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取り囲むようにずらりと並んだお偉いさん達の渋い顔。
そして上座にはこの国のトップ、大総統閣下。
中央に戻ったを待っていたのは大量に溜まった書類と叱責の嵐だった。


「特務の少将閣下殿がいながらスカーを取り逃すとは何と嘆かわしい事だ」
「おまけに今回の任務で捕縛した犯人を何者かに殺害されるなど軍の面汚しだ」
「だから子供は嫌なんだ。まだ少将閣下という地位は早過ぎたのではないかね」
「東部の町を戦闘にて破壊したそうではないか。責任は誰が取ると思っているんだ」


無表情で直立不動に立ち続ける
だがガミガミとうるさい言葉は右から左へ受け流し、涼しい顔の裏側では今日のランチをどこで取るかを考えていた。
相変わらず何も出来ないくせに口だけは達者なご老人達だとため息もつきたくなるのは仕方がないだろう。
何を言われても泣くでも怒るでもなくただただ涼しい顔を続けるに将軍達は不満顔を露にする。


「何とか言ったらどうだね!!」
「私の不徳の至る所で御座います。全ては私の責任です。ご迷惑をお掛け致しました。申し訳御座いません」
「本当にそう思っているのかね!!大体・ディアルソン少佐は何故出頭しないんだ!!」
「ディアルソン少佐には現在大総統命にてニューオプティンに出向しております」
「そんな事は聞いていない!!」


無茶苦茶な事を言うご老人の中将閣下の言葉には一瞬ムっとしたがすぐに表情を元に戻した。
自分の部下は本当に頭の回る人物だ。
少佐をニューオプティンに行かせたのはの腹心である大佐だった。
おそらく共に出頭命令が出るのを読んでいたのだろう。
少佐がこの様な場に出頭すれば大惨事になりかねないのは容易に想像がつく。
彼は意外と子供なのだ。
もしこの場にいればご老人達に向かって銀食器を使ったダーツを試みたりするだろう。
あれも彼の武器ならば今度は経費で落とすべきかとが考えていた時、トンと小さな音が響いた。


「まあ落ち着きたまえ諸君。少将はよくやってくれている」
「大総統閣下…!!」
「今回もスカーから少年達を守り被害を最小限に食い止めた。それに今まで誰も捕まえられなかったあの件に関しても 容疑者は殺害されたにせよ捕らえる事が出来たんだ。私は評価するがね」
「ですが…」
「勿論責任は取ってもらう。だが彼女は我が軍にとって非常に有益な人物である事は重々承知であろう」


大総統閣下の言葉にご老人達が押し黙る。
その様子をはつまらなそうに眺めていた。
元々を軍に所属させたのはまぎれもなく大総統閣下なのだ。
それをこのご老人達も知っている。
結局彼らはただ文句を言いたいだけなのだ。
それが全く大総統閣下に通用しないと知っていても。


「では少将には私から後で文書を回しておく。それでいいかね」
「はい」
「では少将。下がってよい」
「失礼致します」


やはり最後まで無表情なまま敬礼をして退室していくの姿をしかめっ面で見送るご老人達。
その視線を背中にひしひしと感じながらはようやく重苦しい扉を開け廊下へ出た。
ずっと直立不動のままいたので肩が凝ってしまったのを感じ外へ出ようかと角を曲がった瞬間に一人の人物と目が合う。
それは間違いなく自分の腹心である大佐の姿だった。


「お疲れ様でした」
「まったくだ。で、ここで待ち伏せしていたという事は私が外へサボリに出ようとしていたのを読んでいた」
「正解です。貴女に反省という言葉は存在しないのですか?」
「聞いた事がない言葉だな」
「では教えてあげましょう。反省と言うのは自分のしてきた言動を省みてその可否を…」
「私が悪かった!さぁ執務に戻ろうではないか!!」


眉間に皺を寄せた大佐の腕をが強引に引いた。
しかし大佐はの腕を掴み直すと外へと向かって歩いていく。


?」
「貴女は私があの角で待っていた事を知っていた上でわざとあの廊下を選んだ。違いますか?」
「さぁ…」
「あの部屋から外へ出る扉へ繋がる廊下は他にも2本ありますね。…ちょうどいいのでカフェで休憩しましょう」
「…明日は槍が降るな」
「何ですか?」
「いや何でもない。気が変わらないうちに行こうではないか」


