2001年 4月
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@「古事記」を歩く
佐藤高知恵の森文庫歴史薀蓄
251頁533円★★★

 古事記の内容及びゆかりの土地や建物を紹介した本だが、いかんせん、神社の紹介文などはパンフレットを丸写ししたような無味乾燥の文なので、ついつい流し読みしてしまった。

(2012/10/20改訂)

A四十七人の刺客
池宮彰一郎新潮文庫歴史
558頁743円★★★★

 わたしの忠臣蔵初体験は一昨年のNHK大河ドラマ「元禄繚乱」だったが、小説ではこれがほとんど初に近い。(初は山田風太郎「忍法忠臣蔵」
 忠臣蔵をあまり知らないので、本書での大石内蔵助の人物設定がどんな位置にあるのかよくわからないが、深慮遠謀で知略に長けた、田舎の小藩にはもったいない人物として描かれている。
 京の山科に居ながら、ここまで江戸の情報操作を行なったというのは無理な気がするのだが、実際のところはもう少し行き当たりばったりではなかったのか? まあ風説に乗っかってこれを利用したということはあるだろうが・・・。

 どうしても「元禄繚乱」と比較してしまうのだが、本書では大石はじめ家臣たちと浅野内匠頭との君臣の感情の交流はばっさり切られていて、武士の進退としての士道を立てるという個人的な目的に則って着々と討ち入りへ話は進んでいく。客観的にプロフェッショナルな駆け引きを進めるとして、浅野/吉良のどちらにも肩入れしないのは良い選択だろう。そう言えば浅野内匠頭だけでなく、吉良上野介もほとんど影のような存在としか出てこず、あくまで、話は大石内蔵助VS米沢上杉家江戸家老色部又四郎の構図で進んでいく。なぜ上杉家の家老が大石VS吉良の中に割り込んでくるのかは、有名な話なので割愛する。しかし色部も切れ者として紹介されるが、どうにも大石に翻弄されっぱなしの感が否めない。初っ端に柳沢吉保と組んで策を講じたのが仇となり、結局は火の粉が自分に降りかかってくる。この辺り、構成としても見事だ。
 色部がやや役不足だった分、上杉家の国許の筆頭家老千坂兵部が渋くてよかった。

 さて肝心のクライマックスの討ち入りだが、あの要塞化した吉良屋敷は少々やり過ぎだ。「風雲!たけし城」を思い出してしまった。
 しかしその割には、決行前後を含めて結構淡白。著者は後半の江戸より前半、赤穂での身辺整理などに注力しているようだ。

 ところで、これは江戸での挿話だが、大河ドラマでは仮面ライダークウガの一条刑事が、中山エミリを騙くらかして吉良屋敷の絵図面を手に入れる件があった。これは結構有名なエピソードだと思っていたが、本書では苦労することなく、図面はなから用意されていた。このエピソードは講談のつくり話なのだろうか。

(2012/10/21改訂)

Bファイアフォックス
 Firefox
C・トーマスハヤカワ文庫冒険/スパイ
412頁★★★★

 米ソの軍事バランスを大きく崩す、思考誘導武器システムを装備したソ連の最新鋭戦闘機ミグ31<ファイアフォックス>。この情報をもとにSIS特殊工作部長オーブリーは、ソ連機に精通した西側のパイロットをソ連の奥深く進入させ、彼らの鼻先からミグ31を掻っ攫うという突飛な作戦を立案、米空軍パイロット、ミッチェル・ガントに託されることになるが・・・。

 昔クリント・イーストウッド主演で映画化されてTVでは観たはずだが、その印象はなんにも残っていない。ガントはびくついて神経質な印象(状況を考えると当然だが)の男なので、イーストウッドとはうまくイメージが重ならない気がする。
 展開はというと、前半が密入国からビリアルスクの工場にあるミグ31奪取まで。後半は奪取からソ連領内を出るまでという大きな括りだ。前半もなかなかスリルに満ちた潜入作戦が進行するが、まあそれは本書の特色ではない。わたしなどは一歩ひいたところから見てしまうと、つまらない国家間エゴのために膨大な国費と工作員の命が費やされていくのは、エンターテインメントと割り切っていても、どうにもひっかかりを感じて楽しみも半減してまうが、後半ミグ31を奪ってからの脱出作戦、特に最大懸念事項であるソ連領内での燃料補給をどうするのかというサスペンスは、これはなかなかハラハラで読ませる。
 それに比べると、ラストのファイアフォックス同士の空中戦も+αってところか。
 思考誘導武器システムの見せ場が用意されているのだが、こんなもの危なっかしくてとても使いもんにならないような…。
 しかしこの時代のスパイ小説を読むと、後に書記長として表の世界に出てきたアンドロポフが、KGB議長として出てくることが多くて不気味だ。

