第一話『赤龍降り立つ』

 

−異界の地より邪悪なる将が降臨する。−

−邪悪なる将この世界に悪意と共に悪の円卓の騎士を選ぶ。−

−悪の騎士の力の前に魔道の力は砕かれ、世界は絶望が覆う。−

−だが、絶望を砕かんと希望もまた邪悪なる将と共に異界の地より降り立つ。−

−その希望はかつて邪悪なる将を打ち倒せし異界を守る円卓の騎士の一角、双龍を従えし赤き龍の騎士。−

―法の塔は騎士の力を求め、騎士はそれを拒絶する。―

―騎士と戦ってはいけない。切り札と騎士刃交える時、希望は絶望へと変わる。―

カリム・グラシアスの予言より抜粋。


 

 

 

 





「はぁ…クソ、完全に嵌められたな…ゼイビアックスのヤツに…」

廃墟となったビルの中らしき場所で意識を取り戻した統夜は、自分の現状を確認するようにそう呟く。

ここがゼイビアックスの言っていた地球ともベンタラとも違う『異世界』なのだろう。仲間も協力者も居ない自分一人だけの戦いと言う現状に思わず溜息が出てしまう。

唯一の救いは“一人”では有るが、決して“孤独”では無い所位だろうか?

そんな事を考えながら、統夜は近くにある鏡面へと視線を向けると、そこにはドラグレッダーとドラグブラッカーの二体の龍の姿が有った。

「それはそうと…何でお前がオレの所に来たんだ?」

そう問い掛ける統夜に対してドラグブラッカーは鏡の中から顔を出してカードデッキを統夜へと差し出した。

「っ!? オニキスのカードデッキ、どうしてこれを…?」

ドラグブラッカーから差し出されたそれはドラゴンナイトを受け継ぐ前に託され、そして、正式に受け継いだ時にユーブロンへと返したはずの『仮面ライダーオニキス』のカードデッキだった。

「これって…ユーブロンからか?」

統夜の言葉にドラグブラッカーはその言葉を肯定する様に顔を上下に振る。

ユーブロンが何故再び自分にオニキスのデッキを届け様としたのかは疑問だが、今の状況では手札が増えるのはありがたい。登録されているDNA情報も元々自分が使っていた物なので自分が使う分には何の問題もない。

(…ドラゴンナイトとオニキス…カードデッキが二つ有っても、変身できるのはオレ一人だけどな…。それにしても…)

ふと、鏡の中に移る二体の龍へと視線を向けながら、カードデッキへと視線を向け。

(…ここにもベンタラみたいな鏡の向こうにパラレルワールドが有るのか?)

アドベントビーストの二体が鏡の中を移動している姿を見ていると、そう思わずにはいられない…と言うよりも、鏡の中の世界にこそ、ゼイビアックス…アビスが存在しているのだろう。

統夜がそんな事を考えていると何処からか耳鳴りの様な音が響く。鏡の中でもドラグレッダー達が警告する様に方向を上げている。…ゼイビアックスの配下のモンスターが動いているのだろう。

「来て早々か。…例え、オレ一人でも…お前は止めて見せる!!!」

そう叫びながら、黒地に金色の龍を象った紋章の刻まれたカードデッキを取り出し、鏡へと向けると、統夜の腰にベルト『Vバックル』が現れる。そして、

「KAMEN RIDER!」

そう叫び、カードデッキをバックル部分へとセットするとカードデッキが回転し、統夜の姿を赤い光が包み、その姿を真紅の仮面の龍騎士へと変える。

それこそが、ベンタラを守る13の仮面ライダーの一人…『仮面ライダードラゴンナイト

「よし!」

そう叫びドラゴンナイトは鏡の中へと飛び込んだ。


 

 

 

 








(どこだ…? 何処に…居る?)

