15
空を見上げていたの足元が突然ぐらぐらと動き始めバランスを崩し始める。
慌てて回りを見てみればの足元だけではなくこのスリラーバーク全体が揺れているのだと気付いた。
地震の類では無い。この揺れはこの世界に来てから幾度も体感している揺れだ。
スリラーバークは島では無い。
島の様な形をした巨大な海賊船なのだ。
例え魔の海域が霧の晴れない場所だとしてもそこから一歩出れば時間の経過と共に日は差し込んでくる。
先程まで深い霧に包まれていたこの場所から夜明け前の空が見えた。
つまりこのスリラーバークは魔の海域から外れてしまったという事である。
「これで一刻の猶予も無くなったな」
「最悪だ……!一縷の希望が深い霧だったってのに」
ルフィがモリアを倒した様子も無ければこちらはオーズにてんてこ舞い、その上ナミの行方も気になる。
おまけに霧が晴れてしまった状態であり、もう後三十分もすれば朝陽が射しこんでくるだろう。
そうすれば影を取られたルフィ、ゾロ、サンジはこの世から消滅してしまう事になる。
八方塞がりとはまさにこの事か。
全員が固唾を飲んで空を見上げる中、突然聞き覚えの無い笑い声が響いた。
「図らずもすがすがしい夜空……もう夜明けも近いが、ぐずぐずしてていいのか?貴様ら……」
「……モ、モリアだ!!」
ウソップの叫び声に達があちこちを見回したがゲッコー・モリアの姿は見当たらない。
元よりはゲッコー・モリアの姿を見た事が無いので見当もつかないが、それでもここに先程と違う人物の姿は無いのだ。
しかし姿は無いが、声だけは聞こえてくる。
その不気味な様子に仲間達から苛立った声でウソップに対しゲッコー・モリアがどこにいるのかと問いが飛んだ。
「いるじゃねェか!あそこを見ろ、腹だ!オーズの腹ん中!!」
「腹の中ァ?」
「……いた!!」
腰を抜かすような格好で地面に尻をつくウソップがオーズの腹部を指差す。
半信半疑のまま全員の視線がオーズの腹部へ寄せられ、数秒の間を置き各々表情を歪ませる。
確かにウソップの言うとおりゲッコー・モリアはオーズの腹の中に居た。
一部だけ透明の壁に覆われ、その中にまるで何かの機械を操作するかのように立つゲッコー・モリアの姿。
「もう嫌だ」
「?」
眉間に深々と皺を刻んで表情を歪め溜息を吐くの横に並んだロビンが不思議そうに首を傾げる。
考える事を全て放棄する事が出来たらどんなに幸せだろうか。
しかし悲しいかな、錬金術師の性とでも言おうか、即座に構造や物質を計算し始める脳内が憎かった。
何よりツッコミ所が多すぎてどこから行こうか困ってしまう。
「骨が生きて喋り木の紳士が居て犬と狐の三つ首ケルベロス、ゾンビ、透明人間、幽霊、抜ける影、そして今度は体内を機械化か?」
「困ったものね」
「そもそも何故あの部分に入る事を考えたんだ?どういう思考をしているのだ!あれもまた恰好良いとかそういう雰囲気の理由なのか?」
「おい、余計な事考えんな。どっちにしろ両方共倒さなきゃいけねェんだ」
の苦悩に対し苦笑するロビンと呆れたようなゾロの返事が届く。
確かに言う通りどちらも倒さなくてはいけないという点では纏まっていてくれて有難いのかもしれない。
ゲッコー・モリアを倒さない限りこの島というか船というか、ここから出る事は出来ないのだ。
そしてオーズもまた説得に応じるような者では無さそうだし完全に行く手を阻む気であろう。
だがそれよりもっと気になる事があるのだ。
逸る気持ちは抑えようとしてもなかなか落ち着いてくれない。
の横でオーズを睨みつけながらしかめっ面を浮かべるゾロの腕を掴み意を決して口を開く。
「なあゾロ」
「あァ?何だ」
「こう疑問ばかりあっては集中のしようが無いのだがどうすればいいと思う?」
「何がだよ」
オーズから視線を外したゾロが鋭い眼光のままへと顔を向けた。
状況はもう一刻の猶予すら無い事をとてわかっている。
わかっているがどうにもこうにも様々な事柄が脳内を行き来して、止まらないのだ。
「やはり私はあの時に出会った木の紳士から解明していくべきではないかと思うのだが」
「だから余計な事考えるなっつってんだろうが!!アホかてめェ!!」
「む、分からない物を分からないままにしておくのは精神衛生上あまり……」
「全部終わってからにしろ!!……おいロビン、から目ェ離すなよ。放っておくと何し始めるかわかんねェ」
苛立ちを更に募らせたゾロが肩を怒らせて前へと進み出ていく。
別にだって興味本位で発言している訳では無い。
どうもこの世界に来てから違和感は広がっていくばかりなのだ。
何かがおかしい。不自然な事柄ばかり目についてしまう。
具体的に何が、とは言えないが其処彼処に作為的なものを感じる。
まるで見えない大きな何かが意図的に世界を動かしている、そんな馬鹿馬鹿しい思いさえ浮かんでくるのだ。
世界政府、海軍上層部、そして今度は王下七海武。
あまりに短時間でこの世界の中心を担う様な存在ばかりに出会い過ぎてはいないんだろうか。
