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【ご注意】このお話は原作設定を無視した模造話になります
     ≪特にCP9に関して設定が変わってしまうのが嫌な方はご注意を≫
     読まなくても支障がないお話ですので原作の設定が
     大きく崩れるのは嫌だという方は次のお話からお読み下さい




























メリー号の最後を見送った麦わらの一味はガレーラカンパニーの船に乗った直後、精も根も使い果たしたと言わんばかりに全員が倒れ込んだ。
特にルフィとチョッパーとの疲労は酷く、ウォーターセブンに帰港しても目覚めず船大工達の手によって宿へと運ばれていく。
アイスバーグによって手配された医師はの怪我を見て非常に驚いたそうだ。
全身の至る所まで及ぶ裂傷と打撲、そして胸と腹から背へと貫通していたであろう傷。
通常なら死んでいてもおかしくない傷は、まるで自己修復したかのように塞がり始めていた。
巨大狼の爪に突き刺されその後銃で撃たれ砲撃の爆発に巻き込まれ尚も生きているなど誰が信じられようか。
纏っている服はボロボロになり血まみれで、体中も血と砂塵などで汚れていたの体はココロによって綺麗にされベッドで横たわっている。
とルフィ以外は一晩眠って翌朝目を覚ました時には元通りとまではいかないものの動ける程度に回復していた。
眠る二人を心配した仲間達だったがチョッパーの診断によれば疲労からくる疲れで眠っているだけだという。

ウォーターセブンに帰港して早二日。
死んだように眠っていたがようやく目を覚ました。
瞬きを数度繰り返し寝呆け眼のまま大きなあくびを一つした所で新聞を読んでいたナミがに気付き飛び付いた。


!よかった…ずっと眠ってたから心配したのよ」
「――ナミ、起きて早々殺す気か…」


ベッドの上で体を起こしただったがナミの重みに押され腹に鈍痛が走る。
それでもエニエス・ロビーで戦っていた時よりはずっと体が楽になっている事に気付きは自分の腹を見やった。
びっちりと巻かれた包帯が痛々しさを物語っているが呼吸も出来るし動く事も可能だ。
喜んで抱きつくナミの背を軽く叩いては自分の腕にはめられている腕輪を見つめた。
傷の修復が異常なまでに早いのは自らに埋め込まれた赤い石だけではなくこれも関連していたのだろう。
結局自分は他人の力を借りて生きているのかと思うと少しだけ落ち込みたくなる。

でも、とりあえず生きている事に感謝するべきだろう。
腕輪を見つめながら小さく息を吐いてはベッドから起き上がった。


用意されていた服の中から一番布面積の多い服を選んで着替える。
ナミやロビンの様な露出の多い格好はする気になれなかった。ミニスカートなど頼まれてもお断りだ。
サンジの用意してくれた軽食を取り、ナミの反対を押し切って街へと出ていく。
晴れ渡ったウォーターセブンの空の下、街はアクア・ラグナによる被害から復興しようと沢山の人達が忙しく働いている。
彼らに悲壮感は全く見当たらない。
住まう人々が逞しいのは非常に良い事だ。この街の頂点に立つ者がしっかりしている証拠でもある。
その様子を眺めながらはガレーラカンパニーの本社へと足を踏み入れた。
の姿を見た船大工が慌てて駆け寄り好意的な態度で何も言わずして、「社長室ですね、案内します」とを先導していく。
どうやら麦わら海賊団を見る目はすっかり一変されているようだ。嫌われるよりは好かれた方が良い。
社長室の前で立ち止まった船大工がドアを数度ノックするとアイスバーグの声が返ってきた。
案内してくれた船大工に礼を述べは社長室のドアを開け中へと足を踏み入れる。


「ンマー誰かと思えばか。目覚めたようだな」
「忙しい所邪魔をしてすまない」
「構わねェよ。その辺に座ってくれ」


デスクで何かを書き込んでいたアイスバーグが顔を上げをソファへかけるように勧めた。
あの悲しい事件から数日、社屋も社長室も仮の姿とは言えど修復は進んでいるようで戦闘の跡は見当たらない。
がソファにかけると予め連絡してあったのか一人の女性がお茶を運んできた。
テーブルにお茶を置きお辞儀をして去っていく女性の後姿を見ながらはカリファを思い出し目を細める。
過ぎた時間はもう元には戻せない。


