| 2002年 7月 | トップ頁に戻る | |
| “本”の目次に戻る | ||
| ジャンル別索引に戻る | ||
| 2002年 6月に戻る | ||
| 2002年 8月に進む |
| @ | 糞尿博士・世界漫遊記 | ||||
| 中村浩 | 現代教養文庫 | ― | |||
| 301頁 | 680円 | ★★★ | |||
| 糞尿利用のクロレラ栽培に人生をつぎ込んだ、愛すべきおっさんの漫遊記じゃ。 文中から察するに、どうも世界的にも高名な学者のようなんじゃが、データや薀蓄などのアカデミックな内容はばっさりと捨てて、漫遊記に徹しておるので、ただの糞尿臭い調子のええおっさんにしか思えんところがすごい。わしとしては、少しは学術的な内容にも触れてもらいたいところなんじゃが、前書きから、 “随分と手前ミソも並べるかもしれない。読者よ、乞う、諒とせられよ!” とやられれば、好き勝手な放談にも了解せざるをえない。 読んでいくうちに、ソ連への招待などがあって、どうもかなり以前のエピソードであることには気がつくのじゃが、あとがきから30年以上前のことじゃと判る。そうなると気になるのが、クロレラを始めとする微生物食料やそれを利用する閉鎖型の循環システムの現状じゃが、著者の大風呂敷ほどには大規模の実用になっておらんようじゃなあ。 著者略歴を見ると、この愛すべき“おっさん”が22年も前に亡くなっていることを知り、やや感傷的になってしもうた。 | |||||
| A | 今はもうない Switch Back | ||||
| 森博嗣 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 529頁 | 762円 | ★★★ | |||
| デザイナー橋爪氏の別荘で女優姉妹が死んだ。3Fにある映写室と娯楽室でそれぞれ一人ずつ。自殺とは考えにくい状況ではあったが、それぞれの部屋どちらもが密室状態だった。おりしも大雨と嵐の影響で警察の到着が遅れる中、その別荘に滞在中の西之園嬢と笹木氏(わたし)は、事件の推理を始めるが・・・ 隣り合った二つの密室で、姉妹がそれぞれ死んどる。二つの部屋には映写機のレンズが覗いた開口部で繋がっており、細身の人間なら通り抜けることは可能だが、重い映写機を動かす必要性からAの部屋からBの部屋にはいけるが、逆は不可というなかなか粋な設定じゃが、本書のオトしどころはそんなとこにはないところが面白いのお。 しかし裏表紙にあるように本書がシリーズ中のベストということはないじゃろ。特異な位置におるのは間違いないが・・・ 余談じゃが、建築業界ではRCとは鉄筋コンクリートのことなんじゃな。RCと聞けば、わしなら Reliability Center か Rockwell Colins を浮かべてしまうがのお。もちろん Radio Control はありじゃが。 | |||||
| B | SFアニメの科学 | ||||
| 福江純 | 知恵の森文庫 | 科学薀蓄 | |||
| 262頁 | 552円 | ★★★★ | |||
| 小説やまんがをイントロにして、銀河やブラックホールについての最新情報を解りやすく、かつ興味深く紹介した「SF天文学入門」の著者が、これはさらにアニメオタクをさらけだした方向から最新科学を紹介しとる。多少かぶった内容もあるが、本著は天文学に限らず広い範囲を扱っておる。(著者の専門は天文学なので、それ以外のトピックはやはり切れ味が鈍るが) 内容を細かく挙げるのもしんどいので、最も興味深いトピックを一つ。 “どうやら温度には上限があるらしい” などと言うと、いかにも胡散臭いが、電子と原子核がばらばらに飛び回っているいわゆるプラズマの状態からさらに温度を上げていき、高速の粒子の運動エネルギーEが電子の質量と等価になれば、粒子同士の衝突で電子と陽電子が対生成するようになる。このあたりから先はいまだ解明しきれていないようじゃが、これ以上の温度にするために、外部からどんどんエネルギーを注入しても、そのエネルギーは対生成に消費され、粒子の数は増えるが温度は一向に上昇しないらしいのじゃ。 対生成が起こる条件である密度の低いプラズマで達成されるその温度は、1440億度とのことじゃが、ゼットンの1兆度の火の玉がいかにすごいかが判ろうというもんじゃな。 | |||||
