2002年 8月
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@偽のデュー警部
 The False Inspector Dew (1982)
P・ラヴゼイハヤカワ文庫推理
438頁760円★★★

 歯医者に惚れた花屋の娘は、その彼がわがままな女優の妻に振り回されているのを知り、妻の殺害計画を立てる。妻が乗った大西洋横断の豪華客船に二人で偽名で乗り込み、彼女を洋上で亡き者にしようという計画だ。
 だがバラノーフ(歯医者)が茶目っ気である偽名を名乗ったことから、彼は洋上の客船という閉鎖環境の中で、とんだ役割を負うことになる・・・。

 ある偽名もくそも、題名が“偽のデュー警部”なのだからそういうことで、犯人が探偵に祭り上げられてしまうという悲喜劇である。それがクリスティーっぽい上流階級の色恋を交えながら展開されるというわけだ。どんでん返しもあって雰囲気も良いが、なぜか推理小説を読んだという気がしない。メロドラマ的な要素が濃いからか。

 バラノーフが、デューを名乗るネタとなったクリッペン事件は英国では有名なようだ。ドロシー・L・セイヤーズピーター卿シリーズでも触れられていた。

(2015/3/12改訂)

A森博嗣のミステリィ工作室 (2001)
森博嗣講談社文庫エッセイ
440頁714円★★★

 著者が選んだ本を100冊紹介している。一応推理小説をメインとして、8割弱をそこから挙げているが、その選択は意外にスタンダード。エラリー・クイーンアガサ・クリスティーに始まる一連の古典作家たちが並んでいる。内容紹介も非常に常識的な、本当に推理小説初心者が参考にすればよい選になっている。ちょっと意外だ。

 後半には日本作家の作品も並ぶが、どちらかというと、こちらは著者が作家になってから読んだような匂いを感じる。つきあいで挙げたのもあるような…。彼のミステリの素になったのは海外作品なのだろう。(実際に執筆のきっかけになったのは、ある日本の作品らしい。“これくらいなら自分でも書ける”というような)

 彼は文章の切れ味のするどさを重視していて、そのあたりから選んだ本やあるいは詩集が目立つ。なるほど森ミステリの人気は、推理小説としてのトリックや論理性ではなく、ちょいちょい顔を出す詩的な鋭さを持った文章に理系のボキャブラリーを被せた表現に負っていることが大きいような気がする。

 100選以外は、自分の周辺紹介のエッセイになっているが、彼の多趣味(とそれに対する実行力)にはまったく頭が下がる。一体いつ本業の研究をしてるのだろうかと邪推したくもなるが、時間の有効利用を高効率で行える思考の切り替えスイッチがしっかりしてるのだろう。時間を上手く使えないわたしには羨ましい限りだ。“青の6号”も羨ましい限り。

(2015/3/12改訂)

BもうひとつのMONSTER (2002)
浦沢直樹/長崎尚志小学館サスペンス
348頁1238円★★★

 「パイナップルARMY」以降、「MASTERキートン」「MONSTER」と読み続けてきたが、こんな書籍までが出るとは思わなかった。ヨハン以外にも例の実験で作られた怪物がいることを察知したジャーナリストが、過去のヨハン事件を、その事件に関わった多くの人間にインタビューをして事件を再構築するという構造になっている。

 実は本書はこのジャーナリスト、W・ヴェーバーと浦沢直樹の共著、長崎尚志の訳と書かれていて、表紙の折り返しにはヴェーバー氏の写真まで載っているが、いくらなんでも…。浦沢直樹の原案、長崎尚志の文だろうな、やっぱり。

 「MONSTER」はすごい漫画だが、数ヶ月に一冊では毎回それまでの話を忘れていて…。
 その整理によいのではないかと買ってみた。たしかに整理には最適だが、わたしの悪い癖で何冊もパラに読むものだから、十分補完できたかと言えば、結局心もとない。もしかしたら余計ごたついたかも…。

 しっかり本書としてのオチも用意していて、凝った作りだ。

(2015/3/12改訂)

