2001年11月
トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2001年10月に戻る 2001年12月に進む
@郡上・白川街道、堺・紀州街道ほか (1972.10〜1973.5)
街道をゆく4
司馬遼太郎朝日文庫紀行/歴史薀蓄
282頁520円★★★

 須田画伯の微笑ましい頑固さで始まる冒頭の「洛北街道」では、京の都のほんの近郊でありながら、そこは街道をゆくシリーズの常で、歴史小説に取り上げられることの少ないこぼれ話が楽しい。

 岐阜から富山湾へ抜ける「郡上・白川街道と越中街道」では、“油売り”斎藤道三に乗っ取られた斎藤氏の祖、斎藤妙椿の話が印象的だ。

 京長岡から兵庫に出て南下、武庫川ほとりの三田へ向かう「丹波笹山街道」では、当然のように明智光秀羽柴秀吉に触れながらも、“謀反”ということから連想して、昭和十年の大本教弾圧事件というものも取り上げている。

 始終雨が降っているのと、過去の華やかさとのギャップが物悲しい「堺・紀州街道」

 織田信長豊臣秀吉時代が大きく扱われるので、とっつき易さでは一番なのが、「北国街道とその脇街道」

 本巻では(たしか)早くも土地造成問題に触れられており、後年の文明批評家の兆しが見えるようだ。
 もしかすると、このシリーズの仕事で日本全国を回ることで、どこの土地も同じような顔へと改造されていくのを目にすることが多くなり、問題意識がどんどんと大きくなっていったのだろうか。

(2015/7/19改訂)

Aバンドネオンの豹 (1991)
高橋克彦講談社文庫伝奇
261頁495円★★

 ギニア高地の翼竜。地球空洞化説ナチスの残党にノーチラス号ネモ船長おいおい。
 地底世界に眠る最終兵器を我が物にし、世界征服を狙うサーベルドラゴンの野望の前に立ち塞がるは、バンドネオンの豹となぜか彼の親戚の少年少女。この題名が不思議だったが主人公の名前である。悲しいことにバンドネオンが楽器名であることも知らなかったよ。

 “バンドネオンの豹”こと目賀田豹祐だが、明治時代にタンゴを広めた目賀田男爵というのが実際にいたらしい。なんと勝海舟の孫ということだが、それは特に物語に関係してこない。解説には“荒唐無稽な物語にリアリズム”という文があるが、はっきり言って浮きまくった設定である。バンドネオンとはドイツ生まれのアコーディオンに似た楽器で、アルゼンチンでタンゴと結びついたらしい。著者の友人との個人タイアップということだ。

 冒険に書いたような恐るべき設定ながら、300頁以下の薄さというところがとっても胡散臭く、これまで本書を手に取らなかった。しかし本書の続編「豹世紀」では、トルファンの地下に秘密基地があるとという紹介に、不覚にも惹かれてしまったのだ…。【注1】
 ちなみにトルファンの地底と言えば、地下水路カレーズを実見したときには、妖しげな基地には気付かなかった。

  


 まさしく100%ジュブナイルなので、なんで講談社文庫で出版されるのかが理解に苦しむところだが、小学生当時に読んでおれば、十分印象的だったかも。  子供向けとはいえ、高橋節は健在なり。

【注1】2015年現在、「豹世紀」はまだ読んでない…。
(2015/7/19改訂)

Bアーサー王伝説 (1997訳)
A・ベルトゥロ創元社「知の再発見」双書歴史薀蓄
174頁1400円★★★

 アーサー王と言えば、キャメロットエクスカリバーマーリンランスロットといった固有名詞は出てくるが、しかし体系的にはどうもよくわからない。そこで整理のために読んだ次第だが、わからんのもむべなるかな。アーサー王物語の成立過程はえらく複雑だった。

 そもそもアイルランドに残る神話では、人間はブリテン島に移住してきた5番目の種族という。
 人間がブリテン島の主となってからも、原ケルト民族ブリトン人、そしてピクト人スコット人、さらに後にはサクソン人ノルマン人等々が入り乱れあい、彼らのせめぎ合いの中からアーサー王伝説が生まれたようだ。

 カエサルに始まるローマの侵攻ももちろんアーサー王伝説に大きな影響を与えており、ローマ人が国境防衛の為にロシアの地から連れてきたサルマティア人の神話の一部には、かなり類似した話があるらしい。
 しかしアーサー王神話が大きく発展したのは、ノルマン人王朝であるプランタジネット朝自らの正当性を高めるために自分達の祖をアーサー王と結びつけて喧伝した12世紀ということだ。そして、その後は時代々々で封建制やキリスト教の影響を大きく受け円卓の騎士物語や聖杯伝説が加味されてきたということだ。

 ということが、すこしだけ解った・・・。

(2015/7/19改訂)

C
 Lagoon (1999訳)
T・J・マグレガー創元推理文庫ホラー
640頁1000円★★

 湖畔のペンションを経営する男が、突如自分のレストランで銃を乱射、大勢を殺傷したうえ自殺した。彼の恋人で町の医師のフェイは、彼に奇妙な皮膚病の感染があったことに気付くが、この事件以後、ジョージア州の静かな田舎町であったラグーンは徐々に不気味な変容を遂げ始める・・・。

