2001年 5月
トップ頁に戻る "本"の目次に戻る 2001年 4月に戻る 2001年 6月に進む
@魔法飛行 (1993)
加納朋子創元推理文庫推理
312頁560円★★★★

 「ななつのこ」の続編。実は先にこちらを買っていたのだが、長いこと在庫にしていた。いやぁ先に読まなくて良かった。こちらを先に読むのはまずい。

 前作と同じ手法はとれず、尚且つ童話の入れ子構造もなしで、これは単純な安楽椅子探偵もの(しかも証明される訳でもない)になっているかと思いきや、どうしてどうして前回以上に凝った作りだった。

 例によって、駒子が自分の体験を基に書いた文章という形式の短編が3つ。それらについて、返事という形式の回答編。このパターンは前作と一緒だが、本書では個々の短編の間に“誰かから届いた手紙”という文章が挿入されている。駒子たち2人しか知らないはずの文章のやりとりに言及した謎のファンレター。この手紙の謎を巡って繰り広げられる時間制限ありの4編目が本書の肝だが、しっかりと手前3編に布石も置かれている。
 多少メルヘンチックに傾いてしまうのが玉にキズだが、読んで損はない1冊だ。

(2014/5/1改訂)

A黒い家 (1997)
貴志祐介角川ホラー文庫ホラー
388頁680円★★★★★

 京都で生命保険会社に勤めている若槻は、苦情処理の為に行った顧客の家でその家の子供の首吊り死体を発見してしまう。現場でその顧客菰田の表情を見て身に粟立つものを感じた若槻は、あるいは計画的な詐略を疑い独自に調査を始める。それが若槻を襲う恐怖への入り口とも知らずに・・・。

 いやぁとんでもなく怖かった。
 ホラーと言っても、モダン・ホラーとか呼ばれるジャンルの大御所、スティーブン・キングディーン・クーンツは面白いけど怖くはないのである。まあ偉そうに言えるほどこのジャンルを読んでいるわけではないのだが、わたしの知る限りでは、怖いと思えるモダン・ホラーを書けるのはジョン・ソールくらいだと思っていた。
 ところが、日本人作家でもこういうホラーが書けると知って、わたしは嬉しい。映画版を知らなかったのも良かったかもしれない。

 著者は保険業界で仕事をしていたらしいが、裏事情も豊かな業界話が、本書の怖さを日常の世界へ近づけるために効果的に機能している。“潰し屋”三善というのも、ああこういう奴も実際にいるのだろうなと思わせるいいキャラクターだった。

 とにかく、超自然もなし、刃物1本でこれだけ怖く書けるのだから大したものだ。お薦め。

(2014/5/1改訂)

Bレッド・ドラゴン 上下
 Red Dragon (1981)
T・ハリス創元推理文庫サスペンス
310頁/350頁640円/580円★★★

 アメリカの広域に渡って、無差別に一家を選んで殺戮する<噛みつき魔>。自分を“大いなる赤き竜”に擬え、満月の夜毎に特殊な入れ歯を嵌め儀式的な殺人を繰り返す殺人鬼に対し、FBI特別捜査官クロフォードは、異常犯罪捜査で幾多の実績を残したプロファイラーのグレアムを、引退生活から引き戻した。
 グレアムは自分が過去に捕まえ、今は州立病院の特殊病棟に収監されているレクター博士の協力を仰ぐ。だがこの件をタトラー紙にすっぱ抜かれたことにより、犯人もまたグレアムのことを知るのだった・・・。

 あの「羊たちの沈黙」の前作だ。作者が執筆当時から次を考えていたかどうかは知らないが、本書ですでにレクターを御意見番として登用していたとは。というより、本書のレクターの評判が良かったから、次作でさらに重要な役割を与えたというところだろうか。

 本書もなかなか緊迫感溢れるサスペンスで十分面白かったが、後半ダラハイドと盲目女性とのロマンスに多くの頁を割いているのが、たるいと言えば多少たるい。最後まで読めばプロット上必要であったことは解るのだが。

(2014/5/1改訂)

Cひらけ!勝鬨橋 (1987)
島田荘司角川文庫推理?
418頁838円★★★

 老人ホームの落ちこぼれじいさんチームが、ホームを取り壊すために恫喝してくるやくざと対決する人情活劇。ちょい推理の要素もありという程度の話なので、このジャンルは推理小説ではないだろう。
 著者は本書を仕上げて新鮮な感動を覚えたらしいが、わたしが著者に期待しているのは、やはり奇想天外なトリックだということを確認した。

 リアルさを度外視したユーモア小説にするなら、じいさんの自己批判や老人問題も省いてしまったほうがいいのだが、このあたりは、つい社会批判の提してしまう著者の色が出てしまうところだ。
 あまり楽しめなかった本書ではあるが、クライマックスのじいさんたち“青い稲妻”連中による、ポルシェ911カーアクションはなかなか派手で楽しい。
 島田作品は映像化されることが少ないが、本書は映像化との親和性が高いだろう。

(2014/5/2改訂)

