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船から降り立った麦わらの一味全員が今から起こるであろう大きな戦いに向け闘志を燃やしていた。
見上げた空はどんよりと重苦しくその見た目からだけでは本当に明けか宵かすら窺い知る事が出来ない。
こちらの頭数は八名。やらなければならない事は多い。


「おれ達の影が入ったゾンビってのを探すのは一苦労しそうだな」
「姿形は分かるが居場所の特定は難しいな。そう狭くない上にゾンビだらけだ」


船着場に集まった達が聳え立つスリラーバークの天辺を見上げる。
零したゾロの言葉に同意したが面倒臭そうに肩を落として溜息を吐き出した。
ナミの奪還にブルックの救助、ルフィ、ゾロ、サンジの影が入ったゾンビ探しとその奪還。
更にはゲッコー・モリアの討伐と忙しい事この上ない状態だ。
ウソップとチョッパーが言うに、ルフィの影が入れられたゾンビは相当な大きさなのだという。
普通の巨人の二倍、と言っていたがには普通の巨人がどの程度なのか想像もつかなかった。
唯一思い出されるのが司法の島にいたオイモとカーシーと名乗った二人の巨人。
彼らの二倍だとすれば勝敗以前にまず戦えるのかすら不明だ。
少ない頭数で多くの事をどう割り振るか。
喧々諤々と作戦を立て始めた達の話を聞いていたルフィが口を開いた。


「ゾンビなんて探さなくていいよ。おれのゾンビは見てみたいけどな」
「何言ってんだ、おれ達はこのままの体じゃ二度と太陽の下へ出られねェんだぞ」


あっけらかんと放たれたルフィの言葉に作戦を立てていた全員が言葉を止め首を傾げた。
ゾロの言葉通り影を取り戻さない限りもう二度と自由に動く事など出来なくなってしまう。


「だってお前、あの時ゾンビのおっさんが言ってたろ。ゲッコー・モリアをぶっ飛ばせば皆の影が戻るって」


ルフィの言葉にその場にいた全員が驚きの表情で固まった。
そうだ、そういえばそんな話もあったはずだ。
目まぐるしい程様々な事がありすぎてすっかり失念していたが、あの時あった老人は確かにそう言っていた。
彼らもまたゲッコー・モリアの被害者であり日陰の暮らしを余儀なくされたのだ。


「失念していた。確かに言っていたな」
「……またコイツは核心を……」


ふと、が近くにいるチョッパーへと視線を移した。
ウォーターセブンを出港した直後、チョッパーとこんな話をした事がある。
ルフィは戦う相手をわかっているようだ、と。
本能のまま突き進んでいるように見えて実は一番核心に近い場所へ最短距離で進んでいるように見えるのだ。
それはもしかしたら彼の本能がそうさせているのかもしれないが、真似出来る行為ではない。


「とにかくまーおれはモリアをぶっ飛ばしに行くからよ。影はそれで全部帰ってくるから……、サンジ!お前ナミの事頼むぞ」


彼らしい選択。そして現状彼にしかなし得ない事だろう。
王下七武海の名が持つ強さをは未だ知らない。
そうでなくたって、ルフィで敵わなければ一味に勝ち目はないと言える。
胸を張ってスリラーバークの天辺を見上げるルフィの言葉にサンジが最早普段の姿からは想像出来ない程の怒りを撒き散らしていた。


「当ったり前じゃァァ!!透明人間だか陶芸名人だから知らねェが霧の彼方へ蹴り飛ばしてやらァ!結婚なんざさせるかァー!!」


あまりに気合いの入り過ぎているサンジの姿を見たは心強いと思うと共に一抹の不安を抱いた。
このままでは透明人間ことアブサロムに会う前にサンジが燃え尽きてしまうのではないかと。
そんな不安まで抱かせる程に今のサンジは心からの怒りを体全体で表現していた。


「言い忘れたがあの透明人間、風呂場でナミの裸じっくり見てたぞ」


ウソップの一言にサンジの目が更につり上がった。
それを見ていたとロビンが一瞬で目配せして頷く。
正直こんな事をしている場合ではないのだが、面白いものは面白いのだ。


「……そういえば私は第二夫人にしてやると言われたな」
「って事は私は第三夫人かしらね」
「んぬァァァにィィィイ!!?んヌァミさんだけじゃなくちゃんとロビンちゃんにまで…………!!」


とロビンが余計な事を言ったせいでサンジの表情が修羅どころでは済まない大変な事になっていた。
真っ赤を通り越した色とは何という色なんだろうな、などと笑うの横でにこやかに微笑むロビン。
どうみたって明らかにサンジの変化を楽しんでいるとしか思えなかった。
はただ単に面白がって、ロビンはちょっとした悪戯心から。
限界までつり上がった目をしたサンジは奇妙な雄叫びをあげて、そろそろ本格的におかしくなりそうである。
このままいけばサンジ一人でスリラーバークを全壊させる事も可能かもしれない。
もう誰も手がつけられないほど怒り猛っているサンジの姿を見たゾロが半ば呆れた表情で達の横に並んだ。


