6




真っ赤な顔で目を吊り上げるゾロの肩に手を置いたが至極真面目な表情を浮かべて口を開く。


「ゾロ、私はゾロが生まれてきてよかったと思っているぞ」
「うるせェ!素で慰めるんじゃねェ!」


ホロホロと不思議な笑い声を出すゴースト達は気が済んだのかどこかへ飛んで行ってしまった。
ゴースト達に散々弄ばれたルフィとフランキーとゾロは怒り心頭でそれを見たケルベロスですら笑っている。
実体が無い上に触れると精神的に切り崩される、これが現在までに確認しているゴーストの見解だった。
継ぎ接ぎの動植物、実体を伴わない不思議な生き物、それを活動可能にさせる未曾有の力。
の錬金術で合成獣を造り出す事は恐らく可能だ。だがそれが動物と植物、人間と植物、動物と人間となると話は違う。
錬金術の場合はあくまで融合させる事に過ぎない。そして成功率は相当低いのだ。
今までこの島に入ってから見た者達は融合というよりは合体といった形に近い。

肩をいからせて先へと進むルフィとフランキーとゾロの後をケルベロスの背に乗ったサンジとロビン、そして横をが歩いていく。
ケルベロスの右側に並んで歩きながらが一番端のケルベロスの頭を撫でるとその一匹が気持ち良さそうに目を細める。
その様子に真ん中と逆側にいるケルベロスも羨ましそうな目をしてに撫でられる一匹を見つめていた。
見た目よりもふわふわと柔らかい毛を撫でるを上から見ていたロビンが穏やかな表情で微笑んでいる。


「ふふ、ったら気に入ったの?」
「友人が犬を飼っていたのだ。飼い主に似た利口な犬で毛並みが少しだけ似ている」
「あらそうなの?名前は?」
「ブラ………ブラハだ」


いい名前ねと微笑むロビンの言葉に少しだけ引き攣った表情で笑う
ブラハは略名であり正式名称はブラックハヤテ号。数年来付き合っているが彼女のネーミングセンスはにも理解出来ない。
ブラックハヤテ号の愛らしい姿を思い浮かべながらケルベロスを撫で、は酷く悲しい気持ちに襲われた。
この二匹の犬と一匹の狐だって元は三匹だったはずなのだ。
故意に人間が手を出したのかそれとも彼らは息絶える寸前で命を救われたのか、どちらにせよ理解し難い所業である。
生命は弄ばれるべきものではない。人間の命も動物の命も植物の命も全て同等一つしかないものなのだから。
どの世界にも知力や技術をひけらかしたいが為にこういう非道な事を行う人間はいるものなのだなと思うと憂鬱な気分になってしまう。

暫くすると広い墓地に出た。
墓地といってもどうやら過去形の様で墓石があちこちで重なり合っていたり崩れていたりで荒れ果てている。
辺りに植えられた木もやはり枯れておりホラー映画に出てくる作り物の様にどこか人為的なものを感じた。
墓地を歩いているとどこからともなく呻き声が響き出所を探そうと達が辺りを見渡す。

すると前方にある墓石の下の地面がもぞもぞと動き出し突然人間の手の様なものが地面を割り飛び出してきた。
まるで下から押し上げられているかのように、人間と形容してもいいのか微妙な存在が地中から現れルフィに向かって手を伸ばしている。
その光景にが一瞬肩を揺らして息を飲み目を見張った。
ボロボロだが服は着ている。しかし毛は抜け落ちている部分があったり包帯を巻いていたり継ぎ接ぎの皮膚に生きているとは思えない血色。
ゾンビ、浮かんだ言葉は勿論映画や本の中でしかお目にかかった事がないものでありこの目で見ても信じ難いものだ。

一瞬驚いた表情を浮かべたルフィだったが押し上げられてきたゾンビの肩を掴むとそのまま下へと押し戻した。
一体何なのかと達が怪訝な表情で見つめていると押し戻されたゾンビが怒りながら再び地面から飛び出してくる。


