2001年 3月
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@終りなき戦い
 The Forever War (1974)
J・ホールドマンハヤカワ文庫SF
366頁★★★★

 「終りなき平和」が出てから無性に読みたくなって、師匠に借りてしまった。
 本書が出た当時はハインライン「宇宙の戦士」とよく比較された。同書はやれ鷹派思想戦争肯定だなどと叩かれたりもしたが、わたしは単純に、世間知らずの青年の成長物語として大好きな本である。映画化された「スターシップ・トゥルーパーズ」スタジオぬえパワード・スーツが出てこないのは、学生時代にこいつの段ボール着ぐるみを作ろうと企んだことのあるわたしにとっては、やはり寂しかった。

 のっけから話がずれてしまったが、お気に入りの一冊である「宇宙の戦士」と比較するのが嫌で、当初本書を読まなかった経緯がある。

 しかし本書におけるパワード・スーツは小物のガジェットにすぎない。本書のキモはウラシマ効果のワンダーと、軍隊組織に対する強烈な風刺である。
 最初はそういったこともわからず、目次を見ると、“マンデラ二等兵”から始まって、“マンデラ軍曹 西暦2007年〜2024年”、“マンデラ少尉 西暦2024年〜2389年”、“マンデラ少佐 西暦2458年〜3143年”と並んでおり、おいおいお前はペリー・ローダンか、さすがは“終りなき戦い”やなと呆れる思いであったが、ウラシマ効果ですな。マンデラ自身は数年しか年をとっていない。
 しかし過酷な環境で待機と訓練と防衛に明け暮れながら、戦争の大局もわからぬまま、ちょっとしたミスや自分の関与できない要因でどんどんおっ死んでいく兵士たち。戦争の不条理このうえない。
 ついでながら、ファーストの「機動戦士ガンダム」にはある程度それがあった。後にいけばいくほど、子供でもご立派な意見を吐きながら戦うようになってしまう…。

 また話がずれた。
 本書でマンデラは、自分の意志というよりは流れに呑み込まれて兵士を続け、恋人のメアリイゲイとも配属が変われば永久の別れとなり(ウラシマ効果のせいだ)、気がつくと最古参の指揮官となってしまう。スピードの遅い世界から見れば、1000年の戦いを続けるわけだ。
 作中でマンデラが自分の名前を“曼荼羅”からきたと話すシーンがありちょっと失笑してしまったが、宇宙の理からすれば万事諸行無常の響きありだ。

 そういった無常観を味わわせる流れもあって、ラストのオチには愕然とする思いだったが、意表をつかれて感動してしまった。やっぱりハッピィが一番だ。

(2014/1/24改訂)

Aそんな日本語力では恥をかく
日本語倶楽部・編KAWADE夢文庫語学薀蓄
219頁476円★★★

 題名のとおり、誤って使われることの多い日本語のフレーズや漢字の使い分けを集めている。ワープロが普及して、かえって文書の誤字が増えた気もする今日この頃、母国語くらいきちんと使いたいわなと、まあ軽く読み飛ばしてみた。

 間違っているフレーズがまず挙げられ、それに対しての説明と正しい表現が示される。これがその間違ったフレーズを見ても、どこがおかしいのかわからなかったりして悲しい。言い回しや慣用表現の誤用、漢字の使い分け等多岐にわたっていろんな誤用があることに驚いた。
 なるほどそのとおりというのが多いが、中にはえっと思うやつもある。
“卒直に言えば”。これは間違いで正しいのはこちら、“率直に言えば”。
 うーむ、間違っとった。たしかに変換すると卒は出てこない。
 しかし言葉は生き物だから、当然ながら誤用と言われているものが、すでにスタンダードになっていても不思議ではない。なかなか興味深いものである。

 これは本書に載っていた内容ではないのだが、“憮然とする”という表現。
 この意味は失望したり、どうしようもなくてがっかりしたりする様のことだが、あきらかに最近は“むっとする”意味で使われてる…よなぁ。

(2014/1/24改訂)

B凍える牙 (1996)
乃南アサ新潮文庫警察
512頁705円★★★

 深夜のファミレスで起こった突然の大火災。
 目撃者の証言によると突如客の一人が炎を吹き上げたのだという。大惨事になったこの事件だが、科捜研の調べでは何らかの発火装置が使われた可能性が高い。女性刑事音道はこの事件の捜査本部に配属され、叩き上げの男性刑事滝沢と組むことになるが、滝沢は女性の相棒に馴染めず彼女に冷たい態度をとる。一方音道は、夫と別れてからは感情を表に出さず、孤独に淡々と捜査に臨む。二人の関係は当然のようにしっくりとはいかない。
 そして都内では大型の獣に噛み殺されるという事件が連続し、ファミレスでの発火事件とも繋がりを見せ始める。ついに獣の正体が見えてきたとき、音道には重大な任務が待っていた・・・。

