第十六話『心の壁と心の溝』

 

六課の隊社の屋上、そこで一人でも出来る基礎的な訓練を行った後、ドラゴンナイトのデッキを手に取りながら統夜は目を閉じて横になっていた。

 

「…やっぱり勝てないか…」

 

目を開けると空を見上げたままそう呟く。体を動かした後の休息を兼ねてイメージトレーニングをしていた所だ。その相手に選んだのは過去に戦った“地球”の仮面ライダーストライク、JTC…本名『ジェームズ・トレードモア』。冷静沈着かつ狡猾で有りながら残忍かつ好戦的な男。

はっきり言ってベンタラのストライク、『プライス』とは正反対の人物像だ。似ているのは実力くらい(外見も似ているが、地球とベンタラの関係を考えると当然と言えるのであえてノーメント)だろうか?

 

ゼイビアックスからカードデッキを渡された地球のライダー達の中ではゼイビアックスの最も忠実な部下だった男。その実力は地球で選ばれたライダー達の中でも間違いなく最強と言って良いだろう。

実際、仮面ライダーラスの力を借りてモンスターを強化したとは言え、レンもウイングナイトのサバイブモードを使って勝利ベントできた相手だ。統夜もイメージの中では兎も角現実では二度と戦いたくないと心から思っている相手でもある。

 

だからこそ、強力な敵としてイメージトレーニングの中で戦う相手としては最適なのだがイメージの上でさえ何度戦っても勝ちが無い。…もっとも切り札であるサバイブモードを使えば話は別になるが。

 

「…今のままじゃ力が足りないって言うのにな…」

 

ゼイビアックス製のライダー達はシステムとしては強力だが、ライダーとしてはまだ素人だ。今の所誰を相手にしたとしても負ける気はしない。だが、13人の仮面ライダー全員の力を合わせて勝つ事が出来たゼイビアックス自身を相手に、今は自分一人で戦わなければならないのだ。

今の自分では勝ち目は無いと不安に思わずには居られない。

 

「それにしても…」

 

ふと、屋上から下を見下ろすとティアナが一人早朝から自主トレを行っていた。

 

「…ちゃんと休んでるのか、あいつ…?」

 

最近のティアナの様子を見ているとどう見てもオーバーワークとしか思えない。

 

(そんな事位、流石に本人も自覚してるだろうから、オレが言うべきじゃないんだろうけどな)

 

自己責任』と切り捨てる気は無いが、そう言う事の注意を促すのは飽く迄『上司であるなのは達の仕事』と『部外者である自分がするべき事では無い』と判断する。

 

まあ、その判断が間違っていたと理解するのはもう少し後の事なのだが…今はまだ関係の無い話になる。

 

そんな事を考えながら、ポケットの中にあるオニキスのカードデッキを取り出し真上に持ち上げドラゴンナイトの物とは違う黒い龍の顔を象った紋章を眺める。

 

(…オニキスのデッキ…役に立ってくれたな)

 

オニキスのデッキが有った事でホテル・アグスタの一件ではドラグレッダーを避難する観客達の護衛に着ける為にドラゴンナイトのフェイト達に貸した時にブレードと戦う事ができた。

 

(…今更だけど…オニキスのデッキには助けられてるな)

 

思えば、オニキスと言うライダーと出会ったのは戦いの日々の中で見た悪夢が始まりだった。

…その悪夢もベンタラの先輩ライダー達からは誰もが見た麻疹の様な物とあっさりと言われてしまったが…。

それは兎も角、そんな訳で第一印象こそ悪いがドラゴンナイトのデッキとドラグレッダーに比べれば付き合いこそ短いがオニキスのデッキとドラグブラッカーには愛着がある。どちらを手にするのかと問われて選んだのはドラゴンナイトのデッキだが。

 

「っと、そう言えば朝一番で八神に呼ばれてたんだっけ」

 

そう呟いて立ち上がるとふと近くの鏡面が視界の中に入る。そこにいる一体のレッドミニオンと目が合った。ドラグレッダーとドラグブラッカーに一体だけ追い詰められている様子だが…。

 

「………………」

 

それを見ると無言のまま鏡面に近づき、目が有った事で硬直していたレッドミニオンを殴り飛ばしてそのまま鏡の中に入ると、

 

「KAMEN RIDER」

 

「〜ッ!?」

 

妙に平坦な声でドラゴンナイトに変身してレッドミニオンの悲鳴が響く中、武器も使わずにレッドミニオンを叩きのめして出てくるのだった。

 

