crazy for you
「失礼致します」
ビシっと音がするくらいきっちりと敬礼をして去っていく部下の背中を見つめておれは手渡された資料に目を通した。
麦わらの一味とやりあった後海軍本部に戻ったおれは部下に頼んだのはこれだった。
≪麦わらの一味に関する情報と20代の女性で特殊能力を持つ海賊及び犯罪者の資料≫を集める事。
手渡された資料の少なさにため息が出る。
資料が少ないという事は、あの女の資料が見つかる可能性は低いという事だった。
という名で照会をかけさせたもののやはりヒットするものはなく。
おれはだらけたまま資料を読み上げた。
東の海でのアーロンパーク崩壊から始まり、詳細があるのはやはりアラバスタ事後まで。
ニコ・ロビン加入後の資料はまだないらしい。
そしてやはりあのという女の存在も載っていなかった。
勿論20代女性の資料の方も同様だ。
「あららら、謎の女って訳か」
先程部下の持ってきた資料を放り投げて上着を羽織って外へ出る。
資料がないなら自分で動くしかない。
ボリボリと頭をかきながら再び自転車にまたがって部下に見つからないうちに海へ出た。
大将ともなれば行動にはそれなりに制限がつく。
自分でも何故あのという女がそれほどまでに気になるのか不思議だった。
だが、長年の直感が告げているのだ。
あの女は危ない、と。
まるで諸刃の剣の様な女だ。
自分の仲間に引き入れられれば、見当違いでなければ相当頼もしいだろう。
だが、海賊のままでいるなら厄介な相手だ。
未知の能力というのは先が読めない分リスクも増える。
氷河時代で海を氷らせた際、彼女はその現象を見てピタリと言い当てた。
あの後問い詰めて聞いたが内容は自分にはよくわからなかった。
だが、恐らく彼女の見解に間違いはなさそうだ。
ニコ・ロビンを氷らせて割ろうと拳を突き出せば彼女は瞬時に盾を出した。
盾など持っているはずもなかったのに。
彼女の指先から光が出たと思えば目の前には盾があった。
「オリオリの実じゃあるめェし、タテタテの実でもあんのか?」
だがそれではあの翼は何なんだ。
仮にタテタテの実があったとしてそれでは翼の存在がわからなくなる。
「それにしても、いい姉ちゃんだったなァ。本当何で海賊になんかなっちまったんだが」
海軍になってくれりゃ自分の部下に引き抜きたいところだ。
くつくつと笑いながらふとあの時の事を思い出した。
ニコ・ロビンを叩き割ろうとして前に出てきた彼女とかわした会話。
悪魔の実の能力者か?と聞けば彼女は、残念ながら期待に添えない、と言っていたはずだ。
嘘をつくような性格ではないと思う。
とっさの誤魔化しにしては表情に迷いがなかった。
その事から考えれば彼女はやはり悪魔の実の能力者ではないのだろう。
オレンジ色の髪の女を吹っ飛ばした時、彼女は自分の身を挺してあの女を助けた。
まるでそうするのが当然のように彼女は下敷きになったのだ。
「あららら、自分が女だって事忘れてるみてェだ」
見た目はどう見たって女性のそれだ。
顔だって体格だって女性らしい。
それでも態度はその辺の男よりもずっと凛々しかった。
鋭い視線を送ってくる瞳は静かに燃えていた。
自分が睨みつけたって平然とその視線を受け止める女。
そんな女がかつていただろうか。
「何を、背負ってんだか」
ふと漏れた言葉は率直な感想だった。
あれは何かを背負う者の瞳だ。
極力自分を抑え、表に出さない者の態度だ。
彼女の行動を思い起こしてみる。
そういえばあのという女は、守ってもらおうという姿勢は全くなかった。
あれだけ男が揃っている中、彼女は自分も戦うのが当然だという姿勢だった。
むしろニコ・ロビンとあのオレンジ色の髪の女を守ろうとしていた。
つまりそれは、前線で戦ってきた者の態度。
モンキー・D・ルフィと一騎打ちをし一番最初に戻ってきたのも彼女だ。
あの時彼女は確か≪船長を引き取りに来た≫と言っていた。
「おれの事わかっちゃってんのね」
おれがモンキー・D・ルフィを殺さない事も計算済みだったのか?
あのという女は恐らく船長がおれに敵わない事もわかっていたはずだ。
そう考えればやはり彼女はおれがモンキー・D・ルフィを殺さない事をわかっていたのだろう。
あの時の試す様な視線におれは酷く気分が高揚したのを覚えている。
面白いヤツだと。
それと同時にあのという女を知りたいと思った。
何を背負っているのか。
何故そんなに自分を消しているのか。
何を、恐れているのか。
「やっぱ攫ってきちまうんだったな」
彼女なら、軍人としてでも充分やっていけるだろう。
いや、むしろ軍人の方が合っている気がする。
物怖じしない態度に加え、冷静な判断力。
だけど意外に熱く、確固たる意志の見える瞳。
だが、彼女をそうさせているのは恐らくあの麦わらの一味なのだろう。
仲間への信頼。
そして仲間への愛情。
無理矢理攫ったとしても彼女は恐らくどんな手段を使ってでも彼らの元へ戻るだろう。
それは自分の意図するものとは違う。
飄々としている彼女を捕らえてみたい。
この手で、追いかけてみたい。
無法者と軍人という立場で、追いかけてみたい。
きっと彼女は正面から挑んできて、負ければ素直に認めるだろう。
それでも彼女をインペルダウンに送ったりなどしない。
捕らえられるギリギリで逃がしてみるのもいい。
ああ、何だこの感情は。
酷く楽しい気分だ。
追いかけて追いかけて、逃げればいい。
するりと自分の手から逃げていくあのという女を想像するだけで酷くワクワクする。
気づけば彼らが向かうであろうウォーターセブンの近くまで来ていた。
いつの間にこんなにこぎ進めたのだろう。
島に近づくにつれ自分の口元が緩むのがわかる。
名目は、ニコ・ロビンの行動を見張る事だ。
せいぜいゆっくり観察させてもらう事にしようじゃないか。
だらけきった正義を背負って、不思議な女を追う。
それはそれで、酷く楽しい気がした。
UP DATE : 2007.08.16