瀬戸内コンビ、来襲 前編
室内に積み上げられる書簡の数々と左右から痛いほどぶつけられる尖った視線。
季節は夏で蒸し暑いはずなのに何故かその部屋だけは凍えるほど冷たい空気が流れていた。
「政宗様、これは一体どういう事ですか」
「sorry…いや違ぇんだこれは…」
「私に嘘をついていたという事なんですね?政宗様」
「stop!!落ち着け…!!」
底冷えするような笑みを浮かべ指をポキポキと鳴らすに拳を握り締める小十郎。
冷汗をだらだらと流し後ずさりする政宗へゆっくりと近づいていく二人の表情は満面の笑み。
大きな入道雲と真っ青な米沢城の夏の空に伊達政宗の断末魔が響き渡った。
頭の上に出来た大きなたんこぶ二つをさすりながら正座する政宗の前に立ったはため息を零した。
自分が仕える主は戦は得意だが執務となれば逃げ出す兆候がある。
代わりにやってしまえばいいのだが、さすがにそれをする事は出来ない。
是が非でもこの我侭な主に全ての書簡を目に通して貰わねばならないのだ。
「いいですか政宗様。おやつの時間までにこの山を全部片付けて下さいね」
「oh…それは無理があるんじゃね……」
「いいですね?」
「……チッ、わかった。その代わりシュー・アラ・クレームを作れ」
「きちんと片付けられたら食べさせてあげますが出来なかった場合は城下にばらまきます」
散々釘をさして執務室を出たは小十郎に見張りを頼むと主の御所望の品を作る為城下へ買い出しに出かける事にした。
ついでにと小十郎からメモを渡されそれを持って城下へ下りていく。
燦々と強すぎる紫外線を送る太陽に大合唱する蝉の声。
汗を拭いながら作業をする人々や暑さなど吹き飛ばす程元気よく走りまわる子供達。
夏の城下町はどこか活気に溢れ暑さに負けない熱気を含んでいるようだった。
行き交う人々は既にの事を覚えており気軽に声をかけてくれる。
は女性であるにも関わらずいつも燕尾服を着ていたが誰一人としてそれを咎めたり気に止める者はいなかった。
異国の服、とだけ説明すれば城の人間も町の人間も皆物珍しそうに眼を輝かせていたが慣れてくればそれがの目印として定着していたのだ。
小十郎に頼まれた物とおやつの材料を買い込んだが城へ向かって歩いているとこの辺では見慣れない格好をした二人が目に映った。
一人は灰色がかった髪に紫色の眼帯で上半身はほぼ半裸。
もう一人は全身黄緑色の服を着て変わった形の帽子をかぶっている。
どうやら不慣れな土地なのかウロウロと歩き回る二人を町の人々はどこか不安そうに見つめている。
そしてが人々の前を通れば皆に懇願するような瞳を送ってくるのだ。
つまり、どうにかしてくれという視線が町民からバシバシと飛んできている状態。
面倒くさい事には関わりたくはないがそうも言っていられない。
ここは伊達政宗の御膝元なのだ。
主にとって危険な人物の可能性もある。
先程からウロウロとしている二人を横目で観察してみた。
言い争っているのかと思えばそれほど仲は悪そうではない。
だが格好に少々問題がある気がした。
桃色乳首丸出しの露出狂とオクラを被った女王様にしか見えない。
やはり面倒な事には関わりたくないと思い直し素知らぬ顔で通り過ぎようとしたに再び町民の視線が集まる。
その縋るような視線の数々にはがっくりと肩を落とした。
おやつの時間までもうあまり時間がない。
さっさと解決して主の為にお菓子を作らなくてはならないのだ。
そう決めたは未だ言い争っている二人の後ろから肩を叩いた。
「どうか致しましたか?」
極めて冷静に不躾にならない程度の外行きの笑みを貼り付けて二人に問いかける。
二人は一瞬驚いた顔をして、遠慮のない視線をにぶつけてくる。
先に口を開いたのは上半身半裸の男だった。
「アンタ変った格好してんなぁ。南蛮の着物か?」
