第十三話『ホテル・アグスタ』
「そうか」
統夜がドラグブラッカーやドラグレッダーと共に行方不明になった後、レンやユーブロンと言ったライダー達が探してくれていたと言う話だ。こうして、間接的にと言う形だが統夜の無事は伝えられた。
そして、同時に
フェイトが何処まで管理外世界の人間であるレン達に時空管理局の事を話したかは分からないが、地球かベンタラの何処かに自分とゼイビアックスがこの世界に移動した際の痕跡は残っているはずだ。
ユーブロンなら必ず其処から独自にミッドチルダに移動する方法を見つけ出してくれるだろう。
それに、向こうは『時間は掛かるが必ず救援を送る』と言っていたそうだ。もっとも信頼できる仲間達の言葉、それが嬉しくない訳が無い、心強くない訳が無い。
「それで、統夜は…」
「ああ、セイビアックス製のライダーの一人を倒した。今頃はアドベント空間で休んでいるだろうな」
「そう…なんだ…」
そう言って統夜はポケットの中から未契約状態のポイズンの物だったカードデッキを取り出してみせる。
統夜の言葉を聞いたフェイトの表情は何処か暗い物があった。無理も無いだろう、次元世界の平和を守っている筈の自分達の組織の中にゼイビアックスの手先になる様な人間が居たのだから。
なお、回収したカードデッキの所在について、はやてに相談したが彼女の判断はゲンヤと同様に統夜に所持していてもらうと言う事で結論付けられた。
鏡面を利用して何処にでも現われるモンスター達を大量に従えているゼイビアックスが相手なのだから、下手に管理局の方でカードデッキを管理・解析していても守りきるのは不可能としかいえないだろう。
ならば、対抗できる人間である統夜の手の中に有った方が何倍も安全だろう。少なくとも、これで仮面ライダーポイズンは現れることは無い。ゼイビアックス製のライダー達の人数が11人に減った事になる。
「ねぇ、その人は何時こっちに戻ってこれるのかな?」
「奴等がこれを奪い返した時にもう一度『ポイズン』として“利用”される時だろうな」
そう、以前戦ったシェルクラブのカードデッキを回収した時と同様だ。倒した後にカードデッキを回収しておかなければ、何度でも敵のライダーは蘇る。敵の敗北のリスクは正体が知られる程度でしかない。
「あ〜…事件が解決したら、向こうのライダー達はユーブロンに頼んでアドベント空間から出して貰うから、その時に罪を償わせれば良い」
「うん。事件が解決すれば、その人達も戻って来られるんだよね」
「ああ。それまでは精々アドベント空間で自分達がした事を反省していればいい」
統夜はフェイトを安心させる様にそう告げる。
「ねえ、統夜は…辛くないの?」
「…辛い、か…。最初の頃はそうだったな。…最初にライダーを…スピアーをベントした時は確かに辛かったけどな…」
そう言った後、思わず苦笑を浮かべてしまう。
「助け出す方法が有るから、結構楽に考えてるな、最近は…」
同時にそれはゼイビアックスを永遠にアドベント空間に封印できる事にも繋がる。
アドベント空間はユーブロン以外には救い出す方法は持たない以上、アビスに変身したゼイビアックスを倒せば、それで全ては終わる。
さて、機動六課の地球での任務と、統夜のポイズン戦から数日が過ぎた後、新しい任務について隊長陣とミーティングする。
ホテルで行われる骨董品のオークションにロストロギアが出るので、それを狙ってガジェット…リニアの時になのは達が戦っていた機械やモンスターが出るかも知れないので、警護する任務だとか…。
統夜としては、『そんな危険な物をオークションに出すな』と言いたい所だが、しっかりと安全が確認された物なので問題は無いらしい。…流石に持ち主が居た物はちゃんと返しているだろうと考えているので、その辺の追求はしなかった。持ち主が居た物を売りさばいたのなら…本気でこのまま協力して良いのか疑問に思う所だ。
そもそも、オークション自体を中止してしまえば良いのかとも思ったのだが、それは規模の大きいオークションらしく、それなりにお偉いさんも来るらしいので中止には出来ないそうだ。
「それにしても、大変だな」
現地での警護の配置を一瞥しながら改めてそう呟く。
「どうしたんや、急に」
「いや、配置だけど…」
