11




ドラッグは主に中央にあるBack of alleyというテント式のBarで取引されている事がわかっている。
ただBack of alleyで検挙する事はほぼ不可能に近い。
Back of alleyの店主は複数のドラッグ売買の組織と繋がりが噂されるが、実際にドラッグの売人を捕まえても
彼らは一様に口を割らず、割ったとしてもそれはそこで途切れてしまうほどの繋がりしか存在しない。
Back of alleyの店主も数ヶ月に一度入れ替わり、その入れ替わった人物は皆繋がりがなく、どの人物を検挙しても無駄なのだ。
テント式のBarなのでいつの間にか場所を変えてしまう事も問題だった。
要は大元の製造者を捕まえない限りこの連鎖は途切れない。
兼ねてから中央司令部内でその捜査が行われてきたがやはり尻尾を掴む事が出来ずにいた。
と言うのも、尻尾を掴んだだろうと思った頃にその人物が一様に消えてしまうのだ。
ある者は遺体で発見され、ある者は重度の薬物中毒で発見されるなど結局役に立たなくなってしまう。
上官は皆自分の出世を大事にするが、それより自分の身が可愛いという事だ。
恐らくそういう理由で特務に回ってきたのだろう。
中央だけではなく各支部の将軍閣下達は特務に手柄を取られるのを非常に嫌う。
それは特務の人間が若くして突出した出世街道を進んでいるからだった。
だから今までは他の将軍閣下殿の下へ盥回しにされてきた事件なのだろう。
結局特務が片付ける事になるのだったら最初からまわしてしまえばいいものをとはため息を零した。


少将」
「何だ?」
「暇ですね」
「ああ」


少佐がリンター村付近で野営をしながら張り込みを続けて早3日。
ローライズどころか人自体がほとんど通らない。
この3日間辛抱強く待ち続けたが進展は一つもなかった。
目撃情報があったのは全てリンター村より程近い山道へ通じる農道だった。
そこで少佐はその山付近の何処かしらに施設を作ってドラッグを精製していると踏んで野営を張った。
勿論最初の日に少佐が山全体を捜索したのが目ぼしい物は何一つ見つからず。
何か特殊な入り口があるのだろうという意見になりそれならば張った方が早いと踏んだのだ。



少将」
「何だ?」
「暇ですね」
「ああ」
少将」
「だから何だ!」
「ゲームをしましょう。暇ですし」
「仮にも私達は今勤務中なんだけどな」
「いいじゃないですか。このままだと眠くて仕方ないんです」



ふぁあと欠伸をする少佐には仕方ないかと肩をすくめた。
”一回だけだからな”と折れてやると少佐は手の平で弄んでいたチョコレートを口に放り笑みを浮かべる。


「わかりました。じゃあ少将がメイドになって私の言う事を何でも聞くゲームをやりましょう」
「3秒時間をやる。言い残した事はないか?」


腰元に差していた銃に手をかければ少佐が口を開く。
だがその表情に焦りの色は全く感じられない。
が撃つ筈などない事くらい承知の上なので怖くはないのだ。


「冗談ですよ」
「当たり前だ」
「本当にやりたいの少将が裸エプロンで揚げ物をするゲームです」
「アメストリスからスイーツ関連の店を全部締め出してやろうか?」


少佐の間に緊張感というものはゼロに等しかった。
少佐はぶつぶつと何かを呟きながら背を丸めポケットから取り出した大量のチョコレートを頬張っている。
結局3日目も収穫はなく終わってしまった。


事態が大きく動いたのは4日目の早朝だった。
夜間の見張りは少佐が6時間ずつ交代し睡眠を取るようにしていた。
交代の時間が近づいたのでが野営を張っていた場所から見張っている場所へと向かった。
しかし、そこにいるはずの少佐の姿はなかった。
トイレかと思い10分待ったがどこからも物音はせず、少佐が戻ってくる気配はない。
の表情に焦りが浮かんだ。
場所は間違っていない。少佐の食べていたチョコレートの包み紙が大量に落ちている。
更に20分待って、30分経ったが少佐は戻ってこなかった。
少佐の身に何かがあった事はもう疑いようがない状態だ。
が草むらから腰を上げ山道へ出ると一つの物が目に入った。
それは朝日を浴びてキラリと光り山道の中に酷く不似合いな物。
少佐の食べていたチョコレートを包んである銀紙だった。
それを拾い上げてふと見れば更に頂上方向への道に転々と落ちているのがわかった。