 がさつな男性社会の中で気を吐く女丈夫の話だと思っていたが、バツイチで生活に疲れた普通の人物である音道貴子は逆に新鮮だった。時限発火装置での焼殺事件と大型獣を使った殺人という、かなりショッキングな事件を扱っているにもかかわらず、意外や最後まで静かな物語だった。その中では、やはりクライマックスの首都高を閉鎖しての追跡行が叙情的な盛り上がりを見せる。

 わたしの好みから言えば、もう少し予定調和的に滝沢と音道がパートナーシップを確立してほしかった。滝沢が音道を認めたほどには、音道が滝沢を認められるような見せ場が彼に用意されなかったのは残念だ。
 結局二人はかりそめのパートナーとして、それぞれの日常に戻っていくのである。

 いや、音道が主役の話はシリーズになっているみたいなので、その後二人はまた絡んでいるかもしれないが…。

(2014/1/24改訂)

C風の万里 黎明の空 上下 (1994)
小野不由美講談社文庫ファンタジー
344頁/363頁629円/629円★★★★★

 「月の影 影の海」の直接の続編である。前作で艱苦のうえ慶国の王、景王となった陽子の玉座について以後の物語だ。

 なにせ国が乱れ、荒廃を極めていた慶国は、王が立ったとしてもそうすぐに治まる筈もなく、官僚は政治の事など何も知らない陽子を侮り、自分の野心と保身に懸命。
 臣下にあしらわれ、王としての自信など欠片も持てない陽子と、それぞれに訳有りの、はっきり言って性格に大分難のある祥瓊と木鈴という2人の少女のそれぞれの成長、そして彼女たちの出会いの物語である。

 前作もそうだったが、上巻はかなりつまらない。
 根性の曲がった二人の少女がメインなので、読んでいて鬱陶しいことこのうえない。
 それが★5つにもなってしまったのは、下巻の水戸黄門構造のおかげだ。身分を隠して下界に下りた陽子は、結果的に国内の反乱騒ぎの渦中に巻き込まれることになるが、ラストの“控えおろう”、これにつきる。

 よくあるネタだろうがなんだろうが、エンターテインメントのツボをついている。わたし、そこだけ2回も読んでしまったよ。

(2014/1/25改訂)

D魔性の子 (1991)
小野不由美新潮文庫ファンタジー
432頁590円★★★★

 教育実習で母校に戻ってきた広瀬は、受け持ちのクラスで不思議な雰囲気の少年を見つける。彼には良からぬ噂がつきまとっていた。関わると祟られてしまうというのだ。以前にちょっかいをかけた何人かが不幸な目に遭ったらしい。その少年高里の孤独感に自分の学生時代と共通点を感じ、広瀬は高里をそれとなく気にかけていたが、新たに彼をめぐって発生した事件は次々と波紋を広げてエスカレート。マスコミまでが関知する騒ぎとなってしまう。親にすら見離された高里の唯一の保護者となった広瀬は、彼を守り抜くことができるのか。高里の少年時代の神隠し事件の真相とは・・・。

 大抵の読者はシリーズを読み進む中で本書を読んでいるだろうから、真相とは?といっても、そこで驚くことはないだろう。ただ本書がホラーよりの文脈で書かれているので、外伝として違和感を感じるといったところ。しかしWikiによると本書のほうが執筆が先で、この設定世界を使ってファンタジーのシリーズを立ち上げたのが、十二国記シリーズということになるようだ。
 同じ世界背景を使って、こうテイストの違う話を構築できるのはとても凄いことだが、しかしシリーズの最初として本書を読んだのなら、ラストのぶっとんだ展開にはついていくのは難しいのでは…。

 時系列的にはどうも本書が最も新しいらしく、雁国と戴国がごたつきだしているようだ。延王尚隆の動きも気にかかるところではある。
 「風の海 迷宮の岸」では、大層な騒ぎのうえで使令に下した饕餮(とうてつ)の見せ場がなかったのが不満だと書いたが、まさかこないな活躍をしていたとは・・・。

(2014/1/29改訂)

