第二話
「っ!?」
現れた騎士ウイングに対して女堕天使は思わず焦りを覚える。予想外の天使との遭遇に、だ。
正しくは『元』天使の転生ガンダムなのだが……寧ろ、この世界の並の天使などよりも遥かに強いだろう、スダ・ドアカワールドのガンダム族の方が。付け加えるなら、騎士ウイングはそのガンダム族の中でも上位に位置する実力者だ。
現在『騎士ウイング』のメインとなっているのは祐司の意識であり、騎士ウイングはそのサポートに徹している。十年間もの間使い続けてきた力の扱い方は十分に使い熟れている。
『倒すのは良いが、この堕天使の目的も分からない。それに、闇の化身の影の有無もだ』
(分かってる。直ぐには倒さない……情報を得たから、だな)
『念の為に後で『アザゼル』辺りに問い合わせてみるか。奴からの命令だったら今後連中との付き合い方も考えた方が良い』
そう言われて祐司は心の中で溜息を吐く。祐司が生計を立てている手段は悪魔側からのハグレ悪魔退治の依頼の他にも、堕天使や天使側からの仕事の依頼も有る。
三大勢力対してはそれぞれ理由が有って嫌ってはいるが、少なくとも個人に対する感情と仕事は別だと割り切っている。
……何より、三大勢力の中には彼が嫌っている理由に対して完全に無関係と言える者達も多い。肩入れする気は無いが、無闇に敵対する気も無い。
だが、この状況では目の前の女堕天使とは敵対する以外の選択肢など存在しない。
「じょ……冗談じゃないわ、こんな所で天使の相手まで!」
騎士ウイングの纏っている空気に本能的に勝ち目が無いと考えたか、顔を顰めながら堕天使の女は翼を羽ばたかせ、逃げるが勝ちとばかりに何処かへと飛び去っていく。
「っ!? 待て!」
騎士ウイングのスピードよりも早く飛び去っていく女堕天使を急いで追いかけるべく、空中戦に特化した別のガンダムの姿へと変わろうとした時、ふと倒れているイッセーの姿が視界の中に入る。
「すまない……」
まだ微かに息は有るが光の槍による一撃は確実に致命傷だ。命の火が消えるのも時間の問題だろう。少なくとも、今の彼を助ける方法など騎士ウイング達には無い。スダ・ドアカワールド式の蘇生魔法も存在しているが、残念ながら使えるものは居ない上に蘇生の条件は今のイッセーは満たしていない。
『今のオレ達に出来るのは……仇を討ってやる事だけだ』
そう呟くと一枚のチラシの存在に気付く。何故か気になったそれを手に取った時……脱兎の如くその場から逃げ出していく。
『あの堕天使、これを狙っていたか!?』
(偶然だろうけど……絶対次に逢ったら……消し飛ばす!)
イッセーが握っていたチラシに描かれていた魔法陣を見て、下手にこの場に居たら濡れ衣を着せられる危険が有るのだ。騎士ウイングも堕天使も在り方は違うがどちらも元天使だ。
唯一つ違うのは、神に見放された脱落者と神に力を与えられ真の意味での眷属になったと言う大き過ぎる差だろう。
どっちにしても似た力を持っているせいで現場に居たら、この後現れる相手に容疑者と疑われかねない。
……イッセーは消えそうになる意識の中で自分を刺し殺した彼女を追いかける半透明な白い翼を持った白い騎士の姿を見ていた(実際はこの後遭遇する相手との接触を避ける為に逃げてるのも有るが)。
走馬灯と後悔等の様々な感情を思う中、
(助けようとしてくれた正義の味方に見取られて死ぬってか? でも、どうせ死ぬなら、あんな美人の腕の中で死にたかったなぁ)
そう思いながら思い浮かべるのは一人の女性。剣道部の更衣室を悪友達と覗いて、それがバレた時に騎士シェンロン達に言われて女子に味方した祐司に一人ずつ捕獲される中で何とか逃げ込んだ旧校舎の周辺。その時に旧校舎の中に居た綺麗な紅の髪の毛を持つ美人な先輩。
そんな時に聞こえる声。この世界の運命と言う名の歯車が始まりを刻む瞬間。転生者と闇の化身と言う異物によって色々と歪んだ世界が、正常な形で一つの分岐点を刻む。
「爽やかな朝のはずが……憂鬱だ……」
『気持ちは分かるが、そろそろ真面目に授業に出ないと留年すると言われただろう』
(それはそれで妹分と一緒に卒業できるから悪く無い気がするけどな……。一応、テストの点数は取ってるしギリギリ出席日数は取ってるぞ)
『いや、あまり不真面目な事を考えていると……タダでさえ悪い影響受けているもう一人の妹分が更に悪い影響を受けるぞ』
武者ウイングゼロの言葉に納得する。祐司と出会う前の過去の一件から、対人恐怖症となって家の外に出ることを非常に恐れているもう一人の妹分。唯一の例外としては家族が付き添った場合だけだろう。
そちらの方には留守番と世話係を兼ねてカードより召喚した『
まだ完全では無いとは言えガンドランダーの世界の英雄達が居るのだ、並の実力では太刀打ちできないだろう、余程の相手でもない限り返り討ちにしてくれる事だろう。
なお時折、騎士ウイング、騎士デスサイズ、武者ウイングゼロ、武者デスサイズを除いたガンダムと交代もしていたりする。
色々と狙われる要因の絶えない妹分二人を抱えている以上、目先の堕天使……既に問答無用に始末する理由も出来ているので見つけ次第消し飛ばして問題解決してしまいたい気分だ。ぶっちゃけ、隠れ家見つけ次第鎧闘神になって必殺技の一つでも叩き込めば直ぐに羽も残さず消滅してくれるだろう。
『いや、堕天使限定に虐殺でもする気か?』
(そう言う訳にも行かないからな……)
問題は先日の女堕天使と無関係に偶然この街に居ただけや、あの女堕天使が離反者だった場合に捕縛に来た者達。無関係な者達の命を奪いかねないマネだけは避けたい。
『『『『え゛?』』』』
そんな事を考えながら教室に入ると……昨日死んだはずのイッセーが居た。思わず目を擦って改めて視線を向ける。……見間違いではないようだ。
(……騎士ウイング……浄化とかの魔法って使えるか?)