Dふたたび赤い悪夢 (1992)
法月綸太郎講談社文庫推理
605頁816円★★★

 「雪密室」事件で関わったアイドル、畠中有里奈が法月警視に助けを求めてきた。見ず知らずの男に襲われナイフで刺されたが、気がつくと全くの無傷で、ただ彼女の服と掌に大量の血痕がついていたのだという。
 そして、彼女が襲われたスタジオの近くの公園で、若い男の刺殺体が発見され・・・。

 「頼子のために」「一の悲劇」と三部作をなす作品らしい。時系列的には、本書が「頼子のために」の直後の事件として、探偵法月綸太郎のリハビリ物語になっているようだ。執筆順が先の「一の悲劇」は、作者法月綸太郎のリハビリのための物語というところらしい。
 そういう意味において、推理小説としては決して満足のいく作品ではないが、探偵たりとも悩める人間である事を謳った、三部作の完結編として興味深くはある。

(2014/5/2改訂)

E柳生十兵衛(一)妖剣乱舞 (1998)
谷恒生ケイブンシャ文庫時代
251頁533円★★★

 柳生一族のファンとしては、一応“柳生”を冠した本を見つけた場合は、なるべく読むようにしている。8:2でつまらんだろうと思いながら…。
 しかし手放しで面白い!と叫べないにしても、例えば「隻眼無双剣」の十兵衛のように、なにか新しい設定なり視点があれば【注1】それなりに楽しめるから、それを期待して読むわけだ。

 十兵衛の設定は、概ね次の二択である。【注2】
@組織の人間になってしまった親父の但馬守宗矩に反抗し兵法の道を極めようとする求道者。
A宗矩率いる徳川の警察/スパイ組織の一員。

 娯楽系の時代小説では後者が多くなるが、この場合でも徳川政権を正義と見るか悪と見るかで、大きく性格付けは異なってくる。

 さて本書は、政治に関与したくはない兵法者としての性格を覗かせながら、柳生家の一員として体制側の役回りを演じざるをえないという折衷案(これはこれで珍しくはない)。それに加えて敵側に風魔が出てくるが、これまたかっていう印象で読む気も半減だ。
 五月雨隼人というのが本書で十兵衛の相手となる剣客だが、彼もイマイチ印象に残らないし、シリーズになりそうだが果たして…。

【注1】「隻眼無双剣」の柳生十兵衛は日頃の容貌魁偉な隻眼のほうが変装で、実は女装もこなす美麗な男である。
【注2】山田風太郎の十兵衛が、どちらにも属していない処がさすが。
(2014/5/2改訂)

F新・SFハンドブック (2001)
早川書房編集部編ハヤカワ文庫SF薀蓄
543頁740円★★★

 本書を読んで、今まで食指が動かんかった、ジェイムス・ティプトリー・Jrグレッグ・ベアを買ってしまった。面白ければいいのだが。

 冒頭に掲載されたオールタイムベストを見ると、丁度半分読んでいるようだ。在庫で抱えている本も…。
 因みにわたしの海外SFオールタイムベスト5を選ぶとこうなる。

第一位: 「火星のプリンセス」 E・R・バローズ (1911) 【注3】
第二位: 「夏への扉」 R・A・ハインライン (1956)
第三位: 「鋼鉄都市」 I・アシモフ (1953)
第四位: 「20億の針」 H・クレメント (1950)
第五位: 「天界の王」 E・ハミルトン (1947)/「銀河のさすらいびと」 K・ローマー (1967)
 次点: 「盗まれた町」 J・フィニイ (1955)

 一作家一作品とすると大体こんなところか。オールタイム (old time) の定義は、自分が子供時分に読めたものが基本ということで、70年代までということになるが、こうしてみるとほぼ50年代の作品になっている。さすがはSF黄金時代だ。
 わたしの好みで物語的な面白さを重視してしまうが、SF的アイディアという点を前面に持ってくれば、P・アンダーソン「タウ・ゼロ」(1970) を選んでもいい。同書には圧倒されて、強く印象に残っている。

 新オールタイムとして、20世紀の作品を含めるならば、「エンダーのゲーム」 (1985) やハイペリオン四部作 (1989〜1997) 、ヴォルコシガン・サーガ (1986〜)の作品などが入ってくるだろう。【注4】

 しかしハヤカワSFの未読在庫だけで31冊というのはなんとかせねば。
(2014年現在、ハヤカワ文庫(海外SF)の未読在庫が19作品26冊創元文庫(海外SF)の未読在庫が36作品42冊である…)

【注3】一位というよりも、別枠として殿堂入りである。
【注4】「エンダーのゲーム」もエンダー・シリーズの一冊ではあるが、お気に入りに挙げるならこの一冊である。
(2014/5/2改訂)

Gこれが「週刊こどもニュース」だ (2000)
池上彰集英社文庫ニュース薀蓄
261頁533円★★★

 毎月々々サルのように本を読んでいると、とてもじゃないが新聞まで手が回らない。かと言って、平日の帰宅後は晩飯食べたら寝る時間の近い生活だから、土曜日の「週刊こどもニュース」はわたしの貴重な情報源だ。【注5】