偶然か、必然か。偶然だとすれば余りに出来過ぎている。
海軍本部の三人しかいない大将の一人である海軍大将青キジ。
世界政府の中でも一握りの者しか存在を知らないCP9。
島を一つ消し去る程の攻撃であるバスターコール。
世界政府、海軍と並び世界の均衡を保つ為の存在と言われる王下七武海のうちの一人。
ありふれているものでは無い。それこそ一生会わずに終える者だっているはずだ。
だが確かにゾロの言う通りだという事もわかっている。
この場面を打開出来なければ疑問も何も解明する事等出来なくなってしまう。
の横で苦笑を浮かべるロビンに対し軽く微笑んで見せ、口を開いた。
こんな疑問を今、誰かに話した所で不安を煽るだけだろう。
「もっとこう、気楽なのがいいな。海で釣りをし不思議な生物を調べたり各土地の異色な物を見たり、陽気な船旅がいい」
「仕方ないわ。冒険好きなルフィの事ですもの、常にこういうものが付き物でしょ」
「一端の船員としてこの島を出たら次こそは陽気で安全な旅を断固要求する事にしよう」
呟きつつ今頃モリアにすかされてどこぞを探しまわっているであろう我が船長の顔を思い浮かべ、無理だろうなと一人ごちる。
それにしてもまあ、ゲッコー・モリアという人物を始めて目の当たりにし思う事が一つ。
気持ちいいくらいの悪人顔だ。世の悪人が全員悪人顔であればわかりやすくていいのになどと考えていた。
通常、人間という部類に分けるのであれば長過ぎる首とその下に見える縫った様な印というか傷跡というか……。
モリアもまたホグバックに改造された生物だという事なのだろうか、いまいち判断がつかない。
傲慢そうなモリアの声と言葉遣いには麦わらの一味等に負けるはずが無いという自信をありありと滲んでいる。
これだけ大きな船を持ち、悪魔の実の能力者であり王下七海武の一人であるのだからそれもまた当然なのかもしれない。
「モリアを倒さなきゃオーズを浄化出来ねェのにそのモリアがオーズの中に入っちまった!」
「――かえってスッキリしたじゃねェか、標的がよ」
「やるしかねェ!!」
こちら側は全員やる気満々の様で戦意を剥き出しにしている。
ゾロとサンジを筆頭にウソップ、チョッパー、フランキーにロビン。
そこまで見てふと一人足りない事に気付いた。
ロボだのなんだのやっている時、既にこの場から離れていたのであろう。
彼の事は出会って間もないのでよく知りはしないが恐らくノリ的には同じなのでいればまず間違いなくロボに加わりたがったと想像出来る。
「ブルックが、いないようだが……」
辺りを見回すの言葉に対し傍にいたロビンだけが同様に視線を巡らせたが軽く首を横に振っただけだった。
まさか先程の顎を揺らせば脳も揺れる作戦の際、下敷きになってしまったなんて事はないだろうか。
一瞬不吉な想像を巡らせただったが幾度か目にしたブルックの身のこなしからしてそれは無いだろうと勝手に決めつけ気持ちを切り替える。
念の為先程オーズが倒れた辺りへ視線を走らせたが彼の纏っていた物やその痕跡は見当たらなかった。
「ウソップ、少量でダメだったんなら山ほどの塩を探して来い!オーズはそれで浄化するしかねェ!おれ達ァ出来る限りあいつを弱らせておく!」
ゾロの言葉を聞いたウソップが心得たとばかりに走り出す。
この島のゾンビ達が弱点としている塩をそう易々と大量に保管しているかどうかは運だが現状打破には一番手っ取り早いだろう。
何もゾンビだけが暮らしている訳では無いので可能性はある。
万一無ければ一度戦線離脱してが塩を錬成するのも手だ。
幸いここは海上であり材料には事欠かない。
だが、ウソップが駆け出した直後の事だった。
今迄こちらをに集中していたはずのオーズがウソップに向け勢いよく拳を振り下ろしたのだ。
オーズの拳はまるで豆腐でも殴りつけたかのよう容易く壁を破壊し一気に瓦礫が崩れ落ちる。
「ウソップーーー!!」
「ウソップ、返事しろ!!」
とチョッパーが弾かれたように走り出す。
ゲッコー・モリアがオーズの中に入ってしまったせいでオーズに頭脳が加わってしまったのだった。
自分の中の体温が一気に下がり体が震えそうになる。
あの巨大な拳がウソップを巻き込んでいたとしたら怪我だけで済むかどうか、生命の危機に直結するだろう。
「御無事です!!」
顔を真っ青に染めたとチョッパーが瓦礫に手をかけた所で後方から大きな声が響き振り返る。
そこにはつい先程いないと思ったばかりであるブルック、そしてブルックの腕に抱えられたウソップの姿があった。
ほっとする間も無く、今度はブルックの片手に提げられているものを見て仲間達から期待の眼差しが向けられる。
ウソップを抱えている方の腕、そして逆の腕には今まさにウソップが探しに行こうとしていた大量の塩の袋が提げられていた。
「遅くなって申し訳ありません!大量に塩が必要かと思い集めていました!」
09.09.13
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