ルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ達が唖然とする一方で、、ロビン、フランキー、チョッパーもまた別の意味で驚いていた。
ブルックが50年越しの約束を果たそうとしている相手。
そのクジラを知っている、というのだ。
「……何!?どういう事だ!?」
驚きで目を見開いたフランキーが捲し立てるように大声を上げた。
まさかの展開にも半ば信じられない気持ちでルフィ達の言葉を待つ。
ラブーンという名のクジラ、人物ならまだしも相手はクジラだ。
まだ数ヶ所しか知らないでも容易に想像がつく程の広い世界。
その世界の中で、言葉も通じぬクジラの、たった一頭を知っているというのだから妙な縁を感じずにはいられない。
「偉大なる航路の入口にある双子岬、そこにクソでけェクジラがいて世界を分かつ壁に頭をぶつけ吠え続けていた」
偉大なる航路の入口、にはまだ未知の場所だ。
世界を分かつ壁というくらいなのだから相当なものなのだろう。
唐突に背筋を襲ったのはひんやりと冷たい何か。
偉大なる航路、世界を分かつ壁、分けられた二つの世界、この世の果てと呼ばれる場所、宝樹アダムと呼ばれる木。
世界政府、海軍、王下七武海、四皇と呼ばれる者達、無数の海賊、いがみ合う関係は果てしなく続いているようにも思える。
海軍ひとつ取ったってのいたアメストリスの軍とは規模が違う。
アメストリスは云わば国の自治軍に過ぎないが、この世界の海軍という存在は国では無く正しく世界という巨大な単位の軍隊だ。
それに加えて王下七武海、王下とつくくらいなのだから王政の元に存在しているのだろう。
そして世界政府。この強大過ぎる三つの戦力に対するのが世に蔓延る海賊やその他勢力。
ウォーターセブンにてガープの口から語られたルフィの父であるドラゴン率いる革命軍という存在も気になる。
何故世界は分けられなければならなかったのか。
自然現象、その一言で片づけられない何かがあるような気がしてならない。
「必ず戻ると約束した仲間の海賊達を50年、待ち続けてるんだって……」
続けられたサンジの言葉にハっとして意識を戻す。
それでもの脳内を支配するのは現状決して垣間見る事の出来ぬ未知の世界だった。
この世界に来て見て触れて感じ続けていた違和感。
何かがおかしい。
その何か、が分からない故に答えが出ず、しかしそれでもただ漠然と不安を感じるのだ。
「既に海賊達は逃げ出したって情報もあったがラブーンはそれを認めずに吠え続けてた」
サンジの言葉を聞きながらはそっと目を瞑りラブーンと呼ばれるクジラの姿を瞼の裏に思い描く。
生きているもの全てに何らかの思いがあったとして、本当の意味で意思の疎通、心を通わせる事が出来る関係を築く事は容易で無いはずだ。
それだけにブルックとそのラブーンというクジラは深い関係なのだろう。
同じ船に乗っていた仲間を全て失い失意のまま明けか宵かもわからぬ孤独な海に囚われていたブルック。
そしていつか帰ってきてくれるはずだと信じ途方も無い強大な世界を分かつ壁に向かって訴え続けたラブーン。
一日やそこらではない、50年という長い長い年月。
二人の間を通うものはきっと目に見えなくても存在しているはずだ。
会った事も無いのに、そんな気がした。
「何とかルフィがその壁にぶつかる自殺行為だけはやめさせたが、……あいつは今も生きてその岬で仲間を待ち続けている」
「とんでもねェ話だ、50年も互いに約束を守り続けてたんだ……!」
「まさかあのラブーンが待つ仲間の一人が……、あのガイコツだったとは」
口々にすげェすげェと色めき立つ仲間達の言葉を聞きながらが隣にいたロビンに対し疑問を口にした。
クジラならば、泳いで追いかけてくる事や探しに出る事は不可能だったのかと。
いくら世界が広いとは言え、クジラだったら船を追う事くらい可能ではないのだろうかと。
の素朴な疑問に対しロビンは柔らかい笑みを浮かべ首を緩く横に振る事で否定を示した。
「そうね、はまだ偉大なる航路の入口を見た事が無かったわね」
「ああ、しかし船が乗り入れられるのであればクジラも可能ではないのか」
「不可能ではないかもしれないけれど、事情があるんでしょうね、きっと。でも素敵ね、そうやって約束を守っていられたなんて」
ニッコリと微笑むロビンの言葉にも目を細めて微笑んだ。
契約と違い約束は実にあやふやなものだ。
