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「そ、そうなの?」
「そ…そうよオカマなの!冗談じゃないわよーう!」
とりあえず攻撃の手は止まったようなのでがナミの上から体をどけ横へずれて座り込む。
とナミの前にいる猪は驚愕の表情を浮かべその場で腰を抜かしていた。
少し離れた場所でチョッパーもまた猪と同じ様に驚いた表情を浮かべている。
ナミの突然の告白は辺りを静まり返らせるほどの威力を持っていた。
「ナミは…男だったのか」
が呟いた瞬間、横っ腹にナミの拳が飛びがぐっと息を飲んで押し黙る。
恐ろしい表情を浮かべたナミがの耳元で「そんな訳無いでしょ!合わせなさいよ!」と小声で囁いた。
それでようやくも納得する。本当だったらかなりの衝撃を受けるところだ。
だとしたって殴る事ないではないかと呟けばナミが「ノリよ」と答えた。
ノリなら仕方無い。
「じゃ、じゃあそこの女は?」
「私か?」
「そうよ!あんただってアブ様を狙ってるんでしょ!?」
ナミが男だという発言は一応信じたらしい猪が今度は矛先をに向けた。
再び息巻き始めた猪の言葉にがどうしようかなと頭を捻らせる。
あの野獣男を狙っているなど酷い濡れ衣だと言いたかったが言った所で納得してくれそうもない。
ナミに視線をやればナミが頷き、も誤魔化せと表情で訴えていた。
ここまで純真な猪に嘘を吐くのは少々憚られるが仕方ない。緊急事態だ。
「私は……雌雄同体だ。雄の機能も雌の機能も備え付いている故にどちらも必要としない」
適当に放ったの言葉に再び猪とチョッパーの叫び声が上がり森へと木霊していく。
少々罪悪感が残るのは相手がここまですんなりと受け入れてくれるからだろうか。
「それにあんたと獣男すごくお似合いよ!私応援したいと思ってたの!ね、!」
声高にナミが猪に向かい口を開いてに同意を求める。
突然振られたは一瞬戸惑って、しかしすぐに頷いて言葉を続けた。
罪悪感に苛まれるよりもナミに逆らう方が怖い。
「そうだな。私はあの男と貴女程似合いのカップルを見た事が無い」
「えェ!?ホント!?」
「ホントよ、冗談じゃないわよーう!ね、!」
「いちいち私に同意を求めるのをやめて貰いたい所だがまあそういう事だ」
とナミの言葉を聞いた猪が手にしていた刀を落とし体を地へ伏せるようにして泣き崩れる。
それを見ると余計に心が痛むが仲間達の生命の危機を救う為だ。
「……今まで一度だって後押しされた事の無いこの想い。こんなに優しい言葉をかけてくれたのはあんた達が初めてよ…!」
大粒の涙を流す猪を見て、何だか憎めない猪だなとが眼差しを緩くする。
彼女は純真さ故あそこまで情熱的になり自分達へ敵意を向けたのだろう。
ナミの方もどうやらそれに気づいているようで、騙してやろうといった雰囲気は見当たらない。
笑顔を浮かべ猪の前に立ったナミが猪に向かい両手を差し出した。
「顔を上げてマイフレンド、友情ってこういうものよ。私はナミゾウ、ナミって呼んで」
「ゆ…友情」
「私の事はと呼んでくれ。私も友達になりたいのだがなってくれないか?」
「あ、当たり前じゃない…!」
ナミの本心はわからないが、は本気でそう思っていた。
猪の友人などこの先作れる機会はまず滅多になさそうだ。
話してみれば真面目でいい猪だと言えるだろう。後でルフィに仲間にしてくれと頼むのもいいかもしれない。
ウソップとチョッパーが呆気に取られた表情を浮かべている中、立ち上がった猪はローラと名乗った。
嬉しそうな表情を浮かべるローラと共に近くにあった椅子に腰掛け話始める。
会話の内容は勿論どうしたらローラがアブサロムと婚姻を結べるのか。
「だからね、意識があるからハンコ押してくれないわけよ。相手が寝てる間にね…」
「寝込みを襲うの!?いいのそれ人として!」
「ローラあんたゾンビじゃない」
「盲点!それって腐れ盲点だったわ!」
ナミの強引な言葉を真剣に受け取ったローラが驚きで目を見開いて興奮気味に喋っている。
そもそもこの世界に、そして動物やゾンビ間にも婚姻届という概念がある事の方がにとっては驚きだった。
「寝てなくても気絶させれば充分よ」
「後々に芽生える愛情というものもあるだろう。まずは婚姻を結びゆっくりと愛を育んだらどうだ」
