まむししゅものがたり
蝮(マムシ)酒物語
第一話
10/25(土)秋も深まり子寒い日、畑の草刈りを一斉に行いましたが、
草が刈られて住処を追われたマムシ(蝮)がノロノロと姿を現し、捕われてしまいました。
蝮:マムシ亜科の毒へび、各地に分布し湿地に住む。
身体は短く頭は三角形、茶色の全身に丸い黒茶色の斑紋がある。
強壮剤にする。
と、辞書にはありました。
まさにその姿です。
そのときから一升瓶に閉じ込められ、水が入れられて今日(11/8)で丁度2週間、
水が3回換えられました。
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人間どもは儂をどうしようと云うんじゃ?
もうお腹が空いてヘロヘロじゃ。ううん!何のなんの、まだまだ元気じゃ!元気じゃ!
一升瓶に閉じ込められ、水を6文目ほどまで入れられて、丸2週間が過ぎたかのう。
何も食べてないんでお腹が空いて、出るものも出なくなってしもうた。
時々、水に溺れそうになって飲み込んだ水が出る程度で、
腹の中まで透けてしまうほどきれいになってしもうた。
うん?!どうじゃ?透けてないか?
水は3回?4回だったか、換えられたんじゃが、換える度にビンを振り回しおって・・・
どうも儂の身体を洗っとるように見受けられるのう。
腹の中はもちろん、模様が自慢のこの肌も一皮向けたようにきれいになってしもうて
どうもしまらなくなってしもうたようじゃ。
それでも長湯をしてフヤケタような人間の肌に比べれば、然程見難くはないがの〜。
振り回されるたびに眼が回って、空いた腹に応えるのなんの。それが辛いだけじゃが
4回目には流石に水は汚れなくなったわい。
なにくそ、こんなことではへこたれんぞ!蝮の生命力を甘く見るでないぞ!!
人間どもめ!
始めは、一升瓶のフタに軍手、あの手袋の軍手の親指を被せていたので、
これなら水を換える時に、人間の指にでも噛み付いて、ビックリしているその隙に
逃げ出してやろうと 思うていたんじゃが、
1回目の水換えの時に、二重にした網袋に換えられてしもうた。
そうじゃ、ミカンなどを入れるあの網袋を代用したようじゃ。人間めも考えおるの。
これではフタを外さなくても水が換えられてしまうではないか。
うーん、逃げるチャンスがなくなってしもうたわい。
いやーまだまだ、何か方法はあるはずじゃ、諦めんぞ!
・
・
・

どうして捕まったのかって?
あーあっ、まだ話してなかったかのう
いつもは静かな畑で、居心地が良かったんじゃが・・・
畑に溜め池があってのう、そこに大好物の蛙が住んどるんじゃ。
元々は近くの山の湿地に住んでおったんじゃが、その溜め池が作られてからは
定期的に覗くようになったんじゃ。
定期的というのは、お腹が空いたときと言い替えた方が的を得ているの。
ザリガニも居ったし、田螺も居った。いや、居ったと云うより人間どもが飼ってたのかの?
人間どもは悪趣味だからのう、ザリガニや田螺の何処がいいのか知らんが。
そこで時々、蛙を食べるのを一番の楽しみにしていたんじゃ。
そうよ、その分類好きの人間がいう爬虫類という生き物がうまいんじゃ。
それもヒキガエルよりはやっぱりトノサマガエルがうまかったのう。
ザリガニか? あれはいかん、あの固い鋏が腹に刺さりおる。田螺もうまいんじゃが、
どれもカラを吐き出すのに苦労する。腹に刺さりそうになるんじゃ。
やっぱり池では飲み込み易い蛙、それもトノサマカエルが一番じゃったよ。
なに?丸呑みしているのに、味が分るのかって?
おう、そう云えば、味わったことはなかったのう、冗談じゃ。
しかし、ノネズミやガマガエルよりは、間違いなくおいしい気がしていたが
丸呑みしているのは事実じゃな、味わえる分けがないか。
しかし、分かるだろう あの毛といい、ガマガエルのブツブツといい、そんな気になるじゃろう!