| C | 剣客列伝 柳生殺法帳 | ||||
| 新宮正春 | 廣済堂文庫 | 歴史 | |||
| 552頁 | 299円 | ★★★★ | |||
| 柳生一族の個人々々を主に据えた短編を集めた一冊。
この形式では、隆慶一郎の「柳生非情剣」という傑作があるが、本書はそれに勝るとも劣らず、わしとしてはやや“伝奇”に寄りすぎた「柳生非情剣」よりも、むしろ勝っておると思えるほどじゃ。柳生ものでは本当に久しぶりの当たり作品じゃったな。 「柳生石舟斎の拳」・・・松田織部との確執のストーリーを、松永弾上とともに消え去った筈の、天下の名物平蜘蛛の釜を絡ませて展開する。平蜘蛛を絡ませた話は初めてじゃが、松永弾上>柳生松吟庵>石舟斎つながりで、なるほどあっても不思議じゃないと思わせる。目のつけどころが良かったのお。 「柳生五郎右衛門の足」・・・この人を扱う場合、どうしても米子藩での御家騒動に巻き込まれた最期が扱われるのじゃが、本編ではかなりの剣の達人として描かれとる。「柳生非情剣」の「逆風の太刀」と読み比べるのも一興。 「柳生如雲斎の鼻」・・・隠居時代の兵庫介利厳に上泉秀信を絡ませて、尾張柳生家の騒動を描いておる。上泉伊勢守の息子を登場させるというのも新鮮じゃ。ストーリーはもちろん創作じゃろうが、上泉秀信という人物が存在していたのか、寡聞にしてわからん。これは調べなくては・・・ 「柳生友矩の歯」・・・左門友矩と言えば家光の寵愛を受けての破格の出世と突然の病死があるので、やはり柳生の御家の名を守らんがための悲劇が語られる。友矩の悲劇はよく扱われるネタじゃが、友矩だけでなく、宗冬や十兵衛との兄弟間の関係も含めて、柳生の一族に興味を持つきっかけになる好編。「柳生非情剣」の「柳枝の剣」と読み比べるべし。山岡荘八の「柳生三天狗」の兄弟ほのぼのぶりと比べると、作者の扱いようで如何様にも印象が変わることが解って面白いぞ。 「柳生十兵衛の眼」・・・言わずと知れた“隻眼”柳生十兵衛が片目になる経緯じゃ。はっきり言って作者の数だけいろんなバージョンが存在する。もっとも十兵衛が隻眼だったという史実はないんじゃが・・・ 「柳生列堂の肘」・・・宗矩の若い側室お藤(十兵衛三厳よりも若い)に産ませた子である義仙列堂と、歳の離れた兄宗冬との確執を描いた一編。列堂と言えば、隆慶一郎の「吉原御免状」を始めとする鬼畜ぶりと、なんといっても「子連れ狼」の強烈な印象が思い浮かぶが、また新たな列堂像が楽しめたの。 「柳生兵助の胸板」・・・兵庫介の子、後の連也厳包といえば家光の前での江戸柳生家宗冬との立会いが語られるが、本編ではそこに将軍家のもうひとつの兵法指南役である、小野派一刀流をからめているのが新鮮じゃ。 本書の短編の初出は明記されていないんじゃが、解説を読むとどうやら「柳生非情剣」よりもよっぽど昔の作品のようで、それにしてはいい切れ味の話が揃っていて嬉しい次第じゃ。 どうも柳生ものに限らず、剣豪ものは短編があっとるわい。 長編に柳生を出す場合は、その一族としてのバックボーンの豊かさを活かして、――敵だろうが味方だろうが――主役よりもむしろ脇を固めさせるほうが魅力が増すじゃろお。 | |||||
| D | 数寄にして模型 Numerical Models | ||||
| 森博嗣 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 700頁 | 933円 | ★★★★ | |||