鏡の中、アドベントサイクルを走らせながら、ドラゴンナイトは周囲の様子に注意を払う。先ほど入った場所と同じく廃墟となったビルが立ち並ぶ景色が広がるそこに、三、四体の赤い異形の怪物が人を何処かに連れ去ろうとしているのが見えた。

「…まったく…右も左も分からない所に来て、懐かしい顔に会ったな…。…物凄く嬉しくないけどな。」

イモリを連想させる赤いモンスター。ゼイビアックスの配下の下級モンスター『レッド・ミニオン(日本名:ゲルニュート)』の姿を見据えながらそう告げ、アドベントサイクルから降りると、カードデッキから一枚のカードを抜き、カードデッキへと挿入する。


『SWORD VENT』


電子音と共に上空から降りてきた剣『ドラグセイバー』を手に取り、ドラゴンナイトはレッド・ミニオン達へと切り掛かる。

『ゲェ!』

一体を切り裂きそのまま蹴り飛ばす。続いて二体目へとドラグセイバーを振り下ろすが、人を連れ去ろうとしていた固体を守るように他のレッド・ミニオン達がドラゴンナイトの行く手を阻む。

「チッ!」

逃げられた…と言うよりも連れ去られた事に舌打ちしながら、自分に向かってきたレッド・ミニオンをドラグセイバーで切り裂き、もう一体を蹴り飛ばし、残った一体を殴り飛ばし、距離を取るとカードデッキから新たなカードを抜き出す。


『STRIKE VENT』


ドラグセイバーを地面へと突き刺し、ドラグレッダーの頭部を模した手甲・ドラグクローを装着し、パンチモーションと共に出現したドラグレッダーと手甲から炎を放つ。

「はぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ドラゴンナイトが放ったドラグクロー・ファイヤーによって三体のレッド・ミニオンを吹き飛ばすと、耐久力を超えるダメージとなったのだろう、レッド・ミニオン達はそのまま消滅する。

(…やっぱり、しっかりと動き出していたか…ゼイビアックス)

ドラグセイバーを引き抜き、そう考えながらその場を立ち去ろうとした時、何かの気配を感じ取り、その場から飛び退くと、今まで立っていた地面を何かが削り取る。

「新種のモンスターか!?」

ドラゴンナイトの視線の先に居たのは、珍しい鬣が刃状になった黄色い四足歩行のライオン型のモンスター『ソードレオン』がドラゴンナイトを見据えながら威嚇するように咆哮した。

ソードレオンの姿を見据えながら、ドラグセイバーを握りなおすドラゴンナイトだが、今度は足元から通常の蠍の様な姿をした赤い蠍型のモンスター『ポイズンスコルピオ』が現れる。

「クッ! 次から次へと…。」

大きく後に跳びながら、ポイズンスコルピオから離れるとポイズンスコルピオの毒針の生えた尾が叩きつけられた地面が溶け出した。そんな物がまともに直撃したら、ドラゴンナイトの装甲(アーマー)でさえタダでは済まないだろう。

ドラゴンナイトがカードデッキからカードを抜き出し反撃に移ろうとした瞬間、ソードレオンとポイズンスコルピオはそれぞれバラバラにその場から離れていく。

「…新手のモンスターか…それにしても…」

戦闘が終わり気が抜けると全身を疲労が襲う。ゼイビアックスの変身したアビスと先ほどのレッド・ミニオン達との戦闘と考えてみれば連戦なのだから、時間的な感覚は無いが先ず一日は過ぎておらず、その疲労も仕方ない事だろう。

(…一度、さっきの場所に戻って休むか…)

休息を求める体を引きずりながらドラゴンナイトはその場を後にする。

それが、辰輝統夜…仮面ライダードラゴンナイトの異世界『ミッドチルダ』での始めての戦いであった。

だが、彼は気付いて居なかった。ドラゴンナイトの姿を確認す様に二人の人影がレッド・ミニオンやソードレオン、ポイズンスコルピオとの戦いを監視していた事を…。






 

 

 

 




統夜がミッドチルダでの孤独な戦いを始めてから数日後…

機動六課…それは最近になって試験的に設立された『八神 はやて』の率いる新設の部隊である。

そこに会議室のモニターには刑務所の映像と思われる映像が映し出されていた。

その映像の中でサメをイメージさせる水色の鎧を纏った仮面の男と、その男が率いる人型のサメの様な二体のモンスター、そして、イモリをイメージさせるモンスター達が次々と看守を襲っていた。

