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| @ | 「三国志」の迷宮 儒教への反抗 有徳の仮面 | 山口久和 | 文春新書 |
| 歴史薀蓄 | ★★★★ | ||
| 190頁 | 660円 | ||
| 三国志関連の書籍では、蜀に同情的に脚色され一般に流布している「〜演義」から距離をおいて、客観的に評価しようという動きがさかんじゃ。いわゆる“桃園の誓い”から始まる「三国志通俗演義」は遥かな後代、明の羅貫中によって脚色された小説で、陳寿のまとめ上げた紀伝体の正史としての「三国志」とは、まったく内容が違うわけじゃな。羅貫中の「演義」には、単にフィクションというだけでなく、明代の思想である朱子学の影響を受けている訳じゃが、陳寿の正史にしたところで、彼の父親が蜀の役人であり、彼自身は蜀を滅ぼした魏の将軍司馬氏が、さらに興した晋の宮中で正史を編んだという彼の生涯に、なんらかの影響を受けているはずだということじゃな。 | |||
| 本書の著者は学者じゃから、もちろん「〜演義」の内容とは全く違った考察がされとる訳じゃ。 前王朝である後漢の後半が乱れた大きな要因である儒教に注目し、法家としてあくまで合理的に、場合によっては残虐な処断を恐れない曹操には、彼が儒教の弊害を小さい頃から見て育ったことに対する反抗を見る。あるいは、これはわしにとっても新鮮じゃったが、劉備の人徳には儒教の倫理観が浸透している一般社会に対するパフォーマンスが多分に含まれておると見ておる。 他にも“三顧の礼”に始まる諸葛亮孔明の実際を検証しようとしており興味深い。 | |||
| A | 古代エジプト探検史 | J・ベルクテール | 「知の再発見」双書 |
| 考古学薀蓄 | ★★ | ||
| 234頁 | 1400円 | ||
| ビジュアルの多い探検史で、特に版画などの絵が充実しておる。それらを眺めているだけでも結構楽しい。 しかし本文のほうは、訳に問題があるのか原文がまずいのか、妙にぎこちなさが目立って面白味のない文章じゃった。教科書的と言えばよいのか、一般読者向けとしては不十分じゃな。 ロゼッタ・ストーンを解読した事で有名なシャンポリオンを中心とした、ヒエログリフの解読についての章は興味深く読めたが、イギリスとフランス、それに現地人を含んでの盗掘競争については、もっと書きようで随分と面白くなるのではないかのお。 | |||
| B | 秘湯中の秘湯 | 清水義範 | 新潮文庫 |
| ユーモア | ★★ | ||
| 257頁 | 438円 | ||
| 定期的に著者の洒落っ気に富んだ短編集を読みたくなることは前にも書いたと思うが、本書はだめじゃった。全然じゃ。日本語表現の面白さが著者の短編のウリで、その目線と文章の上手さにいつもなら感心してしまうとこなんじゃが、本書はいかん。 表題作を含めて11の短編からなっておるが、OKを出せるものが1つもなかったわい。その日本語術によってなんとか短編の形になっておるが、もはやこの方向では、彼の泉は枯れてしまったのじゃろうか。わしとしては悲しい。 それならば昔に戻って、ジュブナイルSFを書いてくれんじゃろうかと思うのは、「エスパー少年抹殺/時空作戦」が好きなわしの儚い希望じゃ。ああ、「魔獣学園3」というのは無理じゃろうか。 | |||
| C | 富豪刑事 | 筒井康隆 | 新潮文庫 |
| 推理 | ★★★ | ||
| 253頁 | 438円 | ||
| 7年前に起こった5億円強奪事件の容疑者は、時効まで残り3ヶ月を残して4人に絞り込まれていたが、そこから先これといった決め手がなく捜査陣には焦りが生じていた。そのとき捜査員の一人神戸大助は、真犯人がぼろを出さずにいられないおとり作戦を提案した。その作戦は、キャデラックを乗り回し、1本8千5百円の葉巻を半分も吸わずに捨て、10万円以上のライターをところ構わず置き忘れ、イギリス仕立ての特注スーツを着て平気で雨の中を歩き回る彼にしかできない作戦だった・・・(「富豪刑事の囮」)。 筒井康隆を読むのはえらく久しぶりで、もしかすると昔々“七瀬3部作”を読んで以来かもしれん。著者には、一方で「エディプスの恋人」のようなそら恐ろしい宇宙を描き、もう一方では怪作「村井長庵(?)」なんぞも書くという、なんとも異能の作家というイメージを | |||