E図解雑学 電子回路 (1999)
福田務/田中洋一郎ナツメ社科学薀蓄
218頁1200円★★★

 半導体の基本についてよりわかりやすい例がないものかと、ついついこの手の本を買ってしまったりするのだが、まあまあ可もなく不可もなくという処…。

 「電子はめぐる」のほうが、より物語的で興味を持って読めた。

(2014/1/29改訂)

Fターン (1997)
北村薫新潮文庫ファンタジー
418頁590円★★★

 駆け出しのメゾチント作家森真希は、ある日自動車事故で意識を失った。そして次に目覚めたのは自宅の座椅子。そこから滑り落ちそうになって気がついたのだったが、しかしなにかがおかしいことに気づく。既に経験した世界。他に誰もいない世界。そして記憶の中の事故にあった時間、彼女は再び自宅の座椅子に戻る。
 自分以外の誰もいない閉ざされた1日を、孤独に繰り返し続けること半年近く。気丈に生きる真希が庭で水を撒いていたある日、突然家の電話が鳴り出した・・・。

 当然ながらK・グリムウッドの名作、「リプレイ」と比べながら読んでしまうのだが、こちらは完全に恋愛小説。「空飛ぶ馬」同様、男性作家のくせに若い女性の感性で書かれた様々な枝葉は、まま感心したりもするが、小説全体としては恋愛ファンタジー。
 それがすべてであって、わたしの担当エリアではない。
 しかし柿崎の矛盾は誰でも気づくだろう。最後の作者の説明が苦しいところである。
 柿崎で思い出したが、わたしなどは、考えかたは明らかに真希より柿崎だ。短兵急に女襲うのはどうかと思うが、誰もいない世界でキーのついた高級外車があれば乗り回すだろうし、律儀にカウンターに金を置いて品物を持っていく真希のほうが妙ではないかい。

(2014/1/29改訂)

G心は孤独な数学者 (1997)
藤原正彦新潮文庫歴史/数学/紀行エッセイ
269頁438円★★★★★

 数学者である著者が、3人の偉大な先人、ニュートンハミルトンラマヌジャンに思いを馳せながら、彼らの足跡を辿って旅をする。歴史と紀行のバランスは8:2くらいで、明らかに歴史が勝っているが、司馬遼太郎「街道をゆく」等に勝るとも劣らない旅情豊かな歴史エッセイで、さすがは歴史小説家新田次郎の息子と感心した。

 あいにくわたしは数学者とはさっぱり縁がないので、ニュートン以外は名前を聞いたこともなかったが、天才数学者といってもやはり人間。どうしてどうして、それぞれに悩みを抱えて生きていたのだ。
 宇宙の真理の大洋の渚で、ぱしゃぱしゃしているにすぎないと自分を述べる謙虚さと、フックライプニッツとの果てしない論争を繰り広げるという攻撃性を併せ持ったニュートン。
 四元数の基本式(式を見てもなにがどうすごいのかさっぱりわからないが…)を発見した、純情なハミルトン。
 そして本書の2/3を占めるのが、インドの一事務員ラマヌジャン。
 彼は正規の数学教育を受けていないにもかかわらず、後に共同論文執筆者となったイギリスの大数学者ハーディが、

「私の数学への最大貢献は、ラマヌジャン発見だ。」

と言ったというほどの天才らしい。
 なんでも半年に1個の新定理を発見できれば、その数学者は十分優秀であるそうだが、それがラマヌジャンの場合、ヒンズーの神様のお告げで閃いた新しい定理を、毎朝半ダースほど抱えてやってきたらしい。
 それがどれくらいすごいことなのか、完全にわたしの理解の範疇から外れている。

 しかしラマヌジャンは周りの勧めに従い、自分のノートをハーディに送ってそれが認められたからこそ、こうして数学史上に名前が残った訳ではあるが、それで彼が幸せになったかというとどうもそうでなかったりする。人生難しいところだ。

 人間万事塞翁が馬ですなぁ。

(2014/2/2改訂)

H真田忍侠記 上下 (1996)
津本陽講談社文庫時代
345頁/317頁619円/619円★★★

 九度山以前の真田一族の動きを知りたかったのだが、部屋の在庫本のタワーに「真田太平記」を積重ねるのはキツイ。どうしようかと考えていた時に、こんな本が文庫落ちして店頭に並んでいた。ほぉ津本陽がこんなのを書いているのかと思った次第。少々方向が異なることは判っていたが、久方ぶりの津本作品と相成った。
 まあ“津本忍法帖”という売り文句に騙されることもほぼ判ってはいたのだが…。