「いいわねそれ!腐れ盲点だったわ!ゆっくり愛を育むなんて素敵!」
「あんた良い事言うじゃない。とりあえずそうしちゃえば、ローラ」
意識があろうが無かろうが本人が印を押すのであれば文書偽造罪に問われる事は無いだろう。
とにかく逃げないかというウソップの控え目に呟かれた声にそういえばそうだったと思い出す。
目新しいものに気を取られうっかり目的を忘れてしまう所だった。
ナミが上手い事ローラから財宝の在り処を聞き出した所でも椅子から立ち上がる。
何となく遠くで何かが動く気配を感じ取ったのだ。
立ち上がりじっと耳を済ませれば何かが近づいてくる足音が聞こえる。
「おいナミに!あいつが追いついてきたぞ!」
あいつ、という言葉が指す人物と言えば一人しかいない。
ウソップの言葉にナミも椅子から立ち上がり、と共にローラの肩を掴んだ。
両側から肩を掴まれたローラが不思議そうな表情を浮かべる。
ナミと視線を合わせたは頷いて同時に口を開いた。
「ローラ、アタックチャンスよ!私もも二度とあいつに逢わないから大丈夫!頑張れ、あんた達こそベストカップルよ!」
「まずは気合いだローラ。大抵の事は気合いがあればどうにかなる。盛大に応援させて貰おう」
遠くから徐々に近づいてくるアブサロムを視界に捉えたローラの瞳が輝く。
意気揚々と立ち上がったローラは両手に刀を持って自信満々な笑みを浮かべた。
「私頑張る!ありがとうナミに、勇気が湧いてきた!」
凄まじい地響きを轟かせながらアブサロムの名を呼び駆けて行くローラを見送って達も走り出す。
半分本気、半分足止めに利用して申し訳無いと思いつつは心の中でローラに謝罪を述べ全速力で駆けて行く。
だが果たしてどの程度ローラがアブサロムの足止めをしてくれるのか見当もつかない。
先の戦闘を見た限りアブサロムの方がローラよりも格段に強いのは確かだろう。
まずはこの三人を船に戻す事を優先するべきか。
「走りながらでいいから話を聞いてくれ。実はルフィとゾロとサンジが現在行方不明中だ」
「はァ!?何してんのよあいつら」
「声も何も無く突然に消えてしまった。現在ロビンとフランキーが恐らく戦闘中のはずだ」
「どうなってるって言うんだよこの島は!」
「じゃあはあいつらを探してて単独行動でたまたま私達の所へ?」
ナミの一言に思わず言葉に詰まってしまった。
まさか床が抜けて落っこちましたなんて情けない事を言える筈がない。
「あ、ああそうだ。それよりまずはこの島を出る事が先決だ。とにかく船へ…」
「そうだな、この島はすげェやべェ感じだ」
「……ダメだ、やはり今のは無しだ」
「え?」
走りながらが表情を曇らせた事に気付いたナミ達が首を傾げる。
の耳は後ろの足音をしっかりと捉えていた。
響く足音の重さからして間違いなく相手はアブサロムであり、狙いはやはりナミだろう。
予想より遥かに早いという事はローラが足止めをしてくれなかったらしい。
三人を抱えて飛ぶのは不可能でありが取れる行動は一つしかない。
「このままだと追いつかれる」
「わ、本当!もうそこまで来てるじゃない!」
「とりあえず私が足止めする。ナミとウソップとチョッパーはロビン達と何とか合流してくれ」
「大丈夫なのか?」
「いざとなったら私は飛んで逃げられる」
の言葉に納得したのか三人が足を速めて去っていく。
その場で足を止めたはじっとこちらへ向かって走ってくるアブサロムを見据えていた。
一方のアブサロムも立ち止まり腕を組んで己を見据えているの姿に気付き足を止める。
アブサロムとの間にある距離は数メートル。
ロビン達が現在どの辺りにいるのか見当もつかない故ナミ達が合流出来るとは考えにくい。
だが、今はとにかくこの野獣男を足止めする事こそが先決だ。
何とか逃げ切ってくれと思いつつが両指にはめている指輪を細いナイフへと錬成し構えた。
「……おいらの花嫁はどこだ」
「お前の花嫁なら先程二本の刀を持ったローラが行ったはずだが」
ナイフをアブサロムへ向け不敵に笑うの表情を見たアブサロムの眉間に皺が寄せられる。
スリラーバークの森の中で向い合うとアブサロムの間には一触即発の空気が流れていた。
08.05.03
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