| わしは抱いておるのじゃが、本書は素直なユーモア推理小説といったところじゃな。 犯人に事件を再現させるために、建物1個をコピーし、ダミー会社を作り、財界の大物や一流学者を臨時の経理担当や技術担当にするという「密室の富豪刑事」はなかなか笑えたが、他の3編は評判ほど派手な話ではなく、聞いて期待していたほどではなかったのお。あの筒井康隆が意外にフォーマットに則った推理小説を書いたというところに、好意的な評価が集まっているようじゃが、わしはユーモアミステリというのは結構苦手な口で、これくらいの評価しかできん。しかしそういった話を気楽に読み飛ばすのが好きな向きにはお薦めじゃな。 | |||
| D | ブラッド・ミュージック | G・ベア | ハヤカワ文庫 |
| SF | ★★★★★ | ||
| 405頁 | 760円 | ||
| バイオチップ開発専門として発足したジェネトロン社に契約社員として勤めるウラムは、社内で禁止されているウィルスやバクテリアの遺伝子を組替えを行い、社を首になった。 彼が作ろうとしていたのは、シリコンとたんぱく質でできたバイオチップではなく、細胞に含まれるDNA自体を演算に使おうとする自立型有機コンピューター、言い換えれば知的細胞を作る研究だったが、彼が廃棄を命じられた研究成果――アカゲザルなみの潜在知的能力を持ったリンパ球――を、社外へ持ち出すために自分の体に注射したとき、人類の未来は予想も出来ない方向へと向かってしまうのだった・・・。 | |||
| 最初ウラムが主人公だと思っていたときは、彼を糾弾するハリスンのほうが旧弊な感がしたもんじゃが、物語が進むと解雇くらいの生易しさではさっぱり処置が足りんかったことが判ってくる。知的細胞VS人類というストーリーは数え切れんくらいありそうじゃが、本書は目いっぱいぶっ翔んどるぞ。80年代の「幼年期の終り」という紹介は知っておったからある程度の構えはあったが、宇宙の組成――物理法則も含めてということじゃ――すら変わってしまうという大風呂敷は、それを遥かに超えておる。 この既存宇宙の崩壊が、たった一人のやや危機管理の認識の低い科学者によって引き起こされたというのが非常にブラックじゃな。 しかし最早現実とか非現実とかの定義すら壊れて、意識の不滅、過去の記憶の再構築が可能な思考宇宙は、――「エディプスの恋人」のような薄ら寒い感覚を覚えるものの――天国と同義であると言えるじゃろう。 | |||
| E | 左手に告げるなかれ | 渡辺容子 | 講談社文庫 |
| 推理 | ★★★★ | ||
| 423頁 | 667円 | ||
| スーパーなどで万引き客の補導にあたる保安士の八木薔子は、ある日職場で刑事の来訪を受ける。八木と以前不倫関係にあった木島の妻祐美子が殺されたというのだ。その妻に多額の慰謝料を払い、職をも変えたという過去を持つ彼女は、容疑者の一人に挙げられたのだった。 それ以来、仕事に熱が入らない彼女は補導の実績が落ち込んでしまうが、それを見かねた指令長の板東は、八木に殺害現場(つまりは不倫相手の自宅)の程近い店への出向を命じる。数年ぶりに再会した木島にも手伝わせながら、八木は木島夫人の生前の生活を洗い始めるが・・・。 | |||
| 第42回江戸川乱歩賞受賞作品。 八木にとっては、慰謝料をふんだくった攻撃的な顔しか知らんかった木島夫人じゃが、その背景を探るうち、やはり近所に敵の多い半面、彼女が意外と面倒見の良い面を持ち、老人ホームのボランティアにも積極的に参加していたことが判る。しかし善意にしろ敵意にしろ、声高に吹聴せねば気がすまない性格が浮かび上がるんじゃな。この性格を聖書の文言になぞらえたのが本書の題名“左手に告げるなかれ”じゃな。 本書では大型スーパーVSコンビニという小売業界の裏側事情が本書の興味を繋ぐ重要なポイントで、コンビニのアドバイザーたちの不審な連続死が木島祐美子殺しの背景に存在するらしいこともわかってくる。本書での大型スーパー「ミギワヤ」と、そこから派生し親をも凌ぐ大手コンビニとなった「ディン・ドン」の対立もまた、本題名を想起させるものじゃ。 しかし、すごく上手く作ってあると思うのじゃが、どうにもわしには八木の一人称が肌にあわんかったわい。彼女はしっかり自立しているとはいえ、昔の不倫相手の木島を忘れられない弱さを持っておる。時に気障ったらしいハードボイルドタッチの文体とのマッチングが今ひとつ相性が悪く感じたのじゃが。 余談じゃが、先日こいつのドラマの再放送が放映されておったので、ついつい見てしまった。天海祐希が演じておって、これは別に人選としては悪くないんじゃが、彼女はNHKで「凍える牙」の音道も演っておるんじゃのお。男に負けない自立女性のイメージといっても、他に選択肢もあるじゃろうが・・・。ちょっと笑ってしもうたわい。 一見原作に忠実のようで、かなり端折っておったし、ラストも180度変えられてたぞ。 | |||
