東方欲炎翼

始話

「ボーダーライン・オブ・ライヴズ」 


欲望』という言葉は、概して良くないイメージを抱かれ易い物だ

欲望がある』だとか『欲望が強い』と言う言い回しは、しばしば『意地汚い』だとか『自分勝手』と同じ意味で使われる事も有る

しかし欲望とは本来良いも悪いも無い……いや、良くも悪くもある物だ

命は、生きているだけで欲望を持つ

 

何かを見たい

何かを聞きたい

何かに触れたい

何かを味を知りたい

何かの匂いを知りたい

 

食いたい

眠りたい

次の世代を残したい

 

死にたくない

生きたい

 

そう、ただ『生きる』と言う意思でさえ、紛う事無き欲望

欲望とは、命が前に進み、生きる為の原動力その物と言える

無垢な赤子ですら、「欲しい」と言って泣き喚く様に

理性の無い本能にさえ、本能ですらない反射の中にさえ、確かに欲望は存在するのだ

 

 

 

では逆に、欲望が宿ってさえいれば、それは生命と言えるのだろうか?

 

恐らくは、否

 

グリード

 

800年前の錬金術師達が作り上げた、欲望の力の結晶

それ自体もまた欲望を宿し、考え、欲し、動く

一見すれば疑似生命とも言えなくもない存在

だが、そうでは無かった

彼等には、欲望は有っても、それを受け取り、何かを見出す命が無かったのだ

理由もなく、道理もなく、只管に求め続けながら、その結果に愉悦も満足も感じない

始まり』も無く、『終わり』も無い、ただ無限に暴走し続ける、形を持った歪な『欲望

進む原動力を持ちながらも、決して前に進む事は無い

己が尾を噛む蛇の様に、同じ所を回り続けるだけの、ただのモノ

それが彼等、『グリード』だった

 

 

だが『あるグリード』は、本来彼等が得られない物を垣間見た

欲望の先にある物を、欲望を向けるに足る物を、見付けてしまった

やがて、彼はそれを求めるようになった

彼の欲望に、『始まり』が出来た

 

 

そして『あるグリード』は、本来彼がしないハズの行動を取った

欲望を向けていないと思っていた行動を、ただ衝動のままに行ってしまった

その結果、彼は己の終末に近づきながらも、満足を得た

彼は欲望の、『終わり』を知った

 

 

始まり』を得て、『終わり』を知った彼の欲望は前に進む力となる

蛇は己の尾を放し、前を見る

それは正しく『命の欲望

彼が求めた命ある者の証

 

 

 

 

彼は最期の戦いへと赴く

命ある者として、命ある事を証明する為に

例え、それを刻んだ先に待つのが避け得ぬ死だとしても

そうして『死ぬ』事が出来る彼は

 

 

間違いなく、『生きて』いた

 

 

 

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