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部屋の窓から見える雲ひとつない青空に静かに誓う。
いつかきっとあの日の背中に追いつくと。
何時の日かその背中を超えると。
そして、絶対に大切なものたちを守れる人になって、
大切な人たちの笑顔を守れる人になると。
俺が憧れたあの日の背中は目に焼きついている。
この先どんな苦難が待ち受けているかなんて知らない。
後悔しないことなんて絶対にないとは思う。
だけど俺は突き進む。
前の人生では持つことのできなかった確固たる決意。
これが俺の決めた道だから。
だから、
首を洗って待っていやがれ、親父……
絶対にそのスカした面に一発入れてやるからな。
ここに一人の少年の物語が始まる。
転生先生ネギま
第2話
鳴り響いていた轟音や閃光は収まり、静かな時が流れる。
すでに村の中で動く影はなく、活動しているものはいない。
恐らくフードの男が全て無に返したのだろう。
眼下にある村はまともな形を残しているところも多くなく、もう温かな生活を見せてくれないだろう。
ところどころにある戦闘で残った悲惨な傷跡が戦闘の激しさを物語っている。
戦闘が終わって村の生き残りであるネギは同じく生き残りであるネカネの足の容態を見ていた。
石化した足は砕けてはいないもののネカネの足を蝕むように席かがゆっくりと進行している。
どうやらネカネの抗魔力は予想以上に高かったらしく、進行度もかなり低い。
しかし放っておける状態でもなかった。
高位の悪魔がかけたのろいである以上完全に石化してしまったら戻せない可能性が高くなる上、このスピードで石化すると呼吸困難に陥ったり、血の循環ができなくなって脳死したりする可能性もある。
ネギに使える魔法はまだ初級のものばかりである。
かろうじていくつか治療魔法も覚えているがせいぜい擦り傷を治したり簡単な疲労回復を促したりする程度のものだけだ。
どちらにせよネギはこの丘までネカネを運んでくるときに無茶苦茶な身体強化に魔力のほとんどをまわしたために魔力行使もままならない状態である。
――頼りになるのはナギが持ってるであろう魔法薬オンリーか。
ネギは改めて自分の無力さをかみ締めた。
ネギの口から歯軋りする音が聞こえる。
「Grrrraaayyyyy!!」
「――っ!!」
疲労のせいか、戦闘が終わったと油断していたせいかネギは悪魔に気づけずその結果、接近を許してしまったようだ。
――まだ残党がいたのか!?
背中の羽はもがれ頭の角も折れ、体中が傷だらけでの悪魔がネギとネカネに迫ってくる。
見た目が以下に満身創痍だとはいえ魔力を使いきり、無茶な身体強化をしてボロボロなネギと気絶したままであるネカネを捻り殺すには十分すぎるだろう。
「ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ネギが軋むからだにむちをうってネカネの前に立ちふさがろうとする。
動かそうとするたびに体から嫌な音がするのをネギはきいた。
しかしネギは体を動かすのをとめようとしない。
ネギの頭はすでに考えることをやめている。
そこにあるのはせめて姉だけはやらせないという気持ちだけである。
奇声を上げながら迫ってくる悪魔にネギは魚を捌いたり木などを削ったりするために持っていたナイフを片手に突っ込んでいく。
ネギが無意識にわずかに残った魔力をまわしたのかナイフは弱弱しい光を放っている。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「GYAAAAAAA!!」
悪魔が横に振りぬいた腕をしゃがんでかわし、ひざを踏み台にしてがらあきになった胸へ飛び上がり、飛び出した突起に足をかけ頭に上りしがみつく。
悪魔は頭にしがみついたネギを剥がそうと手を向けるが、ネギは離さず持っていたナイフをすかさず脳天向けて突き刺した。
「GUGYAAAAAAA!!」
もう一度刺そうとするがその前に悪魔につかまれ投げ飛ばされる。
「ッガ!?」
枯れ木が折れたような音が聞こえた気がした。
地面と衝突した衝撃で肺の空気が全て吐き出されまともに息ができない。
先ほどの一撃は致命傷にならなかったようでナイフを抜き捨てた悪魔は空に向かってほえている。
一方的に狩るはずだった獲物にしっぺ返しを喰らい怒り狂っているようだ。
ネギは立とうとするが無理な身体強化の代償か指一本動かない。
そんなうちに悪魔は地響きを立てながらネギに迫ってくる。
――もうだめか。
悪魔はその太い腕を振り上げる。
ネギは訪れるであろうその衝撃に強く目を瞑るが衝撃は来ない。
おそるおそる目を開けると、
そこには振り下ろされるはずだった腕を片手で受け止め、破壊をもたらすであろう光を纏った腕を構えるフードの男だった。
「はぁぁぁぁぁぁぁ、おらぁ!」
突き出されたこぶしを受け悪魔は悲鳴を上げることすら許されず輝く光の中に影すら残さず消えた。
男が周りに気を張るが、今のが最後だったらしくひざをついて倒れたネギの様子を見る。
「お前、ネギか。
大丈夫か。」
「大丈夫に見えるんだったら眼下に行くことをオススメするぜ」
こんなときにでも冗談を言える自分に少し呆れた。
「それだけいえるなら大丈夫そうだな。
さすがは俺の息子というべきか」
「それよりネカネ姉さんを見てくれ。