なに?見てくれだけで決めつけるものではないって?! うん、まあそうじゃな。
毎週、週末になると人間どもが何人かやってきて、どうゆう訳か池の近くに来る奴だけが、
ドタバタ、カンカン妙に音を立てながらやってくるので、見つからないよう
どこかへ身を隠したものじゃが、煩くて仕方なかったんじゃが。
動き回るのは、夜が得意じゃから、昼間は静かに寝ていたかったんじゃ、
その時ばかりはいつも身を小さくして隠れるか、その場所がない時は遠くへ逃げ出して
人間どもに見つからないようにしていたものじゃ。
うん?!見つかると虐められるからのう。
こっちはまったく相手にしたくはないんじゃが、見つかってしまうと
意味なく一方的に虐めてくるからのう人間どもは。
それ以外は、誰にも邪魔されずのびのび自由に過ごしていたんじゃ。
そうじゃな、人間以外に怖いものと云えば、
人間のこない週末以外には時々大きな白鷺や青鷺が、この溜め池に飛んで来た時も、
流石の儂も身を潜めたものじゃ。
儂の大好物の蛙はおろか、ザリガニや田螺も食べおるからのう。
そればかりか、一度などは、儂の姿を見つけて襲って来おった。
大きな長い嘴で、儂の頭をぱっくりやられたら堪ったものじゃないからな。
サギの脚に食い付いても何の効き目もないし、儂の自慢の牙もさっぱり役にたたん
最後には食われてしまっては何にもならんからのう、人間より怖い存在だったかもじゃ。
そう云えば、1年半ほど前に、人間どもが池を深く掘り下げおっての、
鷺も脚が立たなくなってしもうて、田螺をさがすことができ無くなったからかのう。
あれから、見かけなくなってしもうたから、怖いものは人間様だけになるのう。
ところがじゃ、
その日は朝早くから一際騒がしかったんじゃ。ドヤドヤと人間どもが大勢やって来て
草を根こそぎ刈ってしまう、あのやたら煩い機械を使いおって、
畑の土手の草刈りを始めおったんじゃな。
そりゃあもう、煩いのなんの、そこら中にブイブイ響き渡たっとる。
朝夕が冷え込むようになってきたので、冬ごもりでもしょうかと準備をしていた頃
じゃったから、思うように身体が動かせなくて、じっと窪みに隠れていたんじゃ。
機械が3、4台は動いておったの、まあ、兎に角騒がしかった。
風の噂に聞いた話しでは、
反対側の西の土手に住んどる仲間のドンタが、
その機械で真っ二つならず 三つに切られてしもうたという。
あっちの土手は、時々野鳥たちが巣を作って子作りをするので、
その卵や雛たちを餌にしておったようなんじゃ。ヒバリなどの小鳥もそうじゃが、
雉(キジ)がピンポン球のようなツルツルのきれいな卵を産みよる。
蛙よりは栄養がいいと、みえて、儂より一回り大きな身体だったことが禍して、
小回りもできず身を隠せなかったのじゃろう。
気付いた時には、儂等がきらいな領域に、人間どもが入り込んでいたんじゃな。
そこでドンタはいつもの習性で蜷局(トグロ)を巻いて首を持ち上げ、
威嚇をしようとしたんじゃな。
そんなことをせず気づいた時にすぐに草に紛れて逃げ出していたなら、こんなことには
ならなかったはずなんじゃが、儂等マムシの習性が禍いしてしもうて自業自得なのかも知れん。
その持ち上げた首をスパリ、その返しでまたスパリと、三つに分断されてしもうたそうな。
メタボが災いしたというか、習性が招いたというか、可哀想なことをしたもんじゃが、
苦しむ間もなかったのがせめてもの救いだったかもじゃ。
その時は、さすがの人間どもも何やら人間語でわめきながら2人が集まって見ていたというが、
その後は何も無かったように草刈りを続けていたと聞いておる。
その煩い草刈り機械の音がしなくなって静かになった頃合いを見て、辺りの様子を窺うと、
今まで身を隠せた草や茂みがすっかり無くなって無防備になっていることに気付いた時にはもうビックリしたもんじゃ。