「…まったく、こんな朝早くから出てくるなよな…」

 

そう言い残して何事も無かったかのように屋上を後にする。

 

……一言だけ言える事は…哀れなレッドミニオンも居たものだった……。運悪く統夜に見つからなければもっと楽に倒して貰えたのは決して間違いではないだろう。

 

(…それにしても、ドラグレッダー達の目を盗んで現われる雑兵レッドミニオンが出るのも珍しいな)

 

ふと、そんな事を疑問に思う。

 

 

 

 

 

 

 

「統夜君、聞きたい事があるんやけど…」

 

さて、既に日課になっているレッドミニオン退治を終えて部隊長室に通された後の第一声がそれだった。

 

「聞きたい事?」

 

「今統夜君が持っとる前に手に入れたカードデッキは統夜君には使えない。それでええんやな?」

 

「ああ、DNA登録はゼイビアックス製の方にも有った様だしな。」

 

「それじゃあ、ホテルの時の統夜君ってカードデッキが無かったのに、会場に現われたモンスターをどうやって倒したのか聞きたいんやけど」

 

「どうやって? そんな事聞かれてもな…普通に素手で倒したとしか言えないけどな…」

 

オニキスのデッキを使用した事を隠している以上聞かれる事は予想していたのでそう一言だけ簡潔に答えた。

 

「と、統夜君…それって…何処からツッコンで良いのか分からないんやけど…」

 

「あー…レッドミニオン達なら鍛えてれば素手で勝てるからな。」

 

元々持っていたのか、ミッドチルダで誕生した際に得たのか、理由は分からないがゼイビアックス配下のモンスター達は共通して魔力に対する耐性を持っているから、下手に魔力を使った砲撃等をするよりもその辺に落ちている角材や石・鉄パイプ等で直接殴った方が効率的なほどらしい。

 

まあ、ガジェットとは違ってレッドミニオン達はAMFを持たない分、戦い易い相手なのだろうが。

 

「その辺は経験と鍛え方だな。他の先輩達だったらもっと早く片付けただろうし」

 

「結局はそこに行き着くんやな」

 

「それ以外に何が有るんだよ? 最初から強くて何でも出来る奴なんて何処にも居ないだろ。……………多分」

 

そう言っているもののある種の完璧超人を知っている以上、言ってて自信が無いと自覚してしまうが。

 

「単にオレがあいつらと戦い慣れてたし、弱点を知っていた…それだけだ」

 

「…………」

 

そう結論付けた統夜の顔をはやてはじっと眺めていた。

 

「なあ、統夜君」

 

「なんだ?」

 

「まだ何か私達に隠し事してへん?」

 

「っ!? 別に隠し事はしてないぞ…」

 

確信を突かれたはやての言葉に対して思いっきり動揺してしまったが、直に同様を隠してそう言葉を返す。

 

「話がそれだけなら…」

 

「最後にもう一つ聞いてええ?」

 

「それは…部隊長として協力者に対しての質問か?」

 

「元クラスメイトに対する個人的な質問や」

 

「…………」

 

出て行こうとした統夜を呼び止めてそんな会話を交わす。聞きたいのは飽く迄組織の人間では無く、はやて個人での質問。はやての言葉に対して沈黙で返す統夜のそれを肯定と取ったのか、言葉を続ける。

 

「統夜君って…………私達の事、信用してへんやろ?」

 

「…さあ…。ただ…オレは“信用”“信頼”“友達”“仲間”は別物と捉えてるけどな…。」

 

そう言って肯定とも否定とも取れる返答を返す。事実、統夜は信頼はしていても信用はしていない…等と言ってしまうと語弊が有るが、それでも…彼女達の人間性は信用していても、今の所組織の人間としては悪い意味で信用している。

 

だからこそ、ベンタラの事やユーブロンの事などの地球とベンタラ、そして仲間であるライダーとその協力者にとって不利益になりそうな事を必要がない限りは絶対に話さない。オニキスのデッキの存在を告げずに隠し持っているのもその証拠だ。

 

今は敵対していないだけで第二のゼイビアックスとなりえる可能性がある“時空管理局と言う組織に所属している”時点で統夜達の間には、どうしようもない決定的な壁と溝がある。統夜自身は地球とベンタラを守るベンタラの騎士の一人として行動している、だからこそ“時空管理局の局員”であるはやて達との間に出来てしまっている溝だ。

 

比較的心を許しているフェイトとの間にさえ壁は存在している。統夜自身相手に気付かれないように気を付けているが、何時かは気付かれるだろう。…統夜としてはその時までに全てを打ち明けて良いのか判断できるだろうと考えているが。