| F | シャーロック・ホームズのクロニクル | J・トムスン | 創元推理文庫 |
| 探偵 | ★★★ | ||
| 318頁 | 580円 | ||
| ディアーズウッド侯爵と交際を始めたばかりのラッセル嬢は、侯爵の後見人である叔父から、侯爵はボート事故で死んだことを伝えられる。しかしある夜、彼女は侯爵家の敷地内に男二人に挟まれた侯爵を見かける。謀略を感じた彼女はホームズを訪ねるが・・・「パラドールの部屋」 ホームズとワトスンが訪れたミュージック・ホールで、看板の歌姫が殺された。絶えず誰かの目があった殺害現場の楽屋から、犯人はどう消えたのか・・・「ハマースミスの怪人」 ホームズが逮捕した美術品強盗の背後には、黒幕の存在が・・・。マグパイと名付けた黒幕にホームズがわなを仕掛ける・・・「メイ | |||
| プルステッドのマグパイ」 奇妙な依頼で往診した医者は、その家でナルコレプシーだという女性を診療するが、後日何らかの犯罪を懸念し、ホームズを訪ねる・・・。ホームズとワトスンが窓拭き職人に変装する「ハーレー街の医師」 若き日のホームズが、ロシアのスパイが起こしたと思しき殺人事件を潜入捜査で炙り出す「ロシアの貴婦人」 警察を振り切ってホームズの下に逃げ込んできた青年の冤罪を晴らす「キャンバウェルの毒殺事件」 テリア犬ほどもある巨大な鼠の群れをロンドンの下水道に流すと、イギリス政府に脅迫状を突きつけたパイド・パイパーとホームズの対決・・・「スマトラの大鼠」 いずれもC・ドイルの原作に断片的な言及があった事件を、パロディに走らず真面目に小説化した、正調贋作シリーズ第2弾。再読じゃ。 贋作というと退いてしまいがちじゃが、ドイルの原作に混ぜ込んでも十分に耐え得る作品揃いじゃ。多数織り込まれた注釈も(ホームズマニアならば)楽しいのお。特に哀感漂う「メイプルステッドのマグパイ」がお薦めじゃ。 | |||
| G | 語っておきたい日本史 | 森浩一 | 新潮文庫 |
| 歴史薀蓄 | ★★★ | ||
| 230頁 | 438円 | ||
| H | 次元がいっぱい アシモフの科学エッセイ8 | I・アシモフ | ハヤカワ文庫 |
| 科学薀蓄 | ★★★★ | ||
| 327頁 | 544円 | ||
| 物理や化学のつまらん定理も、アシモフの饒舌で先人の苦闘と悲喜劇を語ってもらうと、すごく面白い話になるものでいつもながら感心じゃ。まあ最先端のトピックという意味ではやや時代遅れ――なんせわしが産まれる前の本じゃから――ではあるのじゃが、最先端の話題よりは先人の研究歴史ネタが多いので、一般的にはほとんど気にならんじゃろ。 今回も数学、物理学、化学、生物学、天文学と章分かれしており、それぞれの分野がまた幾つかのトピックに分かれておる。 最初の数学は、でかい数の簡便な表記法であったり、簡単な二進数の変換であったり、特に興をそそる内容ではなかったが、続くπの話では15年もかけてπの桁を707位まで計算したシャンクスの悲喜劇、――76年後、1949年には大型コンピューター | |||
| ENIACの登場で、あっさりと記録を抜かれたばかりか、500位付近で間違いがあったことも解ったのじゃ!――の合間にでてきたπの近似値はわしを驚かせおった。16世紀に発見されていたというその値、355/113はなんと3.141592まであっとる。これは知らんかったのお。(なんでも日本じゃついに学校で教えるπの近似値が“3”になるそうな。ほんまにこれでええのか!日本?) 他にも物理学では、古典的SF(スペオペと言うほうがよいか)では欠かせない、宇宙空間を満たす“エーテル”について。 化学では、物を燃焼させる“燃素”から水素、酸素の発見と、それに関わる3人の学者の物語。 生物学では、エンドウマメの交配から遺伝学の基礎を作ったメンデルの事績。これは有名な話じゃが、メンデルが本職は修道士で、その業績は生前は全く評価されずにこてんぱんに貶され、死後も長い間埋もれたままだったということは初耳じゃった。そしてメンデルの死後16年たって、同じ遺伝の法則を別々に発見した3人の生物学者が、埋もれたメンデルの論文を再発見し、自分たちの功績を放棄して無名の修道僧を称えたのは素晴らしい出来事じゃ。 ラストを飾る「雑学」での、“アイザック賞受賞者発表”はご愛嬌。 | |||