Cエンダーのゲーム
  Ender's Game (1985)
O・S・カードハヤカワ文庫SF
529頁699円★★★★

 7歳の少年アンドリュー・ウィッギンは、IF(国際艦隊)にスカウトされ、世界中の優秀な少年少女たちからなるバトルスクールへ入学した。そこで子供達は各部隊に分かれ、無重力下のバトルルームで毎日のように模擬戦闘と訓練に明け暮れる。その目的はただ一つ、来るべき三度目のバガーの侵攻に立ち向かえる司令官を養成すること。
 アンドリュー、通称エンダーは、次々と最年少記録を打ち立てながら無敗で“ゲーム”をクリアしていくが・・・。

 オースン・スコット・カードの初読。
 E・A・ハインラインを読んでいた昔から少年の成長物語に目のないわたしは、本書も刊行当時から気になってはいたのだが、その当時、「スター・ファイター」だったか?ビデオゲームの達人の少年がスカウトされて、本物の宇宙戦闘に出撃するという映画の印象が先に立ってしまい、どうにも読む気にならなかったという経緯がある。いつの間にか表紙が渋く変わっているのに気付いたこともあって、漸く手に取ることになった。

 実際のところ、読む気になったのは「司書の駄弁者」さんのサイトで、ある程度情報を仕入れたからだが、そこでも紹介されていたように、虐げられた、そして可愛げのない子供のオンパレードではある。子供の世界も大人の世界の縮図とは言われるが、数頁読むたびに、こいつらは6歳〜12歳そこそこのがきんちょであることを強いて思い出す必要がある。

 正直最初のほうは今ひとつ乗り切れなかったのだが、添え物だと思っていたエンダーの二人の兄姉が再登場(ピーターのキャラクターには唖然)する中盤以降、エンダーも小隊リーダーになることもあって俄然面白くなってくる。しかしエンダーたち三兄弟の両親は平凡そうなのだが、鳶が三羽も続けて鷹を産むというのはどうなのか・・・。
 そして舞台が小惑星エロスのコマンド・スクールに移ってからは、終盤に向けて一気に加速する。まんまとカードの作戦にしてやられた。<ネタバレ反転>残り分量を考えれば見破ってしかるべきだが、それまでの展開にしっかり騙されていた。

 エンターテインメントとしては、最後にピーターとの対決をセッティングしてほしかった気もするが、そうなるともちろん二年連続のヒューゴー賞ネビュラ賞のダブル・クラウンとなった「死者の代弁者」は生まれなかったことになるのか。いずれにせよ、そのあたりがカードらしさというところだろう。

 しかしカードの語りは大したものだが、けっこう勢いで書いていて、細部を煮詰めていないような気もする。
 例えば上記のエンダーたちの両親のこともあるが、あのピーターが本性を隠せずにバトル・スクールに入れなかったにもかかわらず、ボンゾーのような奴が入学していることも解せない。また世界中から選りすぐられたバトル・スクールの面々という割には、あまり(ビーン以外には)有能な気がしないのもちょっと残念か。エンダーのドラゴン隊での戦術も、彼が天才的というよりは、周りがあんぽんたんな気がしないでもない…。

 と、ここまで書いて、彼らが10歳程度の子供たちであることを思い出した。
 ここはオスメント君やらマコーレー・カルキンアンナ・クラムスキー(皆さんすでに子役ではなくなった…)を集めて映画化すべきだ。面白くなると思うが。

 まさか本当に映画化されるとは…。
(2015/3/12改訂)

D有限と微小のパン
  The Perfect Outsider (1998)
森博嗣講談社文庫推理
860頁1143円★★★

 萌絵、洋子、ラブちゃんの女子大生三人組は、犀川研の研究室旅行先発隊と称して、九州のテーマパークへ旅行に出かけた。
 以前死体消失事件があったと噂のあるそのパークでは、萌絵が経営者と知り合いということで、三人はご機嫌な接待を受ける。しかしその彼女たちの目の前で、次なる死体消失事件が発生。
 一方犀川は、出張帰りの新幹線であの真賀田博士からTELを受ける。萌絵の身の危険を案じた犀川は急遽九州へと向かうが・・・。

