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船着き場まで続いているという長い階段はブルック曰く、影を取られた者を運ぶ通路だと言っていた。
相当に長い階段だが直線状である事からして屋敷内を走るよりはずっと距離が短縮されているのだろう。
横並びになった、ロビン、フランキー、ウソップ、チョッパーが一目散に下へと駆けて行く。


「それでナミはどうした。あの猛獣男と一緒か?」
「そうなんだ、ルフィが運ばれてったんだ!おれ達はそれを追っていたらナミが……!」
「あいつに連れ去られちゃったんだよ!透明になって消えちまったから追うに追えなくて」


申し訳なさそうに顔を俯かせるチョッパーの肩に手を置いて軽く叩く。
ナミが連れ去られたのは何もウソップやチョッパーのせいではない事くらいこの場にいる誰もが知っていた。
船に現れたアブサロムにしてやられたのはこちらも同じだ。
ルフィ、ゾロ、サンジ、ロビン、フランキー、が揃っていながら誰一人アブサロムに攻撃を与える事すら出来なかったのだから。


「私だけでも戻るかな……」


ふと漏らしたの言葉に気付いたロビンが苦笑して首を横に振る。
横目で見たロビンの表情はの言葉の意味を充分に理解しているようだった。
ナミの事が心配なのはなにも自分だけではない。
ここにいる全員がナミの身を案じているのだ。
しかし現実的に考えればが一人戻った所でどうにかなるかと言われれば微妙な所だろう。
十中八九無駄足になる可能性の方が高い。


「ダメよ。あなた忘れた訳じゃないでしょう?」
「次に影を取られる可能性が高いのはおめェだろ。とにかく体制を立て直そうぜ」
の気持ちはわかるがあいつは命を狙われた訳じゃねェ。出直して必ず助ける!」


止めるフランキーとロビンの言葉を聞いたウソップが力強く胸を叩いたのを見てチョッパーも頷く。
しかし確かに一人で突っ込んでいく事は危険だがやはり気になってしまうのだ。
あの時アブサロムを引きつけるのではなく一緒に逃げていればナミは攫われなかったかも知れない。
そう思うと自分の浅はかさに落ち込みたくなってしまう。


「さっき上で聞こえた怪物の唸り声みてェのは一体何だ?おれ達はアレ聞いて駆け付けたんだ」
「あれはルフィの声さ」
「どういう事だ」


フランキーの問いに思いもよらぬ答えを返したウソップの言葉を聞き、思考が中断される。
ルフィの声だと言われても普段のルフィからはかけ離れ過ぎていてすぐに意味を理解する事が出来ない。
ふと思い出したのは大元の存在だ。
ゾンビ達が動いているのは他者の影が入っている。
自分達は影を取られたであろうルフィ、ゾロ、サンジを探しに船へ行く途中なのだ。
ブルックの言った通りルフィが影を取られていると仮定して、その影は既に他者の体に入れられた……。
つまり先程の声はルフィであってルフィではない、という意味なのか。


「予測していた最悪の事態が起こったかな」
「そのようね」
「あァ、おれ達が見た事は全部話す!とにかく……とんでもねェ事になった!!」


船へと一路走りながらウソップが詳細を話し始めた。
猪のローラから逃げ切りと別れたウソップとチョッパーとナミは、走っている途中でアブサロムに追いつかれ慌てて隠れたのだという。
その隠れた場所とはぬいぐるみのような生物の中、らしい……。
とにかくその中に入ったウソップ達は声を潜め身を隠した。
だがアブサロムはそのぬいぐるみのような生物から離れようとせず三人は抜け出す事も出来ないまま女性とドクトル・ホグバックと共にゲッコー・モリアの元へ。
そこで見た物は鎧を着て檻に入れられたルフィの姿。
ゲッコー・モリアの、海賊狩りのゾロと手配書になかった金髪の男とルフィで三人目という言葉。
金髪の男はサンジで間違いないだろうから既にルフィ、ゾロ、サンジの三人がモリア達の手に落ちていると知った。
身動きを取る事すら出来ないウソップ達はそのぬいぐるみのような生物の中から驚愕の光景を目にする。
目の前には巨大、という言葉ではとても片付けられないような見た事も無い巨人の没人形。
その巨大さと言ったら自分達が蟻にも等しいと感じる程だという。
凍りついたソレはまるで氷河期が訪れたのかと思うほどの冷気を撒き散らしていた。
とてつもない太さの鎖で拘束されたソレは目にしたものを恐怖に陥れる程恐ろしい形相をしている。

そしてウソップ達が目にしたもの。
既に抜き取られたルフィの影がソレに入れられて……ゾンビ化した所だった。


「さっきの物凄ェ音と叫びもそうさ。ルフィのゾンビが叫んで大暴れしてるとしか思えねェ」
「――もうあれだな、いっその事不貞寝でもして現実逃避でもしたい所だな」
「アホかァ!!おまえはどこまでスーパーな野郎なんだよ!」
「フランキー、は野郎ではなく女性よ」
「わかってらァ!」