「ヘンゼルとグレーテルじゃあるまいし……」



印を残していった事を有能だと褒めてやるべきか、勝手にいなくなって無能だとしかるべきか悩みながらは銀紙を追う。
銀紙は転々と途切れないように続いておりはそれを拾わずに草むらに隠れながら移動を続けた。
少佐が誰かを追ったのか連れ去られたのかが判断出来ない現状ではおおっぴらな行動は避けた方が良いと判断したのだ。


「しかし、はどれだけ大量に食べているんだ……」


がそう呟くのも無理はなかった。
銀紙の間隔は2〜3m程度で続いているのだ。

だがそれも唐突に終わった。
が銀紙を辿り始めてわずか10分程度歩いた場所で銀紙は途切れてしまったのだ。
辺りを見回しても特に変わった場所はない。
ただの山道なのだ。

しかし、銀紙がここで途切れているという事はここで何かしらあったに違いない。
単にここに来てチョコレートがなくなった、チョコレートを食べたくなくなったという事も考えられるが少佐に限ってそれは入れなくていいだろう。
あんな男でも特務のブレインなのだ。ここでわざわざ自分が残してきた印を無効にする意味はない。
となると、誰かに連れ去られチョコレートを食べている事を咎められ止めざるを得ない状況に陥った。
もしくはこの場所こそが示している場所という事になるのだろう。
は辺りの様子を注意深く伺った。

人の気配はない。

それを確認すると今度は周りの木々などを調べ始めた。
この場所で少佐は消えた。その方が可能性が高いと踏んだのだ。
人間が入る場所は必ずその痕跡を何処かしらに残す。
自然の中にあってもどこか不自然なモノがあるはずなのだ。
程なくしてそれは見つかった。
木々の間に不自然な平らの大きな石がポツンと置いてある。
が手を近づけると石の隙間からわずかながら空気の流れを感じる事が出来た。
更に見れば左端に薄っすらと半分の錬成陣が刻まれている。


「ビンゴだな」


半分の練成陣が刻まれているという事は出入りする為にはもう片方の練成陣を組み合わせ発動させるのだろう。
しかし練成陣と言うのは困りもので個人によって示す定義が変わるものなのだ。
つまり当てずっぽうに描いても当たるものではない。
だが時は一刻を争うかもしれない状況だった。
少佐が消えてからどんなに少なく見積もってももう1時間以上が経過しているはずだ。
は迷わず左端の半分の錬成陣を削ってしまうと両手の平を一度胸の前で合わせそのまま両手の平を石に合わせた。
瞬時に石から光が溢れ、石は細長く形を変えて姿を現した空洞の中に落ちていく。


「地下施設か。考えたな」


覗き込んだ空洞の先には淡い光が溢れていた。
は空洞の中にある梯子を伝って下へ降りていく。
中は細い洞窟のようになっていた。
所々にある蝋燭が辛うじて光を感じさせるだけで全体的にほの暗く”いかにも”というオーラを醸し出している。
先に行くに連れ蝋燭の間隔は短くなり、突き当たりへ出るとそこには光の溢れる広い空間が広がっていた。
そして、の視線の先にはロープでぐるぐる巻きになった少佐と男が二人。
一人は間違いなくジャック・ローライズ本人だ。もう一人は陰湿そうな雰囲気を持った中年の男。
二人はを見てニヤニヤと笑っていた。


「本当に来やがったぜ!こいつの言う通りだ」
「私は嘘は言いません」
「お前が大総統閣下のお気に入りの女か?へぇー、美人だなぁ」
「……少佐、お前何を言ったんだ?」


ニヤニヤと笑う男達を見て眉間に皺を寄せたの問いに地面に転がっている少佐が口を開いた。


「私を殺してしまうと貴方達は超S級犯罪者になってしまうので、私をエサにもう一人が来るのを待った方がいいですよ。
 私を探しに来るのは大総統閣下お気に入りの女性将校なのでその女性将校を交渉に使えば見逃して貰える所かいい商売のルートまで軍で確保してくれるかもしれませんよ。と」
「人を巻き込むな!!」
「もうあんな所で待ち続けるなんて暇だったから嫌だったんですよ。手っ取り早いでしょう」


あっけらかんと言い放つ少佐には後で思い切り説教しようと決め、男達に向き合った。




UP DATE : 2007.03.28



<< Back   TOP    Next >>