 「すべてがFになる」と対になった副題といい、真賀田博士再登場といい、そして「すべてがFになる」の二冊分以上のボリュームといい、ついにシリーズ最終巻ということで、なかなか期待させる最終巻ではある。良くも悪くも読者サービスに終始したような作品だ。誰かに内容を語るにしても、真賀田四季が再登場すること以外に印象に残ることはないような。少なくともわたしはそれ以外に記憶が…。

 結局の処、しつこいくらいに天才々々と連呼される真賀田博士にしても、所詮作者の掌の上で都合のいいように動いているだけに感じてしまった。

 まあ800頁オーバーの分量を1日で読み終わった(病院のベッドの上とはいえ)のだから、求心力はあいかわらずではある・・・。

(2015/3/12改訂)

Eレベル7 (1990)
宮部みゆき新潮文庫サスペンス
656頁857円★★★★★

 見知らぬアパートの一室で目を覚ました二人の男女。彼らには自分の名前も過去もまったくの記憶がなく、腕には“Level7”のマーキングが…。
 一方電話相談の仕事をしている悦子が知り合った少女みさおは、“レベル7に行ったら戻れない?”というメモを残し姿を消した。
 記憶をなくした二人は探偵を雇い、自分たちの過去を探す。そして悦子は消息を絶ったみさおを探す。
 そして関係者の軌跡が交錯するとき、地方の大病院をめぐる犯罪が浮かび上がるのだった・・・。

 著者の作品は、犯罪ドラマに超常現象を絡ませることも多く、本書もその題名にはファンタジーっぽさを感じたのだが、これは通常枠での犯罪事件だった。しかし、ツイストに次ぐツイストという謳い文句はそのとおりで、最後まで誰が敵で誰が味方かわからない、めっぽう楽しい本だった。
 どうも本書は「龍は眠る」「火車」よりもマイナーな気がするが、設定の作り込みの完成度はともかく(あんな病院がそう長く世間を騙せるとも思えないし、ご都合主義的な設定も多い)、物語としての面白さは「火車」よりも随分上だと思う。

 もっとも★一つくらいは、わたしが病院のベッドで読んだことで加点されてるかも。

(2015/3/12改訂)

F放課後 (1985)
東野圭吾講談社文庫推理
346頁571円★★★★

 女子高で数学を教えている前島は、いたずらと呼ぶにはあまりに危険な目に、この数日で三度も遭っていた。校長にも相談したが、騒ぎにしたくない校長はまあまあとなだめるばかり。そうこうするうちに、前島は久しぶりに顔を出したアーチェリー部の練習後に、今度は更衣室で進路指導の村橋が死んでいるのを発見する。表の扉は内側から作為的に閉められており、警察は殺人事件として捜査を始めるが、犯人を特定できる手がかりを掴むことはできない。
 そして体育祭当日に第二の殺人事件が発生する。その殺人は状況から考えると、本来の被害者は前島のはずだった・・・。

 「あの頃ぼくらはアホでした」の稿で書いたように、著者の作品を何か読もうとしたが、選んだのはやはりデビュー作の乱歩賞受賞作とあいなった。

 推理小説としてどうかと問われれば、まずまずの佳作というあたりだが、高校教師がぼやきながらの一人称という形式が、清水義範「魔獣学園」テイストでなんとも懐かしかった。なんと言っても同書は、わたしのバイブル――とまではいかないが、思い入れの深い作品である。

 という訳で、本書は機嫌よく正味数時間で読み終わったが、ラストのオトしかたはやや不満。ミステリのテクニックに含まれる個所ではあるし、素人(その時点で)としては思いついた時点で使いたくなるのは解るが、肩のこらない青春ミステリとしてはもっとお気楽に終わってほしかった。

(2015/3/14改訂)