| I | 三国志 英雄妖異伝 | 坂口和澄 | 創元推理文庫 |
| 探偵 | ★★★ | ||
| 235頁 | 514円 | ||
| 「三国志」の補完の意味で読んでみたんじゃが、後漢後半から分裂時代を含んで晋の時代まで、さまざまな文献に残った多くの伝奇的な話を集めておって、そのほとんどが初めて耳にする人物の話じゃ。それはそれで興味深かったりするし、確かに三国志の時代をまるまる含んでおるわけじゃが、この内容を赤文字で“三国志”と題するのはあまりに小ずるい。 | |||
| J | ホログラム街の女 | F・P・ウィルスン | ハヤカワ文庫 |
| SF | ★★★★ | ||
| 312頁 | 660円 | ||
| 限定された環境でクローン人間が容認され、厳格に出産制限がされた近未来の地球。その社会で私立探偵を営むシグ・ドライアーは、ある日ジーン・ハーロー=Cというクローンの訪問を受ける。自分を真民として、外宇宙へ連れて行ってくれる約束をした男が行方不明になったので、探してほしいと言うのだ。そんなことはありえないことだ。彼女がその男から渡されたグリーンカードは偽者に決まっている。リーダーに通した瞬間に彼女が誰かの持ち物であることがばれるだろう。 そう思いながらも金貨につられたドライアーは調査を開始するが、たちまち暗黒街の親玉にジーンともども拉致されることに・・・。 これが第一部の始まりで、まあなんのことないSFハードボイルドの始まりという印象じゃが、二部、三部と進むにつれ、ドライアー | |||
| は社会からは未公認の、それゆえ存在すらしないものとされている落とし子問題にどっぷりとはまり込むことになる。 「聖母の日」を読んだときは眩暈に襲われたが、話の広がらせかたはさすがB級エンターテイナー、やはりF・P・ウィルスンは“押し”じゃな。 このストーリーテリングを脇から支えているのが、様々なSF小道具的な設定で、クローンの娼街になっているダイディータウンがもとは国連ビルであったり、暗黒街の親玉宅の庭にはクローンのティラノサウルスが“番犬”として放されておったり、細かな部分が楽しい。第二部冒頭の単分子チェーンとドライアーを襲った災難は、全体を通じての白眉じゃ。 それにしても、本書の陳腐な邦題のつけかたと美容院の宣伝のような表紙はなんとかならんものか。 | |||
| K | 不安な産声 | 土屋隆夫 | 光文社文庫 |
| 推理 | ★★★ | ||
| 391頁 | 619円 | ||
| 人工授精の研究で高名なさる医科大学の主任教授久保伸也が、ある女性の扼殺犯として捕まった。他人の賞賛と畏敬の眼差しで見られることに慣れ、権威の道をまっしぐらに突き進んできた久保はなぜ殺人まで犯したのか。彼は劣情に支配された卑劣な犯行であると自ら主張するが、その裏には自らを殺人犯として葬っても守らねばならない過去があった。しかし彼は、担当検事である千草に全てを打ち明ける決意をし、長い手記を書き始める・・・。 途中で三人称の展開もあるが、ほとんどが久保伸也が自分の犯罪に至った行跡を辿る手記になっておる。 しかし何というか、オチに関わるから詳しく書けんが、途中で久保の犯行の理由もおおかた見当がつくし、そのうえで、結局は久 | |||
| 保本人の倫理観の問題に収斂されるんじゃのお。なんとも腰の座りの悪い印象を受けたわい。 社会的にも影響力のある高名な医者が起こした卑劣な殺人事件という図式。肉親を始め近隣関係者が受けた衝撃を思えば、彼の頑固な態度はほとんど意味がないじゃろう。 これだけ見事に自分の心中を手記で説明できるなら、犯行の前に関係者へ読ませるべきだったのお。もっとましな展開になったじゃろうに。 | |||
