Revelation 後日談




麦わらの一味が捕らえられていたあの施設が崩壊した翌日。
青キジは海軍本部にて緊急に行われた会議に出席していた。
議題は勿論、魔の三角地帯に近いあの施設が崩壊した事についてである。
死者も重傷者も出なかったが、捕らえた麦わらの一味は脱走。
施設は崩壊し、装置も破壊される莫大な損害。
そして危険性を考慮し同じ場所に再建する事は不可能との判断が下り、当分の間再建に関しては未定となった。

会議において最も取り上げられたのが麦わらの一味の一人、だった。

証言から一人で施設に乗り込み崩壊に追い込んだ事がわかり、海軍はの懸賞金再考を余儀なくされる。
だがこれには問題があった。
罪状を表沙汰に出来ないのである。
あの施設は海軍本部でも一掴みの上層部及び世界政府の役人の一掴みの人間しか知り得ぬ事。
施設の存在を明るみに出せば世界政府も海軍も崩壊する事は日の目を見るより明らかだった。
装置の存在も頭を悩ませる種で、装置から散布されていた薬品の存在は絶対秘密裏で外部には漏らしてはならない。
それらの事を考えれば今回の件に関しては煮え湯を飲まなくてはならないという決定が下った。

つまり一人の懸賞金の再考だけに留まったのである。
例外として万が一麦わらの一味があの施設に関する事を明るみに出した場合、最も重い判断を下さなくてはならないが。

浅い眠りに身を任せていた青キジは内々で安堵の溜息をついた。
青キジに関する話は何一つ出なかったので今回の件は自分の思う最高の形で片付いたという事になる。
長丁場となった会議も閉会し青キジは首をゴキゴキと音を立て回しながら退室した。
足取りが自然と軽くなる。
そのまま外に出て自転車にまたがると青キジは再び海へと滑走を始めた。

彼女との約束を思い出し、にやける口元を押さえながら。



麦わらの一味は体勢を立て直す為に魔の三角地帯付近を離れとある大きな島へと寄港していた。
ログが溜まるのは四日後。
仲間達の誘いを断っては一人町から離れた丘の上にいた。
ある男を待つ為に。
と言ってもにワクワクしたような高揚感も待ち人焦がれる嬉々とした気持ちもない。

あくまで取引の一環なのだ。
ここで青キジと待ち合わせしている事は。
この場所を指定してきたのは青キジだった。
あの日があの施設を後にし小島に寄った別れ際、今回の件に関しての取引を交わしていた。

この島に立ち寄り、青キジと半日行動を共にする事。
それで今回の件に関し、フォローを入れてくれるという条件ではこの話を飲んだのだった。

青キジの考えは全くもって理解する事が出来ない。
自分達を捕らえたいのか味方してくれるのか、掌の上で遊ばれているような感覚だ。
彼は軍人であって軍人でないような感覚。
それは以前自分が持っていた気持ちにも似た物があるのかもしれない。

が青キジの行動について思考を巡らせていると後方から既に聞き慣れた声が響いた。


「あららら、姉ちゃん待たせちまったかな」
「…別段待ってはいなかったんだがな」
「冷たいねェ。でもちゃんと約束守ってくれてんじゃないの」
「私は取引に応じただけだ。それで用は何だ、あまりこうしている所を誰かに見られたくないのだが」
「おれだってまァ同じ立場だ。何だい?デートでもしてみるか?」
「デートの前に決闘でもするか」


全ての指にはめていた指輪を細長い剣に錬成し敵意と共に青キジへと向けるに青キジは両手を上げて苦笑した。


「まァまァ落ち着きなさい。それを戻して」
「何故我々にそこまで肩入れする。本気で捕らえたいのならいくらでも捕らえられるだろう?」
「司法の島をやぶった一味を一人で捕まえられると思うか?」
「私やナミ、チョッパー、ウソップ辺りを人質にすれば簡単だと思うが」
「今の所そういう気ァねェな。おれのモットーはだらけきった正義だ」


芝生の上で体を横たえ肘をつく青キジは面倒くさそうにあくびを噛みしめる。
武器を戻したも少し離れて芝生の上に腰をおろした。
町を一望できる丘の上には大樹が葉を生い茂らせ二人の姿を上手く隠している。
穏やかだが活気ある町では今頃仲間達が思い思いの時間を過ごしている事だろう。
この男には感謝せざるを得ない。


