ぐるぐる巻きになっている男達の前では一つ咳払いをした。
「青の団でも青虫でも青二才でも何でもいいがとにかく言いたい事は一つ。私がせっかく仕事をサボっているというのに仕事の方から
舞い込んでくるなんて失礼だと思わないのか?大体列車をジャックして何になる。どうせ最終的には捕まって刑に服すだけだ。民間人を
人質に取るなんて雑魚のやる事だ。どうせなら大総統府に攻撃をしかける位大きな事をやってみせろ。ハクロなんて人質に取ったって私には痛くも痒くも何ともない」
腰元から取り出した銃を男の眉間に突きつけグリグリと押し当てているを見て、エドワードとアルフォンスは冷や汗をたらした。
無表情でその行為を続けているのだから恐怖は三割り増しだ。
銃を突き付けられている男達は顔面蒼白でエドワード達に助けてくれという視線を送っている程だった。
「お前達の罪は重い。1つ目は民間人を巻き込んだ事。2つ目は私の穏やかな時間を奪った事。そして最大の罪は、
こんな事態が起こったら嫌でも軍部に顔を出さなくてはいけなくなってしまった事だ。そういう輩は私が成敗してやる」
カチャリと音がして、の持っていた銃の安全装置が外れた。
途端に男達はぶるぶると震え上がり悲鳴にならない声を上げる。
テロリストでも死ぬのは怖いらしい。
失敗した時の事くらい考えてからやって欲しいものだとは一人白けた気分で銃を握り締めた。
「ちょっ、ちょっと待て!いくらお前が軍人でも勝手に俺達を殺したりしたらお前だってどうなるか…」
「大丈夫だ。そんな心配は無用だ」
「ひぃぃっ!!」
はそのまま眉間にグリグリと銃を突きつけ左手で男の頬を撫でるとそのまま頭を動かないように固定した。
笑うでも怒るでもなく無表情で続けられる行為は男達の恐怖を倍増させていく。
そして銃を眉間にぴたりとつけ………
「ばーん!!」
子供の遊びの様な口調でが喋った瞬間男は口から泡を吹いて倒れた。
隣でその様子を見ていた男も共に気絶している。
は眉間から銃を外すと男を床に転がし銃をしまってエドワード達へと振り返った。
を見ていたエドワードとアルフォンスの表情が引き攣っているのは見なかった事にする。
「怖がりだな。大体列車ジャックをするくらいのテロリストなら密着した状態で銃を撃つはずない事位わかるだろうが」
ふぅ、と息を吐いたを見てエドワードとアルフォンスは心の中で密かに涙した。
怖い。正直に言ってかなり怖い。
「さん、怒ってるみたいだね」
「ああ、かなり怒ってるみたいだな」
「あの人達の事、少しだけかわいそうに思えてきたよ……」
「弟よ、俺も同じ気持ちだ」
エドワードとアルフォンスがひそひそと話す様子を見ては首を傾げた。
怖がらせてしまったかなどという心配は微塵もない。
ちなみに今現在他の車両では列車ジャック続行中の最中だったりする。
とりあえず暴れられないようにとは男達を縛っていた縄を金具に固定して転がした。
東部の駅に着くまではこのままでいて貰おう。
男達の状態を見れば東部の駅に着くまでに目を覚ますとは到底思えないが。
「じゃあ俺は上から行く」
「僕は下だね」
「はどうすんだ?」
どうやらエドワードとアルフォンスはテロリスト達を捕まえる気満々の様だ。
既にエドワードは窓枠に足をかけている。
は、ふむと腕を組むと再び椅子に座り直しあくびを一つ。
「面倒くさい」
「あんた少将だろうがっ!!」
「そうですよさん」
窓枠に足をかけていたエドワードがずり落ちそうになりながらもにつっこみを入れる。
そこまでして必死にならなくてもよいのにとはもう一つあくびをして二人を見た。
「少将だろうが大総統だろうが面倒臭いものは面倒臭いんだ。大体人質はハクロだろう?それで恐らく東部で待ち受けているのはマスタングだ。
もう何もかもが面倒臭いからバレない限りこのまま東部に着くまで待てばいいじゃないか。ハクロとマスタングには尊い犠牲になって頂こう」
