2001年 7月
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@ニュースの大疑問 最新版 (2001)
池上彰講談社+α文庫社会薀蓄
379頁800円★★★★

 普通のニュース番組では、基本的に政治・経済の用語や国と国との関係等、それが初出でなければなかなか説明をしてくれない。
 NHK「週刊こどもニュース」の偉大なところは、解りやすく噛み砕いて説明してくれるだけでなく、何度でも説明を繰り返してくれるところだ。せっかくのニュースも、受け手の知識が低いと理解、判断することができないから、とても重要なことだ。

 本書では、政治経済、国際関係、環境にエネルギー問題等々の常識の底上げをすべく、こどもニュースで培った経験でもって解りやすく伝えてくれる。「これが週刊こどもニュースだ」が、番組の裏話的な編集だったのと異なるところだ。

 よくある雑学本よりも、自分の社会の“今”を知るのに役立つ良い本だ。【注1】

【注1】この当時から、いかに解りやすく伝えるかということに腐心してきた著者の活動が、現在の池上ブランドに繋がったわけだ。
(2015/8/9改訂)

Aバベル-17
 Babel-17 (1966)
S・R・ディレーニィハヤカワ文庫SF
301頁640円★★

 人類が宇宙空間に広がり、二大勢力となって戦争に明け暮れる時代。
 宇宙きっての詩人で言語のエキスパートのリドラ・ウォンは、敵側陣営の破壊活動の際に決まって傍受される謎の信号、バベル-17の解読を軍から依頼される。バベル-17が言語であることを突き止めたリドラは、より理解を深めるために自ら船員を集め、宇宙船の船長となって飛び立つ。しかしその船には早くも敵の破壊工作が…。

 なんとも妙な表紙。パッと見た分には昔の田中美佐子にも似たアジア系の女性。よく見ると、目つきも怖いしデッサンも狂ってる。さらにそのバックには、なぜかむきむきの腕2本。なんとも怪しげで意味の判らない表紙だ。
 これに引いてしまい、裏表紙にスペオペだと紹介されながら今まで敬遠していた。

…そのまま敬遠しておけば良かった。

 牙やら獣毛やらを自分の体に移植するのがお洒落というのはまだしも、パイロットはむきむきの格闘家タイプでないといけないとか、はたまたモルグから霊体人を連れてくるとかなんとか。妙な感性の設定が然程の説明もないまま、有無を言わせぬ勢いで紹介されるのは面白ポイントである気もするが、いかんせん、本書の肝である(筈の)“言語”に関する講釈に今ひとつ感銘が持てなかった。
 英語圏の人間にどう映るのかわからないが、もともと一人称の明示が不要な日本語文化圏のわたしたちにとって、感銘を与えるほどの考察が然程されているようにも思えない。そういう認識論の展開ならば、神林長平「敵は海賊」とかのほうが鋭かったよーな。いや、内容は忘れてしまっているのだが…。

 バベル-17は、<ネタバレ反転>わずか二言三言で複雑な理論を完璧に伝達することのできる言語という設定である。これはまた、どえらく風呂敷広げたものだが、結局テレパシー的な説明が。よく解らなかったが、バベル-17は<ネタバレ反転>人のテレパシー能力を誘発させる言語体系??ということだろうか。

 もっと味読して深みを汲み取るべきなのかもしれないが、その気は起こらない…。

 それ以外にも、どうもわたし、ワイド・スクリーン・バロックも肌に合わないようだ。全ての設定が中途半端に感じてしまう。
 多面的解釈や深い哲学的な思索の描写などで、非常に評価の高い作品であり、作家であるので少々恥ずかしいのだが、これが正直な感想。【注2】

【注2】流麗な文章というのも特長らしいが、それも感じることができなかった。こんな評価の外国小説を邦訳するのも大変だろうが、そこでどれだけカットオフされたのかも不明…。

(2015/8/25改訂)