「今回は色々世話になった。礼を言う」
「ンマーそりゃお互い様だな。おれもあの時が来てくれなきゃ死んでた」


さらりと述べるアイスバーグの言葉には目を伏せ微笑んでみせた。
今になっても彼の心情は複雑なものだろう。


「街の修復は進んでいるのか」
「ガレーラカンパニーの総力をあげてやってる。一か月もありゃ元に戻るだろ」
「頼もしいな。私も後で協力させて貰えないだろうか」
「そりゃ助かるな。大工仕事は得意なのか」
「いや、だが修理するという事に関しては役に立てると思う」


一段落ついたのか手を動かしていたアイスバーグが立ち上がりの前のソファーに座った。
ポケットには相変わらずティラノサウルスが入っており可愛らしい顔を覗かせる。
しばらく沈黙が続いた。
話す事が無い訳ではない。アイスバーグに話があるからこそは一番先にここへと訪れたのだ。
だがどう切り出して良いのか見当もつかない。
元来仕事以外の事では話下手な方だ。
が何かを話しにきたという事がわかっているのかアイスバーグもあえて話題を振らなかった。


「……パウリーは、潔癖か」
「ンマーあいつはまっすぐだからな。まァ話せばわかる男だ」
「そうか」


ようやく絞り出したの言葉は曖昧で意味不明な言葉でアイスバーグは首を傾げた。
目の前に置かれたお茶を一口飲んで、はゆっくりと息を吐き出す。
伝わるかどうかはわからないが、どうしても伝えたい事があった。
それに、アイスバーグならわかってくれるという自信もある。
このウォーターセブンという街を見れば彼の人柄は充分過ぎるほど伝わってくるのだ。


「今から独り言を言おうと思うのだが、聞いていても聞かなくても構わない。仕事を続けてくれても構わない」
「ああ」
「一人の女がいた。軍人で自分の手を汚す事が世界の平和に繋がると信じていた女だった。その女は幾度か
 戦争に出向し沢山の人間を殺した。それでも尚それがその国に住まう全ての民の為だと信じて疑わなかった」


ぽつりぽつりと吐き出されるの言葉にアイスバーグも真剣な表情で聞き入っている。
時折胸ポケットでティラノサウルスが鳴く声以外は静かなものだった。
腕を組みソファに背を預けるアイスバーグとは裏腹には背を伸ばしどこか遠くを見つめて口を開く。


「女には友人が数人居た。人情味溢れる者ばかりで女には不似合いな人間ばかりだった。そしてある日女は二人の幼い兄弟に出会った。
 その兄弟は優しく勇気のある兄弟だった。そういう温かい人間達に囲まれた女は自分のしてきた事を悔い軍へ反旗を翻した。そして
 数年後、女は全く知らない場所で7人の人間と出会った。優しくて温かくて素晴らしい人間ばかりだったが、7人は世にいう犯罪者
 だった。だがその7人は眩しすぎる程純粋で……軍人だった女はそんな彼らに惹かれ、仲間になり毎日幸せに暮らしている……らしい」


はそこで一度言葉を切って窓の外を見つめた。
遠くから金槌を打つ音や板を切り刻む音が聞こえてくる。
アイスバーグは腕を組んだままじっと黙って外を眺めるを見つめていた。


「人はいつでも思い立った時に変われる。だが、人は弱い。悪人と共に居れば悪に染まり、善人と共に居れば良い人間になる。
 誰しも何かしらの信念を持ち生きているが、それが間違いだったと気づいた時受け入れてくれる受け皿はなかなか見つからないものだ。
 だがもしこの街のように温かい場所が受け皿になってくれれば、何かにつまづいた者達も、もう一度最初からやり直せるかも知れないな…」


思い浮かぶのは鳩を肩に乗せた無口な船大工に笑顔の似合う身軽な鼻の長い船大工と美人秘書の顔。
彼らがもし、行き場を無くしてしまったらその先は酷く苦しいものになるだろう。
最初に出会った彼らが偽者だったなどという事は考えたくない。
彼らが自分から戻ってくる事はないだろうが、もしこちらから手を差し伸べたなら……。

