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「お前らさえいたなら、にロビン!ロボ戦士ビッグ皇帝になれたのに!」
「まさかの裏切りだ!まさかの……!」


ウソップとチョッパーはいいとして、フランキーまでもがこういった類を真面目にやるとは……。
いや、彼は元々ロボだとか機械関連が好きだから妥当と言うべきかもしれない。
とは言えこの年で自ら嬉々としてロボ戦士ごっこに興じました、なんて嫌過ぎる。
未だ文句を垂れる三人の前に立っては頭が痛くなるのを感じた。


「では聞くが、そのロボ戦士ビッグ皇帝とやらになったとしたら具体的にどの様な成果が望めるというのだ」


それまで何やかんやと文句を垂れていた三人がの言葉を聞いた瞬間ぴたりと口を封じた。
妙な沈黙が流れ、三人の額に汗が伝う。
ごっこでは無く本当に身体が一定時間機械化するとかそれ相応の強度や戦力が宿るというのなら考えなくも無い。
だが先程のはどう見たってただの雰囲気やノリの問題な気がする。


「そ、そりゃアレだ!アレだ、!もう何つーか……スーパーなんだぜ!」
「か、カッコイイんだぞ!」
「そうだ!カッコイイんだ!カッコよくて強ェんだ!」


慌てて捲し立てるフランキーに続き、ウソップとチョッパーも乾いた笑いで言葉を続けた。
強いと恰好良いは決してイコールで結ばれるものでは無いと思ったがそれ以上の追及もかわいそうなので止めておく。
真剣なのか、余裕があるのかいまいち理解に苦しむものだ。


「もう二度と……二度と誘わないで、ドッキング」
「まあ、本当に効果が望めるのであれば次回は善処する」


どうやらロビンは本当に嫌だったようだ。三人の方も見ず真剣な表情で呟いていた。
頭から否定してしまうのも何だか彼らの色々な物を傷つけてしまいそうなので当たり障りの無い言葉を告げておく。
そんなの言葉に少しだけ元気を取り戻したのか三人は仕切り直しだと叫んで両手を天に突き上げた。
既にサンジとゾロはビック皇帝の事等頭から消しているようで攻撃を開始している。


「ロビン、おれがあいつの左腕をハジいたら関節を決めろ!」
「了解」
は機を読んで右腕の地面を崩せ」
「また難しい注文だな……、承知した」


ゾロの言葉に頷いてオーズの下へ慎重に近づいていく。
元はフランキーの持っていたとてつもない大きさのヌンチャクを担いだゾロがの先へ駆けた。
その脇をウソップの放った徳用油星が駆け抜け、地面につけていたオーズの右手を捕える。
先程言っていた「オーズを投げ飛ばす」作戦を本当に実行する気らしい。
ウソップの放った徳用油星がオーズの手元を滑らせオーズの巨体は不安定に揺れた。
オーズが手元へ気を取られている間に飛び出したゾロがサンジの脚力によって大きなヌンチャクを持ったままオーズの左腕へと飛び上がる。
そのままの勢いでゾロの腕から放たれた大きなヌンチャクは確実にオーズの左腕を捉え振り下ろされた。
相当の衝撃を受けたオーズの左腕を今度はロビンが咲かせた腕で捻り上げ、その隙にオーズの顔下へフランキーとチョッパーが近付く。
フランキーとチョッパーの拳が同時に繰り出されオーズの顎を殴りつけた。


「顎を揺らせば脳が揺れる作戦か」
もそろそろ出番じゃないかしら」
「そのようだ」


オーズの右腕はウソップの放った油により不安定になり、左腕は捻り上げられ既に左足は宙を浮いている状態だ。
おまけにフランキーとチョッパーが顎を殴った事により現在のオーズは脳震盪を起こしている様で視点が定まっていない。
オーズを支えているのは残る右足だけである。
サンジが駆け出すのを横目で確認したがオーズの右腕が乗せられている地面に両手をついた。
元より割れている地面、それほどの衝撃を与えなくても脆い地盤は崩れるだろう。
数秒の間を置いてサンジがオーズの右足へ蹴りを繰り出すと同時にの両手から錬成光が溢れ辺りを覆った。
その瞬間、オーズの右腕付近から地面がボロボロと崩れ瓦礫状になっていく。
サンジの蹴りとによって崩された手元は意図も容易くオーズの体を宙へと舞い上がらせその巨体がひっくり返る。

待っているのはとてつもなく巨大なオーズが建物を巻き込んで地面に沈み込む事により巻き起こる衝撃だ。
気持ちが良い程胸を空くような仲間達の連携プレイ。


「1ダウン」
「だな」


見事なまでに逆さまになったオーズが目をぱちくりと動かし状況を把握する。
頭を地面につき、背と尻を建物へ預ける形となったオーズは逆さになっても尚その威厳を撒き散らしていた。
尤も逆さにしたくらいで勝てるような相手では無い事くらいこの場にいる全員が承知の上である。


「おめェら覚悟しろよ、全員ぺちゃんこにしてやる!!骨も残らねェと思えェ!!」


唸り声を上げながら叫ぶオーズの声はびりびりと肌を突き刺す程の痛みを持っていた。
空気を揺らす程の大声に耳がおかしくなりそうだ。
完全にオーズの怒りをかってしまったようである。

