大好きだった彼らに別れを告げ、開いた新たな扉の先で出逢った大切な人達。
最初は半信半疑、それはきっとお互いそうだったのだろう。
落下する自分と落下する羊船、そしてその羊船の船員達。
―― 今日からお前は俺達の仲間だ! ――
幾度となくその一言にどれだけ救われた事だろう。
勿論自分も彼らも最初から信じていた訳では無い。
突然現れた自分と羊船に乗った海賊と名乗る彼らを結び付けたものは船長の一言だけだった。
仲間になりましょう、はいよろしくお願いします、今日から仲間ね、そんな簡単にいかないのだ。
それこそ最初は探り合い、そんな雰囲気は見せなくとも腹の中で何を思っていたのかは言わずもがな。
けれど、信じてくれた。
待っていてくれた。
傍に置いてくれた。
日々を重ねるうちに一つ一つを知っていく。
モーガニアとピースメイン。
彼らは自分達の事をピースメイン、一般の民は襲わない海賊なのだと言っていた。
一般の民を襲い、所謂典型的な悪者なのがモーガニア。
そのモーガニアをカモにし航海を続けるのがピースメインだと。
だからと言って元々軍人であった自分が、はいそうですかでは今日から海賊になります、というのも憚られた。
彼らには大きな夢がある。
自分にも嘗ては大きな夢があった。
純粋なキラキラとした濁りの無い瞳で語られる夢に少しだけ、嫉妬していたのかもしれない。
世界が違うのであれば自分の夢などもう叶える事の出来ない正に夢物語になってしまったのだと。
仲間になれという彼らの言葉に渋々ながら頷き、仲間にしてくれと告げた。
けれどそれは本心から来たものでない事くらい彼らとて気付いていただろう。
自分もそのつもりだった。
右も左もわからない世界で、初めて見る海で一人ぽつんと取り残される方が困るから。
理由はそんな所だったし、正直言えば自棄になっていた部分もあった。
もうどうでもいいと、どうせこの先に待っているのは自分の望んだ未来等では無いと諦めていたのだ。
どうせ夢か現かも判断出来ない世界だと決めつけていたのは他でも無い自分。
海賊=無法者=犯罪者。
国を良くしたいと、自分の住まう世界を幸せな方向へ導きたい、その投じられる一石になりたい。
そう思い始めたのは十年以上前の事。
けれど、自分に与えられた役割は世に言う犯罪者よりももっと大罪を被る事だった。
仕方ないと諦めたのも自分。受け入れたのも自分。
いつからだろう。日々日常と非日常を繰り返すうちに正義という偽りの盾で自分を守る様になったのは。
後ろを振り返る余裕も無くただがむしゃらに前へと進むうちに本当の目的を見失いかけていた。
人を殺す軍人と人を殺さない海賊、どちらが正しいのだろうか。
犯罪者は裁かれるべき、ならばその犯罪者達よりずっと非道な所業を行っている軍人は裁かれなくてよいのか。
無邪気に笑い、陽気に唄い、偽りの無い瞳を輝かせる。
仲間の為に犠牲を厭わず立ち向かい、けれど決して一般に住まう民達を脅かす事は無い。
そんな彼らの姿を幾度も見て、目を逸らす様になった。
彼らの傍にいたい。
けれど彼らの傍にいる事で彼らに本当の自分を知られて嫌われる事が怖い。
彼らを汚してしまうのではないか、彼らを傷つけてしまうのではないか。
そう思えば思う程離れたくて、なのに離れたく無くて、息を吸うのも苦しかった。
自分には、無理だと思っていた。
彼らの様に笑う事等出来ない、彼らの様に真っ直ぐ生きていく事等出来ない。
そう決めつけていた。
願う事は罪。思う事も罪。人で無い人、咎人が幸せを願う等あってはならない事。
彼らと自分は違う。何もかも、全て、相違点しか無いと、諦めていた。
けれど彼らは誰一人自分を遠ざけようとはしなかった。
まるで傍に居るのが当たり前の様に振舞ってくれた。
自分の為に涙まで流してくれた人もいる。
無理だと決めつけるのは他でも無い自分自身だけなのだと教えてくれた。
思えばとても小さな事にこだわり過ぎていたのかもしれない。
軍人と海賊という小さな小さな括りに縛られていた。
軍人だって罪を犯す。海賊だって善を成す。
要は自分次第なのだと気付いた。
どこに属するかでは無い。
自分がどう在るかを自分で決めれば、それこそが自分の進む方向なのだと。
教えてくれたのは、麦わらの一味だ。
自分は今、ここにいる。
生まれた国であるアメストリス等存在しない、国軍も無い、友も仲間もいないこの世界にいるのだ。
麦わらの一味と共に同じ場所で同じ空気を吸って地に足をつけ立っている。
どうしようもない自分に手を差し伸べてくれている。
ここに存在していいと、示してくれた。
差し伸べられた手を掴むのは自分。
いつどうなるかなんて誰にもわからない。
不安で怯えていたって何も変わらない。
ならばここで思うまま精一杯生きる事こそが自分の取れる最良の手段なのかもしれない。
過去を捨てる事等出来ない。それでも今を生きる事は出来る。
諦めきれないものだってあるし思いも沢山ある。
けれど、それらを含めて全てが自分なのだ。
だから今度は腕を引かれ背を支えられ寄り掛かるのは止めて、自分の足で立つ。
手を差し伸べてくれた彼らの思いに恥じないよう、ここで生きていく。
いつかこの世界とも別れを告げる日がくるだろう。
その時、もし向こうの彼らに会えたらいくら語っても語りきれない思いがあるはずだ。
そして自分はきっとこう断言出来る。
「生まれてから死ぬまで、ずっと幸せだった」 と。