「出来るかぁっ!!」
「それにもう僕達が二人のしちゃったんでこのまま待つわけには行きませんよ」
物凄い勢いでツッコミを入れるエドワードと何とか宥めて連れて行こうとするアルフォンス。
このままこの車両の事がばれなければ東部まで着く事は可能だろう。
だがバレればそうはいかなくなる。
かと言って兄弟二人を連れていくのも非常に気が引けるのだ。
一応止めてはみたものの二人はもう既にやる気満々の状態で止まりそうにない。
仕方なくは「下から行く」と告げ、アルフォンスと共に次の車両へ入っていった。
エドワードに無理をするなと釘を刺すのを忘れずに。
「アルフォンス」
「何ですか?」
「先に行ってくれ。そうすれば自ずと何もせずに事態は片付く」
「え?」
の言う意味がわからずアルフォンスが首を傾げると、次の車両のドアが開いた瞬間に男が現れた。
慌てて身構える男に対しはアルフォンスの後ろでただぼーっとその様子を眺めている。
一応指輪をナイフに錬成し手に持ってはいたが、万が一だ。
作戦が上手くいけば相手は勝手に自滅する。
「うわぁぁっ!!」
「鎧っ!?」
「あ、危ないですよ?」
アルフォンスの制止も聞かずに驚いた男達はアルフォンスに向かって銃を撃ち放った。
だがアルフォンスの体は鎧。
貫通する訳でもなければ傷つくわけでもない。
行き場をなくした銃弾が取れる動きは、跳ね返る事のみになる。
「痛ぇ!!」
「兆弾しやがった!!」
男達の撃った銃弾はアルフォンスの鎧に弾かれ見事に男達の元へ戻っていった。
当然男達は鎧ではないので避けられるはずもなく自ら放った銃弾で負傷してしまう。
足を押さえ蹲る男達をアルフォンスが押さえが縄を錬成して縛って転がしておく。
あまり頭の良くない集団でよかった。
「な、言っただろう」
「何でわかったんですか?」
アルフォンスの問いにはニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。
「最初に言っていただろう?動いたら撃つぞと。だから車両を移動している我々を見つければ必ず撃つだろうと予測した」
「ちょっとかわいそうな気もしますけどね」
「いいんだ。大体突然撃ってくる方が圧倒的に悪い」
飄々と言ってのけるに、アルフォンスは少しだけ相手に同情しつつ前へと進んでいった。
列車の上部からかすかに聞こえる物音はおそらくエドワードのものだろう。
その後も同じパターンを繰り返し一等車両付近までたどり着くとの足が止まった。
「さん?」
突然止まったを疑問に思ったアルフォンスが声をかけるとはうーんと唸った。
ただ助けるのは何となく癪だ。
どうせなら何か取引材料に使いたい。
将軍職につけば敵は山ほどいるのだ。
ハクロも勿論その中の一人でがこの地位にいる事を酷く嫌っている。
「ハクロかぁ。ハクロねぇ……」
「どうしたんですか?」
「ハクロハクロ…、お、そうだった。アレはハクロの管轄だったな。よし、そうしよう」
「さん?」
突然唸ったかと思うと今度は突然一人納得したように頷く。
そんな様子のにアルフォンスは首をかしげた。
「よし、アル。私はここからハクロの所へ行くからそっちは頼む」
「え?さん!?」
そう言っては窓枠に手をかけると窓を開けて屋根へ乗り移った。
屋根から窓を覗き、の予想通りの場所にハクロ将軍が乗っている個室を発見し、両手を当てて窓を扉形に錬成する。
錬成の光に驚いたハクロがパクパクと口を開けて呆けているのが見えた。
やはりこの男は嫌いだ。
は扉形に錬成した窓を開けてハクロ将軍の乗る個室へ身を滑らせ着地した。
「お久しぶり、ハクロ准将殿」
ニッコリと微笑むを見たハクロ将軍の顔は目に見えるほど青ざめていた。
UP DATE : 2007.03.19