2001年 2月
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@成吉思汗の秘密 (1998)
高木彬光ハルキ文庫推理/歴史薀蓄
325頁800円★★★★

 義経=ジンギスカン説という有名なトンデモ説があるが、本書は「刺青殺人事件」その他で活躍する名探偵神津恭介が、病気療養の暇つぶしにこの義経の逃避行を証拠づけるという、ベッド・ディテクティブと歴史ロマンが一つになった、わたしなどにはたまらない設定の異色推理小説だ。作中で触れられているが、同様のシチュエーションにリチャード三世の悪逆の汚名を晴らす「時の娘」がある。あのスタイルを借りた形式である。

 正直“名探偵”の地位を得た人物が、“ピラミッドの高さを×倍すれば月までの距離と等しい!”だのといった、いわゆるトンデモ説を“証明”していくのは、つらい気がしないでもない。
 しかし、ちょっと肩の力を抜いて、歴史のロマンを味わうのはやはり楽しい。源義経ジンギスカンになったというのは途方もない話だが、衣川で死なずに陸奥に逃走した、場合によっては蝦夷地に渡ったというところまでは、真実である可能性もないともいえないような…。そうあってくれると、面白いなぁ。

(2015/1/20改訂)

A先生を困らせた324の質問
M・M・ゴールドウィンワニ文庫雑学
399頁590円★★★

 こういった本は、残念ながら読んでも記憶に残らない。判ってはいるが、たまに買ってしまうのよね。
 本書はフロムUSAだから、やはり「つかぬことをうかがいますが・・・」と同様、わたしが読んでも、質問自体がピンとこないものもちらほら混じっている。

 本書は、生徒の質問にきちんと答えようという考えで書かれているらしいが、その影響なのか、“〜だよね。”調の馴れ馴れしい訳文には結構イラッとした。

(2015/1/20改訂)

B冒険の惑星T City of The Chasch (1968)
冒険の惑星U Servants of The Wankh (1969)
J・ヴァンス創元推理文庫SF
267頁/246頁―/―★★★★

 ネット上の“譲ります”コーナーで名乗りをあげて、キャプテン・ケネディシリーズのシリーズと同時に頂戴した本。それから2年も在庫にしてしまったが、漸く読み始めた。

 読んでみると吃驚。著者の本は、昔武部本一郎の表紙につられて購入した「竜を駆る種族」が今一つに感じたのに加えて表紙がこれだからほとんど期待していなかったのだが、大陸を股にかけたアダム・リースの冒険は、どうしてどうしてなかなか新鮮な面白さ。

 恒星カライナ4269軌道上に浮かぶ、地球よりやや大きい惑星。ここから発信された人工的な信号を探るためにやってきたエクスプロレイダー4号は、突然の攻撃を受け宇宙の塵と貸してしまう。ただ一人残ったのは、一足先に偵察機で降下していたアダム・リースのみ。しかし彼もまた、墜落する偵察機からの脱出時に怪我を負ってしまった。そして身動きのできなくなった彼の目の前に現れたのは、高い文明を持った別系統の2つの種族。驚くことに、彼ら異種族には、それぞれに明らかに人類と思しき者たちが付き従っていた。
 いきなり(異種族+人間)×2組の戦闘を目撃することになったリースは、結局それらとはまた別の人間の種族、≪紋章族≫に捕まる。先の異種族がブルー・チャッシュとディルディル。それぞれに付き従っていた人間がチャッシュ人にディルディル人と呼ばれているらしい。どうやら他にもワンフ、プニュームという知性種族がこの惑星に存在するらしい。そして人類はそれら4種族の格下に位置付けられている。

 1巻では、アダム・リースは≪紋章族≫の若者トラズ、ディルディル人のアナコを道連れとし、偵察機が持ち去られたらしきチャッシュの都を目指す。
 途中で囚われの身であったイリン・イランを助け、当然のようにリースと恋仲になって、第1巻はめでたしめでたしだ。

 実を言うと、基本設定とキャラの紹介編である1巻もそれなりに面白いが、ヒロインはやはり<誘拐され/助けられ>役で少々辟易したりもする。ところが2巻ではいきなり意表をついた展開が待っている。
 うーむ、<ネタバレ反転>「キャスの花」がそうなるか。唖然としてしまった。

 ともあれ2巻では、1巻の舞台コタン大陸から大洋を渡り、東のチャールチャン大陸へ。
 前半は、人間の種族と言えども一筋縄ではいかないキャスの風土が描かれ、後半はさらに南のカチャン大陸へ。なんとワンフの宇宙船を強奪する作戦を敢行する。恐るべきリースの行動力だ。

   リースたち偵察員は、どのような条件でも生き残るためのサバイバルのプロだと書かれているが、彼はサバイバルのプロというよりも、能力の高い煽動者であり統率者である。はっきり言って、これだけの能力を持った人物を高級士官でなく一偵察員としているのはおかしいのでは…。
 ああ、もちろん偵察員だから高級士官でないとは限らないか。