彼らが間違いだったという訳ではない。
とて元は軍人だ。彼らの気持ちはよくわかる。
正義というものの考え方が違うだけなのだ。
極々普通に暮らしている人間が一般的に見れば彼らは正しいという見方が出来るのだろう。
例え行き過ぎた行動であったとしても元に根付くのは誰かの平和を守るという気持ちなのだから。
軍と海賊、どちらが一般の民の味方かと言えば答えは歴然としている。
だがもし彼らが本心を殺してまで正義を掲げようとしているのであればそれは酷く彼等を苦しめる事だろう。
かつての自分がそうだったように。

が立ち入る事でないという事くらい百も承知の上だ。
だが、関わった。かつての自分と似た環境下に身を置いている彼らと、出会った。
本気でそれを望むのであれば人はいつでもやり直せるのだ。

腕を組んでいたアイスバーグが深い溜息を吐き出しティラノサウルスの頭を撫でる。
表情に変化は見られない。


「……おれも独り言だが」


ティラノサウルスの頭を指で撫でながらアイスバーグがぽつりと漏らした。


「この街はいつだって船大工が足りてねェ。仕事はどんどん舞い込んでくるしいつでも多忙だ。誰か腕のいい船大工と秘書を知らねェもんか」


頭を撫でられているティラノサウルスが嬉しそうに目を輝かせる。
動物は正直だ。嫌なものは嫌だと拒絶し好きなものは大事にする。
それが人と人になると途端に難しくなるのは何故なのだろうか。


「素性なんざァ拘わらねェから本人のやる気がありゃァ下積みからで耐えられるんなら欲しいもんだな。上手くやれるかどうかはそいつら次第だ。
 ンマーそんな奴らがいたらおれが紹介状を書くから誰か届けてくれねェもんか。その礼に船大工の出来る仕事ならしてやれるんだが」


ちらりとに視線を寄越したアイスバーグと視線がかち合い二人は思わず笑い声をあげた。
エニエス・ロビーまで二日もあれば用事を済ませ往復出来る距離だ。
幸いウォーターセブンからエニエス・ロビーまでは海列車が出ているし、時間が合わなければ線路を辿れば良い。
ログが関係してくる船ならば不可能でも、宙を浮いて進める人間がいれば可能な事だ。

やはり彼は良い人だ。
裏切り傷つけた者達を許そうという心の広さを持っている。


「見込みがあるかどうかはわからないが、そういう人間を知っていない事もないな」
「ンマーそうか、そりゃ丁度いい。悪ィがそいつら全員におれの手紙を届けてくれねェか。勿論礼はする」
「ああ、街の修復を手伝い用事を済ませた後でよければ請け負おう」


彼らが受け入れるかどうか、微妙な所だが受け入れなかったとしても心の拠り所があればそれだけで違ってくる。
選ぶのは彼らだ。押しつけるものではない。
このままCP9として生きていくか、それとも……。
後どうするかは本人達の問題だ。
根底でわかり合う事が出来る人間同士であれば後は時間が解決してくれる。

窓から爽やかな風がとアイスバーグの間を通り抜けていく。
長居する事のない街ではあるが、この街がいつまでも今のように明るい街であって欲しいと願わずにはいられない。
お茶を飲み終えたはソファから立ち上がった。


「では仕事中に邪魔をした。また数日中にくるからそれまでに用意しておいてくれ」
「ンマーもあんまり無理すんな。まだ怪我が治ってねェんだろ」
「問題無い。怪我には慣れているんだ」


社長室を出て、廊下を歩くにすれ違う船大工達が明るい笑みを見せる。
ああ、本当にいい街だ。
社屋内にあった時計を見ればそろそろ昼に差し掛かる頃だった。
眠っていたそろそろルフィも起きるかもしれない。
一度宿へ戻っておこうか。
復興へと忙しく動く人々の明るい声を聞きながらは軽い足取りで宿への道を歩いて行った。








08.01.20

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