 続編に「ファイアフォックス・ダウン」という続編があるようだが、個人的にはガントのその後より、最初自信満々で足元を見事にすくわれてしまった、不運なKGB“M”局局長、コンタルスキーがどうなったのか知りたいとこだ。

(2012/10/21改訂)

C恐怖の宇宙帝王 キャプテン・フューチャー1
 Captain furture And The Space Emperor
E・ハミルトンハヤカワ文庫SF
276頁340円

 木星在住の地球人の間で、爆発的な広がりをみせる先祖帰り病。太陽系政府ビル内にその発病者が現れた時、主席ジェイムズ・カシューは月面のキャプテン・フューチャーを呼んだ。太陽系の守護神キャプテン・フューチャーことカーティス・ニュートンは、フューチャーメン共々コメット号を駆って木星に乗り込むが、そこでは宇宙帝王と名乗る謎の人物が木星原住民を煽動し、地球人植民者たちとの間に暴動を起こそうとしていた・・・。

 長い間の念願だったアニメの「キャプテン・フューチャー」の再放送が、こっそりBS2で放映されているのに気付いて慌てて見た。こみあげる懐かしさ(EDの「ポプラ通りの家」はわたしの大好きな曲だ!!)と記憶をはるかに超えるしょーもなさに居ても立ってもいられず、20年ぶりに原作を読むこととあいなった。
 当時のわたしはスペオペ小僧で、ゲリー・カーライルからジェイムスン教授まで、なんでもかんでも読んでいたが、中でもハミルトンは別格で、本シリーズ以外にもわたしの“聖典”のひとつである「天界の王(スター・キング)」「スターウルフ」等々、ひたすら読み漁っていたものだ。余談だが、高千穂遥「クラッシャー・ジョウ」なんかは基本設定がスターウルフの真似なので馬鹿にしていた。

 今回読み直すにあたって当然頭のネジを緩めてから臨んだので、ほのぼのと楽しむことができたが、初読当時はここまでいわゆるパルプ小説のセオリーに則ったストーリー展開だったとは気付いていなかった。
 都度々々主人公を襲うピンチ。どうなると思わせておいて次章では別の場面に切替わり、さぁ今度こそと思うと意外にあっさりピンチは回避されてしまう。相当物語のテンポは速いぞ。
 なにせ木星に乗り込んで数時間のうちに宇宙帝王の容疑者を4人に絞っているという速さだ。

 そして木星の総督官邸で、太陽系警察機構の女性諜報員ジョオン・ランドールとの初顔合わせ。
 因みにキャプテン・フューチャーのジョオンに対する初対面の印象は、“その娘がかなりの美人だと思った。”である。
 “若くて有能な”女性諜報員であるはずのジョオンが、被誘拐/被救出要員にしかなっていないのも、まぁご愛嬌ではある。
 しかし太陽系政府とは謳っているが、地球人主導の各惑星植民地化推進本部のようにしか感じられないのは残念だ。ここら辺の描写、例えば未開の木星人を見下して否としない印象を受けるのは、やはり西部開拓時代をそのまま宇宙に焼き直した安直さが見えている部分だろう。

 しかし今回わたしを最も驚かせたのは、この宇宙帝王事件の発生が2015年、カーティス・ニュートンの誕生が1990年もしくは1991年という設定になっていることだ。今現在、既に二、三の惑星には植民されているわけだ。

 因みに2015年にもなると、ほとんどあらゆることが特殊な電磁場か、地球に存在しない元素でもって可能だ。個人ベースの重力等価器の実用もしかり。
 言わずもがなのツッコミついでに、印籠のように出てくるカーティスの指話もすごい。超小型原子力モーターで“太陽系の惑星の位置が一目でわかる”という趣味の悪い指輪だ。
 ウラン238の中の数%のウラン235を水の中でゆっくり反応させて、発生する蒸気でタービン回し発電というようなまどろっこしいことをしていないのは確かだな。

(2012/10/21改訂)

D失われた世界
 The Lost World
A・C・ドイル創元SF文庫SF
312頁540円★★★

 新人記者のマローンは変人で獰猛なことで有名な科学者、チャレンジャー教授の談話をとってくるように指示を受けたが、おかげで顔面ににあざをこしらえてしまう羽目に陥る。しかし“南米の奥深くに中生代の生物が現存する土地が実在する”というチャレンジャー教授の主張が間違いであることを証明するために、サマリー教授の探検隊に記録記者として同行することに。果たしてマローンは“ロスト・ワールド”、メイプル・ホワイト台地を目の当たりにするとこができるのか・・・。

