13
ブルックと思わしき人物が落下した地点はの居る場所からかなり離れており本人かどうか見分けがつかない。
恐らくほぼブルックと断定出来るものの、どうするべきかはその場で立ち止まり悩んでいた。
ナミ達を探すべきか、ロビン達を探すべきか、それとも消えたルフィ達を探す為にこのまま別行動を取るか…。
数秒の逡巡を経てが走り出す。
落下したのがブルックであれば誰かしら目撃していないか聞いてからの方が効率良さそうだと判断したのだ。
走りながら背中に力を込めればの背から羽が生える。
現状なら羽を出して飛んでもナミに怒られる事はないだろう。走っていくのは時間の無駄だ。
羽を動かしながら勢いをつけて飛び上がればの体がふわりと宙に浮いていく。
飛びながら考えるのはこの島に入ってから幾度も目にしてきたゾンビ達の事。
生命体というものは、魂と精神と肉体の融合体であり死者が蘇る等ありえない事だ。
だが実際確認しているだからその存在を認めざるを得ない訳であり、しかし定義上に当て嵌めようとすれば無理が生じる。
「ありえないなんて事はありえない、か」
ホムンクルスという存在だってありえないとされてきたのに実際は幾度も接触しその存在を認めている。
他者の生命の塊で作られるホムンクルスよりはゾンビの方が元々の肉体を持っているという点からして余程ありえる事なのかもしれない。
「他者の命……」
もしもスリラーバークにいるゾンビ達も原理が同じだとすれば…。
死者が蘇る訳ではなく精神と魂が容れものである肉体を動かしているだけだとすれば完全なる融合体でなかったケルベロスの原理も頷けるものがある。
見せかけのゾンビ、その可能性は充分にあるのではないだろうか。
考えるだけで腹の底からふつふつと怒りが湧き上がる仮説にが頭を数度振ってそれを振り払おうとする。
生命は弄ばれるべきものではないのだ。
ブルックと思わしき人物が落下した地点へ辿り着いたがふわふわと浮いたまま眉間に皺を刻んで腕を組む。
の視線の先にあるのは、どう見てもブルックと同じ形をした穴。
地面にポッカリと空いた穴は面白い程その形を如実に表し深い所まで続いているようだ。
穴を見つめながらどうしようかと迷っている間に穴から骨むき出しの手が地面を掴み這い上がってくる姿が見えた。
最初に出てきたのは帽子ともじゃもじゃのアフロ、次いでブルックの顔が見える。
「やあブルック、こんな所にいたのか」
「――あ、さんでしたっけ。って……えー!?さんが飛んで……えー!?」
穴から這い上がってきたブルックが口を大きく開けて叫び声をあげた。
羽を生やして飛ぶ人間と骨だけで生きている人間、普通の人前に出たらどちらが驚かれるのであろうか。
「ああそうか、これは……」
「私ついに死んでしまったのですか!?さんによく似た天使が…!ビックリして目玉が飛び出そうですよ!目玉、無いんですけど!」
「期待に沿えなくて悪いのだが私は天使では無い」
「あ、そうなんですか。じゃあさんに羽が生えてるって事で……羽ェー!?」
今度は両手を上げて叫ぶブルックがの背へ視線を固定する。
……眼球が無い故どこを見ているなどと断定する事自体おかしいかもしれないがには確かにブルックの視線を背中に感じた。
しばしの間をおいてブルックが感心したように溜息を吐き出しての前に立つ。
相当深くまで地面にめり込んだというのにブルックは怪我ひとつしていないようでピンピンしている。
とは言っても外見からして怪我があるかどうかすらには判断出来ないのだが。
「さん、あれ見えますか」
の前に立ったブルックが頭上を指さしもそちらへ視線を向ける。
見上げた場所にはあちこちに蜘蛛の巣の様なものが張り巡らされており縞模様の大きな蜘蛛が見えた。
「これはまた…規格外な大きさだな。節足動物の類はあまり得意ではないのだが」
「それもそうなんですがさんに見てもらいたいのは蜘蛛ではなくあちらです」
大きな蜘蛛ではなく違うものだというブルックの指さす方向をじっと見据える。
目を凝らして見つめていれば大きな蜘蛛の体の隙間に知った顔を見つけた。
蜘蛛の糸に捕らえられたロビンとフランキーの姿だ。
という事はが落ちる前に居た場所はここだったという事らしい。
「ロビンとフランキー!」
「そうです。私が先に蜘蛛の所へ行きますからさんはロビンさん達の元へ」
「対抗策でもあるのか?」
「――ええ、では先に行きます。さんもお気をつけて」
どうやって、とが口に出す前にブルックの足が地面を蹴り高い位置まで飛び上がる。
失念していたがブルックはサウザンドサニー号から出ていく際にも信じられないほどの跳躍を見せていた。