よくまあ見つからずに済んだもんだと云えばそうじゃが、
この模様は目眩ましのためなんじゃが 人間どもに何処まで効き目があるか
実は誰も知らなかった訳じゃから、そりゃもうヒヤヒヤもんじゃったわい。
と ほっとするのも束の間
ここで冬ごもりをする積もりだった場所は、まったく使えなくなってしもうた訳じゃ。
仕方なく、池ができる頃まで住んでいた山に戻ろうかと、畑を横切って、土手を二段上って
山の茂みまで、もうあと5mもないところじゃったな
うっかり出て行ったところが不味かったんじゃな。
残りちょっと と、張り詰めていた気持ちが抜けたのも事実のようじゃが、
自慢じゃないが、儂等の眼はそんなに良くないんじゃ。
遠くは見えないし、近くも大して良くは見えん。さっきから話しておる人間どもも実はどんな生き物なのか、
実態はよく知らないんじゃ。事実この眼で見たことがなかったからのう。
ついでに言うとくが、耳もなくて音を聞くと云うよりは、
振動を感じると云うのが正解なんじゃよ。
丁度、草刈り作業が終わった人間どもが「打ち上げ」とかなんとかで、
何やらワイワイがやがや、秋刀魚を焼いて食べたり、酒を飲んで騒いでいたようで
その、すぐ横に出くわしてしもうたんじゃ。
ツイツイうっかりとはこのことじゃ。なにせ煩く緊張した時間が長かったから
落ち着くねぐらに早く帰りたかったのも事実じゃな。
しかし、人間どもは下手物食いじゃな、秋刀魚なんぞどこがうまいんじゃ
池ではなくて、海とかいう塩水に泳いどるというではないか。塩っからくはないのか?
まあ、どうでもいいことじゃが。
見つかった時には、必死に山へ逃げ込もうとしたんじゃが、
どうも身体が思うように動きよらん。
もう歳だからだって?
何を言うか!儂はピチピチの青年じゃ!身長も80cm近くの一番元気な時じゃ、
これ以上太るとドンタのようにメタボになってしまうわ。
辛いのは今日のこの寒さなんじゃ。
真夏の快適な気温だったら、人間どもには掴まることも無かったんじゃが。
こんな気温じゃ身体が思う通りに動きよらん。
昨年は、もっと遅くに冬眠に入ったんじゃが、今年は何時もより寒かったんじゃな。
気温が下がると、同じように体温が下がり身体が思うように動けんから冬眠するんじゃ。
これはどうしようも無い儂等の宿命なんじゃ。
人間にはないのかの?弱点は?たくさんあるような気がするがのう。
おう、話しを戻そう。
あっという間に、二人の人間に取り囲まれてしもうて、どっちに逃げるか迷うているところを、
火箸で頭の後の方を挟まれてしもうた。キツく挟まれたからのう、
火箸に巻き付いて逃げようとしたんじゃがどうもうまくいかん。
挟んだ儂を持ち上げながら、儂のことを 蝮だ!まむしだ!間違いないマムシだ! と、叫びおる。
そう云えば、儂らは人間どもからマムシと呼ばれていたようじゃの。
誰が言い出したんかは知らんが、虫でもない儂らをマムシとは、どうも響きが気に入らぬわい。
それも、クサリヘビ科マムシ属 とか何とかに分類までしおって
そんなに人気者だったかのかのう?この儂らは?
そう云えば、他にいた人間どもは、厭な顔をして顔を背けていたものも居たっけな?!
挟んだ火箸を、首を回して噛み付いてみたが固くて歯が立たん、
危なく毒の牙を折ってしまうところじゃったわい。
しかし、そうした儂を見て慌てた人間どもは、もう一つ火箸をかせ とわめきよる。
そんなもん、二つもない と、誰かが叫ぶ。素手は危ない軍手!グンテ!!
トングがあるよ、と誰かがいう。それはいかん、汚いきたない と、また 大きな声。
人間の食べ物を挟んでいるあのトングのことを云うておるようじゃが
汚いじゃと、どこが汚いんじゃ、秋刀魚を挟んだ生臭いもので挟まれて堪るか!