その場にドラゴンナイト…統夜が居れば仮面の男の事をこう呼んでいただろう…『仮面ライダーアビス』と。

「…酷い…」

その光景に誰ともなくそんな呟きが零れる。

「魔法が…効かない?」

女性…『高町 なのは』からそんな呟きが零れる。

映像の中では、何人かの看守がストレージデバイスと言う杖を向け魔力弾を放つ。それはイモリをイメージさせるモンスター…レッド・ミニオン達には多少は効いている様だが、それでも、ドラゴンナイトの様に消滅させるまでは至っておらず、足止めが限界であり、それを率いるアビスやアビスマッシャー、アビスハンマーに至っては、それはまったく効いていない。

どれだけ抵抗しても足止めが限界ならば相手の数が減らない以上、次第に追い詰められるのは看守達の方だろう。バラバラに抵抗していた者達は背後から忍び寄ってきたレッド・ミニオンによって次々と鏡の中に引きずり込まれていく。

幸か不幸かある程度連携して抵抗していた者達には痺れを切らしたのか、二本の剣を持ったアビスによって切り殺される者、アビスマッシャー、アビスハンマーに食い殺される者も出てくる。…それが、不幸にも刑務所での数少ない犠牲者となったしまった。

そして、生きた看守達の姿が消えた刑務所の中でレッド・ミニオン達とアビスマッシャー、アビスハンマーを率いたアビスは次々と牢を破壊し、収監されている犯罪者達を解放していって行く。

「拘束されとった犯罪者達は全員解放されて、それ以外の人達はこの仮面の男と怪物達に殺されるか、何処かに連れ去られたちゅうわけや」

部隊長の八神はやてが全員に向かって重々しくそう告げる。最後にアビスがケースの様な物を渡している所が映し出された時、アビスハンマーの撃ちだした光弾によって映像を録画していた物が破壊されたのだろう、そこで映像は終わっていた。

「それだけやない。ここ最近、人が突然行方不明になるちゅう事件も発生してるんや。目の前で突然人が消えたって報告も出とる」

「それって、まさか…この映像の様に?」

「そうや、うちはこの怪物達と仮面の人が関係しとると思うとる。それと…」

新たに映し出される映像にはドラゴンナイトに似たデザインのバイク『ドラゴンサイクル』に乗ってレッド・ミニオン達と戦っているドラゴンナイトの静止画像が映し出された。

「また、仮面のヤツかよ?」

「でも、この人はさっきの映像の人と違って怪物と戦ってるみたいだけど」

新たに映し出された映像に対して少女『鉄槌の騎士ヴィータ』と『フェイト・T・ハラオウン』からそんな感想がこぼれる。

「そうや。襲撃犯とは違う赤い仮面の人は怪物達と敵対しとるようなんや。それに、怪物にさらわれそうになったって言うとる人達の中にはこの赤い仮面の人に助けてもらったって言うとる人も居るんや」

「この怪物の事、何か知ってるなら、赤い仮面の人からお話が聞ければいいんだけど」








 

 

 

 


同時刻…別の場所

(ここに来てから数日…ゼイビアックスの手掛かりはゼロか)

街中を歩きながら統夜は空を見上げる。統夜の心の内に反して視界の先には快晴の青空が広がっていた。

ここ数日、ゼイビアックスの居場所を突き止めようと動いているのだが、完全に後手に回っている状況だ。

雑兵とも言えるレッド・ミニオン以外のモンスターとはこの世界に来た時に最初に出会った二体のモンスター以外には出会っていないのだが、人を連れ去ろうとするレッド・ミニオンとは鏡の中、現実世界と問わず何度が戦っている。

戦っているのは所詮は彼一人で有り、できる事にも限界はあり、ゼイビアックスの元へ連れ去られる人の数は減少させる事は出来ているが、ゼイビアックスの居場所を突き止める手掛かりさえ掴めていない。

(…それに…奴の言ってたカードデッキのコピーの行方に関しても気になるしな…)

自分達の扱っているカードデッキはDNA情報の登録によって別の人間が変身する事はできず、かつての地球侵略の際にもゼイビアックスは平行世界の上での同一人物…同じDNA情報を持つ人間を騙し、カードデッキを与えていた為に、幸いにも変身できる人間の中に悪人は…。

(…まあ、いい人も居たけど悪人も居たって事で…)

そう考えて考えを即座に切り止める。中にはしっかりと詐欺師とかも居たのだから、悪人が居ないなどとは口が裂けてもいえない。

(はぁ…レンさんもこんな気分だったのか?)