G解体諸因 (1995)
西澤保彦講談社文庫推理
446頁676円★★★

 数々の“解体”を絡ませた9つの連作短編。
 一つ一つの“解体”に関しては、それぞれに趣向を凝らしてよくも作ったものだと感心するものの、それほどの面白さとは言えない。しかしそれが最終因の「解体順路」で関連づけられていくと、まさに脱帽だ。

 「完全無欠の名探偵」でも、登場人物の相関の複雑さをまとめ上げた著者の手腕に感心したが、それ以上のものがデビュー作の本書で既に出来上がっていた。難をつければ、第八因の作中作である戯曲「解体照応 推理劇『スライド殺人事件』」が長くてたるいところだが、これもまとめるために重要だし…。

 探偵役の匠千暁や中越警部、辺見祐輔たちは、近いエリアで起きた事件のようであるにもかかわらず、最後まで顔を合わすことはない。これも新鮮で面白い。特に千暁と祐輔は大学時代の友人同士であることが、文中から判明するにもかかわらずで、解説でも書いてあったように、双方と顔見知りである亜紀子と麻紀子の双子の姉妹は、千暁と祐輔が友人であるとは知らないままだ。

 てな感じで、「人格転移の殺人」の時にはさほどでもなかった著者の株は、ここのところ上昇している。このデビュー作が出た当時は、まさかそこまで考えていなかった筈だが、後に千暁(タック)と祐輔(ボアン)の学生時代に遭遇した事件を扱うシリーズが数編あるので、とりあえずその第1作である「彼女が死んだ夜」を読んでみるつもりだ。

(2015/3/14改訂)

Hハサミ男 (1999)
殊能将之講談社文庫推理
502頁733円★★★

 東京近郊で、数ヶ月おきに少女を惨殺してまわる、通称“ハサミ男”。未だに警察に追われることもなく、悠々と次なる標的を物色していたハサミ男だが、いよいよ今回の標的に手を出そうとしていた目前、当の標的が何物かに殺されてしまう。しかも首にはざっくりとはさみが突き立てられ、警察ははさみ男の仕業と断定。ハサミ男は、誰が自分の名を騙ったのか、独自に調べる始めるが・・・。

 えらく物議を醸し出した本らしい。比較的早く文庫落ちした(ような気がする)ので早速購入。気にはなるが大事に後回しというほどでもないので、わたしにしては珍しくすぐに読んだ。

 なんとも大胆な綱渡りのような叙述トリックだ。わたしは大らかに騙されてやろう派なので、まんまとひっかかったが、結構気付いた読者も多いのでは。もう一つのほうは安直ですぐに解るが、これは<見せ餌なんだろなぁ。

 実際にこのような精神障害が起こり得るかはかなり疑問だが、ドクターを始め、ハサミ男のキャラクターはなかなか魅力的であった。

(2015/3/14改訂)

I西域  世界の歴史10 (1989)
羽田明/山田信夫
間野英二/小谷仲男
河出書房新書歴史薀蓄
377頁850円★★★★

 わたしが思う“西域”とは、東は敦煌から西はサマルカンドあたりまでだが、東トルキスタンタクラマカン沙漠に代表されるタリム盆地と周辺の山脈であることは良いとしても、西トルキスタンと言えばサマルカンドから西、イスタンブールまでも含むのだろうし、この帯を南北に広げて、ついでにモンゴルチベットの高原をも含めると内陸アジアという呼称になるだろう。
 また逆に中央アジアと言えば、旧ソ連邦だった○○スタンの国々が近似か。

 いずれにせよ、このあたりの歴史は中学高校で世界史をとったとしても、西洋史や中国史に付随して断片的に教えられるだけで、年代なども整理しにくいところだ。東西文化の橋渡しの担い手として、シルクロード文化に惹かれた身としては、世界史通史の中で、このような括りで一冊編集された本はありがたい。

(2015/3/14改訂)

J御手洗潔のメロディ (1998)
島田荘司講談社文庫探偵/他
395頁629円★★★

 久しぶりの御手洗もの短編集。(文庫本でということだが)
 推理小説の主人公でありながら、おかしな方向へ行ってしまった御手洗潔。いわゆる過去の未公開記録を紐解く手法は、なるほどシャーロック・ホームズの新事件を世に出すときの定番だ。
 とは言え、おかしな短編も含まれている。

