第四話
背中の片翼を奪われ堕天使は地面に落下し公園の土の上を転がる。
それに対して武者ウイングゼロはゆっくりと純白の翼をはためかせながら地面へと降り立つ。
(な、なんだ……こいつは?)
目の前の相手から感じられる気配は異質な物も混ざっているが人間の物。ハーフと言うよりも人間と正体不明の何かと言う、二つの物が混ざっている様に感じられる。
(いや、そんな事よりも……何故こんな事に!?)
だが、そんな事はどうでも良い。見つけたハグレ悪魔を殺そうとして、逆に自分が狩りの獲物にされている。月光を反射して白く輝く武者ウイングゼロの刀からは恐怖の感情だけしか沸き上がらない。
見下していた相手の前で土に塗れて倒れ付している事への屈辱等、何一つ沸き上がって来ない。その堕天使の中に在る感情は恐怖と後悔だけだ。
「お前達は何を企んでいる?」
別にその質問に答えようが答えまいがこの後の運命は変わらない。どっちにしても討つだけだ。
「ああ、答えたくなきゃ答えなくても別に良い。どんな目的だったとしても邪魔をするだけだし、お前を討つ事に変わりないんだからな」
「う……あ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」
悲鳴を上げて武者ウイングゼロへと光の槍を投擲する。当然、武者ウイングゼロもそんな攻撃に当たってやるほど甘くは無い。自身へと投げつけられた光の槍を弾くが、堕天使は恥も外聞も無く慌ててこの場から逃げ出していく。
「逃げなきゃ、少しは楽な死を与えてやろうと思ったのにな」
武者ウイングゼロならば片翼を失っている堕天使のスピードには簡単に追いつける。だが……既に射程距離に居る相手を態々追いかける必要も無い。
「コマンドフォルム、チェンジ」
武者や騎士とは違いそう呟くと武者ウイングゼロの姿が別のガンダムの物へと変わる。兵器や機械、兵士と言う印象を与えるライフルとシールドを持ったガンダム。
僅かな人数でその星の全人類を操った巨大な軍と戦った自らの意思で変わる力を持った、邪悪なる神の生み出した兵器としての宿命に善なる神が意志を与えられた戦士達【Gチェンジャー】の一人、宇宙軍のエリート戦士『サイバーウイングゼロ』
『祐司、ターゲットはロックした』
「ああ。ターゲットロック、スプリット・バスター。シュート!」
サイバーウイングゼロの声に答え、空へと逃げた堕天使へと躊躇無く引き金を引く。サイバーウイングゼロの持つライフル『スプリット・バスター』から放たれ光の奔流が堕天使へと放たれる。
「ひ、ヒィィィィィィイイ!!!」
背後から迫ってくる音に気付いた堕天使が振り返った時、目に映ったのは自身を飲み込もうとする破滅の光。光は天使や堕天使にとって祝福のはずだが、純然たる科学の力によって生み出されたそれは、何者にも祝福など与えるものではない。与えるのは等しき破壊と死による蹂躙のみ。
科学も決して万能では無く、生まれたばかりの未熟な力。だが、それと同時に進化し続ける力でもある。この世界よりも長い時を掛けて進化し続けた『コマンドワールド』の世界の科学は、超常の力に純然たる科学と言う力で同等に並んだ世界でもある。
堕天使は悲鳴を上げる間も無く光に飲まれ消滅して行った。後に残ったのは僅かな羽のみ。サイバーウイングゼロは背中のブースターを全開にしてその羽の一部を回収する。
「ミッションコンプリート」
彼が堕天使に与えたのは最も屈辱的な『死』だ。神器の力でも悪魔の力でも、魔力でもない科学の力による死。
「……っと。おーい、生きてるか、イッセー。って……」
ふと其方へと視線を向けると誰も居なかった。『あれ?』と言った様子でサイバーウイングゼロが頭を抱えていると、
『お前がスプリット・バスターを撃った時に気絶した。流石に混乱が限界だったんだろうな』
武者ウイングゼロの言葉が聞こえる。『なるほど』と納得するが、それでは誰も居ない事に説明がつかない。
『その後、『リアス・グレモリー』が現れて回収していった。オレ達を警戒したんだろう気付かれない様に動いていたぞ』
「……確かに。……それにしても、イッセーの奴。グレモリーの所の眷属だったか……」
流石に科学100パーセントの力で堕天使を倒した所を見ては警戒するしかないだろう。恐らく直ぐに接触するのは避けて、自分達の事情を知らない新しい眷族の回収を優先したと言った所だろうが……
