10




皿を構えたシンドリーの下へ弾かれたようにチョッパーが駆けていく。
立ち位置を入れ替えたはサンジの影が入れられているペンギンと睨みあいを続けていた。
すぐ横にはロビンがおり、その横にはゾロの影が入れられている侍のゾンビがいる。


「出来るだけ早急にトニーはホグバックを殴るべきだ」
「あら、何故?」
「そうすればゾンビ二体をロビンに任せて私が思う存分ホグバックをぶっ飛ばせる」
「意外に律儀なのね、


ロビンとはシンドリーを抑え込もうと必死なチョッパーへ視線を寄せた。
そう、先程からチョッパーの動きにはシンドリーを倒そう等という気は微塵も見えない。
存在として認められない ”元の人間にあったはずである良心” へ訴えかけるかのように。
皿を頭に叩きつけられてもどれだけの打撃を受けてもチョッパーが攻撃を仕掛ける事はなかった。


「一番頭にきているのはトニーだろうしな、無粋な真似は出来ないではないか」
「けれど、このゾンビさん達もそう簡単に通してくれるとは思えないわよ」


ロビンに向けられている刀が鈍く光る。
にもまた、ゾンビの足が今すぐにでも攻撃出来る体勢で向けられていた。
ゾロとサンジの影が入れられているゾンビというだけあり確かに手強い相手だろう。


「元はどこかの誰かさんかもしれないが中身はゾロとサンジだ、問題ないと思うがな」
「まあ、言われてみればそうだけれど残っているのかしらね、彼ら」
「そう願うばかりだな」


言葉を繋げつつもとて本人達の意思が残っているとは考え難いと思っていた。
現に侍のゾンビはロビンに刀を向けているし、ペンギンのゾンビもに対し攻撃姿勢を取っている。
だが、相容れないものはどんな形になっても相容れないのだ。
とロビンは協力して戦う事が出来る、対し彼らは恐らく出来ないだろう。
上手くいくか行かないかは、運だとして。


「……あんな奴の言う事聞かなくていい!!」


人型になったチョッパーに対し尚も攻撃の手を緩める事のないシンドリー。
ぶつけられた皿が砕けチョッパーの体全体に突き刺さり至る所から血が流れていく。
それでもチョッパーは肩や背中に刺さったガラス片を抜く事もせずただシンドリーの腕を掴んで声を荒げていた。


「かわいそうに……、もう死んでるのに、残された家族がこれを知ったらどんな気持ちだ!!」


戦闘用に強化されているというシンドリーの力は成程、破壊力だけで言えばやロビンよりも上であろう。
細い手足から繰り出されているとは到底思えない程の攻撃が先程からチョッパーに向けられている。


「醜いキズでツギハギにされて代わりの利く兵士にされているなんて身内には耐えられない」


シンドリーだけではない。
このスリラーバークに存在する全てのゾンビに対して言える事であろう。
生まれてから死ぬまで一人きりで生きている人間などいない。
どこかで誰かと必ず関わっている。本当の一人きりになどなれるはずもないのだ。
生まれ落ちたからには必ず産んだ人間が存在する。
取り上げた人間も、身近に居る者も居ない者も。


「一緒に生まれて育った心はもう死んでるのに体だけは人の言いなりに動かされるって、一体何だ!?」


嘗て、アメストリス国に居た頃、がまだ国軍少将としてアメストリスに巣食うものを追っていた時代。
人間の形を模った ”人形” に魂の代替を入れて兵器を作り出した者達が居た。
それは全く今の状況と酷似している。
あれから三年以上の月日が流れ、別の世界に来ているはずであるのに目の前で繰り広げられるのは酷似した所業。

結局人間はどこまでいっても同じなのか。
幾度同じ問いを投げかけても答えは返ってこない。


「てめェの目を疑うのか?認めろ!これが人の永遠の夢、死者の蘇生だ!人間は蘇る!!」


自信を持ち張りのある声を響かせるホグバックが嘲笑う。
ホグバックの作りたいもの、そしてアメストリス国の研究者が作りたいものも根本は同じだ。
死んでも尚代替の魂がある限り幾度でも蘇る兵器、支配者の思うがままに動き戦う奴隷。


「動いたらそれでいいのか」


絞り出すようなチョッパーの声に横道へ逸れていたの思考が戻る。
同時に辿り着いた答えが一つ。

自分もシンドリーや周りのゾンビ達と何ら遜色無い化け物なのだと。
いや、それよりもっと性質が悪いだろう。
ホグバック側にもシンドリー側にも属するのだから。


「――人間ならもっと自由だ!!お前が一番人間扱いしてないんじゃないか!!」


心を吐露する如く声を張り上げたチョッパーの言葉にシンドリーの動きが一瞬止まった。
今迄何を言おうとも決して攻撃の手を緩める事のなかったシンドリー。
何か、もしかしたら本当に何か残っているものでもあるというのだろうか。
慌てて思考を振り払いがロビンへ視線を投げかけた。
ゾンビを浄化するには塩を体内に入れるしかない。
今がまさに絶好のチャンスといえるだろう。

の視線に頷いたロビンが両腕をクロスさせチョッパーの体からロビンの腕が咲く。
ロビンの腕はそのままチョッパーの腰元にあったウソップ特製の塩玉が入っている袋から一つそれを掴んでシンドリーの口元へ伸ばされた。