「…おぬしは人に接する態度が悪すぎる。気分を害していたらすまぬ」
「いえ、大丈夫です。それより何かをお探しですか?」
の言葉に二人は大きく頷いた。
何故か嫌な予感がする。
「実は知り合いの所に遊びにきたんだが迎えがこなくてな」
「あやつ恐らく書簡を読んでおらんのだろうな」
「……どこへ、行きたいのでしょうか…」
「「米沢城」」
二人の声が見事にハモった瞬間、は軽い眩暈に襲われそうになった。
変態は自分の主一人で充分だというのにこの暑い中彼等を城に招かなくてはならないのかと思うと笑顔が崩れそうになる。
恐らく溜まりに溜まった書簡の中に彼らの来訪の意を告げる文書が入っていたはずだ。
おやつに毒でも盛ってやろうかと思いつつとりあえず二人を連れて城への道を案内する事にした。
道中二人を引きつれて歩くの姿は非常に目立っていた。
町民からすればまるで仮装集団のような三人に控えめだが興味津々な視線が集まる。
「それでえーと…」
「失礼致しました。私伊達政宗様にお仕えさせて頂いております、と申します」
「お仕え?…そなたは伊達殿の…」
「あくまで伊達政宗様にお仕えする者で御座います」
受け答えするの物腰は柔らかく笑みを浮かべているのにどこか有無を言わさぬ雰囲気を持っていた。
そんなに気押され二人は慌てて話題を変えた。
「それにしても変った着物を着てる所を見るとあれか?は南蛮から来たのか?」
「左様で御座います」
「ではあのザビー教とも関わりがあるのか?」
「ザビー教というのは存じません。当主が引き立てて下さっている貿易商の縁者で御座います」
「成程」
途中門番に会えば門番は青い顔をして城へすっ飛んでいき、また兵に会えば兵も青い顔をして城へとすっ飛んでいく。
これを繰り返しながらようやくもうじき城の前という所まで来た時、前方から土煙りが上がるのが見えた。
走ってきたのは明らかに不機嫌な表情の我が主、伊達政宗と小十郎だった。
「Hey!!てめぇらから離れやがれ!!」
「…政宗様、お客様ですよ?こじゅさんも刀を納めて下さい」
「政宗様を狙う奴などこの小十郎が!!」
「Let's party!!」
「筆頭に続けぇー!」
「せっかくのPartyだ派手に楽しめよ?」
「YEAHーー!!」
既にやる気満々の政宗と殺気を放つ小十郎を筆頭に、お祭り騒ぎの伊達兵達。
このままでは本当にこの場で戦が始まってしまうだろう。
後ろにいる二人が敵かどうかはさておき、は二人の前に立つと腕を組んでニッコリと笑った。
その瞬間、蒸し暑い空気が一瞬にして身震いする程冷え込む。
「いい加減にしないと…城ごと木端微塵にしますよ」
「「すみませんでしたァーーーーーーーーー!!」」
「落ち着いてくれたようで何よりです」
の言葉を聞いた瞬間真っ青な顔をして物凄い勢いで謝罪をする兵達を見て、二人は唖然とした。
屈強な伊達兵を一瞬で黙らせる、自分達の前に立つ女は一体何者なのだろうか。
そんな二人の気など知らず伊達政宗と片倉小十郎の前に立ったは刀を納めさせるとようやく二人を振り返った。
「お騒がせ致しまして申し訳御座いませんでした。どうぞお進み下さい」
ニッコリと目を細めて頭を垂れるに二人はただただ唖然としつつも城へと向けて足を進めた。
こうして米沢城にたどり着いた二人はそのまま広間へと案内され、ようやく腰を落ち着ける事が出来た。
二人の前には当主である伊達政宗と腹心である片倉小十郎が座っている。
そしてその脇では自分達を案内してくれたが少し離れた場所で控えていた。
「…それで、何の用で米沢まで来たんだ?四国のお二人さんがよぉ」
「何しにってそりゃ決まってんだろ」
「避暑に来たのだ」
「避暑ぉ?」
当然だという顔をする二人を前に政宗も小十郎もも目をまるくして驚きの表情を浮かべた。
「「しばらく世話になる」」
UP DATE : 2007.08.27