「拙いな、イッセーに口止めする前に回収されるなんて。……それも、よりによって一番接触したく無い方に」
『諦めろ。過ぎた事を後悔するのは無駄だ。それよりも、早く帰って明日に備えろ。……いつも朝作っているのはお前だろう?』
「そうだな」
翌朝……
「さてと」
味噌汁の味見をしつつ人数分の焼き魚と漬物を食器の上に並べ、食卓の上に置く。ガンダム達はカードの中に居れば食事の心配は無いが、どうも実体化していると食事が必要な物も多く居る。
……スペリオルドラゴンの盾の様な絵や、ユニオン族のエンブレムが飾ってあるのはスルーすべき所だろうか。
「二人を呼んでくるか」
朝のトレーニングに行っているガンダム達は戻ってくるだろうから、まだ眠っているであろう二人の妹分を呼びに行く事にした。
「おーい、朝飯だぞ」
『ん……分かった』
祐司がドアをノックしてそう言うと眠そうな声で部屋の中からそんな声が聞こえ来る。目を擦りながら部屋から出てきたのは腰まで届く白い髪に黒いウサギのイラストのパジャマを着た少女……騎士ガンダム経由の情報で祐司が保護する事になった妹分の一人『蛍』だ。(年齢は一つ年下で駒王学園の一年だが絶賛引き篭もり中)
彼女を保護した際に態々騎士ウイングを選択して追っ手を相手に暴れまわったのは、彼女を狙っていた相手に対しては最大級の嫌がらせだろう。
「それじゃ、着替えたら食堂に行けよ」
「ん」
彼女が部屋の中に戻っていく中『二度寝するなよ』と背中に声を掛け、同じく一年生のもう一人の妹分の部屋に足を向ける。
……内心では寝坊しても良いだろうとは思っている祐司だった。元々彼女が引き篭もっているのは過去の経験からの対人恐怖症が原因でも有る。祐司達家族は例外に当たるのだが、他の人間と関わる事に強い恐怖を覚える為に無理に登校は促さないようにしているのだ。
まあ、何時でも行きたくなったら行けるようにと、学校には籍を置いているのだが。
「あー……」
蛍と留守番役の
例外の一つは疲れたような視線でそれを眺めている祐司くらいな物だろう。そんな事を考えていると物凄い地響きを立てて一匹のバカも走ってきた。走っている際に何か門の様にも見える円の様な光が浮かんでいるのは、彼の持っているこの世界には無い
騎士ガンダムと言うよりも正確にはスペリオルドラゴンの友人……フォーミュランダーからの話ではそれは『ゲート能力』と言う代物らしい。
その能力の存在している世界では一人一つの上に推測の上でのリスクだが、幸福を代償とする事を初めとして、他にもとんでもないリスクを色々と持った能力らしいが、
(とことんふざけた奴だな)
その世界の事を感嘆に説明されて思った事はそれだ。
そう思って睨み付ける目を鋭くさせる。持ちたくも無い力を与えられた上にそれによって幸せを奪われ戦う事を共用されている本来の力の持ち主達からすれば、『ふざけるな』と怒りを覚える事だろう。
彼に力を与えた者との会話によれば、『神器と合わせれば最強じゃね?』と言う事で選んだチートの一つらしい。元々彼に与えられる筈の代物の能力を考えれば頷けるが。
だからこそ、その能力を軽々しく使っている姿を見れば怒りを覚えるしかない。
(……イッセーに武者ウイングゼロに変身する所を見られた以上、向こうからの接触も有るだろうな……。何時も通り授業サボって放課後は早々に帰るか……流石に丸一日教室に居なきゃ……いや、それじゃ問題の先送りにしかならないか)
そう考えると心の中で溜息を吐く。問題の先送りにしかならないが、それでも余計なストレスに曝されるのだけは避けたい。そもそもこうして授業を毎日の様にサボっているのだってそれが原因なのだから。
念の為に堕天使にトドメを刺したのも科学に属する力を有したサイバーウイングゼロだ。少なくとも、元とは言え天使である騎士ウイングの力を見せるよりも警戒はされないだろうと言う考えだったのだが、
(……素直に騎士ウイングで戦って、悪魔側に警戒されて接触を戸惑って貰った方が良かったかな、これは?)
敢えて警戒を促した方が良かったかとも思ったが、悪魔側からの依頼人……
……依頼以外は祐司が迷惑を掛けられる方が多いが。妙な言い方をすれば懐かれたと言うべきだろうか?