『い、いや……使えないが。多分、居ているぞ。彼から感じられる気配が人間の物とは違う』
(……そうなると……魔王の妹のどちらかが助けたって所か?)
一瞬幽霊と勘違いした事を心の中で侘び、クラスメイト達に挨拶をしつつ自分の席に着こうとする。
……先日の堕天使を倒し損ねた事に続いて見たくも無い奴の顔を見る事にストレスを感じながらも、後は屋上ででもサボっていようと思っている所に、
「イッセー、おはよう」
「な、なあ! 祐司は覚えてるよな? 夕麻ちゃんはちゃんと居たよな!?」
祐司の姿を見た瞬間、挨拶も忘れて縋り付く様に両肩を掴んで聞いて来る。……だが、イッセーは大事な事を一つ忘れている。
「お、お前、行き成り何を? 大体……夕麻ちゃんって誰だよ?」
「そんな……祐司までそうなのかよ?」
彼の質問の意味が分からずに聞き返す祐司に、イッセーは震えだす。何処か絶望にも似た色を抱いている彼を一瞥しつつ『何だったんだ?』と言う様な疑問を浮べているが、
『祐司、夕麻と言うのは……昨日の女堕天使の事じゃないのか?』
(あっ)
騎士ウイングの言葉に納得する。恐らく先日の彼に出来たと言う彼女、それが先日の女堕天使=夕麻(仮名)の事なのだろう。彼を殺す目的で彼女になると言って近づいてデートの最後に始末したと言う訳だ。
流石にイッセーは忘れているようだが、残念ながら先日は早々に学校をサボっている祐司は夕麻(仮名)とは会っていない。
つまり、覚えているとか覚えていないとか言う以前に、存在さえ認識していないのだから、『女堕天使=夕麻(仮名)』と認識できない以上は戸惑うのも無理は無い。
恐らく、目的を果たしたので己の存在に繋がる記憶や記録を消したのだろう。それでイッセー本人は覚えていても周囲は何も知らないと言う現状に繋がっていると言う訳だ。
周囲との語弊に焦っていてイッセーは祐司には夕麻(仮名)の事を紹介していないと言う事を忘れていたと言う訳だ。
…………まあ、祐司も祐司で『噂の彼女の事か?』とでも聞き返しておけば話は違っていたのだろうが。
そんな事を思う間も無く、新たに入って来た銀髪の少年……己にとっての遺伝子上の唯一となった元家族の顔を一瞥して顔を顰める。
父である騎士ガンダムが言う所の『転生者』に当たる特異な人間……現在では正しくは『人間』では無く『転生悪魔』と言うべき物『草壁 裕也』を視界に入れる事を避ける様に鞄から小説を取り出して一瞥する。……少なくとも、本日の出席だけは同じ空間に居る事を我慢する必要が有るのだ。
転生者SIDE
(ったく、あのボケ神め、何でオレに『
表向きは爽やかな挨拶をしつつ席に着いた裕也は既にスペリオルカイザー達に多重に封印されている神に対してそんな事を思う。
(まあ、いいか。無きゃ無いでイッセーが原作通り赤龍帝でも、それならそれで危ない奴の相手は全部アイツに任せとけるからな)
己の中の計画を修正しつつ心の中で笑みを浮かべる。
(計画通りイッセーよりも先にリアス部長の眷属悪魔にもなれたけど、何で小猫ちゃんが眷族に居ないんだ? 部長より先に出会ってフラグを立てときたかったのに。あれか? オレが『ルーク』に居るのが原因なのか?)