「ペンギン!ジゴロウ!シンドリーに手を貸せ!邪魔ものも消せ!」


ホグバックの声に反応した侍のゾンビがロビンに斬りかかる。
当然ロビンはチョッパーとシンドリーへ注意を向けていたので気付いた時には既に切っ先がロビンへと迫っていた。
反対に飛び出したペンギンを追おうとしていたが体の向きを反転させロビンに迫る刀を蹴り上げる。
その隙にの追跡を逃れたペンギンがチョッパーの脇腹を蹴り上げ、体勢を崩したチョッパーと共にロビンの持っていた塩玉もまたシンドリーの口元から離れていく。


「よーしわかった、もういい、我慢するのを止めた」
?」
「トニーは怪我してるしロビンにまで敵意を向けられ、彼女やゾンビは操られ。もう我慢の限界だ」


に弾かれた刀を再び手にしたゾンビが全員のいる方向へ向かってゾロの技であるはずの攻撃を繰り出した。
刀を振る事で発生した竜巻の様な豪速の攻撃に対しが両手を合わせ、淡い錬成光の出た直後素手の右指を弾く。
するとの指が弾かれた何も無い空間から小さな塵旋風が巻き起こりゾンビの放った攻撃を弾き飛ばした。
目を丸くし驚くのは敵だけで無く、傍にいたロビンもまた目にした現象を驚きの眼差しで見つめている。
放たれた攻撃はペンギンのゾンビがいる方向へ突き抜けていった。
一瞬の出来事、だが動揺は大きい。
隙を見たロビンが両腕を咲かせゾロの影が入れられているゾンビを羽交い締めにする。
だが元々の力量が違うからかゾンビはロビンの腕を振り払って再び攻撃を開始した。


「何をしたの?
「体内の水分と熱量を利用して極僅かな上昇気流に似た現象を作り出しそこに大気を弾いた圧を加えた事で塵旋風もどきを作り出した。軌道を逸らすだけならこれで十分だ」
「相変わらず、不思議ね」
「それより見ろ、ロビン。ありがたい現象が起こっているぞ」


の視線が在る先にはいがみ合う二体のゾンビ。
どうやら先の攻撃がペンギンの方へ向かってしまった事によりペンギンの怒りはジゴロウと呼ばれた侍ゾンビの方へ向けられたらしい。
既にホグバックの命令を忘れてしまったのか二体のゾンビは達の事等お構いなしに喧嘩を始めていた。


「いい加減にしろ!二人でちゃんと協力……!」
「ロビン!」


ゾンビ同士の喧嘩を見たホグバックが命令を下そうとしたがいち早く気付いたチョッパーがロビンへ指示を飛ばす。
心得たとばかりにロビンがホグバックの体に腕を咲かせ命令を下そうとした口を塞いだ。
”命令に忠実なのがゾンビ”そう言っていたのはホグバック本人である。


「今、いい所でしょ。このまま命令がないとどうなるのかしらね」
「記憶が無くなってもやっぱり元々相容れない性質なんだ、あの二人」
「予想以上に良い傾向だな。連携プレイが出来ないだけだと思っていたがあそこまで残るものとは見事だ」


ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたがホグバックに近づいていく。
一度振り返りロビンへ視線を移せば微笑んだロビンがホグバックの口元から手を離した。
命令に忠実な所を是非見せてもらおうか。


「御高説賜った。貴様の狙いはトニーだったな。ならば我々二人共不要だろう?」
「この塔は高いわね。私達に飛び降りろって言ってみて」


仲良く飛び降りてやる、と告げて笑みを浮かべるとロビン。
二人の狙いがわかっているのか後ろにいるチョッパーは一言も発さない。


「あァ飛べ飛べ!おめェら二人揃って飛び降りやがれ!!」


ホグバックの言葉に後方で争っていた二体のゾンビが動きをピタリと止め「はい」と呟いた。
そして二体のゾンビはホグバックが止める間もなく窓の外に体を躍らせる。


「私達は嫌よ」
「というか我々は貴様の命令など聞く義務も無いし聞いてやるつもりも最初から無い」


ようやく邪魔者がいなくなった。
とチョッパーの狙いは最初からホグバック本人、ただ一人だ。

許せないのはホグバックか、過去の自分か。
言ってわからないのであれば体でわからせるしかない。
尤も、わからないだろうしわかろうという気持ちもないだろうが兎に角殴らないと気が収まりそうに無かった。


「シンドリー、ここで時間を稼げ!おれァ逃げる!!」


ホグバックの横に構えていたシンドリーに命令が下される。
出来る事ならば彼女に危害を加えたくはない、そう思っていたが忌々しげに視線を移すがシンドリーが動く様子はなかった。


「返事はどうした!おめェはやられても次の影を入れてやる。安心して死ね!」
「……貴様まだそんな事を!」


とチョッパー、ロビンがゆっくりとホグバックを取り囲むように近づいていく。
だが、三人の足がぴたりと止まった。
三人の足を止めたのは他でも無い、シンドリーだ。

立ち竦んだシンドリーの両目から伝う涙。
痛みも何も感じない、没人形と影の共同体であるゾンビ。


「――――体が、……動きません…………」


彼女の目からは確かに大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちていた。








09.04.18

  << Back   TOP   Next>>