「…別に姉ちゃんをどうこうしようなんて思ってやしねェよ。ただちょっと興味があるだけだ」
「私はただの海賊だ」
「今は、だろう」


二人の間を風が通り抜けていく。
体を横たえながらじっとを見つめる青キジの目は真剣そのものでは視線を逸らした。


「尋問してる訳じゃねェ。言っただろう、ちょっと興味があるだけだ」
「それを知ってどうする」
「聞いてみてェだけだ。何つーかな、気ィ悪くしないで欲しいんだが……姉ちゃんの目は戦争を知っている目だ」
「………」
「幾度となく荒くれ者や無法者を相手にしてきたが、姉ちゃんは種類が違う。……何を見た」
「別に…別段変った物は見ていない。ただ普通に暮らすより少しだけ、人間の残虐性を見ただけだ」
「姉ちゃんは…何をそんなに抱えてる?姉ちゃんを見てると、こっちが苦しくなる」
「今日は随分おしゃべりだな、海軍大将殿」
「おれは姉ちゃんに対しては結構心開いてんのよ。同じ匂いのする人間だからねェ」


青キジの視線が柔らかい雰囲気に変わったのを感じ、もまた少しだけ肩の力を抜いた。
不思議な男だと思う。
この男なら、自分の抱えている物を少しだけ分かち合えるような気もする。

それでも彼は、仲間ではないのだ。


「もし…もし、この世界の正義だと信じていたものが実は一番非道な存在で…」
「ああ」
「罪のない者達の命を私欲の為に奪い取る人間が指導者だったとして、それを知らずに加担してきたとして」
「ああ」
「それをするように部下に命じたのが自分で、自分が生まれそれに加担する事も最初から仕組まれた事だったとして」
「ああ」
「国の、全ての人々の幸せを願い信じ行ってきた事が全て裏目に出て、誰一人守る事が出来ず自分だけのうのうと生きていたとしたら」


「どうする?自分がしてきた事がただ悪戯に罪のない人々の命を奪ってきた事だとわかったらどうする」


泣き出す訳でも嘆き叫ぶ訳でもなく、ただ淡々と零れた言葉に青キジは彼女の心に触れた気がした。
ああ、だから似ているんだと思った。
同時に似ていないとも感じた。
力をつければ誰かを守れる、地位を勝ち取れば誰かを救える、それは理想論に他ならない事を彼女は知っているのだ。
似ていて、似ていないから苦しいんだ。
妙に大人で冷めているのかと思えば、それが彼女を守る術になっている事に気づく。

ああ、だから自分はこんなに彼女に対する興味が尽きないんだ。



「どうもしねェな」
「は?」
「悲観して死んだって別に何も変わらねェじゃないの。自分がした事も過去も罪も何もかも変わらねェでしょ」
「…それはそうだが」
「まァわからなくもねェが。善人だけの世の中も悪人だけの世の中もねェし、何つーかまァ…」

「姉ちゃんが今、ここで生きてる事の方が大事なんじゃねェか」


青キジの言葉にの肩が揺れる。
ああ、何でこの男は自分が一番欲しい言葉をさらりとくれるのだろう。
同じような道を、歩んできたからなのだろうか。

酷く心地よい。


「まぁ今のは作り話だ」
「あららら、じゃあおれは乗せられちゃったって訳か」
「それで何だ、雑談をしにここまでわざわざ手間のかかる方法で会いに来たのか」
「まァそれも有りだな。やっぱり姉ちゃんが生きる世界は海賊じゃねェな、軍にこい」
「大概しつこい男だな。軍属に興味はない」
「そうかい、じゃあおれから姉ちゃんに一つ教えておいてやる」


服についた草を払いながら青キジが体を起こす。
その動作は散漫なのにを見据える瞳はどこか酷く強い意志が感じられた。


「姉ちゃん、このままいけばあいつらと一緒に居て違和感に苦しめられるのは自分だ」
「だろうな」
「おれに捕まるか姉ちゃんが自分でおれの所に来るか、どっちが早いか」
「どちらもないさ。そう簡単に捕まる気はない」


強い意志の視線がぶつかり、二人は声を出して笑った。
海賊と海軍の関係を一瞬忘れてしまうような、そんな時間。


「後数時間は平気だろう?この少し先の小さな島に美味い飯屋があるんだが行かねェか?」
「どうやって」
「そりゃまァ、あれで二人乗りだな」


青キジが指さす先には彼の愛用の自転車が止められている。


「海軍大将と賞金首の海賊の二人乗りか。それはいいな」
「見つかったら連行してる途中とでも言やァいいだろ」
「後ろから刺されるかもな」
「あららら、怖い事言ってくれちゃうじゃないの。せいぜい気をつけて運転する事にするわ」


込み上がる笑いを押えながら青キジの自転車の後ろにまたがり二人乗りの自転車は海を滑走する。
二人が敵同士に戻るまで後数時間。




UP DATE : 2007.11.05


Revelationを書くきっかけとなったリクエストを下さった綾瀬様へ勝手ながら捧げさせて頂きます!
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