その間にも、儂は首を回して口を開け、牙を剥いて威嚇しておったんじゃが。
首を挟んだ火箸を土に押し付け、仲間の一人がそこらで探して来た竹の棒で頭を抑えて
胴の辺りを・・・
胴はどこかって?
おう そうじゃ、儂等の身体の胴とシッポはどこからどこまでが・・・?!
儂も正確にはよく分からないんじゃが、まあ、そんなことはどうでもいい話しを前へ進めるぞ。
長靴を履いた足で踏んづけられて動けなくなったところを
殺さんようにとか何とか声がしておったが。
火箸で頭のすぐ後を挟み直されてしもうた。そうよ、自慢の三角形の頭のすぐ後じゃ。
ここを掴まれると、もう首は回せんし、口も自由に動かすことができん。
人間どもは8人ほども居ったようじゃが、その内、マムシ酒を作ろうと、誰かが云うと、
そこにあった一升瓶に残っていた酒を鍋に空けてしまい持って来よった。
この儂を一升瓶に閉じ込めようと云うんじゃな。
さすがに、儂をビンの中に入れるのは大変じゃったようじゃが。
それはそうじゃ、簡単にそんな狭いビンの中なんぞに入りたくないわ。
火挟みと結局トングを持ってきて、頭の後と、その2cmほど後を挟まれて、
二人掛かりでビンの口に頭から入れられそうになって、頭が入れられてしもうた時には
もう観念してしもうた。
ビンの表面はツルツルだし、儂等の身体は後へは進み難いんじゃ。
鱗というか、鰓というか、嫌でも、するすると前に行くしかないからのう。
もう、なんの抵抗もなしにスルスルと入ってしもうたんじゃ。
しかし、どうしてじゃ?儂を素手で触らないのは??
そしたら 噛み付いてやろうと狙って居たんじゃが、人間どもはいつも道具を使いよる。
それにしても臭いビンじゃった。日本酒とか云うあれの臭いじゃな。
ビンの中には入らんぞと、しばらくビンの口の辺りで反抗していた積もりじゃったが、
生まれて初めて嗅いだ酒の臭いに酔うてしもうたようじゃな。
なんかクラクラしている内に
あっという間にビンの中に入れられてたような気もするのう。
元々、視力の良く無い儂の眼でも、視界が一気に茶色い世界になったものじゃが
これは、そのビンの色がそうだったのか?
途端に生き物反応をまったく感じなくなったのも、不思議じゃったが。
ビンに入れられたあと、密閉すると窒息する とかなんとか云って、
フタを載せる程度に軽く置いたようなので、すぐに頭を擡げて逃げようとすると
それが分っていたのか、今度は軍手を持って来よった。
軍手の親指をビンの口に嵌めて、抜けないように縛ってしもうたんじゃ。
何度か中から頭をもたげて軍手を押し上げてみたのじゃが、出られる訳がない。
それを見て また人間どもが騒ぎよる。「わー、すげー!」とか何とか云うておったな。
何がすげー じゃ こっちは必死のパッチじゃ!
その後は、みんながタライ回しでこの儂を眺めよる。
仕方ないんで、舌をぺろぺろと早く出し入れする術を見せると、
人間どもはまた喜んでいたもんじゃ。
儂は威嚇の積もりでやって居ったのじゃが、反対に見せ物にされてしもうたようじゃの。
ビンの中からでは、なんの効き目は無い訳じゃ。
何かワイワイ云いながら笑ってる奴もいたが、ビンの中の儂を怖がってる奴もいた。
何が怖いのか?怖いのは儂の方じゃろうが、こんなところに閉じ込めおって。
ほとんどの人間どもは、こんな間近で儂 等を見ることが無かったようじゃったな。
それは儂も同じじゃったが、
間近で見る人間どもは、みんな間抜け面をしておったのう。
精悍な顔、鋭い眼光、凛々しさでは儂の方が間違いなく上じゃ!