| M工大の社会人修士寺林は、運営に参加している模型フェア初日の晩、自分の作ったフィギュアの修理のため一人残っていた会場で、頭を殴られ気を失ったが、次の日、鍵を持った寺林が来ず開かない部屋に管理人の予備キーで入ったとき、そこにはコスプレモデルの首なし死体と、気を失った寺林がいた。 一方、模型フェア会場から近いM工大の研究室で、前の晩に学部生が首を締められて殺されたが、その最大容疑者もまた、被害者と待ち合わせをしていた同僚の寺林だった。 模型フェア主催者の一人、作家の大御坊と従兄妹ということで現場にいた萌絵と、実は模型ファンだった喜多助教授、そしてその二人の影響で関わることになった犀川が事件を検討する・・・ あの神戸の酒鬼薔薇事件に代表されるように、動機が怨恨や金銭でない殺人というものも、随分推理小説に取り入れられるようになっておるな。本書もそうじゃ。なんでも神戸の事件とは執筆のタイミングも重なっていたようじゃが、著者によると、新聞、TVを見ないので偶然らしい。 本書では犯人の動機も異常じゃが、被害者の精神構造もよく解らず気持ち悪い。マニアックに自分の興味に没入していくのは良い事だと思うし、世間とのバランス感覚が多少ずれても、それは愛嬌とごまかせるが、人の痛みが解らなくなってしまっては、いくら知能が高かろうがこの社会に存在してもらってはいかんわな。 わしも模型ファンの一人として、犯人を当てられなかったのが悔しいぞ。題名が「好きにしてもOK」と気付かなかったのはさらに悔しい。その補填と言ってはなんじゃが、久しぶりのクライマックスの活劇での、犀川の行動は事前に気付いたぞということで満足しておくしかあるまい。 しかし迷惑お嬢様の萌絵がいつの間にかボクスターに乗っとるのは腹たつのお。金があるやっちゃええわい。 | |||||
| E | 人物 中国の歴史C 長城とシルクロードと | ||||
| 責任編集 司馬遼太郎 | 集英社文庫 | 歴史薀蓄 | |||
| 320頁 | 686円 | ★★★★ | |||
| 司馬遼太郎の責任編集とあるが、その役割はよくわからん。彼が前書きに近い一編を書いたあと、秦から前漢までの時代の中から、9人の作者がそれぞれ取り上げる人物を選んで、人物中心の紀伝体としてエッセイ風にまとめておる。 “邯鄲の夢”で有名な呂不韋と始皇帝の関係。これはかなりメジャーじゃが、呂不韋失脚後、始皇帝の右腕となって、秦の中国統一に貢献した李斯。 あるいは項羽と劉邦の命運を分けたと言ってもいい、“鴻門の会”の一触即発も抑えておる。 意外なところでは、戚夫人の“人ブタ”を始めとする残虐さで有名な劉邦夫人呂后を、ある程度擁護する方向から解説しているのが興味深い。 以降、武帝を始め、衛青や霍去病、張騫、司馬遷等、この時代で抑えるべき人物はしっかり網羅されとる。紙を発明した蔡倫が抜けとるなと一瞬思ったが、あれは後漢じゃった。 内容には関係ないが、217〜232頁までが豪快にダブっておったのには笑いやした。こんなのは初めてじゃ。 | |||||
| F | 輝く星々のかなたへ! キャプテン・フューチャー9 The Quest Beyond The Stars | ||||
| E・ハミルトン | ハヤカワ文庫 | SF | |||
| 257頁 | 320円 | ― | |||