確かに悪魔側の事も嫌っているが、寧ろその対象が主に老害と腐敗した部分と
後は三大勢力に共通して人界に対して起している迷惑全般と言った所だろう。
(……ホント、毎日の事だけど学校に行くのが欝だな……)
とは言っても既にこうして学校に来ているが……。そんな事を思っていると何時の間にか教室に入って来た三人組と
放課後……
「やっ」
「…………何の用だ、木馬?」
女子の黄色い声と共に教室に入って来た彼、『木馬 祐斗』を一瞥し素っ気無く問う。リアス・グレモリーを王とする眷族の『
……騎士ガンダムにガンダム族にとっての騎士と技に特化したこの世界の騎士は意味的に違うとも言われたのでよく覚えている。
スダ・ドアカワールドと近しい世界であるリオンカージの世界に於いては力に特化した『闘士』の道と、技に特化した『剣士』の道と、魔法を操る『魔法使い』の道、その三つを究めし者こそが『騎士』だそうだ。また、騎士の先に有る唯一の選ばれし者だけが到達できる真なる頂点こそが『勇者』に当たるそうだが、今は関係ないので置いておく事にする。
「君に用が有るんだけど、ぼくに着いて来てくれないかな?」
「用事が有るんで断る」
嘘は言っていない。あの女堕天使の居場所を探したり、妹分達の食事を用意したりと色々と忙しい身の上だ。残念ながら、本当の意味の獲物は釣れず別の獲物が連れたので一誠を餌にする気はもう無いが、さっさとあの女堕天使には落とし前を着けさせたい(多分、八割方が黄金神への侮辱の言葉)。
「そ、そう言わずに着いて来てくれないかな」
「断る」
引き攣った笑顔で再び問いかける祐斗に対して再びの即断即決。悪魔嫌いの原因の根本の一つが居る場所に誰が好き好んで近づきたいと思うだろうか。
周囲の女子が『木馬君の誘いを断るなんて、なまいきー』等と言っているので殺気を込めて睨み付ける事で黙らせておく。
鞄を持って立ち上がりつつカードを二枚手の中に出現させてさり気無く『コール』の魔法を掛けて窓の外に投げ捨てる。当然鞄などで死角を作る事でカードを見せないようにして、だ。
「ダメだよ、帰らせないからね」
「……離せ」
そのまま外に出ようとした時に祐斗に腕を掴まれる。表情は笑顔のままだが目が笑っていない。
「帰らせないからね」
『……向こうも此処で実力行使と言うのは無いだろうが、こっちも人目が有る所では迂闊な事はできないぞ』
(そんな事は、する気も無い)
頭の中に響く騎士ウイングの言葉にきっぱりと否定しておく。流石にこんな人目に着きやすい所で暴れる気は無いのだ。
戦ったとはしても九割は勝つ自信はあるが。
「何処に連れて行こうって言うんだ?」
取り合えず話題を変えることにすると、
「『オカルト研究部』だよ。ぼくはリアス・グレモリー先輩の使いで来たんだ」
ぶっちゃけ、余計に行きたくなくなった祐司だった。……リアス・グレモリー本人を嫌っている訳では無いが、眷属になっている
「悪いが「それと」?」
多少無理矢理にでも振りほどこうと思ったとき、祐斗は言葉を続ける。
「君の妹さんにも用が有るそうなんだけど」
「……脅しの心算か?」
それが話題に上がった瞬間、祐司の纏っている殺気の密度が変わる。次の答え次第では人目など気にせず力を振るう程に祐司の心の中は荒れている。
「っ!? そんな心算は無いよ!」
「良いだろう、一緒に行ってやる。但し……アイツに何かしてみろ……その事を心底後悔させてやる」
殺気交じりの言葉をぶつけると直接ぶつけられている祐斗よりも近くに居た一誠の方が脅えていました。
「な、なあ……」
「何だ?」
「昨日、お前が変身したのって何だったんだよ?」
祐斗の先導の元でのオカルト研への道中、脅えながら話しかけてくる一誠に多少頭の冷えた祐司は、
「……それを助けてもらった部長さんにでも言ったのか?」
「え? あ、ああ……」
「……イッセー、お前を勝手に餌にした事は謝ろう」
「餌ってどう言う意味だよ!?」
「だけど今、ほんの少しだけ見捨てれば良かったって思った事については謝らないぞ」
「だから、どう言う意味だよ!?」
「……具体的に言ってやろう。『次は死にそうになったら自力で何とかしろ、オレは助けない』。そう言う事だ」
「って、おい!!!」
……元々二人揃って火種を持っている妹分達だが、自分を通じてとは言え着火してしまったのには一誠が昨日の出来事を証言してしまった事にもある。
主に自分のストレスと妹分の抱えてる火種に着火してしまった事に対する八つ当たりで、次に死にそうになったら一度だけ見捨てようと思う祐司だった。
……まあ、悪魔に転生した以上危険は避けられないのだから、一度くらい自力で死線を潜った方が本人の成長にも繋がるだろう。そう言った経験は後々必ず力になるのだし。
・サイバーウイングゼロ
モチーフ:ウイングガンダムゼロ
出展:Gチェンジャー
宇宙のGチェンジャー・ウイングチームのリーダー。フェニックスゴッドとは最初は敵だったが、後に味方になる。ウイングガンダムのバードモードと似た形態の『ジーファルコン』と『