 突然変異を起こした動植物、変容した人間は顔が崩れ生肉に異常な関心を持ち、他を襲い始める。町には大きな製薬会社があり、陸軍も裏で動き始めている。そして町の名が“ラグーン”とくれば、ゲーム「バイオハザード」との関連性を疑わずにはおれない。
 あとがきには「Xファイル」にまで言及されているというのに、「バイオハザード」には何等触れられていないのが不思議。本書が先のようだから、ゲーム開発の段階で何らかの関連があったと思うのだが・・・。

 内容についてだが、これはまったくの不完全燃焼といったところ。
 突然変異の理由も明かされないまま、ラグーンから脱出した時点で終わってしまう。当然製薬会社の生物実験が原因と思いきや、ラグーン以外のいくつかの町でも現象が発生しているようでもあり、世界的規模の同時多発的な突然変異のようにも匂わせている。そして“生肉食いてー”段階を終え、繭になった人間が、次にどうなるのかもわからない…。

 ラグーンの地域は周りから十数度も温度が低くなっている。
 地熱や放射能の影響で気温が異常に高くなるならともかく、低くなるとは一体何が熱エネルギーを吸収しているのか。えらい勢いで蒸発してる液体でもあるのかと考えていたのだが、まったくなんの説明もされない。
 ただの雰囲気の盛り上げとは情けない。

 600頁以上も期待をさせたまま(その筆力はある)読ませた挙句、明日はどっちだで終わってしまうのは、なんとも腹立たしいところだ。

(2015/7/19改訂)

D十三角関係 山田風太郎ミステリー傑作選2 <名探偵篇> (1956)
山田風太郎光文社文庫
634頁857円★★★

 高木彬光「挽歌」冒頭、神津恭介の祝賀会席上に、なぜか場違いの山田風太郎荊木歓喜という容貌魁偉な人物が登場する。この人物こそ本書<名探偵篇>の探偵役である。
 本書には収録されていないが、どうやら高木彬光山田風太郎の共作で「悪霊の群」という神津/荊木両探偵が登場する長編があるらしい。

 ともあれ、本書には8つの短編と、表題で300頁のボリュームのある「十三角関係」が収録されている。
 この“十三角関係”という題名はなかなか強烈な印象を喚起させるし、風車のそれぞれの羽根にくくりつけられたマダムのばらばら死体という舞台設定は、いかにもな設定でステキだが、展開も解決も今ひとつの観があって、残念ながら心に残るものではなかった。

 他の短編も、女郎屋社会での堕児を専門とする医者である荊木歓喜と、彼の周囲の舞台設定からくる雰囲気を楽しめるものの、それを除けば特筆すべきものはない。
 まぁその中では、歓喜が入院した病院を舞台に、医師と看護婦の人間関係をてきぱきと紹介して話が進む「女狩り」が印象的か。

 荊木歓喜の描写からは、少なくとも彼ははげではないことは明白なのだが、なぜかわたしには丹下段平のイメージがだぶって仕方なかった。

(2015/7/19改訂)

E醜い中国人 (2001)
黄文雄徳間文庫民族薀蓄
262頁514円★★★

 中国人の著者が自国の批判をするということで、興味を惹かれて読んだわけだが、これはわたしの早とちりで、著者は台湾人だった。
 したがって著者自らが“独断と偏見に堕していなければ幸い”と断りを入れてはいるが、中立な目線に立っているとは言えないかもしれない。
 中身を読むと、中国人のことをそれこそぼろかすに断じている。

 とはいえ、他の中国人論を見ても、程度の差はあれ同様の点を強調している。
 同じアジアの黄色人種で、1800年も昔から活発な交流のあった隣人、というようなあまちゃんな態度ではいかんという大筋には全く同感だ。
 逆に外見が似ているだけに、歴史、思想的な背景(曰く、道教中華思想人治国家共産党至上)をきちんとおさえたうえで付き合っていかなくては、利用されるだけされて裏切られることは十分あり得るというものだ。
 特に企業にとっては、巨大な中国市場に目を奪われがちだが、石橋をたたくリスク管理が必要。

(2015/7/19改訂)

F秘剣龍牙 (1996)
戸部新十郎徳間文庫時代
279頁514円★★★★

 武田、今川、北条の三国同盟が崩壊していく背景で、武田の軍師、山本勘助に育てられた忍び同士の宿命を辿った「睡猫」は、作者の枯淡な境地に合っているのであろう、大抵の本ではクソミソに言われる今川氏真が一種の超越した風流人として扱われるのが新鮮。