 とにかく、3巻ではこれまで漠然としているディルディルのテリトリーへいよいよ進入するらしい。これは期待高しだ。
 本書の表紙も武部本一郎だったら、これまで読みこぼすことはなかった筈だが・・・。

「冒険の惑星VW」
(2015/1/23改訂)

C図書館警察
 Four Past Midnight U (1990)
S・キング文春文庫ホラー
683頁914円★★★

 元の中編集「Four Past Midnight」の後ろ二編を分冊したもの。前二編はこちらである。
図書館に巣食った魔物との数十年を経た戦いを描く「図書館警察」。異界を写すカメラに写った犬に襲われる「サン・ドッグ」。こう書くと何ともチープな話のようだ。しかしそこはそれ、著者はしっかりと読ませてくれる。

 過去と現在の戦いが二重で描かれる「図書館警察」は、過去を呼び戻そうとする主人公といい、分量の違いこそあれ、「IT」とかなり似た構造になっている。人によっては、余裕で1000頁を越える「IT」に冗長さを感じるかもしれないので、そのような向きには本書のほうが面白いかも。まぁわたしは「IT」に軍配を上げるが・・・。
 本書も中盤までのホラームードに関してはいいのだが、アーデリアが正体を現してからは、途端にC級映画になるのは頂けなかった。サムの前に現れたアーデリアが、通常の時間経過があったように老婦の形をとっていたのは何故かな。

 「サン・ドッグ」はキング作品ではお馴染みのキャッスル・ロックが舞台である。
 超常現象を扱った話で、これまた中盤まではいい感じのホラーなのだが、最後のエピローグがよくわからない。もはやカメラから独立したところで、ケヴィンは何者かの生贄に選ばれてしまったということだろうか。時系列で「サン・ドッグ」より後にくる「ニードフル・シングス」には、この辺りの後日談が語られるのかな。【注1】

【注1】この二年後に読んだわけだが、このエピローグについて、そちらに何もコメントがないということは、その時点で本書の内容を忘却していたということだな…。
(2015/1/23改訂)

D怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち (1993/2000)
切通理作宝島社文庫特撮薀蓄
379頁667円★★★★★

 こういった特撮関連のネタ本は山のように出版されている。
 わたしもたまに買ってしまうが、この本はそれらとは一線を画した労作だ。題名からはウルトラマンの脚本家達が語る製作裏話のようなイメージだが、軽い気持ちで読み出すと大いに戸惑うだろう。
 ウルトラシリーズの脚本家として、金城哲夫佐々木守上原正三市川森一の四人が取り上げられているが、この四人(金城哲夫以外は現役だ【注2】)について、ウルトラシリーズ以外の一般向け作品からも、微に入り細を穿ち分析している。その執拗さには脱帽だ。

 「知ってるつもり」などでも特集のあった金城哲夫は、晩年の悲劇性もあって結構メジャーだが、「ウルトラマンA」をメイン舞台とした市川森一などは、TVで司会者として顔を見たことはあるものの、ウルトラマンと結びつくとはさっぱり知らなかった。
 とにかく、著者は著者には、ぜひ平成ウルトラマン3部作の作家たちについても語ってもらいたい。【注3】

 題名は、「帰ってきたウルトラマン」の“あの”ダークな話から。
 わたしがリアルタイムで見たウルトラマンはこれからだが、この話のとんでもなさは、子供心にも強烈な印象を受けたのを憶えている。

【注2】佐々木守も市川森一も亡くなってしまった…。
【注3】すこし調べてみたが、「地球はウルトラマンの星 ウルトラマンティガ・ダイナ・ガイア」「少年宇宙人 〜平成ウルトラマン監督・原田昌樹と映像の職人たち〜」なんて本を検索できた。
(2015/1/23改訂)

E教科書が教えない歴史 明治〜昭和初期、日本の偉業 (1992)
藤岡信勝
自由主義史観研究会
扶桑社文庫歴史薀蓄
386頁667円★★★

 歴史の記述は俯瞰的な視野に立って、客観的な分析の下おこなわれなくてはいけない。
 著者、あるいは編纂するグループにとって都合の悪いことは隠したり、ことさらに美化して記述することはもってのほかだが、どうやら日本人には、逆に必要以上に暗黒史のように表記する傾向がある【注4】らしい。昭和20年の敗戦以前の日本は、もちろん多くの意味で間違っていた時代ではあるが、その全てを否定しきるのは極端というものだ。そこを見据え、日本の近代史における歴史観の是正を図る目的で、本書は編纂されている。

 まあそのため若干振り子が功罪の“功”の方向に振れすぎかもと感じる箇所もあるが、戦後制定された日本国憲法が、米国の素人によって短い期間で作られたことや、それに比べて明治の憲法が一概に劣ったものではないという話は興味深い。【注4】

【注4】この文を書いた当時、自虐史観という単語を聞いたことがなかったらしい。
【注5】このあたりの知名度は、随分と是正されてきた。
(2015/1/23改訂)

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