 本書の主人公は猿飛佐助。彼や霧隠才蔵と徳川方の服部忍群との熾烈な暗闘を描いている。
 一般的に伊賀の霧隠と甲賀の猿飛と設定されることが多いが、本書では二人とも信州上田の地元産として設定されている。山田風太郎へのオマージュかもしれない【※1】が、津本作品の特徴、あちらの方言で喋りまくる。わたしはそう気にはならなかったが、人によってはつらいだろう。

 さて本書での忍術の扱いだが、修験道の延長にある仙術に近い扱いである。千里眼であったり、相手を自在に操ったり、ESPといってもいい。佐助と才蔵の能力は超人的で、君たちそんな能力があるのなら、とっとと家康の首を獲りに行けばいいのにと突っ込んでしまいたくなる。
 しかしこんなにも能力の高い奴らだというのに、やはり津本作品の常で、キャラクターの個性はほとんどないに等しい。(というか、どの作品の主人公もおんなじ
 大阪城攻めの徳川方の長陣の所為で、陣場一面に排泄物のにおいの漂っているという風景描写が良かった。

【※1】山風の「信玄忍法帖」のキャラ、猿飛天兵衛、霧隠地兵衛が父祖の代より真田に仕えているとある。
【※2】著者描くところの柳生兵庫助も、修行の末に(一般人には超能力にみえる)超感覚を会得していた。

(2014/2/4改訂)

I名探偵の掟 (1996)
東野圭吾講談社文庫推理
329頁590円★★★

 金田一耕助等々力警部のコンビになぞらえた名探偵天下一大五郎と大河原警部が、小説中の人物としての自分たちのマンネリさにぶつくさ文句を言いながら、事件に挑む軽いユーモア短編集。

 とは言っても、密室、意外な犯人、ダイイング・メッセージにアリバイ崩しと、本格推理の王道テーマを各短編毎に料理しており、なかなかの労作で好感は持てる。

(2014/2/4改訂)

J東の海神 西の滄海 (1993)
小野不由美講談社文庫ファンタジー
313頁629円★★★

 「月の影 影の海」で重要な役どころを演じた延王尚隆と延麒の六太を主役とし、尚隆の創業初期の雁国騒乱を語る。十二国記シリーズの中では最も古い時代の物語である。

 雁国元州の侯息斡由は、未だ荒廃の残る国土を憂い、中央に対してクーデターを謀る。その陰謀の下、延麒は昔知りあって自ら名前を付けてやった少年更夜に再会したが、まんまと陰謀に嵌り囚われの身となってしまう。
 民の為の蜂起と称し、配下からの信も厚い斡由に対し、自分流に徹し未だ評価の定まらぬ延王尚隆は、この試練にどう臨むのか。

 斡由と尚隆はそれぞれ世を憂い、自分が改革することを任じている。同じ到達点を求めていながら道の違う二人の矛盾が、もっと上手くぶつかればより面白くなっただろうが、斡由がちょっと腰砕けで残念であった。延麒を誘拐したこと以外は100%理想の人というのなら面白かったのだが…。

 作者の思い入れが強過ぎるのかもしれないが、尚隆があまりにスーパーマンなのが少々いただけない。

(2014/2/4改訂)

K六番目の小夜子 (1992)
恩田陸新潮文庫ホラー
323頁514円★★★

 その学校では奇妙な伝統行事が続けられていた。
 例年3年毎に実行される“サヨコ”。歴代の“サヨコ”は卒業式の日にこっそり下級生に鍵を手渡すことで代を重ね、そして3年に一度の始業式の朝、各教室の入り口に画鋲でとめられた逆さのチューリップが、今年がサヨコの年であることを告げる。
 しかしそのサヨコの年、津村沙世子が転校生として登場した年は、例年とは何かが違っているのだった。

 3年に一度というのがミソで、在校生にとって必ず初体験になることが伝説性を高めていくのだが、高校生のたわいない行事であることには違いない。
 最近NHKで復活した?連続ジュブナイルドラマで1回半ほど見て興味をそそられた。TVで主役のように見えたポカリスエットの女の子は、原作ではチョイ役だった。(←もう誰の事だかもわからない…)
 TVはミステリタッチのライト・ホラーでなかなか面白そうな印象だったが、原作の本書は、沙世子のミステリアスさを始め、まとまりきれずに半端な印象を受けた。いや、学生時分を振り返ってなかなかノスタルジックな気分にさせてくれたので、そういう意味では軽く読むのに十分面白かったのだが、ホラーというよりはまあ青春小説かな。

 結局文化祭用の「6番目の小夜子」の台本は誰が書いたんだったっけ?

(2014/2/7改訂)

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