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サンジに続きゾロまで消えてしまった。
来た道は一本道であり寄り道や方向を間違えるといった事は考えられない状況だ。
達が傍に居たにも関わらず、声も無く一瞬の間に。
二人共麦藁の一味の中でもルフィに次ぐ戦力の持ち主であると言うのにこのざまとは敵は思っていたよりずっと手強そうだ。
周りを警戒しながら歩くの横でロビンもまた表情を引き締め歩いている。
だがそんな二人とは裏腹に男二人は状況を軽く見ているのかと疑いたくなってしまうほどどうでもいい事の論議を繰り返していた。


「ヨロイがそこにあったなら着るのが男のロマンじゃねェのかよ!お前は鉄の体を手に入れてそんな心も無くしちまったのか!」
「ロマン!?…全くだ!」


手近にあった鎧を着込み喜ぶルフィと、男のロマンとやらを問われ涙を流しながら歌うフランキー。
座り込み、どこから取り出したのかギターを片手にサイボーグ鋼鉄旅情なる歌を歌っていた。
騒ぎ立てるのは勿論ルフィ一人だけ。もロビンも完全に二人を視界から外している。
付き合うのが面倒くさい。故に今や一味は半分になってしまったというのに緊迫感は全く無かった。
連れてきた豚のゾンビですらルフィとフランキーを見て、呆れるほどに。


「……放っておいていいのか」
「大丈夫よ。それより見て、もう広間みたいよ」
「私にはどう見ても円形闘技場にしか見えないのだが」


広間と聞いて歌っていたフランキーもルフィも慌てて達の元へ駆け寄ってきた。
しかし目の前にあるのは広間というよりはの言う通り円形の闘技場であり、そこから先は外に繋がっている。
ボロボロに破れて固まった泥や血、汚れが付着したテントがいくつか並び異様な雰囲気を醸し出していた。


「人対人では無いだろうな、この様子だと」
「ゾンビ対ゾンビかしらね」
「どっちにしろ趣味悪ィ事には変わりねェな。どうする、外を探すか」


達が円形闘技場を見ながらああでもないこうでもないと話している時だった。
突如フランキーの頭上で何かが動いたと思った瞬間、大振りの剣を持った鎧がフランキーめがけて攻撃を仕掛けてきたのである。
間一髪の所で避けたが、鎧は戦う気満々の様だ。
達に向かって殺気を放ちながら左手に盾を、右手に剣を構えている。


「これもゾンビか」
「そうみたいね。体に槍が刺さったまま動いているようだし」
「ゾンビが立派に武装しやがって!驚かすんじゃねェよ」


突然攻撃された事に苛立ったフランキーが鎧へと立ち向かっていく。
押しつ押されつの攻防だが、相手はゾンビ。疲労や痛みが蓄積しないだけに分が悪い。
だがフランキーが負けるだなんてもロビンもルフィも、これっぽっちも思っていない。
その証拠に互角の攻防を見せていたフランキーが若干押し始めた。


「しかしやっかいだな。武装したゾンビとなれば通常の人間よりもやりづらい事は確かだ」
「攻撃しても効いているのかいないのかがわかりづらいものね」
「じゃあとロビンも鎧着るか?」


フランキーが鎧ゾンビの頭を掴んで円形闘技場のテントへと向かって投げ飛ばしたのを見つつとロビンが同時に口を開く。
勿論、拒否を示す為に。


「遠慮しておく」
「私もいいわ」


鎧は武装として大いに役立つかもしれないが慣れなければ動きづらい事この上無い。
何だよ、カッコイイのにと口を尖らせるルフィをさらりと流しつつフランキーが投げ飛ばしたゾンビを見遣る。
何度も攻撃を受け投げ飛ばされたはずのゾンビは今この瞬間にも再び立ち上がろうとしていた。
これでは埒が明かない。戦ってみたフランキー曰く、今までのゾンビとは格が違うそうだ。
確かに今まで会ったゾンビ達は皆弱く、達はおろか、これならばナミ達も十分立ち向かえると思える程度だった。
だが今襲ってきた鎧のゾンビはフランキー相手に引けを取らない強さである。

立ち上がろうとするゾンビを見つめていた達の後方から豚のゾンビが不気味な高笑いを上げる。


「思い知るがいい!それが本当のゾンビの怖さだ!」


いつの間にか傍に居たはずの豚のゾンビは達から遥か後方まで移動しており嘲笑うような目を向けていた。
逃げ出す算段だろうか。


「故障はあっても痛みなど感じねェ!武装した将軍ゾンビ達は一人一人が生前に戦いで名をあげた強硬な戦士達なんだ!」
「……成程。だから将軍という呼び名がついているのだな」
「納得してる場合か!」


豚のゾンビの言葉を聞き感心しているにフランキーが呆れた表情を浮かべつっこんだ。
ゾンビが相当前から作られていたのであれば屈強な者達を集め復活させる事で強大な戦力を造り出す事が可能だろう。
そこに自らの意思と言うものが反映されていないのであれば、だが。
嘲笑うようにまくし立てる豚のゾンビは、更に言葉を続ける。
一国の騎士団長、凶悪な犯罪者、伝説の侍、海賊に拳術使い、実にさまざまな強者達が集まっているのだというではないか。
おまけに相手は生身の人間では無く不死身のゾンビだ。