B北斗の人 (1966)
司馬遼太郎角川文庫歴史
514頁620円★★★

 幕末の剣豪千葉周作の前半生を描いている。著者の代表作のひとつ、「燃えよ剣」を忘れたわけではないが、剣術者を主役にするのは、珍しいほうではないか。【注3】
 千葉周作が登場するまで、剣術の教授法には、必要以上の神韻が帯びているのが常だった。それを誰にでも解る言葉で、剣術を広く普及させたというのが、彼の功績だ。
 この時代の剣術ブームの背景には、海外からの圧力に対する危機意識があったわけだが、それまで他藩の藩士と交流する機会などそうそうなかった地方の若い武士たちが、千葉道場を始めとする江戸の剣術道場に集まり、剣術だけでなく思想的な影響を受け合って、幕末の攘夷のエネルギーとなっていったことを考えると、周作の歴史上の位置もなかなか大きなものがあると思う。著者もその辺りから、彼に興味を持ったのだろう。

 実は本書の前半はかなりたるい。しかし後半の奉納額をめぐる樋口一門の馬庭念流との争いは、わたしのそれまでの想像以上に合戦の様を呈していて、なかなかの手に汗だ。
 その分後半生は略譜としてさらっと流されるだけなのが辛いところで、後に周作の玄武館の支道場を率いた弟の良吉について、本編ではさっぱり触れられていないのが淋しい。
 修行時代の周作とどう関係していたのか全く判らないままだ。
 曲がりなりにも坂本竜馬が門下に居た訳だし、盛況していたはずだから、それ相応の実力を持っていたと思うのだが。【注4】

【注3】新選組の剣士や宮本武蔵は扱ったが、柳生新陰流にはまったく興味がなかったようだ。司馬遼太郎の描く柳生十兵衛をみてみたかった気もする。
【注4】まったく記憶にないが、あるいは「竜馬がゆく」にはそのあたりの事が書かれていたのかどうか…。
(2015/8/28改訂)

Cニューヨーク・ブルース アイリッシュ短編集6 (1977)
W・アイリッシュハヤカワ文庫サスペンス
419頁583円★★★

 追い詰められる孤独な人間を描かせたら、右に出るものなしのアイリッシュ短編集。
 大きなハズレのない佳品揃いだが、お薦め処を挙げると、自分が仕掛けた時限爆弾とともに閉じ込められた男の恐怖を描く「三時」。徐々に本性を現し始めた自分の夫から逃げようとする、ややホラーテイストの「命あるかぎり」。小心者がどんどん深みに嵌っていく、ブラック・ユーモアに満ちた「となりの死人」。そして珍しく田舎町が舞台の推理サスペンス、「送って行くよ、キャスリーン」あたりか。

 わたしはアイリッシュは若くして死んだものと思っていたのだが、どうも誰かと勘違いしておったようだ。60年代の終わりまでは存命していたらしい。
 表題にもなっている「ニューヨーク・ブルース」は初出が1970年だった。ちょっとびっくり。

(2015/8/28改訂)

D平成お徒歩日記 (1998)
宮部みゆき新潮文庫紀行/エッセイ
267頁476円★★★

 なんともお気楽簡易?な旅行記。非常に興味深いテーマ――例えば江戸市中引き回しルートとか、江戸城城壁一周とか――での徒歩旅行だが、中身は結構適当に端折った行脚である。

 薀蓄仕込むぞ!と気合を入れて読むと少し拍子抜けではあるが、ちょっとした暇つぶしならば、最適な小品とも言える。ベストセラー作家と言えども、考えることはわれわれ凡夫と大して変わらないのが微笑ましい。

 一言言っておくが、怪しげな池や沼を見ると犬神佐清の足を思い浮かべるのは貴女だけではない。かすれた声で口真似も入るよ。

「俺はっ!犬神家に復讐することを誓ったぁ!」

 とは言え、社会問題についてもぽろっと小出しするのは流石。

(2015/8/28改訂)

Eわが一高時代の犯罪 (1951)
高木彬光ハルキ文庫推理
300頁680円★★★

 東大教養学部の前身、一高敷地内の時計台で起こった人間焼失事件。・・・「わが一高時代の犯罪」
 その続編で、水町家に起こった奇妙な事件。…「挽歌」

 支那事変真珠湾攻撃の間の時代、名探偵神津恭介とそのワトソン役松下研三がともに一高に在籍中に起きた事件を扱っている。どちらの作品も“本格推理”として満足のいく作品ではないのだが、暴走時期の日本が背景ということで、松下の軽い語りにもかかわらず独特の雰囲気が漂っているのが面白い。
 また、「刺青殺人事件」で初めて神津恭介を読んだ際には、あまりに非のうちどころのない人物設定に食傷してしまったものだが、こうして学生時代を読むと、人物設定にも深みが出てくる。これぞシリーズ物の持ち味。