 本書は同番組で“おとうさん”役の著者が、大人でも解りにくいニュース報道を、いかに子供でも理解できるように噛み砕いて伝えるのか、出演者の子役たちとの問答でずっこけながら、その番組作りの裏側を紹介した本である。  ではありながら、政治や宗教といったとっつき難い話題や、子供達との問答から浮かび上がってくる教育問題などについても考えさせられる好著だ。

【注5】今となっては、この当時から池上彰を追っていたのは、わたしの微かな自慢になっている。
(2014/5/2改訂)

H紙の道 (1997)
陳舜臣新潮文庫歴史薀蓄
315頁543円★★★

 古代、中国ローマを結んだ陸路といえば、もちろんシルクロードだが、西に向かってシルクが伝えられた絹の道は、また製紙技術が伝わったペーパーロードでもある。考えてみれば、当時は確かに絹のほうが紙よりも価値が大きかったかもしれないが、現代に絹はなくとも生きていけるのに対して、紙がなくては社会が成り立たない。電子データの共有化によるペーパーレス時代到来と言いながらも、なにかと手元資料として紙出力してしまいがちだ。(10インチクラス以上のタブレットがより普遍化すれば、減る方向に進むかも。わたしは嫌だが、書籍のペーパーレス化は進んでいるようだ…)

 本書はこの観点から、紙の誕生や技術の伝播に関しての薀蓄を傾け、時に作者の想像やロマンを交え、東西の文化交流史を語っている。学校の歴史教育ではおざなりにしか出てこない文化の交流が活き活きと伝わってくる。
 例えば751年にアッバース朝ペルシャとの間で起こったタラスの戦いは、唐が新しい新興国家の実力をちょっと見てみるかといった、戦争史としてはかなりマイナーなものだが、ここでペルシャに捕まった中国側の捕虜から紙漉きの技術が東へ伝わったとされており、文化史の面から言えば三重丸ものの重要さを持っている。この話を紹介しながらも、著者は少々疑問を呈しているが、こういう想像をする楽しみも、歴史好きにはたまらない。

 冒頭では、原始的な紙の発明は少なくとも前漢くらいまでは遡れそうなことが書いてあり、これにもわし驚かされたのお。一般的には、紙の発明者は後漢時代の蔡倫とされているが、どうも彼は改良者であるようだ。

(2014/5/2改訂)

I敦煌 (1959)
井上靖新潮文庫時代
265頁438円★★★

 の官吏になるべく進士試験を受けるために上京した趙行徳は、不注意から試験に失敗した挙句、ふと見た異国の女の印象を忘れられずに、流れ流れて西夏の漢人部隊に身を措くことになってしまう。
 時は恰もチベット系タングート族の西夏が、河西回廊を扼する時代。趙行徳は西夏の漢人部隊の隊長朱王礼や、キャラバン隊を率いる商人尉遅(うっち)光との友情ともつかぬ腐れ縁の関係を重ねながら年月を重ね、そして朱王礼はついに西夏王李元昊に叛旗を翻す決意をする。敦煌陥落を目前とした趙行徳は、敦煌の仏典を延焼から守る為に一大策を弄するが・・・。

 わたしの敦煌/吐魯蕃旅行に先立ち、事前勉強にと慌てて読んだ1冊。
 歴史小説と言うにはあまりに想像力に拠った本作は、やはり歴史ロマンと呼ぶに相応しい。(時代小説と言うには、エンターテインメント性が足りない)

 なんと言っても本書の凄さは、今世紀初頭に敦煌近郊の一大仏教窟である莫高窟千仏堂の16窟内の隠し部屋から、10世紀後半までに作られた仏典が多数発見されたという事実から、ここまでの物語を作ったということだ。著者は当時現地へ行ったことはなく、想像のみで書き上げたというから恐るべしである。
 しかし、本書では仏典が大量に隠された理由として、11世紀前半に敦煌を支配していた帰義軍節度使の曹政権が西夏に滅ぼされたという史実にタイミングを合わせているが、異民族とは言え仏教徒の西夏を恐れたというよりも、それより少し前にパミール高原を越えてタクラマカン沙漠の南側、ホータンの辺りまで侵入していたイスラム軍(カラハン朝?)を恐れての措置と考えるほうが、よりリーズナブルではないだろうか。
 いまだ記憶の新しい、アフガニスタンバーミヤンにある巨大仏像破壊に見るように、ムスリムは今も昔も異教徒に対する寛容性が低すぎる。まったく一神教って奴は!(←あくまで原理主義者の一部は、ということだが、そのように考えやすい要素を孕んでいることは間違いない)

 

それはそうと、表紙の朽ちた遺跡はこれに似てる…。

――旅先で撮った写真――
敦煌と安西の間にあった狼煙台(2001年6月)


(2014/5/2改訂)

トップ頁に戻る "本"の目次に戻る 2001年 4月に戻る 2001年 6月に進む