「おめェらなんかに勝てる訳がねェんだよ!おめェらの仲間達だって誰一人無事じゃねェよ、ザマー見ろ!!」


ひたすら達を煽る豚のゾンビに怒ったルフィが駆けだそうとするが、その瞬間円形闘技場の入口に分厚い壁が下りてきて、豚と達の間を隔ててしまった。
更に、塞がれたのは退路だけでは無く、振り返れば円形闘技場の中には先程と同じような鎧をまとったゾンビが多数。
彼らがあの豚のゾンビが話していた将軍ゾンビ達だろう。
巨大な者から小柄な者、更には人間でないものまで。


「コリャさすがに手強過ぎるぞ」
「ここはいちいち私の癇に障る事ばかりだ。仲間を攫うのも生命を弄ぶ所業も頂けないな」
「全員まともに相手してちゃこっちが消耗しちまうだけだ」
「それもそうだな、ここが最終戦じゃねェもんな」


先程フランキーが一人のゾンビと戦って、あの結果だ。
こちらが四人に対しゾンビ達の数は少なくとも三倍以上、いや、もっと多いだろう。


「この広間をまっすぐ抜けると…恐らく中庭に出られるわ」
「よし!じゃあおれ達四人そこで落ち合おう。また誰か消えねェ様に気をつけろよ!」


四人で顔を見合せて頷いてから四方向へ散っていく。
さて、どう戦おうか。襲いかかる攻撃を走りながら避けつつが考える。
ゾンビとは言えど何かしら弱点はあるはずだ。
先程の豚は、故障はあっても痛みは感じないと言っていた。
感じないだけで受けた傷による疲労やダメージが蓄積されていくのであればその分痛めつけてやればいい。
だが彼等を相手にそれをするには相当な時間と体力が必要になってしまう。
だとすれば、火が役に立つかと思い手袋をはめ指先を弾いてみた。

火花が散りゾンビへと向かって焔の塊が飛んでいく。
だがその焔がゾンビへと辿り着く前にどこから取り出したのか水の入ったバケツを持ち、ゾンビ達が焔を消した。


「そんなのありか!!」


思わず叫んでしまったが慌てて冷静になれと自分に言い聞かせる。
何て非常識。頭にくる。だが戦いで冷静さを欠けば隙を突かれてしまう。
ナイフ類は出しても無駄だと悟ったが得意の体術で攻撃をカバーしつつ将軍ゾンビ達の間を駆け抜けていく。


「一刀流…三十六煩悩鳳!」


突如響いてきた言葉に驚いてが将軍ゾンビ達の間から視線だけ声の聞こえた方向へと振り返る。
三十六煩悩鳳というのは確かゾロの技の名前だったはずだ。
という事は連れ去られたのではなくやはり道を間違えて今追いついたという事なのだろうか。

だが、振り返ったの目に映ったのはゾロとは形容しがたい人物だった。


「背中のキズは剣士の恥だ!なのにおれは傷だらけ!」


頭の上にあるのはダチョウだろうか…。
シャツを着て腹巻をしている姿は確かにゾロと同じだが、その下には何の目的でついているのかわからない浮き輪のような物体をつけている。
褌を履き、ズボンは履いておらず脛まである靴下と草履を履き、手には刀を三本持っていた。
普通に考えれば絶対に違うと断言出来そうだが、類似点が多過ぎていまいち判断がつかない。
ふと気付けば遠くで戦っていたはずのルフィまでもがの傍にやってきており、同じくしてゾロをまじまじと見つめていた。


「やっぱゾロか!?」
「……認め難いが類似点が多い上に技も同じならば本人と思うしかないだろうな。それにしても短時間で随分大幅なイメチェンをしたものだ」
もそう思うか?やっぱりアレ、ゾロだよなァ」
「ゾンビかゾロか、悩む所だ。それとも敵を撹乱させる為ゾンビのフリをしているという事も考えられる。頭脳派だな」


背後から忍び寄ってきた将軍ゾンビを蹴散らしながらもゾロと思われる人物を見つめる。
だがルフィはゾロと思われる人物に注視し過ぎていたようだ。
あっという間に周りに居たゾンビに囲まれてしまいルフィの姿が見えなくなってしまった。
慌てて近寄ろうとするものの、の周りもゾンビだらけで容易に近づく事が出来ない。


「おれの名はジゴロウ」
「ゾロじゃなかったのか!紛らわしい!」


ゾロかと思われる人物がゾロではなかった事に内心ほっとする。
あれがゾロだとしたら、今後旅を続けるのに大きな支障がありそうだ。
ジゴロウと名乗ったゾロもどきを背にが周りの将軍ゾンビの攻撃を避わしながら何とかルフィへと近づいていく。
しかし、ルフィの姿はどこにもなく気付けばはいつの間にか円形闘技場を脱出し外へと出てきてしまっていた。
前にはロビンとフランキーの姿は見えるが、ルフィの姿はどこにもない。
舌打ちをし円形闘技場へと振り返ったの目に映ったのは、大量の将軍ゾンビがこちらへと向かってきている姿だった。








08.03.15

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