新しい最高の船に新しい最高な仲間を迎えて、船は動き出す。
沿岸に集まったウォーターセブンの住人達がフランキーや麦わらの一味の門出を祝って声を張り上げる。
だが、この船にウソップは乗っていない。
ガープ率いる軍艦が近づいている為、もうここで待っている事は出来ないのだ。
勿論麦わらの一味全員がそれでもここでウソップを待つつもりでいた。
例えルフィの祖父であるガープや友人であるコビー達を相手にしてでもウソップが来るまではと。
だが、船長であるルフィは出航を指示した。
海賊船において船長の命令は絶対だ。
「ちょっとルフィ!」
「本当にいいのか麦わら」
出航してしまえばもうウォーターセブンへは戻って来る事が出来ない。
つまりこのまま出航してしまえばこの土地でウソップと本当に別れてしまう事になるのだ。
「待ってたさ!サンジからあの話を聞いてからおれはあのガレーラの部屋が留守にならねェ様にあそこでずーっと待ってたけど来なかった」
海賊はやめねェだろうからそのうち海で会えるといいなと言って笑うルフィの表情は無理しているのがバレバレな程目が笑っていない。
ナミやチョッパーの制止にもルフィは乾いた笑いを漏らすだけでそれに答えようとしなかった。
確かにルフィはあの日からずっとウソップの帰りを待っていたのだ。
皆が街へ出かけている時でさえ、ルフィは一人でずっとあの部屋で待ち続けた。
それでもウソップは姿を現さず、もメリー号の別れの時以来ウソップの姿を見ていない。
そうこうしている間にも一発目の砲弾が麦わら海賊団の船のすぐ近くへと落ち水飛沫を上げた。
『おいルフィ聞こえとるかー!こちらじいちゃん、こちらじいちゃん!』
響いてきたのは紛れもなくつい先日会ったばかりのルフィの祖父であるガープの声だった。
ガープ率いる軍艦はいつの間にか麦わら海賊団の船を見つけたらしく速度を上げこちらへと向かってきている。
「おい、じいちゃん何だよ!おれ達の事ここでは捕まえねェっつったじゃねェか!」
『いやあしかしまあ色々あってな。すまんがやっぱり海の藻屑となれ。お詫びと言っちゃあ何じゃがわし一人でお前らの相手をしよう』
さすがにルフィの血筋を感じさせるだけの事はある言葉に達が軍艦へと視線を寄せる。
肉眼で確認出来る距離にまで迫った軍艦の上ではガープが海兵から重そうな砲弾を受け取り片手に構えた。
何をするのかと思った瞬間、ガープはその砲弾をまるでボールを投げるかの如く達の乗る麦わら海賊団の船へと放り投げる。
恐ろしい程の速度を持った砲弾は麦わら海賊団の船すれすれを通り廃船島へと直撃して爆炎を噴き上げた。
「す…素手で大砲を撃った!」
「大砲よりよっぽど強く飛んで来たぞ!野球のボールじゃあるめェし!!」
「相当な筋力を以ってしてもあり得ない力だな。さすがルフィの祖父だ」
ガープの非常識な力を前に呆気に取られる達へとナミの指示が飛び慌てて走り出す。
このままではせっかくの新しい船が粉々にされてしまいかねない。
兎にも角にも今はガープ率いる軍艦から逃げるのが先決だ。
ナミとロビンとチョッパーが船を動かし達が散り散りになって降り注ぐ砲弾をはじき返していく。
「きた!きたぞウソップが!!」
次々に休みなく飛んでくる砲弾を弾いている所でチョッパーの声が響いた。
慌てて視線を岸へと向ければそこには確かにウソップの姿がある。
だが、こちらから歩み寄る事は状況的にも、そして仲間達の意志としても出来ない。
ウソップの口から謝罪が出るまでとにかく達はこの攻撃を振り切る事に専念する以外ないのだ。
