第三話

 

 

「はぁ、まだ尻尾は掴めないか」

 

『まあ、そう簡単に捕まりはしないだろうな』

 

 騎士ウイングの言葉に思わず溜息を吐く。最初の一誠殺害現場(未遂?)に遭遇してから堕天使の捜索に当たっているが未だに成果は出ていない。

 同居人の妹達やガンダムチームの食事の支度も有るので、何時間も探索できないと言っても成果がなさ過ぎる。

 

(あの鴉……本気で何処に居るんだよ?)

 

『あの時に逃げられたのは痛かったな。向こうも警戒してるんだろう』

 

 騎士ウイングの言葉に心の中で同意しつつ溜息を吐く。向こうも予想外の相手とのエンカウントには警戒しているのだろう。

 タダでさえ、魔王の妹が二人も居る此処で下手に行動すれば、藪を突いて出てくるのは蛇では済まないのだから、向こうも警戒して動いていたのだろう。そして、そんな中で向こうからしてみれば正体不明の天使との遭遇。あの堕天使がどれだけ愚かでも同時に二つの勢力を敵に回して勝てると思っている訳がない。

 

(……シェンロン、イッセーの居場所は分かるか?)

 

『ああ。ドラゴンの気配は珍しいからな。それがどうかしたのか?』

 

(……イッセーを殺した後証拠隠滅までしたんだ。あいつが生きてるのが分かったらまた殺しに来る可能性も高い)

 

『だが、あいつを眷属にして蘇生したのがどちらかは分からないが、どっちにしても魔王が出てくる危険が有る相手だぞ』

 

 騎士シェンロンの言葉に同意しそうになった後、ふと今日一日の一誠の行動を思い出すが、夕麻(仮名)の事以外は昨日までとまるで変わらない。……多少気落ちしたりしているが。

 内心、『彼の事だから頑張って上級悪魔になれば合法的にハーレムも出来る』なんて言われて喜んで第二の人生ならぬ第二の悪魔生を謳歌するだろうと予想してたりする。……嘆かわしいとも思ったりもするが。

 

「……もしかして、あいつ……まだ説明されてないんじゃないのか?」

 

『……心臓貫かれた直後だからな……。知らぬ間に転生した可能性も有るだろう』

 

 そして、そのまま気が着いたら朝になっていたと言う可能性も有る。彼の両親には証拠隠滅も兼ねて普通に帰宅した様に記憶操作でもしたのだろ。完全に予想だが、それならば一誠に悪魔となった自覚はまだないと考えられる。

 

(……それにしても、グレモリーの眷属じゃない事を祈るか……)

 

 反吐が出るほど嫌っている人間(今は転生悪魔)が眷族に居る以上、進んで敵対以外で関わりたいとは思わないのだ。

 他の眷属や主のリアス・グレモリーには恨みは無いが、あの元兄弟は問答無用で殺してしまいたいと思っている。……彼女の性格上、そうなったら祐司と敵対する事は間違いないだろうから、仲良くしたくないと思っている。……誰も好き好んでストレスの原因と毎日ペースで長時間遭遇したいとは思わない。サボりの理由の九割がそれだし。

 

 ぶっちゃけ、一誠との友情とストレスの回避のどちらかを選べといわれたら迷わずストレスの回避を選びたい。

 

 そんな訳で念の為に一誠の監視をして堕天使の動きを探るという方向で予定を立てた祐司だった。……殺そうとしたら問答無用で堕天使を始末出来るように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼、兵藤一誠は己の私生活の変化に戸惑いを覚えていた。夜型の人間になった事、突然高くなった身体能力や五感。……身体能力の方は松田や元浜に誘われて覗きに言った時に、また祐司に取り押さえられた事から気のせいだと思う事にした。(本当はちょっと祐司が本気出しただけ)

 

 友人達に紹介した筈の自慢の彼女である夕麻の事を松田や元浜だけでなく、祐司さえもし知らないと言っていた。前述の二人だけならちょっとした嫉妬心と悪戯心による冗談とも取れるが、祐司まで知らないと言っていた。(祐司の場合、記憶が混乱しているか、一誠が紹介していない事を忘れている為、当然と言えば当然)

 

 誘った元浜や松田と別れて夜遅くに帰宅路を異常に効く様になった夜目に疑問を覚えながら歩いていると、一誠の目に黒いスーツ姿の男の姿が目に入った。

 