シグナムとヴィータ、六課の数名が現地での警護を明日の夜から開始、会場の警護として一般客に紛れ込むのも兼ねて、なのは、フェイト、はやてに加えて、統夜も会場警護と言う事になった。
統夜は主にゼイビアックスのモンスターに対する警護なのだが、
「いや、こんな狭い所に高町達を配置するのは…そのお偉いさんの要望だろうからな」
「えっと、どうしてそう思うの?」
「高町も、フェイトも、戦い方は広い所の方が有利だろう? 八神の戦い方は知らないけどな…」
訓練の内容を思い出しながら、そう告げていく。砲撃型のトルクや、高機動型のウイングナイトを狭い場所で戦わせるのには理由があるだろう。
特に同じ接近戦型でもスピードを活かした戦い方のフェイトの場合は広い場所で戦った方が良いだろう。なのはの砲撃に至っては…どう考えても、護衛する側の攻撃でホテルが崩れかねないだろう。
「あはは…;」
「統夜君って、指揮官とかにも向いてるんや無い?」
「いや、ユーブロンの指揮とかを見てたら、そう思っただけなんだけどな」
「ユーブロンさんって、統夜の持ってるカードデッキを作った科学者なんだよね?」
「ああ。オレ達ライダーのリーダーであり、カードデッキの開発者でもある、天才科学者、アドベントマスター・ユーブロンだ」
何処か誇らしげにその名を告げる。天才科学者であり、一流の戦士であり、指揮官でもある人格者。…考えてみれば、はっきり言って完璧人間と言えるだろう。
「凄いんだね、ユーブロンさんって」
「世の中にはそんな凄い人も居るんやな」
「居るんだね、そう言う人も…」
「ああ、居るんだよな。そんな凄い人も…しかも、身近に」
改めてユーブロンの事を思い出す統夜と、初めて話を聞いた三人娘。揃って同じ感想を持ってしまう。…『ユーブロンって凄い』と。
さて、そんなやり取りが有ってから、任務当日…任務の場所となるホテル・アグスタへと向かうヘリの中ではやてが今回の任務についてフォワード陣に説明を始めていた。
「と言うのが今回の私達の任務や、みんな頼むで」
「「「「はい!」」」」
「それじゃあ、次は私からちょっとお話ね」
フェイトがそう言うとモニターの画面に紫の髪に金色の目をした男と、もう一人アビスの写真が映し出された。
「今、このレリックを狙っているのは二人、一人はこの次元犯罪者なんだけど、この前のガジェットの残骸から名前入りのプレートが出てきたんだ」
「半ば、挑発だな…態々自分の名前を書いてるなんて、自分が犯人ですって教えている様な物だろ」
「うん、私達に自分が犯人だって言っているみたい。このレリックに関わる事件の二人の容疑者の一人がこの人、違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者『ジェイル・スカリエッティ』と言う男が出てきたんだ。こっちの調査は主に私が進めてるんだけど、皆も一応覚えておいてね」
「「「「はい!」」」」
フォワードの四人から返事が響くと今度は統夜が前に出される。もう一人のゼイビアックスについての説明をして欲しいと言う事なのだろう。
「それから、こっちの私達の協力者の統夜が戦っているゼイビアックスもこのレリックを狙っているから、こっちについては専門家の統夜に説明して貰うから」
「専門家って言われるとちょっと恥ずかしい気分だけどな。少なくとも、ゼイビアックスがどうして狙っているかは分からないけど」
フェイトに促されたゼイビアックスについての説明のお浚いを終えると、リインがモニターの前に出て、画面がアビスとスカリエッティの物から、ホテルの様な場所に切り替わる。
「シャマル先生、その四つの箱はいったい何ですか?」
一通り説明が終わると、ふとエリオがシャマルの座っている近くに四つも箱が有るのに気が付いて質問する。
「ああ、これ? 隊長達と統夜君のお仕事儀よ♪」
シャマルはエリオの問いに笑いながら答える。
「いや、オレは別に着替えなくてもドラゴンナイトに変身して鏡の向こうから警護していれば…。」
「「「「ダメだよ(やで)(よ)(なの)!」」」」
「は、はい。」
全てを言い切る前に隊長陣+シャマルの四人に『ガシッ』と肩を掴まれて言われると、反論できずに頷くしかできなかった。