一気に機嫌が良くなったの背を見つめ大佐はため息をついた。
本当に掴めない人だと思う。
自分の話が軍部内で話せない内容だとわかっていたからこそはわざと外へ出るように仕向けた。
他の人が聞いても、あぁまたゴネて逃げ出される前に大佐が折れたんだなと思わせるように。
この聡明な若い少将がもう少しだけ大人しければと大佐は苦笑しての後を追った。

大総統府からほど近いカフェに二人で入りオーダーを済ませて席に座る。
運ばれてきたコーヒーを口にし、二人は淡々と話し始めた。


「貴女が勧誘しようとしていた少年の事です。少佐に行って貰ったのには訳があります」
「何だ?」
「特務の増員命令が出ています」
「増員?聞いてないが」
「つい先日書類が来ました。入ってもすぐいなくなったり辞めたりしてしまいますからね。特務はいつでも人員不足です」
「ああ、だがまだ彼では早すぎるだろう?それにまだ国家錬金術師ではない」
「来月行われる国家錬金術師試験に合格し次第適性検査という手筈で進めています」
「まだ16歳だ」
「今年17歳です。貴女の反対意見が出る事など百も承知で話を進めているんです」


大佐の視線が交わる。
二人とも無表情に見えるがどちらも試す様な視線を寄こし不敵に笑う。


「反旗でも翻すつもりか?」
「まさか、これは彼自身の志願ですよ」
「……ふっかけたのは?」
「貴女がいじめたハクロ准将ですよ」
「万が一とったとしても内勤に回せ。1年間は研修期間だ」
「わかっています。それより……貴女に話しておかなければならない事があるのです。今の件も含めて」
「…西方だろう」
「ご存知でしたか」
「数か月以内に始まるな。今日のご老人達の様子を見ればわかる。裏に何かがある事も」
「東方もそれなりに危ないですが、西方は……貴女に出向命令がかかる可能性が高いです」
「だろうな。因縁の土地だ。上は悪趣味なのが多いものだ」


自嘲的な笑みを浮かべ冷めきったコーヒーを啜るを見て大佐も同じく冷めきったコーヒーを口にする。
が軍人として、初めての戦争が過去の西方戦線だった。
ある意味でにとって非常に多大な影響を及ぼしたあの数か月は思い出したくもない黒歴史である。
西方で戦火が上がれば間違いなく今回もまた特務、いや、に対し出向命令が下るだろう。


「ところでエルリック兄弟の事ですが…」
「出よう。続きは歩きながらだ」


カップをテーブルに置いた大佐の言葉を遮って立ち上がった。
会計を済ませ二人は昼間の路地を歩いていく。
外の日差しは柔らかく降り注ぎ目の前には平和な暮らしが広がっているように見える。
だが、それは一部の恵まれた住人達だけに与えられた特権のようなものだ。
未だ混乱を極める地区は数多いのが現状である。


「賢者の石の情報を集めているらしいですね、彼ら」
「ああ」
「…馬鹿な事を考えるのはやめて下さいよ」
「わかっている。私にはまだやらなければならない事が山ほどある。ある程度の協力はするが」
「ある程度に収めて下さい」
「…心配性だな。真実は人に教えられるものではない。自分の目で見て感じた事が真実だ」
「貴女もマスタングもヒューズもお人好しなんですよ」
「お前に言われたくないな。…噂をすれば、だな」


の言葉に大佐が視線を前に移すとそこには笑顔で手を振って歩み寄ってくるヒューズ中佐の姿があった。
どこかへ行った帰りなのだろうか、手には封筒がいくつか握られている。


「よお!。仕事サボってデートか?」
「どこかの無能な大佐と一緒にしないで下さいヒューズ」
「ところで今日はこってり絞られたんだろ?少将閣下殿」
「おまけにこれから戻ったら徹夜で激励という名の書類を片付けなくてはならない」
「うへぇ、ご愁傷様。んじゃ俺は戻るから」


大佐の肩を叩いて二人の間をすり抜けていくヒューズ中佐の手をが掴んだ。
一瞬ぎょっとした表情を浮かべたヒューズ中佐にの表情も硬くなる。


、先に戻れ。私はヒューズと少し話がある。直ぐに戻る」
「…わかりました」


の異変を感じ取ったのか大佐は怪訝な顔をしつつも達から離れていく。
大佐の姿が見えなくなるとはヒューズ中佐の手を放して向き合った。


「何だよ、俺急いで…」
「お前は誰だ。マースは今朝から私の命でニューオプティンに行っている」


の凍るような視線を受けたヒューズ中佐の口元がニヤリと歪められる。
その笑みは異様な恐ろしさを放っており、は背筋に冷たい物を感じた。




UP DATE : 2007.06.27



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