「大ケガした年寄り?」
「ゾンビだろどうみても!」
「そんな非常識な物が存在していいと思ってるのか」
「じゃあてめェはアレ何だと思うんだよ」
「ゾンビ……?」
「結局一緒じゃねェか!」
「まあそう言われればそうなのだが、全くここは常識を覆される事ばかりだ」


次々と地面が割れ飛び出してくるゾンビ達が達に向かって一斉に飛びかかってくる。
あれを攻撃するのは嫌だなと思うが全員既にやる気らしく構えを取っているので仕方ない。
六人全員が背中合わせになり四方八方からすっ飛んで来るゾンビを一瞬にして跳ね返していく。
見た目が恐ろしいので強いのかと思えば全く相手にならない程弱い。
これならばナミ達ももしかしたらそれほど危険な目にはあっていないかもしれないとゾンビを蹴散らしながら少しだけ安心する。

負けたゾンビ達は意外にも素直にルフィの指示に従い墓地に正座で整列し質問に答えていく。
やはり彼らの体は必ずどこかしらに包帯を巻き継ぎ接ぎの跡があり、一人として例外は見つからない。
ゾンビ達に質問をぶつけていくルフィの言葉を聞き流しながらは一人思考の海に流されていた。
どれほど医療技術や科学技術が特化していても死者を蘇らせる事など本当に可能なのだろうか。
彼等を目の当たりにしても未だそれが信じられない。
一から命を作る技術があったとして、それならば彼等の様にボロボロにする必要など無いはずだ。
真新しい体とは到底思えない。だとすれば彼等は定義上入れ物に過ぎないのではないだろうか。
人間は精神と魂と肉体の融合体でありどこか一つでも崩れれば人間というモノではなくなる。


「鼻の長ェ男とオレンジの髪の女とトナカイみたいなタヌキがここを通ったか?」


ルフィの言葉をの耳が捕らえ一瞬にして思考の海から意識が舞い戻る。
トナカイみたいなタヌキ、トニーが聞いたら怒るだろうなと思いつつゾンビ達の言葉に耳を傾けた。
達がこの島に来たのは何も謎を解明しに来た訳ではない。ナミ達を探しに来たのだ。
非常識で信じ難い事ばかりだった為本来の目的をつい忘れそうになる。
最初は知らぬ存ぜぬを通そうとしていたゾンビ達だったがルフィの脅しにあっさりと三人がここを通った事を告白した。


「おれの仲間だ、手ェ出してねェだろうな。正直に言えよ」
「怒らないから言ってみろ。三秒以内に言えば許してやる」


の言葉を信じたのか次々にゾンビ達が仲間を売り出し、最終的に全員が手を出したという事がわかった。
勿論見逃すはずはない。もう一度全員ぶっ飛ばした所でようやく墓地から歩き出す。
地面に突き刺さったゾンビ達を見ながら見た目より意外と頑丈に作られているのだなと妙に感心してしまう。


「あの屋敷に向かったみてェだ。無事で良かった」
「ブルックはわからねェって」
「いなくていいよ別にアレは」
「いや、ブルックは大事だろう?後さっきの木の人も」
てめェまだこだわってんのかよ。いらねェもんに興味を示すな!」
「ゾロは突っ込みが板についてきたな」


憤慨するゾロをからかいながら墓地を抜け森へと入っていく。
前方に屋敷は見えるのだがまだ少し距離がありそうだ。
足を踏み入れた森は深く木々の間に霧が漂っているが枯れ木ばかりという訳でもない。
緑の葉をおい茂らせる木々と枯れ木が半々、それが余計に森の中を薄暗くさせていた。


「もし…!ちょっとあんたら……待ってくれ!」


森を歩く達の後ろから唐突に声が響き振り返る。
そこには先程墓地に居たゾンビの一人がランタンを持ち立っていた。
だが何だか様子が違う。襲ってくる気配も何もなくただ達に向かって話をさせてくれと訴えている。