(1)IgE
 音楽家の前から突然姿を消した女性と、何度も壊されるファミレスの便器。まったく関係がないように見える二つの事象から、裏に隠れた危険な犯罪計画を暴く。

 「赤毛連盟」を思わせるネタ。御手洗の神がかり的な洞察力が際立つ話で、一歩間違うとご都合主義に落ち込んでしまう訳だが、・・・一歩間違っているような。

(2)SIVAD SELIM
 石岡がどう口説いても、高校生が身障者のために開くコンサートに出演しようとしない御手洗の真意は?

 御手洗ファンと著者の自己満足だけのための作品。一応わたしもファンの端くれと思っていたのだが、万能ヒーローとしての御手洗が臭く感じてしまって、悲しいやら腹立つやら。

(3)ボストン幽霊絵画事件
 御手洗が大学時代(年齢的には高校生?)に遭遇した事件。後と異なり、自らどんどんちゃちゃを入れていった感じだ。
 車の修理工場の看板に撃ち込まれた、複数の弾丸に興味を持った御手洗。友人のビリーを従え調べた事件とは・・・。

 感想は「IgE」と同じ。物悲しい人の心のすれ違いが浮かび上がるが、超然とした我関せずの御手洗が恐ろしい。事件の発生の前に手が打てれば、防衛に努めたことは疑いないのだろうが…。

(4)さらば遠い輝き
 今やハリウッドの大女優となったレオナ松崎が聞いた態の御手洗の現況。ストックホルム大学の脳研究チームのリーダーというとんでもないことになっている。

 もはや理解不能。あとがきとか付録として巻末に数頁くっついているなら歓迎だが、題名を冠した60頁の中篇とするとは・・・。
 少なくともこういった話を読むために、金を出して購入したわけでないことは確かだ。

 ああ何処へ行く御手洗潔。ああ何処へ行く島田荘司。
 これではいかにも胡散臭そうな「パロディサイト事件」が文庫落ちしても、買うのに二の足を踏んでしまうではないか。

(2015/3/14改訂)

K黒猫の三角
 Delta in The Darkness (1999)
森博嗣講談社文庫推理
450頁695円★★★

 何でも屋の保呂草は、彼が住んでいるアパート阿漕荘の大家で隣の屋敷の女主人小田原静子から身辺警護の依頼を受けた。彼女のもとに脅迫状が届いているとのことで、警護を引き受けた彼は、同じアパートの大学生小鳥遊練無をアシスタントに静子の誕生パーティーに乗り込むが、彼らの注視の中、静子は何者かに首を絞められ殺されてしまう。彼女は一年に一度、あるルールのもとに選ばれて殺される四人目の被害者であった・・・。

 新シリーズの開幕ということで、期待三割、不安七割で読んだ。
 このパーティーには、屋敷の片隅で居候として暮らしている瀬在丸紅子と、保呂草や小鳥遊と同アパートに住む大学生香具山紫子が参加しており、保呂草、小鳥遊と彼女たち二人を合わせた四人が、この新シリーズの中心カルテットである。

 そのオチにはあっと言わされたが、どうも気持ちのよい騙されかたではなかった。
 前のシリーズ同様登場人物は活き活きと動き回るが、より現実味のない――マンガ的な――設定なのが気になる。しかし登場人物の名前にまでミス・ディレクションがあるというのは、計算高さはあいかわらず。
 巻を追うごとに魅力的になるというもっぱらの噂だが、これらの特異なキャラクターに馴染んでしまうがための魅力UPならば、あえてとりこまれることはないという気もする。しかし森博嗣の文体には一種の麻薬作用があるので、ついつい読んでしまう可能性は高い…。

 ちょっと疑問だが、紫子という関西弁100%のキャラクターが出てくるが、他のキャラクターは標準語。これはおかしな話だ。イントネーションは文章には出にくいので、関西弁ほど文章にするのは簡単ではないかもしれないが、学生時代のわたしの経験では、さすがに“おみゃあ”は聞いたことがなかったの、“〜がや、〜がぁ”はよく聞いたぞ。愛知県人は自圏の方言をもっと主張してほしいものだ。

 ちなみに阿漕荘の阿漕は三重県津市の町名でる。“そんな阿漕なあ〜”の語源の地名でもあるぞ。←もはや死後か?