 言わずと知れたシャーロック・ホームズの作者、C・ドイルの生み出したもう一つの名作じゃ。
 最近、あの恐竜映画のヒットのおかげで、本家のこの「ロスト・ワールド」も新たに映像化されることが多いらしく、BS2スーパーチャンネルでやっていた。それを踏まえて本書を読むと、本書にはヒロインも子供も登場してこないことに驚く。確かに画面がおっさんばかりでは殺風景ではあるが。
 スーパーチャンネル版の「ロスト・ワールド/ロスト・ワールド2」に出ていた黒人の半裸のねーちゃんに悩殺されたのは、わたしだけではあるまい。

 本書は恐竜小説ではなく異境冒険小説だ。だから思いのほか恐竜は出てこないし、出てきても“ヒキガエルのような面構え、ピョンピョン跳び歩く”肉食竜であって、特になになにサウルスであると決めている訳でもない。なので恐竜ファンが読んでも物足りないかもしれない。
 実際わたしとしても、どちらかというとメイプル・ホワイト大地に立つまでの前半の方が面白かったように思う。

(2012/10/21改訂)

Eアヴァロンの闇 上下
 The Legacy of Heorot
L・ニーブン/J・パーネル
S・バーンズ
創元SF文庫SF
367頁/366頁640円/640円★★★

 惑星アヴァロンに殖民を始めた人類。キャメロットと名づけた島にコロニーを作った植民者たちは、穏やかな環境の中での生活を謳歌し始めていた。植民者たちの中でサバイバル専門家としての役割を担っているキャドマン・ウェイランドは、街の発展に寄与できる専門知識を有するわけでもなく、余計者の疎外感を味わっていた。しかし平和慣れした植民者の前に、異常な速度でコロニー内を疾駆し住人を殺戮する巨大な怪物が現れる。生態系の構成上、存在するはずもない怪物に戸惑いを覚えながらも、辛くもその怪物グレンデルを撃退することに成功したウェイランドたちだが、彼らの前にはさらなる恐怖が待ちうけていたのだった・・・。

 もともと本書を読む気になったのは、続編「アヴァロンの戦塵」の表紙に描かれた禍々しいグレンデルに、怪獣好きの血が騒いだからだ。クァールイクストルといった魅力的な異星生物はSFの大きな魅力だが、体内の速度嚢から分泌される科学物質によって爆発的なスピードを発生し、その際の発生熱を抑えるために河から離れられない本書のグレンデルも、グレンデルの視点からの描写や生態系の謎とあいまってなかなかに魅力的。しかし登場人物とその人間関係の歪さがつらい。

 異国の地で少数グループが地歩を固めるために、効率良く子孫を残すためのひとつの手段として、男女間の倫理観の低さは百歩譲ってもよいが、自分が不必要者で疎外されているという被害者意識が強く、コロニーから勝手に飛び出して独居生活を始める一方で、自分にひたすら愛情を注ぐメアリ・アンを受け入れてちゃっかり子供を設けながら、いつまでたってもシルヴィアに懸想しているというウェイランドには、とても好意を持つことができない。
 グレンデルとの戦いのその後は若干気にかかるところだが、山のように未読の在庫があることだし、当面「アヴァロンの戦塵」に手を出すことはやめておこう。

(2012/10/21改訂)

F覇者・恐竜の進化戦略
金子隆一ハヤカワ文庫恐竜薀蓄
243頁520円★★★

 壮大なロマンか雄大な時間つぶしか、一片の骨の欠片から6500万年以前の生物・生態を研究する恐竜学を、例えば雷竜の三脚歩行、鎧竜の甲羅、石頭竜の頭蓋骨等に分けて、解りやすく紹介している。学会のあーだこーだと喧々諤々たる論戦の歴史が興味深い。

 後半は分類学の深みに入っていき、こりゃ大変だと思う反面やや退屈だったりしたが、例の「ジュラシック・パーク」でわたしたち一般人にも認知されだしたティラノサウルスの形態と、それ以前のいわゆるゴジラ的な尻尾を引きずった形態に言及して、意外にずさんだった初期の博物館の展示体勢がわかって興味深い。
 しかしティラノサウルストリケラトプス白亜紀アロサウルスステゴサウルスジュラ紀ということを知っているだけで、わたしもそこそこ恐竜通のように思っていたが、白亜紀だけで12の階に別れ、その最終階であるマーストリヒト階だけで800万年もあるとは…。アウストラロピテクスから現代までの4倍だ。