 居ても不思議では無いだろう。だが、纏っている空気が……明らかに普通では無いと一誠には思えている。向けられているのは敵意では無く殺気。

 

「数奇なものだ。こんな都市郡でもない地方市外で貴様のような存在に出会うのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「見〜つけ〜た〜」

 

 妙に禍々しいオーラを纏った笑みを浮かべながら一誠が遭遇した男を一瞥する祐司。忍者出身の武者デスサイズ直伝の隠行術は上手く悪魔や堕天使の目も誤魔化してくれている様だ。

 もっとも、力を持った種族にとって人間の存在は無視しても良い物なのだろう。……ある意味では最も嫌っている面ではあるが、今回はそれが好都合だ。

 

『落ち着け。まだ先日の堕天使の仲間と決まった訳じゃない』

 

「分かってる」

 

 

 

『逃げ腰かね? お前の主は誰だ? こんな場所を縄張りにしている輩だ、階級が低い者か、或いは物好きのどちらかだろうがな。お前の主は誰なんだ?』

 

 

 

 会話に耳を傾ける。此処までの会話では相手の目的は見えない。だからまだ動くべき時ではない。

 注意深く会話に耳を傾けていると、一誠は振り向き、一気に着た道を全力で戻る。以前の彼とは想像出来ない速さだが、

 

「チッ! イッセーには悪いけど、もう少し聞き出して欲しかった!」

 

 敵(獲物)である堕天使の姿が消えた事を確認すると、急いで逃走した一誠を追い掛ける。

 

(武者ウイングゼロ)

 

『今回はオレか?』

 

(ああ)

 

 心の中で口には出さずに武者ウイングゼロに話しかける。

 

 比較的騎士ウイング達騎士ガンダム勢がこの世界では効率的に戦える為、物理的先頭と言う面に特化した武者ガンダム達に変身する機会は少なかった。その為に様子見でも普段なら騎士ウイングの力を借りる事が多い。次いで多いのはガンドランダーの世界に属している機竜士(メタルファイター)の一人のレッドランダーの力だ。

 

 武者ガンダムの場合、この世界では汎用性が有るが、同時に悪魔と戦う事が多いので光属性の攻撃を使える騎士ウイングの力が優位であ

、次いでパートナーである『ガンドラゴン』との連携が出来るレッドランダー達だ。

 

 ……だが、今回の相手は堕天使。元とは言え天使と言う事でまた警戒されて逃げられる騎士ウイングよりも武者ウイングゼロの方が良いと判断した。

 

 ……要するに確実に逃がさずに倒す為に武者ウイングゼロを選択したわけだ。相手に迷わず逃走と言う選択肢を取らさない為にも、人でもない、悪魔でもなく、白い翼こそ持っているが天使でもなく、ましてや堕天使でも無い武者ウイングゼロの存在に僅かでも戸惑ってくれれば十分だ。

 

 あの堕天使にしてみれば逃げ惑う弱い悪魔を追いかけている狩人の心算なのだろうが、実際は違う……祐司と言う本当の狩人が仕掛けた一誠と言う餌に引っかかった本当の獲物こそ、あの堕天使だ。

 

 ……はっきり言おう。色んな意味で……鬼だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 十分くらいだろうか、一誠が必死に逃げて走った結果、開けた場所……彼の運命を変えた場所、夕麻との初デートの最後に訪れた公園の噴水の前に辿り着いたのは。

 

 呼吸を整えながら周囲を見回す。逃げ切れたのかと言う一瞬の安堵が浮かんだ瞬間、悪寒を感じる。

 

 その感覚に従って振り返って見回したとき目に映ったのは黒い羽を持った……夕麻を思い起こさせる姿をした先ほどの男。

 

「な、何なんだよ、これ?」

 

「お前の属している主の名を言え。こんな所でお前達に邪魔されると迷惑でな」

 

 戸惑う一誠に対して堕天使はそう告げる。ぶっちゃけ、この時点で祐司にとっては『自白』と言える言葉を聞く事になった。

 

 天使、悪魔、堕天使。敵対関係と言える間柄の三大勢力と呼ばれている三つの種族だが、ある程度の交流はある。……何らかの目的を持って、正規の手順で訪れたのならば直接この地を管理する上級悪魔の元に行くはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……となれば。隠密裏に果たしたい目的か、あの牝鴉の仲間か)