 

「…うちらは仲間のはずや、仲間ならもっと腹を割って話せるはずや…」

 

「言っただろ、友達や味方と仲間は別物だ。それに…仲間であっても手札を隠す必要は有るだろう?」

 

結局の所…自分達はまだ“友達”“味方”では合っても“仲間”にはなっていない。直接ではないにしろ、言外にそう言われた気がしたはやては無言のまま手を振って部隊長室を出て行く統夜の背中を見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

??? SIDE

 

鏡面世界の廃墟のビルの一室…

 

「…許さない…」

 

純白の装甲を持った獅子を思わせる重装甲の仮面ライダーが壁に腕を叩きつける。

 

「…許さない……許さない…」

 

何かに対する憎しみをぶつける様に、壊れたテープレコーダーの様に、狂った様に白い仮面ライダーはその言葉を呟き続けていく。

 

「…許さない許さない許さない…」

 

皹が広がっていた壁が完全に砕け散った事で白い仮面ライダーは別の壁に同じ事を呟きながらその拳を叩きつける。

 

暫くそれが続くと言葉が変わり、

 

「…自分の感情を勝手にオレに押し付ける連中も…」

 

取り出した何枚もの写真を憎悪を込めて切り裂きながら、

 

「…オレ達を煽って置きながら放り出したこいつも!!!」

 

新たに取り出した老人の写されている写真を憎しみをぶつける様に拳を叩きつけながら、

 

「…オレから奪っておきながら幸せそうに生きてるこの似非人エセビト共も!!!」

 

新たに取り出した四枚の写真…はやての家族であるヴォルケンリッターの面々の写真に対して呪いでもかける様に拳を叩きつけ、

 

 

FINAL(ファイナル) VENT(ベント)

 

 

白いカードデッキに刻まれている物と同じ金色のライオンの顔を象った紋章の刻まれたカードを大剣型のカードリーダーへと装填し、契約モンスターである『ソードレオン』を召喚し廃ビル毎憎しみをぶつけていた写真を跡形も無く粉砕する。

 

それは己の体さえも破壊する程の憎悪を抑える為の一つの儀式…。自分を裏切った者達と、復讐するべき相手への憎しみを少しでも発散させる為の…。

 

「殺すコロスコロシテヤルコロシテヤルコロシテヤル!!!」

 

「…気は済んだか?」

 

白い仮面ライダーの後ろからブレードの姿が現われると白い仮面ライダーはブレードへと向き直る。

 

「はぁ…はぁ…。ブレードさん。はい、少しは気分が落ち着きました」

 

先ほどまでの狂った様な姿からは想像できない態度で白い仮面ライダーはブレードへと言葉を返す。

 

「将軍からのメッセージだが…お前の望みは過程でかなえられる…。数人の人間の殺傷許可だったな?」

 

「はい。オレにこの力をくれた将軍には申し訳ないんですけどね。こいつらだけはコロサナイト…」

 

狂気に染まった声でそう告げる白い仮面ライダーの狂気を涼風の様に受け流しながらブレードは。

 

「気にするな。将軍は寛大な御方だ。許可を取っている以上殺した所で契約違反にはならないだろう。それに…お前の気持ちはオレにも理解できる」

 

「はい」

 

「…だが、気をつけろ、将軍の宿敵がお前の復讐対象の部隊に居る」

 

「オリジナルの仮面ライダーの一人、ドラゴンナイトですか?」

 

「ああ」

 

「関係ない…オレは…こいつを…オレの両親と…妹の命でのうのうと生きてるこいつを殺す!!! 命もいらない…」

 

残された破片に一枚の写真毎拳を叩きつける。『楽には殺さない』と言う様な意思表示の様に、何度もそうした様にホロボロになった写真…白い仮面ライダーにとって最も憎い相手の写真…。ただ憎しみを発散させる為の道具にしてきたそれに写されていたのは…。

 

「この女を…『八神 はやて』を殺せれば…なんだって良い。悪魔にだって魂を売ってやる」

 

機動六課の部隊長『八神はやて』だった。

 

「…一つ違うな…将軍は悪魔じゃない…」

 

「そうでしたね、ブレードさん。オレ達にとって…将軍は…神に等しい」

 

ブレードの言葉に狂気に近い笑みを仮面に隠しながら…ライオンをイメージさせる仮面ライダーアックスに似た印象を持った白い仮面ライダー、『仮面ライダーレオン』はそう告げる。








 

 

 

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