崖からウソップが身を躍らせ廃船島へと飛び降り着地したが、仲間達の望む言葉は未だ出てこない。
砲弾の音に混じって届くウソップの言葉はいつも通りの言葉ばかりだ。
呼ぶ声に飛び出したくなる気持ちをこらえながらは飛んできた砲弾に狙いを定め焔を飛ばし船に届く前に爆破させていく。
「ルフィ!ウソップが呼んでるよ!」
ウソップの叫びに堪え切れなくなったチョッパーがルフィへと声を荒げる。
だがルフィはそれに応えず聞こえないと言い張り砲弾を阻止する事へ戻っていく。
ルフィがダメだと悟ったチョッパーはゾロ、フランキー、サンジ、へと声を荒げるが皆同じ。
誰一人としてそれに応じる者はいない。
ウソップは自らの意思でルフィと決闘をし、一味を抜けたのだ。
例え全員が同じ気持ちでも何事もなかったかのように迎え入れる事は出来ない。
けじめをつけなくてはこの先やっていけない事を全員がわかっていた。
廃船島を走りながら叫んでいたウソップが膝をつき黙り込んだ。
離れていく麦わら海賊団の船。追いかける海軍の軍艦。
「ごめーん!!」
砲弾の音の隙間を縫って聞こえてきたのは、涙で震えた謝罪の言葉。
「意地はってごめーん!!おれが悪かったァー!!」
振り返った達の目に映ったのは膝をつき涙を流しながら必死になって叫ぶウソップの姿。
「今更みっともねェんだけども!!おれ、一味やめるって言ったけど…アレ!取り消すわけにはいかねェかなァー!!」
耳に届くのは他の音が全て聞こえなくなる程心に直接響くようなウソップの叫び声。
「……頼むからよ、お前らと一緒にいさせてくれェ!!もう一度……!!」
この船に乗る誰もが待ち焦がれていた言葉。
「おれを仲間にいれてくれェー!!」
ようやく聞けた言葉。
「バカ野郎!――――早く掴まれーーーーっ!!」
ウソップと同じくらい顔を歪ませて涙を流すルフィが右腕を伸ばす。
伸びたルフィの右腕はウソップの元まで届き、その手をウソップが掴んだ。
みるみるうちに船へと引き寄せられるウソップにサンジとフランキーとチョッパーが両手を上げて喜び、ナミが嬉しそうに涙を流す。
やっと帰ってきたウソップの姿に、砲弾を弾きながらゾロも微笑みとロビンも目を細めて笑った。
ようやく本来の形に戻れたのだ。
「やっと…全員揃った!さっさとこんな砲撃抜けて冒険に行くぞ野郎共ーっ!!」
ルフィの歓喜を帯びた叫びに仲間達も勢いよく声を張り上げる。
思えば一味がこの形になるまで随分と色々な事があった。
を迎え八人になり、ウォーターセブンにたどり着きロビンがいなくなって七人になり、ウソップが一味を抜けて六人に。
再びロビンを奪還し七人になり、フランキーを迎え八人になり、今、ウソップが戻って九人になった。
もう何も怖いものなんてない。
最も信頼出来て最も大切な仲間が誰一人欠ける事なく旅を出来る事が、何よりの幸せと何よりの喜びと何よりの心強さを生むのだから。
帆をたためというフランキーの指示に従い、速度を落とした麦わら海賊団の船の様子にガープ達の手も少しだけ緩まる。
砲弾は相変わらず飛んでくるが防ぎきれない量でもなく集まった達は作業をしながら顔を突き合わせた。
名もない船では出航に勢いがつかないのだという。
にとっては船や船乗りの常識などわからない分野なので余程大事な事なのだろうと判断し大人しく従う事にした。
「よーし!強そうな名前おれ考えた!クマ、白クマ、ライオン号!」
「そんな変な名前の船があるかァ!」
「じゃ、トラ、狼、ライオン号!」
「その動物の羅列をやめろ!!」
「可愛らしくていい名前だと思うがダメなのか」
「当たり前ェじゃねェか!」