(2012/10/21改訂)

G70年代カルトTV図鑑
岩佐陽一文春文庫PLUSTV番組薀蓄
316頁629円★★★

 仮面ライダーでなくてレインボーマンダイヤモンド・アイコンドールマンウルトラマンでなくてシルバー仮面アイアンキング。うーむ、カルトだ。これらのタイトルを聞いて懐かしいと思える人なら本書は楽しめる。それぞれに意外に深いテーマが隠されていたことが解って、新鮮に笑えた。

 ただしわたしにとっては、デンセンマンやその他のバラエティー、ドラマは不要だ。

(2012/10/21改訂)

Hななつのこ
加納朋子創元推理文庫推理
301頁520円★★★

 短大生の入江駒子は、童話「ななつのこ」にひとめ惚れともいえる出会いをした。その感動の勢いで、駒子は「ななつのこ」の著者に自分の身の回りで起こった不思議な挿話も含めたファンレターを出したが、彼女の予想に反して、作者からの返事が返ってきた。不思議な挿話の回答と一緒に…。

 北村薫の「空飛ぶ馬」と同種のストーリーと言っていいda ろう。謎解きとしては大したことはないのだが、童話「ななつのこ」を入れ子構造にした凝った作りといい、読後感のほのぼのさといい、こちらのほうが上だな。

(2012/10/21改訂)

I西域をゆく
井上靖/司馬遼太郎文春文庫歴史対談
283頁467円★★★

 吐魯蕃喀什和田。これらの読み方がわかるだろうか。
 正解はトルファンカシュガルホータン。いずれも新疆ウイグル自治区に含まれる街の名だ。

 歴史に興味のない人間には、どうということのない地名じゃろうが、シルクロードという言葉にロマンを感じる人間にとっては、なんともたまらないイメージを抱えた街々だ。中国を題材にした本を多く発表しているこの二人の大作家にとっても、当然尽きせぬ思いのある土地である訳で、念願かなって現地に旅行した彼らが、その後日に場所を設けて座談したのが本書の内容となっている。

 西安(長安)から祁連山ゴビ灘に挟まれて北西に伸びる河西回廊沿いのオアシス都市、いわゆる河西四郡と呼ばれる武威張液酒泉、そして莫高窟で有名な敦煌。この付近で祁連山は姿を消すのだが、そのまま沙漠を突っ切って天山山脈にぶつかるところにトルファンがある。ここがシルクロードのいわゆる天山北路天山南路(西域北道)の分岐点で、さらにカシュガルは、この天山南路をタクラマカン沙漠の反時計回りに進んでいった最も奥(9時付近)に位置する。現在の国割でいうところの中華人民共和国の西の外れにあたるわけだ。ホータンタクラマカン沙漠をさらに回り込むように戻ってくる場所(7時付近)にあり、こちらの道は西域南道と呼ばれていて、タクラマカン沙漠と崑崙山脈に挟まれている。中国で珍重されるの産地として有名だ。

 今で言う新疆ウイグル自治区は、有史以来、中央(いわゆる中華)の力が強くなったときにはその支配下にあり、中央の支配力が落ちればチベット系やモンゴルタングートといった遊牧系の民族の支配を受けるという歴史を繰り返してきた。さらには11世紀以降には、西からイスラムが押し寄せてきて、結局今ではイスラム教徒ウイグル人が多く生活しておる。トルコ系、またはイラン系の顔の人たちだ。トルファン漢人と半々くらいの比率なのだが、西の奥へ行けば行くほどウイグル人の比率が高くなっていくようだ。なんでもカシュガルを中心に独立運動も結構さかんらしい。

 他に二人の学者を交えて、かの大谷探検隊の実情を探る座談もあれば、井上靖「敦煌」に関係しての莫高窟の話、玉や絹の交易に関するあれこれや祁連山で匈奴と闘った霍去病、匈奴を挟撃するための共同戦線を張るために決死の西域行に臨んだ張騫や仏教経典を求めて遥かな旅に出た玄奘(三蔵)法師等、彼らが足跡を残した土地に実際に立った感慨とリンクした歴史話に、読者は強烈なロマンを掻き立てられて、自分でも実際に行ってみたくなること請け合いだ。

 何と言っても、まんまと敦煌、トルファンに行ってしまったわたしが言うのだから間違いない。
 巻末の用語集も充実していて、薄い本ながらも読み応えありである。

(2012/10/21改訂)

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