 

 気配を周囲と同化させながら祐司は堕天使の言葉を聞いていた。この時点で一誠と対峙している堕天使の言葉が、奴が一種の自白の可能性を持ち始めていた。

 

(……少なくとも、今のイッセーは何も知らない。ハグレと勘違いされる可能性もある。そろそろ拙いか)

 

 どっちにしても、この時点であの堕天使が敵である可能性が高い。流石に友人を囮にしてる時点で思いっきり罪悪感が有るのだ。そう思いながら足元に落ちている石を拾い上げる。

 

 

 

『まさか、お前はハグレなのか? なるほど、主が居ないならその困惑振りも説明がつくな』

 

 

 

 予想通り拙い方向に向かい始めていた。なるべく一誠を悪魔にした主が何者かは分からないが、二分の一の確率で会いたくない相手が居る。……主に転生者(バカ)のせいでだが。だから、祐司としてはなるべく早め且つ秘密裏に女堕天使とその仲間を討ってしまいたい。

 

「今回は間に合わせて貰うぜ、イッセー」

 

 堕天使が不愉快な耳鳴りと共に光の槍を出現させた瞬間、祐司は持っていた石を振りかぶる。

 

「せーの」

 

 思いっきり振りかぶって石を投げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガッ!」

 

 祐司の投げた石は正確に堕天使の顔……右目の位置に直撃した。人間ではない堕天使でも目へ石をぶつけられたのは効いたのだろう、空いた手で石をぶつけられた右目を抑えている。

 

「な、何者だ!?」

 

「何者? 今はお前の敵って答えで十分だろ?」

 

「おのれ! 下賎な人間風情の分際で高貴な堕天使にこのようなマネをするとは……余程命がいらんらしいな」

 

 憎悪の篭った声と瞳で睨みつけてくる堕天使を祐司は心底可笑しそうな笑いを浮べる。

 

「高貴? 薄汚い烏が何言ってんだ? 大体、堕天使なんて天使からの落伍者の事だろ?」

 

「か、烏……に、落伍者……だと?」

 

 あからさまな侮辱の言葉に堕天使は怒りに震えている。

 

「黒い羽なんて何処からどう見ても烏だろ? 分かったら其処のゴミ捨て場で残飯でも漁ってたらどうだ? 明日は生ゴミの日だから沢山有るんじゃないのか?」

 

「き、きききき、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! 俺を愚弄した事を後悔させてやる!!!」

 

(何て言うか……大して脅威を感じないな)

 

 後ろで目の前の堕天使から放たれる怒気と殺気に怯えている一誠を他所に、祐司は目の前の相手にそんな感想を持っていた。

 これでは、以前戦った闇の化身の配下、『闇殺斬火射(ヤミサザビー)』と実体させた亡霊と言う形で操っていた『黄虎璽(おうこジオング)』の方が何倍も強かった。

 

「武者変化!」

 

 堕天使が祐司と向かって光の槍を投げつけた瞬間、祐司の姿が変わる。青い鎧武者をイメージさせる姿に純白の翼を持った武者ガンダム。

 

「っ!?」

 

 投げつけられた光の槍を両手の中に持つ二本の刀で弾き、同時に距離を詰めて堕天使へと刀を振るう。

 相手を真っ二つに切り裂く事に対する躊躇を一切なくした一閃を堕天使は慌ててそれを避ける。

 

「な、なんだ、その姿は!? 人間でもない、悪魔でもない、神器(セイクリッド・ギア)なのか!?」

 

「答える義理は無いな。だが、倒される相手の名を知らずに討たれるのも哀れだろう。オレは、武者ウイングゼロ!」

 

 堕天使へと愛刀を突きつけながら武者ウイングゼロは己の名を宣言する。そして、武者ウイングゼロの姿が掻き消え、

 

「っ!?」

 

「お前の名は聞かない。墓に刻まれる名も、討った相手の心に残る事も無く!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」

 

 後ろに回りこんだ武者ウイングゼロの一閃が堕天使の翼を切り落とし、

 

「闇に消えろ!」

 

 片翼を奪われた激痛にのた打ち回っている堕天使を見下ろしながら、ある種の宣告を告げる。










 

戻る