(2015/3/14改訂)

L三重幕末維新戦記 (1999)
横山高治創元社歴史薀蓄
207頁1800円★★★

Mエンダーズ・シャドウ 上下
 Ender's Shadow (1999)
O・S・カードハヤカワ文庫SF
372頁/387頁720円/720円★★★★

 4歳の少年ビーンは外見上は2歳程度にしか見えない程発達が遅れているが、自分が生き延びるために目立たぬように立ち回り、不良少年アシルに年少の浮浪児たちのグループを作らせ、その中で生き延びるという、頭の中にはすでに大人顔負けの計画性をも有する早熟の天才である。そのビーンは、ついにIFのスカウトの目にとまり、破格の最年少者として軌道上のバトル・スクールへ入学するが、彼はそこであらゆる記録を今も塗り替えつつあるエンダーという天才を知り・・・。

 「エンダーのゲーム」の物語を、彼のナンバーツーとなったビーンの視点から描いた姉妹編。わたしは連続して読んだが、出版時期は10年以上ずれている。ある意味すごく恵まれた読みかたができたわけだ。本書を先に読んでもストーリー上困りはしないが、「エンダーのゲーム」の仕掛けを楽しむ事ができなくなるので、もちろん順番に読むべきだ。

 逆に言えば、本書ではストーリー展開が先にわかっている分、面白味が減るようなものだが、シスター・カーロッタがビーン出生の秘密を追う話を適時挿入させたり、エンダーにボンゾーやピーターをぶつけるのと同様、ビーンには薄気味悪いアシルを用意して飽きさせることはない。さすがはストーリーテラーである。

 自分の周りに壁を作って誰をも信じようとせず、大人たちの思惑の先を読んで上手く立ち回ろうとするビーン。それは自分が生き延びるために身に付けた習性だが、彼が全人類の未来を背負わされようとするエンダーの孤独を知り、またニコライとの友情を知っていくことで、徐々に少年らしい心を取り戻していくのは読んでいて楽しい。ラストは感動的でもある。

 しかし、ビーンの生い立ちには先に悲劇を孕んでいるので、ほのぼのしながら読了というわけにはいかない。なにせアシルはをいつでも復活できそうだし、ビーンは政治嗜好を持っていそうだし、ピーターとの対決でもう短編のひとつくらいは作れそうだ。【注1】

 「おぼえておけ――敵のゲートは下だ。」
――この表紙ではそうはなっとらんな。

【注1】短編ひとつどころか…。
(2015/3/14改訂)

Nターンエーの癒し (2002)
富野由悠季ハルキ文庫エッセイ
291頁680円★★

 著者の小説は独特の切り口があって、新鮮味を感じることもあるが、それ以上に独特の臭みがきつい。なかなか良い気分で読了することができないのが常だ。
 その著者のエッセイということで、一体ガンダムの御大は何を考えてるのだろうかという興味で読んでみた。

 うーん、エッセイでさらに臭みが拡大(300%UP。当社比)するとは思わなかった。エッセイとか私小説とかは、自分をどこまでさらけだせるかが勝負という面もたしかにあるが、言わぬが花ということもあるのでは。いやあってほしい。著者に限っては。

 正直(こんなに薄い本なのに)何度も読むのをやめようかと考えたのだが、たまに、なるほどと思わせる考え方も出てくるので、なんとかまぁ最後まで読みきることができた。キッズ・ステーション「ブレンパワード」のほうは、あいもかわらずおんなじようなことをやっとるなぁとやめてしまったが・・・。

(2015/3/14改訂)

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