 「前田太平記」の主要キャラでもある富田重政が、前田家に恨みのある男が息子を使った企みに、主命を帯びて対峙する「浮舟」

 「燕飛」「陽炎」「足譚」柳生新陰流の絡む話で、先の2つはそれぞれ剣豪小説ファンならば周知の愛州陰流二階堂流と対峙する。後の一つは、柳生家と同じく将軍家兵法指南役である小野忠常が柳生を訪ねるところから始まる。
 いずれも柳生に善悪の色を決めてしまうことはせず新陰流の流れや小野派一刀流との関係等をおさえながら、余韻を残す好編だ。

 残り二編は江戸末期が舞台。「龍牙」は幕末の出来物として高名な白井亨と不思議な青年との関わりを描き、「芥子」練兵館斉藤道場で特異な位置を占めた仏生寺弥助の悲哀を描いている。桂小五郎の冷徹さが厳しい。
 作者にかかると、一心不乱に私怨や国事に奔走する人物は、常に敵側として主人公に対比するように配される。

 なんにせよ、著者の真骨頂が出るのは短編であることを再確認した一冊だ。

(2015/7/19改訂)

G図解雑学 三国志 (2000)
渡邉義浩ナツメ社時代
260頁1300円

 知らない間に図解雑学シリーズはこんな歴史ものも扱うようになっていたとは知らなかった。
 なるほど、見開きの左に文章による説明、右に図解という本シリーズの特色は、歴史の説明にも非常に有効だ。“図解”部分に地図や人物関係図を載せているのが非常に解りやすい。
 歴史合戦物の解説に地図はやはり必須だ。

 三国志と言えば曹操の強大さが思い浮かぶが、全般的にこの時代には君主権は確立されておらず、“君主権力”VS“名士層”という切り口が、本書のキモである。
 名士というのは、知識層の中でその能力にて名声を得た人物のことで、例え隠遁していても、名声ゆえに君主に好条件で召され、政治や軍事の中枢を担う事例が数多かったらしい。最も有名な例はもちろん諸葛亮孔明だ。
 自分の才以外にバックボーンをもたない名士といえども、代を重ねれば貴族化するし、単純に君主VS名士でひとくくりするのは危険だと思うが、なかなか興味深い。
 このつばぜり合いの一つの結果が、赤壁の戦いより後の曹操荀ケの対立と彼の死なのだが、漫画「蒼天航路」での荀ケは、曹操の一の弟子という位置にいるので、ここをどう処理するのか、今後の「蒼天航路」から目が離せない。
 もっともあの漫画のことだから、なんとでもするのだろうが・・・。

 そうそう、本書巻末の参考文献欄には、「三国志の迷宮」も挙がっていた。

(2015/7/19改訂)

Hバラ迷宮 (1997)
二階堂黎人講談社文庫推理
350頁571円★★★

 サーカスの出し物、人間大砲が発射された瞬間、衆人環視の中忽然と現れたのは、ばらばらの死体と肉片だった。・・・「サーカスの怪人」

 女性を狙い、首から上を悲惨に損壊するという、湖畔で起きた連続猟奇殺人鬼との対決。・・・「喰顔鬼」

 ある一族を襲う人体自然発火の呪いに挑む「火炎の魔」

 6編中の3編が上記のような猟奇殺人ということで、著者はよっぽどこういうのが好きなのだろう。
 「地獄の奇術師」以来の久しぶりの二階堂作品である。実はあまり好きになれず敬遠していたのだが、あの長大さが特長の「人狼城の恐怖」は読まざるをえないので、もう一度、前回の読後感が二階堂作品全般に共通するのかどうかを確認する意味で、特に短編集を選んでみた。

 しかしやはり痛い。二階堂蘭子が痛い。

 最近は、自らは探偵を名乗らないか、あるいは悩める探偵ばかり読んできたせいか、“あたしは名探偵、自身満々。強靭な精神力でどんな猟奇事件もへっちゃらよ。”と来られると少々ひいてしまう。おまけに個人的には、タカラヅカのかつらを被った可愛い気のない小娘という偏見がどうしても拭えない。なぜだ?

 探偵小説におけるはったりの利いた派手な不可能殺人は、個人的に大いに応援するところ。
 大いに頑張ってもらいたいが、正直なところ短編でこれをやるのは非常に難しい。人物や雰囲気描写、それに薀蓄等々の書き込みでよほど補強してやらないと、“合理的な解決”にとても無理矢理感が漂ってしまう。そこに「あたしは名探偵、自身満々よ」とくるので、どうにも萎えてしまう。

 結局、そんなに上手くはいかないよなと印象を持ってしまう話が多い。
 少なくとも液体窒素をぶっかけて即死させるのは無理だろう。体温を凍結するまで下げるのには液体窒素とはいえある程度時間がかかるので、例えば液体窒素を注いだビーカーの中の消しゴムは、素手で十分回収できる。
 学生時代に液体窒素をタンクから少々失敬して、デザートのゼリーとかを凍らせて喰ったものだ。いや懐かしい。
 床に撒いてカラオケショーとかしたもんだ。

 それはともかく、やはり「人狼城の恐怖」を読む日は遠い。

(2015/7/19改訂)

トップ頁に戻る “本”の目次に戻る 2001年10月に戻る 2001年12月に進む