石化されかかってる上に抗魔力が高いせいでやばいっぽい」
「あぁ、わかった。
ネカネは必ず助ける。」
そういってフードの男はネカネのほうへ歩いていく。
体が動かないせいで見えないが何か蒸発したような音が聞こえる。
おそらく魔法薬で応急処置をしているのだろう。
治療が終わったのか再びフードの男がこちらに近づいてくる。
ネギは一目見ようと最後の力を振り絞って体制を仰向けにする。
フードのせいでよく見えないがネギと同じ赤髪とネギを成長させたような顔が見える。
「応急処置は施した。
これ以上石化は進行しないだろう。
後は腕のいい治癒術士にでもみてもらえ」
「先に礼を言っておくぜ。
んでもってとりあえずはじめましてといっておくべきかな。
あんたが俺の親父のナギ・スプリングフィールドか?」
「大きくなったな、ネギ」
フードの男、ナギはネギの質問に答えずひざを付いてネギの頭をなでる。
「お姉ちゃんを守ったか」
「それでも守りきれなかったし、他の人だって…
結局誰も守れてねぇよ」
「俺に似てひねくれて育っちまったか。
そうだ、この杖をやろう」
そういってナギは杖をそっとネギに握らせる。
「こいつは俺の形見だ。
俺の言えた義理じゃねえが立派に育てよ」
そういってナギは立つ。
「最後に一つ聞いといていいか」
「なんだ」
ネギは意識が切れそうになるのを必死に繋ぎ止めながらいう。
「あんたは本当に死んだのか?
死んだんだったら今この場にいるはずがネエよな」
「……」
「本当は生きててなんかの事情で社会的に死んだことにしてんだろ。
本当に死んだんだったら殺した奴が名前をあげようと名乗りあげるはずなのにその予兆さえ見せてないしな」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るぜ。
だったら……」
そこで一息つく。
「ここに宣言するぜ!
俺はゼッテーあんたに追いついてみせる!
そして地球の果てだろうが魔法界の果てだろうがあんたを探しに行って見つけてやるぜ!!
そして見つけたときは盛大にその面にこぶし叩き込んでやるから覚悟し時やがれ!」
ナギは一瞬あっけにとられたが不敵な顔に戻る。
「本当に俺に似てひねくれて育ったな。
まあ、楽しみに待ってるぜ。
あばよ」
その声を聞いてネギの意識は途切れた。
意識が切れる前に見えたのはナギが飛び去っていくその後姿だった。
◆
目を覚ましたネギの目に見えたものは見憶えのない部屋だった。
家のリビングと同じくらいの広さの部屋だが、ベットや医療器具のせいで狭く見える。
広めの窓が付いており、あの戦いが嘘だったように外から光がさんさんと降り注いでいる。
ひざに重みを感じて見てみるとそこにはネカネがかすかに聞こえる寝息を立てて寝ている。
どうやら看病しながら寝てしまったようだ。
足のほうは不自由にしているようには見えない。
――どうやらネカネ姉さんも俺も助かったようだね。
原作どおり救助隊が来て助けてくれたのかな?
ネカネ姉さんの髪をなでながら右を見ると寝ているベッドの横にはもう一つベッドが並んでいる。
少し乱れてるところを見ると恐らく姉さんもこの部屋で寝ているのだろう。
左を見るとナギから形見だとぬかして握らされた杖がおいてあった。
自分の状態を見ると患者服に腕には点滴がつながれている。
体を動かそうとするが、
「グッ、ヌオォォォォ!?」
あの無茶な身体強化が祟ったのか全身筋肉痛のように痛い。
当分体は動かせそうにもない。
大体状況は把握できた。
とりあえずここは、
「知らない天「ネギ君目が覚めたの!?先生ネギ君の意識が戻りました」…」
「知ら「ネギ、目が覚めたの!?ああ、よかった。貴方まで死んだら私は…」…orz」
お約束をかましたいお年頃なのデスヨ、オレハ。
看護婦らしき人に呼ばれてやってきたとんがり帽子をかぶった医師?とネカネ姉さんによると俺とネカネ姉さんはあの丘で倒れているところを発見されここに収容されたらしい。
やはり村の人たちに生き残りはいなかったそうだ。
俺たち二人を除いて例外なく石像にされたかなぶり殺しにされたらしい。
石像にされた人たちも予想以上に呪いが強力で解呪できる見通しが付かないらしく、最悪このまま一生解けないかもしれない。
医師たちは沈痛な顔で告げた。
とりあえずこれに関してはあてがあるが、何年も先になるし結果的にできるのかまだ未知数なのでいわなかった。
どちらにせよ「未来の情報です」だなんていって話したらキチガイ扱いされるか精神病棟に移されるかだ。
ネカネ姉さんは応急処置が効いたのか収容された後、高位の治療術士達により無事に石化の呪いは解呪されたらしい。
俺と同じ部屋にいたのはまだ安静にしていなければならないのと俺が心配だったということでの措置らしい。
それから俺は目を覚ます今までの4日間ずっと寝たままだったらしい。
やはりあの身体強化はむちゃくちゃだったらしく経絡とかが若干傷ついていた上に肋骨も何本かやられていたらしい。
若いおかげで直りも早いだろうが、当分要安静らしい。
それとネカネ姉さんにはかなり泣かれた。
村の人たちはみんな帰らぬ人となり、そこに俺まで意識不明のままずっと寝ていたからかなり心配したらしい。
安心させようとできるだけ笑顔で
「大丈夫、俺はここにいるよ」
っていったら、ネカネ姉さんの顔がなんとなく赤くなった気がした。
看病しぱなしだっただろうから疲れが出てきたか?