これからどういった反撃に出るのか、全員が防御の構えを保ったまま緊張した面持ちでオーズを見つめた。
何せこの体格だ。しかしこの巨体にも関わらず身軽でスピードすら持ち合わせている。
飛びかかってこられたら、避けられなかったら、それだけで命を失う可能性だってあるだろう。

一番の問題は、ひっくり返す事だけが目的だった為その後の対処を誰一人として考えていなかった事だ。


「来るぞ!!」


全員が険しい表情を浮かべオーズの一挙手一投足に注意を払う。
だが、次に聞こえたのは何とも間抜けな一言だった。


「抜けねェ……、ツノが!…………しまった、ツノが思いっきり地面に……!」


必死で体を動かそうとするオーズだったがどうやら頭に生えているツノが地面に突き刺さってしまい身動きが取れないらしい。
考えてみればそうだろう。この巨体が宙を浮き頭に地面から突っ込んだのだ。相当深くまで地面を貫いた事だろう。
警戒態勢を取っていた全員の瞳に怪しい光が灯った。


「あァ、抜けねェのか……」
「あーあー……」
「難儀な事だな……」


誰もの口元が緩く弧を描き満足そうに頬を緩める。
味わわされた恐怖はとりあえずお返し出来そうだった。
武器を手にする者、自慢の脚力を前面に押し出す者、腕を鳴らす者。
それ以上は誰も語らず黙々とオーズへ近づいていき思い思いの拳を奮わせた。


「集団リンチとはあまり褒められたものでは無いな」
「……、てめェの手に嵌ってるソレは何だよ」


拳を振り上げながら呟くの言葉にゾロが呆れた表情を浮かべての右手を指差す。
の右手には見るからに凶悪そうな武器が握られていた。
正直、生身の人間であれば一発食らえばのた打ち回るであろうソレ。


「……とげ付きメリケンサック?」
「疑問形か!何かもっと他にねェのかよ!」
「そう短時間にぱっぱと出来るようなものなどないだろうに。いいか、ゾロ。錬金術というのは決して何でも出来る魔法という訳では……」
「言ってる場合か!!」


が錬金術を説こうとしているうちに地面から角を引き抜いたオーズが雄叫びを上げ大地が震えた。
抑える物が無くなり自由になったオーズに気付いた全員が蜘蛛の子を散らすよう逃げていく。
巨大なオーズからすれば達等小さな羽虫以下に過ぎない。
その証拠に今達が全員で与えた攻撃は全く効いていないようだった。
オーズから少し離れた所でがチョッパーの横に立ち腕を組む。


「乳様突起と顎と額、こめかみと横隔膜くらいかな、トニー」
「確かにそこを弱らせれば動けなくなるかもしれないけど全部狙うのは難しいと思うぞ!」
「痛みは感じないが感覚はあると信じたいな。狙いは頭部か」


の言葉にチョッパーが真剣な表情で頷いた。
乳様突起は衝撃により運動神経を麻痺させ、こめかみは平衡感覚、額や顎は脳に響く。
興じるように動くオーズを見据えは小さく溜息を零した。

痛みを感じないモノを相手にする事は泣き叫ぶ子供達を相手にすると同じくらいの苦痛だ。
痛い、やめてくれ、もう降参だ。そう言ってくれるのであればどれだけ楽な事か。
どちらかが動けなくなるまでぶつかり続けるしか術は無いのだから。
勿論達が負けてやる、オーズから逃げる等という選択肢は残されていない。
オーズもゲッコー・モリアも完膚なきまでに叩きのめし勝ってこの島を出る。
それ以外選ぶ事等既に出来なくなっている状態なのだ。

問題は、そう簡単に勝たせてはくれないという事。

埒の明かない攻防を繰り返し続ければこちらは確実に体力が失われていく。
しかしオーズはどうだろうか。痛みも疲労も感じないのであれば圧倒的にこちらが不利だ。
それを理解しているウソップもルフィを信じて足止めに徹しようと提案するが、事は一刻を争う。


「透明人間、霊体人間、影の支配者。そもそも人をおちょくる様な能力者の揃ったこの島で敵が正々堂々ルフィと対峙してくれるかさえ疑問だ」


ゾロの言葉に対しその場にいた全員が確かにその通りだと感じていた。
どこまでもまっすぐなルフィに対し相手は訳の分からない者達ばかり。
危惧される要素はいくらでもある。
夜明けまで逃げ切られればルフィ、ゾロ、サンジは戦闘不可能どころかどこかに隠れていなければならなくなってしまうだろう。
三人を引いた麦わらの一味達でオーズやゲッコー・モリアと戦って勝てるか、それは恐らく難しい。


「だったら夜明けまでにルフィ一人だけでも正常に戻しとけば後は何とかなんだろ」
「……そうとばかりは言えないがまあ現時点で取れる一番の方法だろうな」


ルフィがゲッコー・モリアを倒す事を前提にここでオーズの足止めをし、結果三人が動けなくなれば勝機は消える。
戦力だけの問題では無く精神的支柱として役割のある船長が無事だという事は全体のモチベーションに関わるのだ。
ふと空を見上げれば深い霧にも関わらず少しだけ薄明るくなってきているのが分かる。
夜明けまであと30分程度というところだろうか。確実にその時は近づいてきていた。








09.07.29

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