしまうのだが…。

(2012/10/3/改訂)

C薔薇の女
笠井潔創元推理文庫推理
353頁600円★★★★

 <アンドロギュヌス>と署名する殺人鬼は、火曜日毎に犯行を繰り返し、その都度犠牲者となった女性の体の一部を現場から持ち去る。薔薇の花弁を撒き散らして・・・。
 明らかに同一犯の連続猟奇殺人だが、被害者に繋がりを見出せないことでパリ警視庁は翻弄され続けていた。謎のロシア人ニコライ=イリイチを追い求める孤高の天才矢吹駆が、この<アンドロギュヌス>事件と交錯する時、戦前の映画女優ドミニク・フランスとベランジュ家にまつわる驚くべき事件の真相が紡ぎだされる。

 「バイバイ、エンジェル」「サマー・アポカリプス」に続くシリーズ第3弾。
 死体の一部を持ち去るという点においては、「占星術殺人事件」をちょいと思い出させるが、一見本格型の推理小説とは相容れないような通り魔的な事件を本格ものとして構築するのは、エラリー・クイーン「九尾の猫」のようだ。

 このシリーズでは、毎回矢吹駆と犯人との思想戦というか哲学問答があって、これが難解でぐだぐだするので、読者の好き嫌いは結構分かれると思うが、わたしは好きである。と言っても哲学問答が好きな訳ではないが…。IQの高いテロリストの弁舌(矢吹もここに入る)はなるほど高尚だが、複雑に入り組み枝分かれした狭い狭い路地の奥深くで理屈を捏ねている気がしないでもない。

 本書はその点、頁数が少ない分前作より読みやすかった。  個々のトリックの印象がまったく残らないのはいつもどおりだが、しっかりした推理小説だ。

再読はこちら。
(2012/10/3改訂)

Dダイノサウルス作戦
豊田有恒SFSF
333頁760円★★★

 著者のタイム・パトロールものの一冊として、「モンゴルの残光」「退魔戦記」の10年ほど後に書かれた本である。

 歴史ifものとして、モンゴル帝国が世界を支配、発展した地球を用意したのが前作たちじゃが、本作では桁を5つほど遡って、白亜紀末期の恐竜時代を舞台としている。モンゴル世界帝国どころか、人類が発祥することができるのかという戦いである。責任重大だぞ、ヴィンス・エベレット。

 どうもこういう時間活劇ものは、例えば「バック・トゥー・ザ・フューチャー」をほけぇーと見てる分には楽しいが、小説で読むと「航時軍団」等々、わたしの嗜好にはあってくれない。歴史が確定された瞬間に、その他の可能性の未来が消滅するという設定がどうにも受け付けないのだ。量子力学不確定性原理はそういうものではないと思うのじゃが。

 という訳で、ストーリーとしては今一つ乗り切れず、ラストのどんでん返しも、わたしたち一般読者はともかく、恐竜人が“それ”に気づかないというのもちょいとお粗末な気がする。ヴィンスと恐竜人ルルロとの関係が、まさかあんな風になることも、正直開いた口が塞がらない。おいおい、ちょっと待ったらんかいとツッコミを入れてしまった。

 しかし本書が書かれたのは24年も前。恐竜温血説や、爬虫類よりは鳥類に近いとか、一般には「ジュラシック・パーク」なんかでようやく浸透してきた情報も既に取り入れており、恐竜学の薀蓄収集という点で興味深い。
 解説によると間違った情報も含まれているようだが、古生代に存在していた我々哺乳類の直系の先祖である哺乳類型爬虫類、テラプシダ(獣窩類)についてなどは今までまるで知らなかっただけに、複雑な生物の進化史に思いを馳せることができた。

(2012/10/3改訂)

Eウルトラマン対仮面ライダー
池田憲章/高橋信之文春文庫PLUS特撮薀蓄
395頁676円★★★

 CATVのスーパーチャンネル「スタートレック」「アウターリミッツ」の解説コーナーを担当している池田憲章が中心となって編集された、日本TV特撮界の二大ヒーローの解説本ということで、思わず買ってしまった。最近まで知らなかったが、池田憲章というのは特撮評論界では結構ビッグネームのようだ。

 しかし内容のほうは、ウルトラマン仮面ライダーの製作裏話を交互に並べているだけで、突っ込んだ比較検証がある訳ではなかったのが残念。双方には5年の差があるから、ここをツッコむと社会比較論になってしまうのだが…。

 同じ時代を背景とするためには、「帰ってきたウルトラマン対仮面ライダー」とするべきである。

(2012/10/3改訂)

Fパーフェクト・ブルー
宮部みゆき角川文庫探偵
347頁580円★★★

 著者の長編デビュー作。
 ガソリンをかけて燃やされた高校野球界のスター。それを目撃してしまったその弟。・・・そして爽快な読後感???

 裏表紙にある内容紹介がどうにも理解できなかったが、まあまあ確かにそう暗くなく読み終わることができた。
 製薬会社という企業に悪を背負わせることで、“燃やさなくてはいけなかった”状況に、ある程度情状酌量の余地を作ったというわけだ。納得しきれる訳ではないのだが、まあ良しとしておこう。

 それはそうと、飼い犬の一人称というスタイルはどうどうだろう。結構珍しいのか?
 「三毛猫ホームズ」は知らないのでなんとも言えないが、微笑ましくもあり、無理を感じるところもあった。あれやこれやで本書の印象もやっぱり佳作止まりというところだ。

 「火車」「龍は眠る」「魔術はささやく」と読んできて、宮部みゆき恐るべしの感を抱いたが、その後は、面白いのは面白いにしても佳作止まりというのが続いている。在庫としてキープしている「鳩笛草」は「龍は眠る」系統のようだから、これは結構期待しているぞ。

(2012/10/3改訂)

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