そんな事をしている間にヘリは目的地である『ホテル・アグスタ』に到着する。
(仕事着って、やっぱりこれか…。こう動きにくいのは苦手なんだよな。変身すれば問題ないだろうけど)
ホテルに着いてシャマルから着替える様に言われて渡された服に着替えると、しっかりとしたスーツ姿だ。
生身でもレッドミニオンと戦える様に鍛えてから、どうも動き易い…戦い易い服装を好む傾向にある統夜としては戦い難いスーツ姿は苦手なのだが、しっかりとスーツを着こなしている。
確認する様に内ポケットの中に手を伸ばすと、ドラゴンナイトのデッキとオニキスのデッキの感触が有る。
オークションに来る人達は正装なので、それに紛れての警備と言う事で統夜もまたこの服装だ。その立ち振る舞いはそんな場所でも浮くことは無い程度には出来ているだろうと言うのは、本人の弁だ。
「統夜君、お待たせや〜」
「いや、オレもそんなに待って…」
統夜が壁に背を預けて待っていると、はやての声が聞こえて来る。
統夜はそちらの方に視線を向けて思わず固まってしまう、其処にはドレスを着て綺麗に着飾ったなのは、はやて、フェイトの三人の姿があった。
「どや、感想は?」
「フェイトちゃん、綺麗でしょ?」
なのはとはやての二人がフェイトを統夜に見せ付ける様に前に出す。
「あ、ああ…綺麗だ」
「あ…あう…。…ありがとう…統夜」
真っ赤にした顔を俯かせながら、正直な意見を答えるとフェイトも顔を赤くして俯く。
「ほんなら、はよ受付にいこか」
「そうだな」
受付に行こうと歩き出した時、フェイトがバランスを崩して倒れそうになり、それを統夜が受け止める。
「あっ」
「大丈夫か?」
「…うん」
(…幸い、周りに敵は居ないか…。このまま無事に過ぎてくれれば良いんだけどな…)
何故か何時もよりも強くそう思う。
「こう言う場では、男性は女性をエスコートせなあかんのやで、統夜君」
「…男一人のこの状況で言うか?」
フェイトを立たせるとからかう様な響きで告げられるはやての言葉を横目で睨むことで返す。
「少なくても、統夜君とフェイトちゃんって両親に紹介した仲やないんか?」
「あれは伝言頼んだだけだろう。大体、紹介って言っても電話越しだろが」
「結局、フェイトちゃんへの告白も保留にしてるみたいやし」
「ちょ、ちょっと、どうして知ってるの!?」
思わず以前に告白された時の一件を思い出して顔を赤くしてしまう統夜と、慌てるフェイト、それを苦笑を浮かべながら落ち着かせているなのはの姿。
(…こんな時間も…悪くないよな)
十年ぶりの僅かな時間だけの知り合い達…過ごした時間もベンタラや地球の仲間達とは比べ物にならない程に短い。だけど…統夜は、
(…もう少しだけ、こんな時間を過ごしていたいな…)
そんな時間を、良いと思っている自分が居る事を無自覚の中で…感じ取っていた。
だが、この場で行われるのは、悪魔に使える二人の騎士との出会い。
平和な時間は過ぎ去り、直にライダー同士の決闘の場へと変わるだろう。
「ふっふっふっ…。見つけたぞ。行け、仮面ライダーブレード!」
「ハッ!」
仮面ライダーブレードはアビスの言葉にそう言って姿を消す。
アビスの視線の先に映っているのは…ローブのようなものを羽織っている男性と紫色の髪の少女と言う親子の様にも見える取り合わせの二人だった。
「強力なライダーに優れた一流の戦士と言える装着者。彼ならドラゴンナイトを倒せるだろう。これが私の手の中にある限りは」
そう言って一つのトランクをレッドミニオン達に運ばせると、そのトランクを開き、その中の物を持ち出し、アビスはそれを握り締めながら運ばせていたレッドミニオン達へと向けると、レッドミニオン達は白いヤゴのような姿のモンスター『ホワイトミニオン』へとその姿を変える。
「フッフッフッ…先ずは成功と言った所かな?」
新たに誕生させた三体のホワイトミニオンの中の一体が崩れ落ちるように倒れると背中が我、その中から青い体色のモンスター『ブルーミニオン』が姿を現し、何対かのブルーミニオンは更に脱皮する事で蜻蛉型のモンスター『レイドラグーン』へと姿を変え、ホワイトミニオン達を従えてアビスの眼前から立ち去っていく。
「中々他にも利用価値があるじゃないか…このレリックとか言う物も…。」