御主もそう思うだろう!今更いばってみても仕方がないがな。
そのあと、誰が、この儂を管理するかとか何とかで、一頻り盛り上がり、
次はどこに置くかで、まーた、騒いでおった。
家に持って帰ったら嫁さんがビックリするからアカンとか、何とか、
まったく騒がしい奴らじゃわい。
儂は人気者では無くて、どうも嫌われものだったのじゃな。
結局、今は空いている炭焼き窯の中に置かれることになった。
「福運乃窯」と命名したという炭焼き窯じゃ。
何が福運なんだか 儂にとっては不幸の窯じゃ。チョット薄暗いんじゃが、
外の吹きッ曝しよりはましな所と諦めて この始末じゃ。
捕まったのが10/25(土)、今日は確か11/15の土曜日じゃな、
ビンに閉じ込められて丁度3週間になる訳じゃ。
4回目の水を換える時じゃった
何時ものように、ビンをグルグル回し、上下に振ったあと、水が抜かれたかと思うと、
また、水が注がれて同じように振り回されて水が完全に抜かれてしまう。
これを2、3回繰り返しおったかのう。いつもと違うことをしおって
これで、完全に目が回ってしもうたので、反吐が出そうだったが、出るものはいっさいなし
仕方ないので、しばらく動かないでいたんじゃ。
すると、
心配そうな顔をして覗き込んだりしていたが、儂がまだ生きていると分かると、
そのまま放置されて何処かへ行きよった。
これで、水からやっと解放された とホットして首を伸ばして外の様子を伺っていると
すぐに帰って来よった。今度はどうも様子がおかしいんじゃ。
何やら色のついた液体を持ってるんじゃ。
この一升瓶と同じような色をした液体じゃ。水ではないようじゃのう。
儂の入ったビンの回りには、いつの間にか、人間どもが3人以上になって
この儂を見ておる。
さすがに、舌の技は見せる元気がなかったが、へーまだ生きてるんや?!とか
何とか言いながら覗き込んでいたのう
すると、水を換える時と同じように、その液体を注ぎ込んで来たんじゃ。
その時には、さすがの儂もビックリしてしもうた。
水は知っておったが、この液体はまったく知らないものじゃったからのう。
その色のついた液体にチョット触れただけじゃったが、火傷をするような熱さというか、
痛いと云うか、大変な激痛が走ったんじゃ。
これはいかん、儂もいよいよ最後かと、直感したのはこの瞬間だったよ。
何せ、3週間 何も食わずじゃ、
あの大好物の蛙の味も忘れ掛けてたほどじゃからのう。
その激痛は、注がれる液体が嵩を増すに従い、全身に回ってゆく。
もう、堪ったもんではなかった。
水の時と同じように、液体の外に身を出そうとするが、この液体にはどうしたことか
水の時のように簡単に浮くことができないのじゃよ。
人間めは何を注ぎ込んだのだ?
仕方なく、残った力を振絞って狭い所でビンの壁に身体を押し付けながら何とか
浮き上がり、首を擡げるのがやっとじゃった。
思い切り頭を擡げて、その液体から少しでも触れないようにしたんじゃが・・・
液体はどんどん注がれて、水の時とは違ってビン一杯にまで入れられて来た時には
・・・
もういかん
・・
激痛は全身に及んで、苦痛に替わり、息も出来ないほどに苦しくなってきた。
ふう・・ふう・・・
ビンの壁にヘバリ付いていた力も尽きて
しばらくはビンの口近くまで頭を持ち上げジッと我慢して居ったんじゃが・・・
段々・・気が遠〜くなって・・傷みも・・なにも・感じなく・・なって来よった・・・
・
液体の中に首まで浸かって
もう・・これ・・・まで・・・・・
・
・
・
と、苦痛も無くなって・・フワフワといい気持ちになって来た。
すると、どうゆう訳か、ビンの外から人間どもと同じようにビンの中の
この儂を見ている儂が居たんじゃ。
それも人間どもの言葉が分るようになった儂じゃった。
人間どもの動きが妙にゆっくりで、まるで時間が止まっているような感覚じゃ。
それ以外の景色はまったく変わりないようじゃな。
いや、見ている位置がフワフワして高い位置だったり、低かったりいろいろじゃのう
今までは地面からいつも上ばかり見ておったから
どの位置からでも見ることができるのは、何か奇妙な感覚なんじゃが。
どうしてこうなるのか?