| 大気がどんどん漏洩し住民が他星へ避難を始めた水星。キャプテン・フューチャーは銀河の中心部にあるという、<物質生成の場>への探検行を決断した。その秘密を解き明かせば、水星の大気を無尽蔵に製造できるだろう! 昨年実験した振動ドライブ装置をコメットに据えつけ、見事光速の壁を超えることに成功したフューチャーメン一行は、銀河系の中心近く暗黒星雲の中で、二つの種族と、<物質生成の場>の秘密を守る<見張り>の伝説を知るが・・・ あいかわらず、たまたま開発していた振動ドライブで、これまで活躍の場としていた太陽系圏を大きく飛び出したフューチャーメン。“高周波の電磁振動の反作用”で光速の壁を突破するとは、なんともほのぼのしくてNICEじゃ。パリ・ダカに参加するような感覚で、銀河の中心部を覆い隠した暗黒星雲やら宇宙塵流やらの危険なうねりに揉まれながらも、なんとかこれを乗り越え、内部の空間に到達するのじゃが、このガス星雲とその中にある惑星は、「天空の城ラピュタ」を思い起こせばほとんど情景的に間違いないじゃろお。しかし星雲中の特殊な力線が各人の脳の働きを活性化させて、あげくにグラッグがフューチャーメン一の知性になってしまうとは、ハミルトンの稚気はいいのお。このシーンのグラッスの台詞を、「致命的な事態が発生してしまいますぞ!」てな口調に訳しとる野田昌宏にも脱帽じゃ。 前半、ガス星雲への一回目のトライで失敗し、破損したコメットの修理を自分たちでやってまうのはスペオペの常套じゃが、スペア部材すら用意しとらんというのは、パリ・ダカ以下の感覚で恐ろしいところじゃ。しかし、昔読んだ時にはこういうことは全く考えなかったんじゃが、歳をとるのは悲しいもんじゃのお。 まあ文句を言いながらもそれなりに楽しんでおるのじゃが、クライマックスの宇宙艦隊戦はあんまりじゃ。キャプテン・フューチャーが偉大な戦術家なのはいいにしても、コルの宇宙艦隊には一人も作戦参謀はおらへんのかっちゅうくらいおそまつじゃのお。 <物質生成の場>自体の理屈にはまったく触れず、ドラえもんばりの物質生成装置があることには何も言うまい。 しかしじゃ、ラストでのスルウン王の心配に対して、“われわれはこの力を間違った目的のために使うようなことは絶対にしません。”とか言っとるが、あんたが責任を負える範疇を超えとるぞ、カーティス・ニュートン! | |||||
| G | 法月綸太郎の新冒険 | ||||
| 法月綸太郎 | 講談社文庫 | 推理 | |||
| 427頁 | 667円 | ★★★ | |||
| 暗い々々法月綸太郎ものの第二短編集。とは言うものの、色分けがはっきりされておって、短編集ではさっぱり悩みを脱ぎ捨てたお気楽な法月を気楽に読めるわい。 「イントロダクション」・・・まあどうでもええ。 「背信の交点」・・・あづさ68号としなの22号で発見された二つの自殺。それはある種ロマンチックな心中事件と思われたが・・・ 列車ものによくある、ダイヤと首っ引きでアリバイの穴を探すような楽しくない推理ものとは違って、なかなかの面白さ。本書では一番か。 「世界の神秘を解く男」・・・TVの心霊番組にコメンテーターとして参加した綸太郎が遭遇したドタバタ。なんや著者は芸能界が好きやのお。 「身投げ女のブルース」・・・警視庁の葛城警部が偶然遭遇した自殺未遂事件。綸太郎が表には出てこず、法月警視が幕引きを務める一編。まんまと意表をつかれて楽しめたぞ。 「現場から生中継」・・・TVの事件現場生中継に映っていたことがアリバイとなる、女子大生殺害事件の真相は・・・ これは法月綸太郎にふさわしい暗い事件。しかし短編であるせいか、印象は薄い。 「リターン・ザ・ギフト」・・・交換殺人を扱った話じゃが、もちろんひねり付き。内容よりも“推理小説が理屈の空しさを十分知ったうえで、その理屈を虚構として知的に遊戯する精神のスポーツだ!云々”という台詞が印象に残ったわい。 事件を糾弾する際の法月綸太郎には、ある種サディスティックな面も感じられるのじゃが、本短編集の前後を飾る図書館ものにおける穂波とのつきあいは、なんかマゾ的に楽しんでおるようじゃ。探偵法月綸太郎はなかなか複雑な奴じゃの。 | |||||
| トップ頁に戻る “本”の目次に戻る ジャンル別索引に戻る 2002年 6月に戻る 2002年 8月に進む |