経緯を語りながら顔を青褪めさせるウソップとチョッパーに対しが肩をすかして溜息を吐く。
全くどうしてこう面倒臭い方向へ物事が進むのか。
ウソップの話やブルックの話からして考えれば嫌な程物事の辻褄が合ってしまう。
猪のローラと向き合った時に会った犬っぺとやらは恐らくサンジの影が。
そして円形闘技場で会ったおかしな男にはゾロの影が入れられていたのだろう。
口調も技も同じならば疑う余地は無さそうだ。


「サニー号があったぞ!」


声に反応して前方を見据えれば確かに階段の先にはサニー号の姿が見えた。
ほんの少しの間しか離れていない筈なのだが妙に安堵感を覚えるのは非現実的な事ばかり起こったからかもしれない。


「成程、ここへ通じていたのか」
「上に行けばいきなりボスの部屋だったとはな」


サニー号を目の前にして今まで下ってきた階段を見上げてみれば一直線に上階へと繋がっている様子がわかる。
それにしてもかなり広い船だ。船と位置付けて良いものかいまいち理解に苦しむが。
上を見上げながらが頬に手を当て眉間に皺を刻んで呟いた。


「ナミとブルックだけ取り返したらこの建物ごと全て大規模な爆破をしたりすればモリアとやらに致命傷を与える事が出来ないだろうか」
「それは最終手段に取っておいた方が良さそうね。色々危ないわ。面倒くさがるのはやめましょう」
「やはりダメか。先程のご老人達の事もあるしな……」
「おれはおめェらの会話が怖ェよ」


呆れ顔で呟くフランキーの言葉にウソップとチョッパーが勢いよく頷く。
確かに効率良く敵を片付ける事は可能になるかもしれないが、やはり犠牲者が出てしまうだろう。
それはとしても本意では無い。仲間だけ助かれば良いという考えなど持ち合わせていないのだから。
かと言ってそうあっさり勝たせてくれる相手ではないだろう。
兎にも角にもまずは船の中にルフィ達がいるかどうかを確認し、いればどうにかして叩き起こすのが先決か。
ブルックの言葉からして影を取られても活動が停止される訳ではないらしい。
目を覚ましさえすれば通常通りに動けるのであれば問題ないだろう。

ようやく船着場に戻ってこれた所でサニー号へ続く道に無数の足跡が見受けられる事に気付いた。
どの足跡もドロドロであり、一目で墓場のゾンビ達だろうと予想出来るものだ。
足跡はまっすぐサニー号へ続いており、多少警戒しつつサニー号へ上がれば予想通りサニー号の中にも無数の足跡があった。
十中八九彼らはモリアの命令によりルフィ達を運びこむ為サニー号へ上がったのだろう。


「おい、随分荒らされてるぞ」
「ゾンビ達の仕業ね。ドロの足跡だらけ」
「え、じゃあまだいるかも……!」


不安そうな瞳できょろきょろと辺りを見回すチョッパー。
様子からしてスリラーバーク内で相当嫌な思いでもしたのだろう。
相手はゾンビなのだから確かにお世辞でも見ていて愉快な敵とは言えないものばかりだ。
チョッパーの様子を見ていたとロビンの視線がかち合い、二人の間で一瞬アイコンタクトが行われる。
どうやら考えている事は同じらしい。
不安がるチョッパーの両脇についたとロビンが遠くを見つめながら口を開いた。


「いるかもな。どうする、世にも恐ろしい形相のゾンビ達が群れをなして襲いかかってきたら」
「墓場のゾンビさん達を見ている限りではそういう可能性もあるかもしれないわね」


少々及び腰になっているチョッパーに向かってがニヤリと口元を歪めそんな事を言えばチョッパーの表情が一瞬で引き攣っていく。
脇を挟んでいるロビンの表情も楽しそうで実に乗り気のようだ。
二人の脅しを聞いたチョッパーの足が震えており少々可哀想な気もしなくもないが。


「そ、そんなの別に怖くねェぞ!」
「大丈夫だ、トニー。これをあげよう」


怯えているチョッパーの隣でがポケットの中から飴玉を取り出した。
先程庭の様な場所でアブサロムを餌付けしようとした際に渡し損ねたものである。
要領を得ないチョッパーはの手に乗せられた飴玉を見て首を傾げた。


「これはな、トニー。恐怖が勇気に変わる飴玉だ」
「ええっ!?本当か!!」
「ああ本当だ。強く念じてから口に含めばたちまち恐怖心は消えていくだろう。ここぞという時に食べるんだ」
「だからは強ェのか!」


キラキラとした瞳で問いかけるチョッパーの言葉に大きく頷いてみる。
驚きの表情を浮かべるチョッパーの手に飴玉を握らせてやれば途端にチョッパーのご機嫌は直ったようだ。
勿論そんな飴玉など存在する訳が無い。
あったとしたって紛い物もいい処であり効果を期待するのはまず難しいだろう。
嬉しそうに離れていくチョッパーを後目にロビンがふと柔らかい表情で微笑んだ。


「いいの?、あんな事を言ってしまって」
「ようは気の持ちようだ。飴玉はきっかけに過ぎない」


さらりと嘘を認めるの言葉に後方でルフィ達を探していたフランキーが大きな溜息を吐き出した。








08.08.19

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