まったく別の世界で一人で戦うという感覚。それを考えて、かつての仲間の事を…自分が仲間になる前まで一人でゼイビアックスと戦っていたベンタラの戦士『仮面ライダーウイングナイト』こと『レン』の事を思い出し、自分が同じ立場に立った事で改めて心から尊敬する。

(しかし、この世界の事も色々と調べてみたけど…魔法なんて物が存在しているなんてな…)

地球とベンタラの二つの世界の事を知っている為に『異世界』と言う物はすんなりと受け入れられたが、やはり、『魔法』と言う物の存在だけはすんなりと受け入れられるかと聞かれれば、感嘆には受け入れられない。…実際存在をこの眼で見たとしても…。

(…100%ファンタジーな物じゃなくて、どちらかと言うと科学の延長みたいな物だしな。仮面ライダーも似たような物だし)

魔法と言う力を使う者…『魔導士』の存在を考えると地球よりも、ゼイビアックスの配下に対抗する為の戦力は僅か13人しか居ない地球とベンタラよりも大きいだろうとも思える。だが、それでも、ゼイビアックスがこの世界を侵略する道を選んだと言う事は…。

(…奴にとっての脅威度はオレ達仮面ライダーの方が上って事かよ? まあ、そんな事はどうでも良いか。問題は管理局だかなんだか知らないが、その組織に協力を求めるのは止めた方が良いか)

質量兵器と言う魔力を使わない誰にでも使える兵器の根絶を謡う、全ての次元世界を管理する正義の組織で、地球は97番目の管理外の世界らしいのだが…。

(ベンタラの事は知らないようだけど…絶対に第二のゼイビアックスになりそうな組織だよな…。ベンタラの事を知られたら、拙い事になりそうだ。大体…限られた者しか使えない武器を広めて、汎用性の強い武器を廃止する時点で……それを大量に持ってる自分達の支配体制を強める事が目的にしか思えないな…。連中にしたらオレ達の仮面ライダーの力も質量兵器なんだろうし)

調べれば調べるほど《『第二のゼイビアックスとなりそうな組織』=『ベンタラにとっての害悪』》と言う公式が浮かんで来そうな組織の存在に思わず溜息を付いてしまう。なにより…

(組織に大義は有っても“正義”はないよ。…大体…そんな組織の人間が一般市民に絡んでる時点でどうかと思うけどな…)

ポケットの中に入っている“一般市民に絡んでいる管理局員”を叩きのめして、生活費として巻き上げた財布を弄びながらこう思う。……『世も末だ』と。

統夜にとって“正義”とは『敵と言う一を犠牲にして十を救う事』…他の人間の正義は否定はしないが、それ故に組織の正義は否定する。人の数だけ存在するのならば、人が集まる組織において、一つの正義など存在しない。第一…『悪と言う名の正義』も存在しているのだから。故に組織が掲げる“絶対の正義”等存在しない。寧ろ、組織の正義(そんな物)を盲信している人間は所詮人形と変わらない。

だから、統夜は管理局との協力と言う考えを即座に切り捨てている。


なお、寝泊りする場所は最初の目を覚ました廃墟で済ましていた。

(…はぁ…。仮面ライダーとして“絶対”に関わらない様に気を付けながら、戦うとするか…)

某所でその管理局の一部隊が関わろうとしているとも知らず、心からそう誓う統夜で有った。



 

 


ここに刻まれるは新たな物語の序曲…多くの思惑が絡み合いながら、物語は最初の一ページを刻む。

 

 

 

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