「大ケガした年寄り?」
「だからゾンビだっつってんだろ!」
「いや大ケガした年寄りじゃ」
「紛らわしいな!!」


どうやらゾンビではなく本当に人間らしい。てっきり見た目が同じなのでゾンビだと早合点してしまった。
あまりにやつれ怪我をしており、纏っている服はボロボロ。
何故そのような老人が一人この森の中を彷徨っているのか疑問だがとりあえず話を聞く為立ち止まる。
話を聞く姿勢を取った達に老人は何度も頭を下げて礼を言い引き留めた理由を話し始めた。
老人は達の強さを見込んで倒して欲しい男が居ると言い、彼自身もその被害者だと話す。
何でもその倒して欲しい男とやらに影を取られ仕方なくこの森に留まっており他にも多数の被害者がいるらしい。
確かに言われてみればブルック同様彼にもまた影が無い。


「そりゃ一体誰の仕業だ?この島に誰がいるんだ?」
「モリアという男だ。それはもう恐ろしい…!」


ゾロの問いかけに心底怯えた表情を浮かべて老人が答える。
影を奪う、ブルックから聞いてはいたもののそんな芸当は一体どのようにしたら行う事が出来るのか想像すら出来ない。
心当たりのない名を聞いた達が首を傾げる横でロビンだけが驚きの表情を浮かべていた。


「もしかして…ゲッコー・モリアの事かしら」


ロビンの言葉に老人が大きく頷いて肯定を示す。
ゲッコー・モリア、もこの世界に来てから有名な本は数冊読んだが未だ聞き覚えのない名だ。
それはルフィ達も同じようでいまいち要領を得ないといった表情を浮かべている。


「元々の懸賞金でさえあなたを上回る男よ、ルフィ……。ゲッコー・モリアは七武海の一人」


ルフィの現在の懸賞金額は三億ベリー。元々の懸賞金がそれを上回るという事は現在はもっと破格という事か。
七武海という言葉はも数度見聞きした事がある。確か世界政府や海軍と三つ巴になって均衡を保っているとか何とか。
一気に雲行きが怪しくなってきた。
特化した技術に加え影を奪う能力、三億ベリーを上回る懸賞金がかけられていた七武海の男。


「あんたらもここへ誘われた時点でモリアに目をつけられたと思った方がいい」
「影を奪う事が目的か?一体何故そんな事を」
「それはわからねェがやっかいな事には変わりねェな」


地面に座り込み小さな肩を更に縮めた老人が達の前で大粒の涙を零す。
光に当たれない故日陰に隠れて生きている為肌は血色が非常に悪く痩せ細り深い皺を刻んだ頬。
痛ましい姿で大粒の涙を流して死ぬ前にもう一度太陽の光の下を歩いてみたいと呟く声は悔しさに滲んでいた。
人間、生物は皆太陽の光を浴び生命力を養っていく。
それが出来ずに命だけある日陰の生活というのは想像するよりもずっと残酷なものだろう。
老人の話を聞いていたフランキーが負けないくらい滝の様な涙を流して気持ちがわかると大声で泣く。
彼は見た目とは違い非常に感受性豊かで優しい人間だ。
一見突き放す様な言葉を話すサンジやゾロもまた老人の頼みを断ろうとはしない。
照れ隠し、そんなところだろうか。
とロビンも特に反対する事もなかった。
どちらにせよ行きつく場所は一つ、目的は違えど恐らく行う事は変わりない。


「まーでもよ、元々影を奪う張本人を探してたんだ」


悔しさに顔を歪め涙を流す老人に向かってルフィが明るい笑顔で励ますように口を開く。
そのゲッコー・モリアが自分達を狙っているのならばどうせ倒す事になるのだからと言うとようやく老人が顔を上げた。
集まってきたのかそれとも最初から居たのかは不明だがルフィの言葉を聞きつけた他の被害者達も一斉に激励の言葉を飛ばす。
何はともあれ目指すべき所は一つ、霧に包まれた森の先にある大きな屋敷。
老人達の激励を受けながら達は再び屋敷に向かって歩き始めた。








08.02.26

  << Back   TOP   Next>>