「風邪か?」
って聞いたらなぜか不機嫌な顔になった。
なぜだ?
そばにいた妙齢の医師や看護婦さんのほほえましいものを見るような視線がなんか痛かった。
「落ち着いてからまた話を聞きにくるから、とりあえず休みなさい」といって医師達は部屋から出て行った。
ネカネ姉さんは未だに不機嫌だ。
なぜか頬を膨らませてぶーたれている。
――やべぇ、なんかめっちゃカワイイ。
これで俺が弟じゃなくて兄だったらギューっとしてたね。
なるほど、これが『萌え』か。
『萌え』恐るべき。
じゃなくて、
「ねぇ、ネカネ姉さん。
話があるんだ」
「ブゥーーー」
「ネカネ姉さん。真面目な話なんだ。
聞いてくれないか?」
「ブゥー、ってなあに?ネギ。
真面目な話って?」
ネギが体をネカネの正面に向ける。
「俺、本気でマギステル・マギを目指そうと思うんだ」
ネカネの目が丸くなった。
「どうしたの、ネギ。
いつも立派な魔法使いについて興味なさげに話半分にしか聞かないじゃない」
ネギは苦笑しながら言う。
「あぁ、正直あんま興味なかったけどね。
適当に平穏なところでのんびり仕事してのんびり過ごそうとしてたんだけどね。
でも多分、これから今回のように狙われることもあると思う」
「そんな、あの襲撃はネギのせいじゃないわ。」
ネカネは目に涙を浮かべながら否定する。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
でも俺がナギ・スプリングフィールドの息子である以上狙われる可能性は高い」
「でも魔法使いがそんなことするわけがないじゃない」
――流石にネカネ姉さんも割り切れないかな。
「いい人がいれば悪い人もいる。
人を助ける魔法使いもいれば人に害をなす魔法使いもいるさ」
「でも、でも、ネギはネギじゃない。」
「あぁ、俺は俺だよ。
でもそう思わないのもいる。
八つ当たりで狙ってくるのもいるかも知れない。
そして狙われるのは俺だけじゃなくなってくるかもしれない。
そのときに周りにいる人たちにも被害が及ぶかもしれないし最悪人質にとられるかもしれない」
「ネギ…」
ネギは一息つく。
「だから、強くなろうと思うんだ。
最低でも周りの人を守れるくらいには。
それに…」
「それに?」
ネギは目線をそらす。
その頬は微妙に赤く染まっている。
「…いや、なんでもない」
「なに、ネギ。気になるじゃない」
「や、秘密」
「もう、ネギったら」
――流石に気にも留めてなかった親父さんの背中見て憧れたなんて恥ずかしくていえましぇん。
ネカネは目元を赤く腫らしながら苦笑する。
「もう、ネギはいっつも先のことを考えて。
年上ぶって、世話もあまりさせてくれないのね」
――そりゃあ、中身はもうはたち超えたいい歳した元大学生ですから。
ネカネはネギに目を合わせて言う。
「だから、せめてこれからは私にも手伝わせて。
貴方が安心して目指すその道を進めるように」
「ネカネ姉さん。でも、」
ネカネは少し咎めるような目でネギを見る。
「その先を行っちゃだめよ。
どうせ迷惑がかかるからとかいうんでしょ」
「む」
ネギはそっと目をそらす。
「もう、貴方はいつも人には迷惑をかからないようかからないよう気を張るんだから。
もう少しくらい迷惑をかけてくれたほうが嬉しいときもあるのよ」
「俺は何時だってネカネ姉さんに支えられっぱなしだよ」
「そういうことじゃないんだけどね。
まあ、いいわ。
ネギも男の子だもんね。
ネギはネギの信じる道を行きなさい。
私が全力で応援してあげるから」
そういったときのネカネ姉さんの笑顔がとても綺麗でつい見惚れてしまった。
ネギは一瞬ぼうっとしていたが我に帰って返した。
「ありがとう、ネカネ姉さん」
たとえ中身が異世界の人間だったとしてもそこには確かに姉弟の絆があった。
恥ずかしいから言葉には出さないが今一度この青空に誓おう。
俺はいつかあの大きな背中に追いついてそして越えて見せると。
そして強くなって今度は俺があの背中で絶対に大切なものは守りきると。
大切な人たちの笑顔を守って見せると。
窓から入ってくる日の光がやけにまぶしかった。
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