| L | 五分後の世界 | 村上龍 | 幻冬舎文庫 |
| 冒険 | ★★★★ | ||
| 293頁 | 533円 | ||
| 違法すれすれに詐欺、恐喝など、殺人と強姦以外の悪事を重ね、不況の煽りでピンク映画の会社が倒産してからは、他人名義の不動産でなんとか凌いでいるという小田切は、ジョギング中に何の脈絡もなく、異様な集団とともにぬかるみの中を延々と歩いていることに気付く。死んだのか、夢なのか。思考が追いつくよりも早く、前を歩いていた男が日本語とも思えない言葉で何かを言い、歩くのをやめたとき、どこからともなく現れた男は、小田切が言葉も忘れるほどの滑らかさで、男を殴り、小銃を構え、そして行進が動きだすと消え去った。その圧倒的な印象を小田切に与えた男は兵隊の姿をしていた。 その世界では、太平洋戦争で徹底抗戦を続けた日本人は激減し、国土は大国に分断進駐され、僅かな“純”日本人は地下にゲ | |||
| リラ国家を継続させているという、太平洋戦争中からの位相のずれた日本世界だった。 小田切は、質素ながら凛とした美意識を持ちつづけている地下の日本人と接するにつれ、一種の尊敬の念を抱くようになるのじゃが、それら現代社会へのアンチテーゼをどう捉えるかは難しいところじゃ。しかし、前半アンダーグラウンドへたどり着くまでに小田切が味わう圧倒的な不条理感と、ひたすら渇いた戦闘描写は、ぜひ一読してみると良いじゃろう。 | |||
| M | 傑作ミステリーベスト10 20世紀総集完全保存版 | 週刊文春編 | 文春文庫PLUS |
| ミステリ薀蓄 | ★★★ | ||
| 595頁 | 914円 | ||
| 「週刊文春」の年末恒例らしい“傑作ミステリーベスト10”を1977年からの24年分――83年からは国内、海外に分けて――掲載しておる。これまでわしの視野に入ってこなかった名作を浚いたい意図で目をとおした訳じゃ。わしのように多くのジャンルを読みたいと、できる限りハズレを少なくする必要もあるしな。 そこで本書じゃが、あまりに幅広い取り合わせ。冒険、謀略といったスパイものやホラーまで、例えばS・キングの「IT」なんぞも“ミステリー”に含まれるらしく、1991年度の海外部門3位にランクインしとる。いくらなんでものお・・・。 “ミステリー”の範疇の広さを別にしても、選考委員たちの基準はわしのそれとは随分異なっており、先に取り上げた | |||
| 「不安な産声」は1989年度国内部門の1位なんじゃが、同年4位の「奇想、天を動かす」、7位の「クラインの壷」より上だとは思いにくい。 それでも本書をもとにbk1やアマゾンで検索し、10冊ほどを購入したが、かなりの本が現在入手不可なことに悲しみを感じるのお。 | |||
| N | 二の悲劇 | 法月綸太郎 | 光文社文庫 |
| 探偵 | ★★★ | ||
| 422頁 | 619円 | ||
| マンションでOLが絞殺された。殺された後に顔面をガスレンジで焼かれるというこの凄惨な事件ではあるが、被害者と同居していた幼馴染の女が失踪しており、この失踪女性が捕まれば事件も解決するであろう単純なものと思われた。 しかしこの事件を法月警視が綸太郎の誕生日に持ち出し、綸太郎はこの事件に興味を引かれることになる。被害者を発見したのは彼女の会社の同僚で、失踪中の同居人の婚約者。愛憎のもつれからの怨恨の可能性も。いや、顔を焼いた裏には入れ替わりの作為があるのでは・・・。そして殺された清原奈津美には京都に男の影が見え始め、舞台は東京から京都へ。単純そうに見えた事件の裏には・・・。 | |||
| その京都の男の目線で物語はオフビートに始まり、互いの小心さから起こった小さなすれ違いが大きな悲劇へと発展してしまう。はなっから明るい話でないことは判っておるので、捻りの効いたプロットを期待しながら読み進めるが、うーむ、まあこんなもんかのお。 それを導入する事で、きっかけとなった誤解の出所を上手く説明しておるんじゃが、人に拠ったら陳腐なオチと暴れてしまうかもしれん。しかし、わしは不思議と腹はたたんかったのお。意外とわし、こういう話好きなんじゃろうか。 法月綸太郎が説教垂れてるのは余分ではあるが。 | |||
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