【注5】IME2010では、「支那」が一発変換できなかった。まったく…。
(2015/8/28改訂)

F講談 碑夜十郎(上)(下) (1989)
半村良ハヤカワ文庫時代
472頁/392頁667円/619円★★★

 時は天保、処は江戸。世話好きのお絹が通りすがりに拾ったのは、正体不明の裸の男。その男っぷりに一目で惚れて、お絹が連れ込んだのは蛇骨長屋。無事に意識を取り戻した男には、過去の記憶がさっぱり欠落。そこでお絹がつけた名前が碑夜十郎。
 彼はお絹の周りの一癖も二癖もある男たちと知り合っていく事で、権力を嵩にきて庶民をいたぶるお上と闘っていくことになる。そして幕閣で争う中野碩翁水野忠邦の背後に見え隠れする、“巨人様”と呼ばれる存在とは・・・。

 碑夜十郎に徐々に戻ってくる記憶では、どうやら彼は昭和の人間らしいことが判る。
 読み始めた時には、時代劇からSFへシフトしていく壮大な話に違いないと想像していたが、こりゃまたこっ酷く躱されてしまった。
 「妖星伝」「産霊山秘録」を書いた著者だから、わたしの大きな期待も仕方のないところだと思うが、本書は“講談”とあるように、折りにつけ著者が講談調でしゃしゃり出てくる他にも、上手下手(かみてしもて)だのといった舞台を意識した描写や、実際に芝居の演目の登場人物を出してきたりと、あまりSFに期待をしないほうがよい。実験小説のようでもある。
 また、江戸の日常を描いたシーンが多くて、これはこれで興味深いとも言えるが、通常の時代SFに仕上げるならば、半分の文量ですむことだろう。

 どうも著者の狙いは表現上の実験、または気分転換であって、物語としてはバランスも良くないし、ましてSFとしてのオチのつくものではなかった。

(2015/8/28改訂)

G魔女の1ダース 〜正義と常識に冷や水を浴びせる13章〜 (1996)
米原万里新潮文庫言葉/文化薀蓄
476頁288円★★★★

 異文化の中で育ってきた人間とコミュニケーションを図るとき、それまで当然と思っていた常識のズレから、様々な悲喜劇が発生するものだ。同時通訳者ともなれば、異文化の橋渡しをその場その場で的確に伝達しなければならないのだから、その苦労は大変なものだろう。逆に言えば、それらコミュニケーション・ギャップからくる体験談はやたらに豊富で、次から次へと面白い挿話が続いて興味は尽きない。

 著者が言うところの「尾篭なネタがえらく多い」のは、著者が女性であるだけにあまり感じ良くはないが、実際の現場でそのような話が後を絶たないのだろう。
 いかにもハキハキと思った事を口にしそうな著者とは、個人的にはあまりお近づきになりたくはないが、話はとてもおもろい。

 2006年に亡くなったそうで、ご冥福をお祈りする。
(2015/8/28改訂)

H西からの絹の道(シルクロード)
  NEWTONアーキオVOL.9 (1999)
Newton Press考古学薀蓄
185頁1720円★★★

 わたしの敦煌吐魯蕃烏魯木斉旅行の補完として読んだ。
 トピックは断片的なで、あまり感銘を受ける記事はなかったが、折込のシルクロード地図は地理の復習に役立つ。旅情に浸らせてもらった。

 いつの日か、ヒンズークシパミールを越えて、中央アジアに足を踏み入れたいものだ。

(2015/9/2改訂)

I孤島パズル (1989)
有栖川有栖創元推理文庫推理
381頁660円★★★★

 英都大推理研究会の江上と有栖は、部の紅一点、麻里亜の伯父が持っている別荘の島に、夏のバカンスにやってきた。その島にに設置された25体のモアイ像がダイヤの隠し場所を示しているという話があり、それを発見するという名目もある。ところが宝捜しを肴にした楽しい旅行のはずが、まさかの連続殺人事件に。二年前、麻里亜の従兄が隠し場所を発見したと彼女に告げた直後水死していたが、今回の事件にこの悲劇は繋がりがあるのか。
 無線機を壊され、隔離された環境で江神の推理は・・・。