「これ以上刺激してやるな、あのグルマユが使い物にならなくなるぞ」
「確かにそろそろ何かに変身しそうだ」
「そのままの勢いでルフィと共にゲッコー・モリアと戦えば勝てそうな気がするが……、アレはナミに対するものだろうしな」
「ふふっ、ナミちゃんは任せても大丈夫そうね」


実に悠々と構えていると苦笑すら漏らすロビンに対してゾロがしかめっ面を見せる。
麦わらの一味イチ、やっかいなコンビと言えそうな二人を前にしてゾロは軽く目眩すら感じた。


「お前ら明らかに楽しんでるだろ」
「そんな事は無い。これからの戦いに向けまあ何というか、気合いを入れるというか」
「いいじゃない、やる気になっているようだし」


ゾロの苦言も何のその、全く反省の色を見せない二人に対しゾロはあからさまな溜息を吐く事でそれを飲み込んだ。
自分より年上で一癖も二癖もある二人を相手にするのは苦手らしい。


「とにかく、だ。ルフィはゲッコー・モリアのところ、サンジはナミのところとして後はどうする」


のほほんとしているルフィ、怒りで燃え上がっているサンジ、不敵に笑うとロビンに弄ばれるゾロ。
そんな仲間達を前にこのままでは埒が明かないと踏んだのかフランキーが真面目な表情で切り出した。


「ナミの事は目の前で連れ去られた責任を感じてる。おれもサンジと一緒に行くぞ」


第一七武海なんかともう二度と会いたくない、と零すウソップ。
ナミを連れ去ったのはあの透明人間ことアブサロムだ。
勢いだけならもう誰にも負けそうにない今のサンジと様々な戦い方を模索出来るウソップが行くのであれば充分だろう。


「おれはガイコツの戦いが心配だからそこに行く」
「そこ、おれも付き合うぜフランキー。伝説の侍のゾンビってのがどれ程のモンか興味をそそる」


ブルックの話に一番感動し心を揺さぶられたフランキーらしい選択だ。
そして伝説の侍のゾンビとやらがいるのであればゾロもまたゾロらしい選択だろう。
剣技で彼に勝るものなど麦わらの一味に存在していない。


「ナミちゃんとガイコツさんの二極。差し詰め解決を急ぐのはそこね。後は確かにモリア討伐が決着のカギ」
「もし余裕があるのであれば私も行きたい所、というか会いたい人物がいるのでそこへ行きたいな」
「あら、どこへ?」
「ドクトル・ホグバックとやらに会ってみたい。直接会ってぶっ飛ばしたい気分だ」


実際影を入れる能力を持っているゲッコー・モリアも大概な悪役だがが一番気になっているのはドクトル・ホグバックの存在だ。
遺体を甚振り没人形を作り上げる、狂人と言っても過言で無い存在。
死者の体を弄ぶなど言語道断、ふつふつと腹の底から怒りが湧き上がってくるのを感じる。


「ならゲッコー・モリアとペアになっている可能性があると思うからルフィと一緒に行くべきね」
「そうだな。ナミとブルックの事は四人行けば充分だろうし私も何か役に立てるかもしれないしな」
「おい、お前気をつけろよ?次に影を取られる可能性があるのはお前なんだろ?」
「それは全員同じ事だ。まあ用心するが」


知力と技で戦うサンジとウソップなら透明になる事の出来るアブサロムにも通用するだろう。
伝説の侍とやらと戦っているブルックにはゾロとフランキーの力技コンビ。
そして大ボスと言えるゲッコー・モリアとドクトル・ホグバックにはルフィ、、ロビン、チョッパー。
戦力の振り分け的にもまずまず、悪くない。


「じゃあお前ら一袋ずつ持ってけ。おれ様特製ゾンビ昇天塩玉だ」


作戦といえるかどうかは不明な作戦会議を終えた所でウソップが小袋を全員に手渡した。
球体になった塩は成程、これならゾンビの口に入れやすい形状になっている。
上手く使う事が出来れば、だが。


「大体な、危機感のねェお前らに一言言っておくがこの海がいくら深い霧に包まれてるとはいえ陽の光が全く射さねェって保証はねェんだ」


真剣な表情で忠告をするウソップの言葉は尤もだった。
魔の海域を包み込んでいる霧が一生続くなどという保証は誰にも出来ない。
それこそ天から降り注ぐ陽の光を遮断する事等人間業では到底無理な話である。


「今は夜中だから安全なだけさ。つまり陽の昇る夜明けが最悪のリミットだと思え!」
「確かにそうだな。夜明けまでメシが食えねェなんて最悪だ!おれ達にケンカ売った事を後悔させてやるぞ!」
「――ナミを奪った事も、我々だけに留まらず生物を甚振った事もな」


円陣を組んだ麦わらの一味達全員の表情はしっかりと闘志を剥き出しにしている。
ナミの為、ブルックの為、影奪還の為、各々の思いは別だが中心にあるものは同じ。


「夜明けまでに食糧は倍にして返して貰うぞ!!」
「そうじゃなくて影奪還のリミットの話をしたんだよ!!」
「んナミさァーーーーん!!」


八人全く別の気合を入れて走り出す。
深い霧の中に立つスリラーバークはまるで麦わらの一味達を取り込んでやろうと密かに息を静めているよう沈黙を守っていた。








08.10.15

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