一気に蜘蛛の巣が張り巡らされている辺りまで飛んでいったブルックを追っても羽を広げる。
あまり近くまで行ってしまえば羽が蜘蛛の巣に絡んでしまうだろう。
蜘蛛の巣ギリギリの場所まで飛んでいったが壁面に少しだけ出ている足場を見つけて降り立つ。
キラリ、と光を捉えが上を見上げれば飛び上がったブルックが蜘蛛の体へ触れたように見えた。
ほんの一瞬、時間にすれば一秒にも満たないであろう間の出来事。
太刀筋が見えた気がしたがブルックが手にしているのはステッキのみで刀などそこには存在していない。
装飾類か何かの光が蜘蛛の糸に反射したのかもしれないと思い直しは壁を伝って何とかロビン達の元へと進んでいった。
「!無事だったのね」
「おォ!いきなりいなくなるからてっきり捕らえられちまったのかと思ってたぜ。どこに居たんだ?」
ロビンの足元から顔を出したに気付いた二人の表情に多少の明るさが戻る。
フランキーの言葉を聞いたが言葉を詰まらせ視線を彷徨わせた。
うっかり落ちた上頭を打ってどこかまで吹っ飛ばされ、猪と友達になっていました、なんて言えるはずがない。
「―――野暮用だ。そういえばナミ達を見つけた。とりあえず無事だ」
「お前も敵か。今すぐおれが仲間と同じように動けなくしてやる」
「連れてこなかったのか?」
「情けないがそこまで余裕が無く三人を逃がすだけで精一杯だった。うまく逃げてくれているとは思うが」
「おい!聞け!」
何やら後方で大きな蜘蛛がこちらに向かい話しかけているようだがいちいち答えている余裕など無い。
足場から足場へと飛び移ったがロビンを捕らえている糸を断ち切ろうとナイフを当てる。
だが、の当てたナイフは糸を断ち切るどころか音を立てて弾き返されてしまった。
力が弱かったのだろうか。二人を捕らえている糸はがっちりと固まっているようで傷一つつかないようだ。
もう一度力を込めながらがナイフを糸に当てながら口を開く。
「それにしてもまあいい恰好だな、フランキー」
「うるせェ!スーパー余計な御世話だこのやろう!気をつけろよ」
「ああ、わかっている」
「おれ達は今まで狙った獲物を捕らえ損ねた事は一度も無い!って聞けよ!」
気持ちの悪い表情を浮かべてせせら笑う蜘蛛に向き合ったが指輪で錬成したナイフを手に構える。
糸はどうやったって切れそうにない。それなら先にあのうるさい蜘蛛を倒してしまうべきだ。
自分まで捕らえられてしまえば元も子も無くなってしまう。
――― ビンクスの酒を 届けにゆくよ ―――
ナイフを構えたが飛びだそうとした刹那、頭上からブルックの歌う声が響いてきた。
へと攻撃態勢を取っていた蜘蛛も突如響き渡った歌声に気を取られているようで辺りをキョロキョロと見まわしている。
聞こえてくる歌はブルックと初めて出会った際に彼が歌っていた歌だ。
ビンクスの酒を届けにゆくよ……というフレーズに聞き覚えがある。
歌に気を取られた数秒、ふわり、とどこからかブルックが舞い降りてきて達の前に歩を進めた。
その手にあるのはステッキだとばかり思っていたもの。
長い刀と鞘に分けられたステッキを見て、やはり先程の光は太刀筋だったのかと気付いた。
「ヨホホホ、いやはやみなさんこの島に入って来てしまいましたか。来てしまったのなら仕方ありませんね。この島の全てをお話しましょう」
「それは非常に興味深いがまずはあれをどうにかしないとな」
の視線の先には訝しげな表情を浮かべた大きな蜘蛛。
見れば見るほど不思議な生き物だ。体自体は蜘蛛そのものだというのに耳や手は人間のものと差異は無い。
それに加えてロビンとフランキーを捕らえてしまう程の能力はおいそれと破られるものではないのかもしれない。
しかしブルックの様子は刀を持っているとは思えないほど呑気なものだ。
戦闘態勢を取るの肩に手を置いて、「もう大丈夫ですよ」とブルックが呟いた。
「もう決着はついていますから」
散々怒号を上げているにも関わらず無視され続ける事に苛立った大きな蜘蛛が一歩足を前へと踏み出した。
決着がついているとはどういう事だろうか。どう見ても目の前の蜘蛛には傷一つ見当たらない。
が構えを解かず警戒心を露にする隣でブルックが鞘に刀を収め始めた。
「鼻唄三丁……矢筈斬り」
カツン、と刀が鞘に収められた音が響いた瞬間、目の前に居た大きな蜘蛛の体を割る様に線が走り大量の血が噴き出す。
唐突に傷を負い倒れこんだ蜘蛛を目の当たりにした達はただただ驚くしかなかった。
08.06.08
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