幾つか予定と違う事に苛立ちを覚えるがそれでも概ねは計画通りに進んでいると、裕也は自分に言い聞かせる。下手にボロ(本性)を見せては計画に関わると、既に多重人格に近い仮面を被り続ける。
……此処で一つ説明しておくと、祐司の元両親の死は転生前に裕也が設定した計画に沿った物であり、それを切欠に原作のヒロイン……『リアス・グレモリー』の眷属になると言う物が有った。
原作に於ける一誠よりも早い段階で眷属悪魔になる事で転生特典のチートと『
だが、既にガンダムワールドの神様達によって封印された事で
幸か不幸か、転生特典として悪魔に転生する時期を選んでいた為に両親の死と言う設定された不幸を切欠に悪魔に転生したと言う訳だ。
身勝手な欲望の為に他者の運命を犠牲にする。そして、同時に変化した状況にも上手く対応している。……闇の化身が復活の為の生贄と選んだ転生者・草壁裕也……。この先、彼の望む形で未来が決まる事は幾つあるのだろうか?
SIDE OUT
(……情報処置って所か?)
『恐らくはそうだろう。あの堕天使かその仲間によって存在していたと言う記憶を消されたんだろう』
「昨日まで流れてた噂がこうも変わって居れば、間違いないだろうな」
授業中の屋上……授業をサボっている祐司の姿しかない其処で、祐司とガンダム達の推測は一致を見せた。
昨日まで流れていた一誠に彼女ができたと言う噂が彼の妄想だと言う話になっている事と、昨日女堕天使に刺殺された事から考えて恐らくはそう言う事なのだろう。
「接触してくれば始末できたのに……」
『……本能的に危険を感じたんだろうな……向こうも』
この状況で記憶操作の為に近づいてきた堕天使は間違いなく女堕天使の仲間、敵である以上現れた所で問答無用で返り討ちにしても問題ないだろう。騎ウイングの言った様に本能的に危険を感じ取ったのか、それとも夕麻(仮名)と言う堕天使と接触していない祐司には必要ないと判断したのかは分からない。
『まあ、此処は悪魔の縄張りだからな。自分の存在に繋がる痕跡は消しておいたと言う訳だろう』
「そうなると、目的はイッセーの命か?」
少なくとも一誠に近づいた理由はそうだろうが、問題はその先……あの堕天使がこの町に来た理由だ。
恐らく別勢力の縄張りに入り込んだ以上、この場所で行なうべき目的が何か存在しているのは間違いない。下手をすれば入り込んだ時点で戦争に繋がりかねないマネだ。……三大勢力に属していない祐司達にとってはある意味では関係のない話しだが。
『そう言えば、あいつからは何故か悪魔の気配に加えて微かにオレに似た力を感じたぞ』
「……騎士シェンロンと同じ? 龍神……いや、ドラゴンって言った方が良いか? 死んで生き返ったなら悪魔なら分かるけど、ドラゴン……神器か?」
『元々持っていたそれが直前の命の危機や悪魔に転生した事が切欠になって、あいつの中の神器が覚醒しかけていて力が洩れてオレが気付けた訳か』
「可能性は高いな。ドラゴンの気配が有るならそれに関係した物か……。……まさかな」
騎士シェンロンの言葉にそう推測を走らせる。恐らく一誠を堕天使が殺そうとしたのにはそれが理由だろう。
どんな代物を宿しているのかと思って、僅かに赤い龍のイメージが浮かんだがそれは無いと考えから消す。そんなレア中のレアがこんな近くに有るとは思えない。
(まあ、堕天使勢力のボスのアザゼルは神器を集めているらしいからな。だとしたら、あの堕天使はアザゼルの命令で動いてる……。奴等と敵対する理由が出来てしまったか、これは?)
重ねて言うが嫌っていても無理に三大勢力と敵対する意思は無いが、向こうが人間界で必要以上に好き勝手にしているのなら話は別だ。少なくとも、実行犯と
ある程度堕天使側からの依頼の関係で直接コンタクトする方法(主に騎士ガンダム達の成果)は持っているが、直接聞いた所で誤魔化されるか下を切り捨てるだけで終るだろう。ならば……先に命令を下されたであろう下の方から自白を取って置くべきかと判断する。
後に祐司達もこの時考え過ぎた事を後悔する事になるのだが、それはもう少し先の話し……。最大勢力嫌いが悪い方向に働いた結果だ。
『だけど、どちらの言い分も聞いておいた方が良いと思うな。実行犯の暴走、または独断とも考えられる。そして、追い詰めた所で自分が助かる為にトップの名前を出す可能性も……』
「その可能性も有るか」
騎士サンドロックがそう注意を促され同意を示す。
「……現状、確実に討つ理由がある、実行犯のあの鴉女を討つ事だけを最優先にした方が良いな」
祐司の言葉にガンダム達は頷く事で同意を示すのだった。