強そうでいいだろうというルフィに、可愛らしくていいなと同意する。
そんな二人に何だか酷く懐かしく感じてしまうウソップの突っ込みが入り船の雰囲気がぐっと明るくなる。
やはり麦わらの一味はこうでなくてはならない。
「船の名前、おれからも候補があるぜ。―――サウザンドサニー号」
フランキーの提案した名前にルフィとチョッパーが目を輝かせる。
どうやらサウザンドサニー号という名前が気に入ったらしい。
他にもライオネル親方、暗黒丸、ムッシュひまわりなど真剣に考えてるのかふざけているのか微妙な名前がいくつか上がったがやはり全員が選んだのはサウザンドサニー号という名だった。
過酷なる千の海を太陽の様に陽気に越えていく船、という意味らしい。
アイスバーグが考えてくれたのだという。
「今のうちにこの美しい水の都を見納めとけ。あっという間に島の影も見えなくなるぞ」
仲間も帰ってきた、新しい仲間も増えた、名前も決まった。後はガープ率いる軍艦から逃げるのみ。
フランキーによればここから一発で抜け出せる秘策があるという。
帆をたためと言ったのもその為らしい。
「じいちゃーん!それからコビーと……久しぶりに会えてよかった!!」
甲板の端に立ってルフィが軍艦へと声を張り上げた。
ルフィの声に反応したガープが砲弾を放ったが、それを難なく弾いてルフィが笑う。
体の向きを変え、今度は廃船島で見送ってくれているアイスバーグに船の名前を貰った礼をいい手を振った。
今度こそ、本当にウォーターセブンとはお別れだ。
怒ったガープが今までの何十倍もある大きさの砲弾を持ち出し麦わら海賊団へと向かい放った。
サウザンドサニー号より余程大きい砲弾は当たれば確実に船ごと粉々になってしまうだろう。
未だ秘策とやらが行われる様子がない船にルフィ達が叫び声を上げる。
砲弾が届くギリギリの所で、突然船が勢いをつけ空へと浮きあがった。
海面へと落ちた砲弾の衝撃も混ざりあい船はまるで飛んでいるように空中を走る。
「お前らの乗ってきたゴーイング・メリー号に出来てこの船に出来ねェ事は何一つない!全てにおいて上回る!
だがあの船の勇敢な魂はこのサウザンドサニー号が継いで行く!破損したらおれが完璧に直してやる!船や兵器の事は何でもおれを頼れ!!」
空を飛ぶサウザンドサニー号にフランキーの強い声が響き渡る。
既に遠くへ離れてしまったウォーターセブンはもう豆粒程の大きさにしか見えない。
飛びあがった時と同様勢いよく着水したサウザンドサニー号は何事もなかったかのように海上を走り始めた。
「今日からコイツがお前らの船だ!!」
胸を張るフランキーの言葉に仲間達の喜びも一入。
海軍から見事に逃げ切り、島も軍艦も見えなくなった所でルフィが宴をしようと騒ぎ出す。
勿論誰も反対する者などいない。祝いたい事は沢山あるのだ。
サンジがキッチンへ駆け込み簡単なつまみを用意し、あっという間に宴の準備が進められていく。
運ばれてきた酒樽にサンジの用意した料理が甲板に並ぶ。
輪になってジョッキを掲げる仲間達の表情は誰も彼も弾けんばかりの笑顔。
「ほんじゃあらためて…帰ってきたロビンとウソップ!そして新しい仲間、フランキーと海賊船サウザンドサニー号に!!」
帆に描かれたるは麦わら帽子をかぶったドクロ。
その船に乗り込む九人の最高な仲間達。
「乾盃だァ!!行くぞ次は魚人島!!」
ぶつけられたジョッキから酒と歓声が溢れ出す。
風は追い風、一行は一路海底にあるという楽園を目指す。
両隣に座ったナミとロビンと顔を見合せたは青空の下嬉しそうに笑った。