両者共に守らなければ約束は意図も容易く無かった事になってしまう。
対人でも難しいそれを、いや……、もしかしたら対人でないからこそ守られている約束なのかもしれない。
打算も何も無い世界に存在する純粋なものだからこそ。
「会ってみたいな、そのラブーンとやらに」
「ええそうね。皆で会いにいけたら素敵ね」
「お、おれも会いたいぞ!」
目を合わせて微笑むとロビンの間でチョッパーが必死に手を上げて主張する。
微笑み合う、ロビン、チョッパー。
目を輝かせるルフィ、ゾロ、サンジ、ウソップ。
宝物を見つけたかのように全身を高揚感が支配する七人の耳に今度はおいおいと大声で泣く声が聞こえてきた。
発生源は勿論人の好過ぎる兄貴こと、フランキー。
滝のような涙を流し、骨も鯨も大好きだー!!と力の限り泣き叫んでいる。
その様子を見たとロビンがまた目を合わせて苦笑した。
「うはーっ!ぞくぞくしてきた!あいつは音楽家で!喋るガイコツでアフロで!ラブーンの仲間だったんだ!!」
両手の拳を振り上げて満面の笑みを浮かべるルフィの力強い言葉からルフィの興奮がこちらにまで伝わってくる。
最初にブルックを仲間にしたいと言い出したのもまたルフィだった。
それが自分達の知っているクジラの仲間だと知ればこの興奮もまた理解出来る。
「おれはあいつを引きずってでもこの船に乗せるぞ!仲間にする!文句あるかお前ら!!」
わくわくと気持ちが高揚するのは何もルフィだけではない。
もうブルックを仲間にするという事に対し異議を唱える者等いないだろう。
この場にいないナミだってきっと「仕方ないわね」と笑ってくれるはずだ。
ナミは無事だろうか……。
「ふふっ……あったら意見が変わるのかしら?」
「元々私は賛成派だからな、文句などあるはずもない。大歓迎だ。理詰めなら任せてくれ」
「会わせてやりてェなァあいつ!ラブーンに!」
嬉しそうに笑みを浮かべるロビンと目を輝かせるウソップの表情を見て心がじんわりと温かい感覚に包まれていくのを感じた。
やはり自分はこの一味が好きだと改めて実感させられる。
早くナミを助け出し影も取り返してブルックを誘いどこか楽しい島へ行きたい。
こんなじめじめと暗い島に長期間居座るのは精神衛生上に悪い上彼らには似合わないだろう。
船の上から聳え立つ城を見つめ軽く拳を握る。
待ち受けているのは王下七武海の一人とそれに追従するゾンビ達。
そう簡単に勝たせてくれる相手ではないかもしれないが、一刻も早く抜け出してしまいたいのだ。
何故だかわからないが、酷く嫌な予感がする。
ふと視線をそらせばルフィのブルックを仲間にする宣言に、賛成だと拳を突き上げるフランキーの顔は相変わらず涙で濡れていて。
そんなフランキーにつられたのか貰い泣きをしているらしいチョッパーの顔もまた涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「そんなわかりきった事より!!ナミさんの結婚阻止だおれァ!!」
「確かに由々しき問題だな。あの男にナミは似合わない」
「ふふっ、そうね。相手はわからないけれどここに住むんじゃナミちゃんが勿体無いわね」
「ちゃんもロビンちゃんもんナミさんも誰にも渡すもんかァ!!」
真っ赤な顔と体中で怒りを表現するサンジが城に向かって吠える。
各自目的は別にせよやる気は充分のようだ。
「ゾロ!どこに行くんだ」
ルフィの声に気づき船内を見渡してみたがゾロの姿は既に無く。
気付けば既にゾロは船を下りスリラーバークへの道を歩いていた。
振り返ったゾロの表情は勝気な笑みが浮かべられており、彼もまた充分にやる気なのだとわかる。
好戦的でプライドの高いゾロの事だ。自分の影も何もかも取り戻す気なのだろう。
「さっさと乗り込むぞ。奪い返す影が一つ、増えたんだろ」
ゾロの言葉にきちんとブルックの事も入っている事に何となく嬉しくなって船からひらりと体を躍らせる。
泣いていたフランキーもチョッパーも既に涙は止まりしっかりと前を見据えていた。
奪い返すものはナミに三人の影。
奪うものはブルックの影とブルック本人。
「よっしゃァ野郎共っ!反撃の準備をしろ!スリラーバークを吹き飛ばすぞォー!!」
天に向かい拳を高々と上げるルフィに従って達も皆拳を突き上げる。
薄暗い霧に包まれた魔の海域にひっそりとその姿を現すスリラーバークに麦わらの一味の雄叫びが木霊した。