 「月光ゲーム」がわたしにとっては完全なスカだったので、本書を読んだのは気まぐれだが、本書は意外に良かった。  今回は学生が三人に絞られとることもあるだろうが、前作で鼻についた青春小説臭さも今回は程好いところで抑えられている。舞台となる島はドーナツを一箇所を千切ったような形状(ランドルト環ですな)で、その両端に一軒ずつの家屋を配置して、いかにも移動の手段と時間に関係するトリックですよという人工的な設定だが、こういった設定は好きだ。わたしは深読みしてまんまと外してしまった。宝捜し自体も興を添えて飽きることなく楽しんだ。

 なぜ登場人物をアリスだのマリアだのカタカナで呼びたがるのか、作者の意図は判らないが、とりあえずは評価のそこそこ高い「双頭の悪魔」を読む意欲が湧き出してきた。

(2015/9/2改訂)

J挑戦!嵐の海底都市 キャプテン・フューチャー3 (1940)
E・ハミルトンハヤカワ文庫SF
307頁360円

 太陽系内のどの惑星においても、体感する重力を一定に保つ重力等化機。その装置の製造に欠かせないグラヴィウム鉱石は、太陽系圏の交流には絶対にかかせない物質だが、水星、火星、土星、海王星でしか算出されない貴重な資源である。その貴重な鉱山が謎の宇宙船に次々と襲撃され壊滅するという事件が発生。慌てふためいた太陽系政府が、早速フューチャーメンに信号を送った時、あろう事かキャプテン・フューチャーは、すでに<破壊王>が差し向けた宇宙船に囚われの身となっていた…。

 今回は、最後に残った海王星のグラヴィウム鉱山を巡る、大海原の中での<破壊王>との大勝負という趣向だ。もちろん海王星は一面海に覆われた世界だ。  そこでフューチャーメンは“海悪魔”と呼ばれて伝説とされてきた海底人と精神を交換されてしまう。慣れない海底人の体で監禁されるというなかなかスリリングな展開で、ここまでの三作ではベストではないか。

 キャプテン・フューチャー世界では、水星から冥王星のあらゆる惑星に通商が可能な生命が存在する。【注6】
 重力等化機のおかげで、各惑星間の人の行き来も活発だ。重ねて言えば、太陽系政府主席の呼び出しで、各惑星のグラヴィウム鉱山主がごく気軽に小枠星帯まで会合にやってくる程。それくらい太陽系圏が狭くなっている訳だが、その割には、未だ認知されていなかった知的種族がごろごろ“新発見”される。前巻のスティックス人(“魔法使い”)に続き、本巻の海底人。先走れば、次巻には土星の伝説の鳥人が登場だ。
 まあ海王星土星も、地球に比べて表面積が格段に広いから良しとしておこうか。【注7】

 ついでながら、本巻のトホホポイント。
 <破壊王>の手下に捕まった冒頭のカーティス君。彼の身元を証明するという(あの趣味の悪い)リングで、なんと見張りを催眠術にかけて脱出する。もちろん赤毛の天才科学者は、催眠術をも完全にマスターしているわけだ。

 ツッコミだけではなんなので、好きなところも挙げておく。
 事件解決後にカーティスは、宇宙港周辺をひとり歩いていて、ふと家族の憩いを目撃する。この時に全能比類なき彼は、ふと寂し気な表情をみせる。荒唐無稽な単なる宇宙ドンパチに違いないが、たまにこういった叙情面があるのはステキ。

 とはいえ、表紙のカーティス・ニュートンは、まるで目つきの悪くなったカーク船長。【注8】
 寂しげな顔をみせたのがこのオッサンでは、かなり興醒め。


とても20代半ばとは思えないほど胡散臭い。



【注6】惑星だけでなく、衛星にもおるが…。
【注7】土星に個体の地表があるのか疑問だが…。
【注8】もちろんウィリアム・シャトナーの方だ。
(2015/9/2改訂)

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