良く分らんのう。
一升瓶の中の儂は、液体の中で、動かなくなっていた。
ついさっきまで儂を苦しめていた液体の中に儂の身体はあった。
頭を上に伸ばしたままの姿でビンの中頃にまで沈んではいたがのう。
牙が剥き出しで、黄色い液がにじみ出ている。
そうだよ!蛙や小動物を食べるときに、この毒で麻痺をさせてからでないと、
バタバタされたんでは飲み込めないからのう。
カブリツイタ時に出て来る毒じゃな。毒の効果は人間めの分類では、
あの有名な沖縄のハブよりキツいというぞ。儂等は知らないがな。
人間でもこの毒が回ると死ぬこともあるというから、それで嫌われているのかの。
死んで間もないマムシでも、この尖った牙に刺さると、自然に毒が入って行くから、
儂等を甘く見ない方がいいぞ。これは脅しではなく忠告じゃ!
・
人間どもの会話を聞くと、その一升瓶と同じような色をした液体は、ウイスキーだといいよる。
35度の焼酎、ホワイトリカーを使うという話しもあるが、
ウイスキーの方がアルコールも37度あり、味や香りがキツくて
儂の生臭みがごまかせると云うんじゃな。どうせ安物のウイスキーじゃろうが。
儂の身体が生臭いとは、ちょっと失礼な奴らじゃが
そりゃあ、生身で浸け込まれる訳じゃからのう 生臭いと云うかどうゆうのか、
儂らはいつも生で食らうから慣れとるが、人間どもには分からんだろうな。
これから、1年以上漬込むと話しているようじゃ。
すると、一緒にいた一人が、5年以上も浸け込んだマムシ酒があるから、
今度持ってくるというとるが、すぐ忘れてしもうて持って来たためしがない。
まあしばらく先のことになるじゃろう。と、また話しが盛り上がっとる。
そう云えば、牛などの家畜を飼育している農家などは、儂等の仲間を浸け込んだ
自家製のマムシ酒を大抵持っていて、
家畜が風邪を引いたり 怪我をした時など、飲ませるそうじゃな。
小さなおチョコ1杯をビールビンに入れて、それ一杯の水で薄めて飲ますんじゃな。
すると家畜は元気になって風邪や怪我などすぐに直ってしまうというんじゃ。
怪我をした時などは、これを付けたり湿布したりするとすぐ直ってしまうんじゃとな。
儂等の仲間も人間どもに役に立っているんじゃな。
見かけは嫌われているようじゃが、儂等の生命力には人間どもも感服しているようじゃ。
もちろん、人間にも効果があるのは間違いないが、チョット飲んで効いたからというて
たくさん飲むような欲たれ人間が居るようなので、困ったもんなんじゃ人間は。
欲を出して飲み過ぎると鼻血が出たりするからのう。
儂等、マムシのパワーを侮るでないぞ。
・
・
・
3週間被せられた網に替わって一升瓶の蓋が、今度はきっちり閉じられてしもうた。
日の光を遮るように黒いビニール袋で覆われて、倉庫のような所にそっと置かれて。
ここで、長い年月寝かされることに成るようじゃ。
これで蝮の儂ともおさらばじゃわい。どれ、また、その昔住んどった山の茂みに帰るとするか!
おう、そうじゃった。もう地べたを這いずり回る必要はなくなったんじゃな。
身が軽くなって一瞬に行きたいところへ行けるから便利になったもんじゃが
まだ、どうしたら思うところに思うように行けるのか?
良く分らん。
しばらく何処かで練習しないとうまくいかんようじゃ。
1年後か、2年後の、儂のエキスがすべて流れ出し ウイスキーの味見をする頃に
また、様子を見に来ることにしよう、それまで、しばらく、おさらばじゃ。
・
もちろん、時々様子を見には来るがの~。
それまでの間、さらばじゃ。
・
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・
第二話へつづく
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